私は聖女じゃありませんから〜ただのパン屋の娘です〜

白雲八鈴

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1話 パン屋の娘

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「俺の聖女になってくれないか。」

 目の前の男性に抱き寄せられ、まるで愛の告白の様に聖女になって欲しいと、そう言われたのだけど、この感じに既視感を覚えてしまった。

 私は籠からパンを取り出し、パンを男性の目の前にぶら下げて、左右に揺らしてみる。

 男性の目線はパンに釘付けのようで、パンと一緒に動いていた。そして、思いっきり遠くにパンを投げる。日々パンを作り続けている私の剛腕でパンは遠くに飛んでいき、男性はパンを追いかけていった。その背中を見ながら、やはり、男性はパンの方が魅力的だったのかと思いながら私はパンを売りに行くのだった。


 私はリラ。パン屋の娘だ。
 そんなパン屋の娘が、パンを追いかけて行った男性になぜ聖女云々を言われることになったのか、3日前に遡ってみよう。あの日は弟と喧嘩をしていた日でもあった。

「ねーちゃんが継げばいい!俺には無理だ!」

 そう言っているのは弟のロイだ。金髪の青目で人族にはよくある色合い。将来美人になるだろうという顔つき。弟なのに美人とはこれは如何に・・・それは、母さんが美人だからだ。

「私は継がぬと父さんと母さんに前から言ってある。」

 私はそんな弟に反論する。因みに私は薄い青い髪に青い目。父さん似で目つきが少々・・・かなり悪い。近所の人には逆に似ればよかったのにと残念がられているが私は別に構わないと思っている。

「俺にはねーちゃんみたいな才能はない。」

「私は別に才能があるわけではない。」

「嘘つきー!」

 そう言いながら、弟は調理場を駆けて出ていった。ホコリが立つからせめて歩いて出ていって欲しかったな。

 それに私は嘘つきではない。パン屋の娘に生まれたから、パンを作っているが、パンは元々好きではない。
 白いご飯の方が断然好きだ。あの白いご飯の上に卵を乗せ、醤油を掛けて食べる方が断然好きだ。
 こんなことを考えていたら白いお米が食べたくなってしまった。私の秘蔵の米櫃をパカリと開ける。中を覗くと残り少なくなってしまっていた。
 この国でお米を手に入れようとしたら、庶民である私には手が届かない高嶺の花なのだ。表現がおかしいって?私はそれ程お米を愛しているのだ。 
 お米を手に入れようと思えば・・・はっ!

 話を戻そう。私に才能がないというのは本当だ。ただ、弟と違うことと言えば前世の記憶というものを持っているという事。

 何の変哲もない・・・中学からオタク街道を突っ走り、社会人になれば一般人に擬態しながら、休みの日にはアニメとゲーム三昧。それで、徹夜する日も多かった。私がここにいると言うことは死んだということなのだろうが、何故、死んだかまでは記憶にない。

 そんな私にパン屋の才能なんてあるはずもない。パンと言うものの記憶といえば、近所にあったパン屋のパンを母が買ってきて朝食に毎日出して来たぐらいだ。
 私がパンがあまり好きでない理由がここにある。毎朝、菓子パンを出されるのだ。せめて、お惣菜パンか食パンにして欲しいと抗議をしたら、「甘くて美味しいからいいじゃない?」と母は言った。私にとって朝から甘い菓子パンを毎日食べることは無理だった。

 しかし、この国のパンはそれを凌駕したのだ。硬い。水分をこれでもかと抜いた石のような物をパンだと言っていたのだ。
 それを毎日、幼い弟の面倒を見ながら、焼いている両親の背中を見ていた。そして、それが食卓に上がる。
 焼き立てはそれでも美味しいのではと思うかもしれないが、朝食に出されるのは、前日の売れ残りだ。その硬いパンをスープに浸して食べる。まあ、お腹が膨れればいいかという感じなのだろう。

 せめてふかふかのパンが食べたい!ここで前世記憶チートでも発動すればよかったのだが、私の記憶にはパンには小麦粉とイースト菌が必要・・・以上だった。イースト菌って私は農業大学に行った某キャラクターではないので菌は見えない。手詰まりだった。
 身体は子供、頭脳はオタクな私は考えた。この国には冒険者ギルドと言うものがあるではないかと、色んな国に行っていればふかふかのパンの情報があるかもしれないと、私は冒険者ギルドの依頼受付で言った。

「ふかふかのパンの情報が欲しいです。」

 受付のおねえさんはとても可哀想な子を見る目で私を見てきて

「それは商業ギルドに依頼することをおすすめします。」

 商業ギルド!私の中にはそんな言葉は存在しなかった。しかし、オタクな私は考える。そもそも商業ギルドがその様な情報を持っているのなら、商品化しているのではないかと。

「いいえ。こちらで依頼します。」

「ですが・・・。」

「依頼料ですか?情報料ですのでそこまで高くなくても良いですよね。」

「いえ、そういう事ではなく。」

「子供だから駄目ということですか?」

「何を揉めているんだ。」

 私が受付のおねえさんが話しているのに割り込んでくるのは誰!と声の主を見てみると、人族によく見る色合いの金髪青目の40歳ぐらいの男性がたっていた。それも、子供の私がいるというのに、タバコを咥えながら

「サブマスター。この子の依頼を商業ギルドの方でお願いすることをお勧めしているのですが・・・」

 受付のおねえさんはとても困っているアピールをサブマスターと呼んだ人物にしている。多分お偉いさんなのだろう。しかし、タバコ臭い。

「おじさん。タバコが臭い。タバコの煙は子供には良くないって言うから、消してほしい。」

「あ?そんなこと初めて聞いたぞ。」

「いいから消して、臭い。」

 そう言うと、タバコを床に捨てて、足で踏む動作をした。そのタバコのゴミはどうなる!


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