21 / 32
遊び人
第21話 メル師匠
しおりを挟む
マグノリアの家は情報通り大きな家だった。庭のど真ん中に噴水があって、ディビジョンSというのはやはり儲けているのだと認識する。
ディビジョンSの称号があれば、それだけでメリットが大きいのだ。仕事も舞い込むし、相手から信用を得ることができる。結果として大きな仕事を請け負うことも容易になる。
たしかに豪華な家だが、少しばかり寂れているように見えた。噴水の水は流れていないし、掃除もされていない。庭の草木も手入れをされているようには見えない。どうやら家主が酒浸りになっているというのは信憑性が高そうだ。
さて、家にたどり着いて早速乗り込むのかと思っていたら、
「……」
メルは無言のまま、家の裏側に向かって歩き始めた。まさか裏から侵入するつもりなのかとハラハラしていると、壁に隠れてなにやら家の裏手を覗き込んだ。
エトワールもそれにならって覗き込むと、
「あ……」
なんだか見覚えのある人物が、マグノリア家の裏手で家を見上げていた。
「……何やってんだ私は……」そうつぶやいていたのは、マーチだった。「帰ろう帰ろう。虐待なんてされてても私には関係ないし……そもそもディビジョンSとか勝てるわけないし……そうそう。帰っちまえばいいのさ。私には関係ない」
どうやら、マーチも子供――サジェスの安否が気になっていたようである。私には関係ないと言いつつ、心に残っているのがミエミエだった。優しいのかそうじゃないのか、いよいよよくわからない人だった。
迷っているであろうマーチ。その時、マグノリアの家の中から物音がした。何かを殴って壁に激突したような音。例えば子供が殴られて壁に叩きつけられたような音だった。
「はぁ……」マーチはため息をついて、「なんで虐待なんてするかねぇ……私にはわかんない。でも……まぁ父親だって悩んでるわけで……でも見過ごせないし……むぅ……」
マーチはしばらくフラフラとさまよっていた。このまま時間が過ぎ去るのかと思ったら、メルが隠れるのをやめてマーチの前に姿を表した。それに気づいたマーチが、
「おや……早かったね師匠。もうやっつけたの、あの人たち」
「いや……帰ってくれた」
「帰ってくれた? はーん……師匠にビビったのかねぇ……」マーチは飄々とした雰囲気に戻っていた。「あなた、メル・キュールさんでしょ? 最近、この町の道場を買った人」
「……そう、だね」
「道場、燃えちゃったんだって? 災難だったね。別に私には関係ないけど」
そりゃそうだ。メルの道場が燃えようが、マーチには関係がない。言ってしまえば他人なのだから、その他人がどれだけ悲しんでいようが無関係な話なのだ。本当に関係ないのだけれど、本人の前で言ってしまえる度胸に感服する。
「それで……どうしたの? 私を説教しに来たの?」
「……」メルは首を横に振る。「生き残るために、誰かを盾にするのは正しい判断。でも……盾にする相手はちゃんと選んで」
「選んだよ。メル師匠なら大丈夫かなーって思ってさ」
「……まだあなたの師匠ではない。弟子になるなら、歓迎するけど」
「あら……道場が燃えたんじゃなかったの? もう門下生募集してるの?」
「……一応……」
「へぇ……そりゃ面白そうだ。私も門下生になっていい?」あっさりとマーチは言った。全然重要な判断を下した雰囲気ではなかった。あまりにもあっさりと言うので、聞き逃しかけていた。「あなたといれば、面白いことに巻き込まれることができそうだ。修行とかはしないけど、籍だけ置かせてもらうってのはあり?」
修行はしないけど門下生……それは門下生と言えるのだろうか。そんな弟子をとっても良いのだろうか、と悩むエトワールをよそに、
「いいよ。修行を強制するつもりはない。私の邪魔しないのなら、何をしていても構わない」
「邪魔なんてしないさ。そもそも道場に顔なんて出さないと思うし、心配すんなって」
「……修行の邪魔だけじゃなくて、門下生を名乗るなら、道場の評判を下げることはしないように」
「げ……それは気をつけないとね……まぁ善処するよ。飽きたら道場やめればいいし」
そんなこんなで、なぜか門下生が1人増えた。エトワールの思っていた勧誘とはまったく違う雰囲気だった。もっと粛々とした手続きを踏むものだと思っていたのに……
「最後に1つ聞く。キミにとって、強さって何?」
その問いはエトワールもされたものだった。強さとはなにか。まだエトワールには結論が出せていないものだった。だから、マーチの意見が聞けるのは貴重な機会かもしれない。
「強さねぇ……楽しむこと、かな」
「……?」
「人生は楽しんだもの勝ち。戦いも勉強も人間関係も……すべてを楽しめたのなら、その人生は最強だよ。誰から文句をつけられても関係ない。その人が楽しんでいるのなら良し。それが私にとっての最強。私にとっての強さ」
強さとは楽しむこと……それがマーチの答えであるらしい。なんだかマーチの人生哲学に触れたようで、ちょっとだけ気分が高揚したエトワールだった。
「わかった……じゃあ、基本的に道場で修行してるから。何かあったら道場に来て」
「はーい。じゃあよろしくね、メル師匠」
門下生が増えた……ということは、兄弟弟子みたいなものだ。友達がいないエトワールとしては、マーチとも仲良くなれたらいいなー、という感じである。まぁ友達探しに来たわけではないので、仲良くなれなくても悲しいだけなのだが。
……あれ……マグノリアの家に門下生探しに来てたんだっけ? 違うよね。
ディビジョンSの称号があれば、それだけでメリットが大きいのだ。仕事も舞い込むし、相手から信用を得ることができる。結果として大きな仕事を請け負うことも容易になる。
たしかに豪華な家だが、少しばかり寂れているように見えた。噴水の水は流れていないし、掃除もされていない。庭の草木も手入れをされているようには見えない。どうやら家主が酒浸りになっているというのは信憑性が高そうだ。
さて、家にたどり着いて早速乗り込むのかと思っていたら、
「……」
メルは無言のまま、家の裏側に向かって歩き始めた。まさか裏から侵入するつもりなのかとハラハラしていると、壁に隠れてなにやら家の裏手を覗き込んだ。
エトワールもそれにならって覗き込むと、
「あ……」
なんだか見覚えのある人物が、マグノリア家の裏手で家を見上げていた。
「……何やってんだ私は……」そうつぶやいていたのは、マーチだった。「帰ろう帰ろう。虐待なんてされてても私には関係ないし……そもそもディビジョンSとか勝てるわけないし……そうそう。帰っちまえばいいのさ。私には関係ない」
どうやら、マーチも子供――サジェスの安否が気になっていたようである。私には関係ないと言いつつ、心に残っているのがミエミエだった。優しいのかそうじゃないのか、いよいよよくわからない人だった。
迷っているであろうマーチ。その時、マグノリアの家の中から物音がした。何かを殴って壁に激突したような音。例えば子供が殴られて壁に叩きつけられたような音だった。
「はぁ……」マーチはため息をついて、「なんで虐待なんてするかねぇ……私にはわかんない。でも……まぁ父親だって悩んでるわけで……でも見過ごせないし……むぅ……」
マーチはしばらくフラフラとさまよっていた。このまま時間が過ぎ去るのかと思ったら、メルが隠れるのをやめてマーチの前に姿を表した。それに気づいたマーチが、
「おや……早かったね師匠。もうやっつけたの、あの人たち」
「いや……帰ってくれた」
「帰ってくれた? はーん……師匠にビビったのかねぇ……」マーチは飄々とした雰囲気に戻っていた。「あなた、メル・キュールさんでしょ? 最近、この町の道場を買った人」
「……そう、だね」
「道場、燃えちゃったんだって? 災難だったね。別に私には関係ないけど」
そりゃそうだ。メルの道場が燃えようが、マーチには関係がない。言ってしまえば他人なのだから、その他人がどれだけ悲しんでいようが無関係な話なのだ。本当に関係ないのだけれど、本人の前で言ってしまえる度胸に感服する。
「それで……どうしたの? 私を説教しに来たの?」
「……」メルは首を横に振る。「生き残るために、誰かを盾にするのは正しい判断。でも……盾にする相手はちゃんと選んで」
「選んだよ。メル師匠なら大丈夫かなーって思ってさ」
「……まだあなたの師匠ではない。弟子になるなら、歓迎するけど」
「あら……道場が燃えたんじゃなかったの? もう門下生募集してるの?」
「……一応……」
「へぇ……そりゃ面白そうだ。私も門下生になっていい?」あっさりとマーチは言った。全然重要な判断を下した雰囲気ではなかった。あまりにもあっさりと言うので、聞き逃しかけていた。「あなたといれば、面白いことに巻き込まれることができそうだ。修行とかはしないけど、籍だけ置かせてもらうってのはあり?」
修行はしないけど門下生……それは門下生と言えるのだろうか。そんな弟子をとっても良いのだろうか、と悩むエトワールをよそに、
「いいよ。修行を強制するつもりはない。私の邪魔しないのなら、何をしていても構わない」
「邪魔なんてしないさ。そもそも道場に顔なんて出さないと思うし、心配すんなって」
「……修行の邪魔だけじゃなくて、門下生を名乗るなら、道場の評判を下げることはしないように」
「げ……それは気をつけないとね……まぁ善処するよ。飽きたら道場やめればいいし」
そんなこんなで、なぜか門下生が1人増えた。エトワールの思っていた勧誘とはまったく違う雰囲気だった。もっと粛々とした手続きを踏むものだと思っていたのに……
「最後に1つ聞く。キミにとって、強さって何?」
その問いはエトワールもされたものだった。強さとはなにか。まだエトワールには結論が出せていないものだった。だから、マーチの意見が聞けるのは貴重な機会かもしれない。
「強さねぇ……楽しむこと、かな」
「……?」
「人生は楽しんだもの勝ち。戦いも勉強も人間関係も……すべてを楽しめたのなら、その人生は最強だよ。誰から文句をつけられても関係ない。その人が楽しんでいるのなら良し。それが私にとっての最強。私にとっての強さ」
強さとは楽しむこと……それがマーチの答えであるらしい。なんだかマーチの人生哲学に触れたようで、ちょっとだけ気分が高揚したエトワールだった。
「わかった……じゃあ、基本的に道場で修行してるから。何かあったら道場に来て」
「はーい。じゃあよろしくね、メル師匠」
門下生が増えた……ということは、兄弟弟子みたいなものだ。友達がいないエトワールとしては、マーチとも仲良くなれたらいいなー、という感じである。まぁ友達探しに来たわけではないので、仲良くなれなくても悲しいだけなのだが。
……あれ……マグノリアの家に門下生探しに来てたんだっけ? 違うよね。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
消されかけた侍女、禁術を得て舞い戻る〜禁図書館戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
「あなたが思ったことを、考えたことを、口にしていい場所ではありません」
王宮では、新人侍女は逆らえない。
理由を聞けば「そういう者から、順番に消えていく」と叱られる。
辺境から来た十五歳の新人侍女ララは、
王妃付きという名目で、
命令に従うだけの日々を送っていた。
嫌だと言わないのが当たり前。
疑問を口にすれば、無視される。
――けれど、その夜。
ララは、初めて命令を拒んだ。
差し伸べられた一つの手。
連れられ逃げ込んだ先は、禁図書館。
王宮で「関わるな」と言われ続けてきた場所であり、
王太子の命令すら通らない、例外だった。
拾われた先で、少女は知る。
知識と力は、命令より強いということを。
消されかけた侍女が、
禁術を得て、王宮に舞い戻る。
これは、
誰を救い、
誰を裁くかを選ぶことになった少女の物語。
※本作には、権力による搾取や強要を想起させる描写が含まれます。直接的な性描写はありません。
「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」
(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。
王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。
風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる