謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)

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遊び人

第16話 凄く良い

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 エトワールは修行といえば派手なものを想像していた。大岩を切ったり持ち上げたり、魔物と戦ったり先生と手合わせしたり……そんなものを想像していた。

 しかしメルの修行内容は、想像よりも数倍地味だった。とにかく基礎体力と柔軟性、バランス感覚……自分の体を動かすことが徹底されていた。

 足の次は腕。足と同じように、指定された場所に腕を動かす。足よりも簡単だと思っていたが、どうにも想像している自分の動きとのズレが生じるのだ。本当に自分の体は自分のイメージ通り動いていないのだと実感した。

 次にバランス感覚。「これだけは買い直した」というメルが持ち出したのは、大きなボールと木の板だった。
 ルスルスに借りたという大きなマットの上にボールを置いて、さらにその上に木の板を置く。なんとも不安定なそのオブジェクトに、メルは軽々と飛び乗った。すると、まったく揺れることなくメルは木の板の上に留まり続けた。

「同じようにやってみて」

 メルが木の板から降りて、今度はエトワールが恐る恐る木の板に乗る。木の板はボールの上に乗っているので、当然かなり不安定だ。相当なバランス感覚がなければ、一瞬にして転んでしまうだろう。

 案の定、
 
「……わ……ヒェ……!」

 情けない声を出して、エトワールはマットに転げ落ちた。メルがマットを敷いた理由がよくわかった。当分の間、このマットにはお世話になるだろう。なかったら頭を打って死ぬ可能性がある。
 結局その40分の間に、エトワールが木の板の上に留まれた時間は数えるほどだった。どうにも不器用な男なので、この手のバランス調整は大の苦手なのである。

 40分修行して20分休憩。それがメルの指導の基本スタイル。その休憩の間にも、エトワールは自分の最強の姿を想像する。理想の姿を想像する。木の板の上に留まる自分。指定された場所に寸分違わず動くことができる自分を想像する。

 そのあたりで、エトワールはなんとなく気づいていた。
 まだ体力的には余裕もある。だけれど……メルの修行はとにかく集中力が削られる。ミリ単位での調節が求められるので、見た目以上にしんどいものだった。集中力がなくなればムダな動きが多くなり、体力も削られていく。
 
 体力自慢のエトワールも、もしかしたら最後まで持たないかもしれない、と危惧するほどだった。見た目は地味だが、本当に辛い。これだけ休憩時間が取られている理由がよくわかった。

 さて次はどんな修業をするのかと思っていると、

「午前の稽古は最後。終わったら昼食」
「はい。何をやるんですか?」
「実践形式。まだ私としかやれないけど……それで良ければ」
「え……メル先生と、ですか?」
「嫌? それなら誰か探すけれど……」
「嫌じゃないです!」いきなりテンションが上ってきた、「むしろ……戦ってみたいって思ってました」
 
 ディビジョンAを圧倒したその実力……自らの身体で感じたいと思っていた。エトワールが最強になるためには、メルも超えなければならないのだ。そのためには、やはり直接対戦したかった。

「そう……それならよかった」メルは軽く構えて、「午後からさらに地味になるから……」

 これからさらに? 今でも相当地味だけれど? 逆に何したらこれ以上地味になるの? 
 疑問は多々あるが、とにかくメルと手合わせだ。楽しみで仕方がない。

「えっと……剣を使ってもいいですか?」
「いいよ。私相手なら加減しなくてもいいけど……他の誰かとやるときは当てないようにしてね。ルスルスになら当ててもいいけど」

 ルスルスと何があったんだろう。仲が良いのか悪いのか……よくわからない関係だった。
 ともかく、

「本気でお願いします」
「? 手加減はする。そうじゃないと、練習にならないから」
「……」悔しいけれどその通りだった。メルが全力を出せば、エトワールなど瞬殺されてしまう。「じゃあ……できる範囲の本気でお願いします」
「わかった……」

 会話が終了して、お互いが構える。エトワールは剣を持って、メルは素手だった。例によって刀を抜くと殺してしまう可能性があるから素手なのだろう。なんとも恐ろしい話だ。

 とにかく、エトワールは突撃する。エトワールにやれることなど1つしかない。とにかく全力で剣を振るうこと。現在の全力をぶつけることだけだ。

 真上に構えて、剣を振り下ろす。当然その剣はメルには当たらず、剣が砂に刺さった感触だけが残った。

 その勢いのまま、エトワールは全力で剣を振り回す。当たる気配はまったくないが、それでも攻撃を続ける。不器用なので攻めるしか選択肢がないのだ。守りなんて今現在の実力ではできるはずもない。

 ある程度攻撃を振り続けて、少し距離が開く。また走って攻撃しようとしたとき、メルが言った。

「キミは……前に誰か師匠がいた?」
「え? いえ……ずっと1人でした……」
「じゃあ、今までどんな修行をしてた?」
「えっと……主に素振りをしてました。それしかできなかったので……」

 戦える人は魔物にやられていたので、手合わせする相手もいなかった。器具もないのでトレーニングも満足にできない。だから、ずっと剣を振っていた。それしかやることはなかったが、全力で毎日やっていた。

「ダメでしたか?」

 変なクセでもついていただろうか、と不安になったが、

「いや……いいよ」珍しくメルの表情が少しだけ動いていた。ちょっとだけ驚いたように、「凄く良い……良い技。特に最初の一撃」
「……へ?」

 なんだか褒められたように聞こえたのだけれど、気のせいだろうか。
 最初の一撃……真上から振り下ろしたあれか。たしかに一番練習しただろうけど……そこまで褒められる技だっただろうか。

「中断してごめん。続けて」

 そう言われたので、エトワールはまた攻め始める。褒められた理由も気になるけれど、今はメルと戦えているのが楽しい。
 明らかに実力が違うのが伝わってくる。軽くあしらわれているのが実感できる。この人を超えなければ最強はないのだ。だから、頑張らなければならない。

 結局エトワールの攻撃はメルにかすることもなく、手合わせの時間は終了したのだった。
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