謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)

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遊び人

第15話 1ミリの誤差もなく

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「じゃあ、そろそろ本格的に始める」今までのはあくまでもウォーミングアップ。「まずは足」
「足……ですか?」
「うん」メルは地面に線を一本引く。「地面が砂だから、線は引きやすい」

 笑えない自虐ネタだった。たしかに道場が燃えて地面が砂だから、そうかもしれないけれど……
 無理にでも笑うべきだっただろうか……迷っているうちに、メルが言う。

「ここに飛んで」
「その地面の線に、ですか?」
「うん。つま先が、ちょうどこの線の上に来るように」
「はぁ……わかりました」

 線までは距離にして50センチ程度。簡単に飛べる距離だ。こんなことをさせて、いったい何を見るつもりなのだろう。

「じゃあ……行きます」線に向かって、エトワールは跳躍した。そして、「あ……あれ?」

 たしかに近いところまでは飛べた。しかし、つま先がちょうど線の上に来るように、という指示はこなせなかった。2センチほど手前に着地してしまった。

「自分のイメージ通りに体を動かすことが、目標」メルは少し前に言った言葉を繰り返した。「目的の場所に、1ミリの誤差もなく動けるように」
「1ミリ……1ミリですか?」
「無理なら、最初は1センチを目標に。たまたま1回できるんじゃなくて、何回飛んでもできるようになって」
「は、はい……」
「もう一度」メルはさっきのとは違う線を引く。「今度がかかとの先が線の真上に来るように」

 言われるがまま、エトワールはジャンプする。そして、

「……う……」

 明らかにズレたのが自分でわかった。地面を見れば、引かれた線を完全に踏み潰していた。
 それを見て、メルが言う。

「自分の体は、自分が思ってるより思い通りに動いてない。まずは、自分のイメージと体の動きの差をなくすこと」

 言った後、メルはまた線を引いた。そこに飛べばいいのかと思っていたが、どうやら違う。メルは自分で引いた線から1メートルほど距離を取って、線に向かって飛んだ。
 まったくムダのない動きの跳躍。そして、右足の義足で着地。着地した位置は、線の真上。寸分違わず、指定の場所に飛んでいた。

 次、とメルは無表情のまま言い放つ。エトワールはと言うと、この修業厳しいやつだ、と気を引き締め直していた。

 メルは今度は等間隔の3本の線を引いた。

「反復横跳び。左右の線を踏むときは、足の中心で踏むことを意識。速さはなくていい。ゆっくりでいいから、まず30回。少し休憩して、足跡を見て動きを修正」
「……はい」

 エトワールはそのまま反復横跳びを開始する。ただ飛ぶだけなら当然エトワールにとっては簡単だが、左右の線を足の中心で踏もうとするだけで、急に集中力が必要になる。

 規定の30回を終えて、エトワールは自分の足跡を見る。砂だから見えやすいですね、なんてブラックジョークは言えなかった。

 自分の足跡を見て、愕然とする。
 ズレている。足跡がブレブレだった。酷いときは線を完全に踏み外している。しかも右足のほうが大きくブレていた。どうしてこんなにもズレるのか……と考えていると。

「重心が右に寄ってる」メルが言う。「だから右が安定しない。まっすぐ立ってみて」

 もはや圧倒されているエトワールは、メルの言うことを素直に聞く。自分で思う限り完璧なまっすぐを意識して、立つ。

 メルはそれを見て、

「……本来なら、大きい鏡があったんだけど……」燃えたらしい。いよいよ損害の大きさが浮き彫りになってきた。「……もう少し左足に体重を寄せて」
「こう……ですか?」
「うん。それから、腰を少し右。それで……首を左に3ミリ」指示のまま動いて、立つ。「それがまっすぐ。すべての、基本」
「基本……」
「そう。それから自分に合わせて変えればいい。最初から歪んでるのと、意図的に歪ませているのは違う」
 
 なるほど……最初から型を破ろうとするのではなく、型を知った上で破ったほうが良いということか。なんとなくわかる。今までエトワールは我流で練習していたけれど、こうして基本を教えてくれる人がいるとありがたい。

 それから、メルによる足の稽古は続いた。線が引かれた場所に飛んだり、高さの指定があったり、長時間同じ姿勢をキープしたり……とにかく正確性を重視する指導だった。

 自分のイメージ通りに体を動かす、それがメルの思う強さへの第一歩らしい。たしかにそれができるなら、強くなれるだろう。新たな型を身に着けやすくなるだろう。

 強さへの道というのは、エトワールが思っていたよりも地味な道であるらしい。
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