22 / 32
遊び人
第22話 ガラス、お願い
しおりを挟む
マグノリアの家に来た理由は、マグノリアが息子であるサジェスに虐待をしているからだ。それを助けるために、メルとエトワールはマグノリアの家に来た。そこに同じような目的で居合わせたマーチが、成り行きで門下生になることになった。
門下生が増えたのは喜ばしいことだが、今の目的は門下生探しではない。サジェスを助けることなのだ。
「さて……どうすんだい、メル師匠」マグノリアの家の裏手で、マーチが言う。「私を追っかけてきたんじゃないなら、サジェスくんを助けに来たんでしょ?」
「……違う……ディビジョンSの強さが気になっただけ。仮に少年が助かったとしても、それは偶然」
「あ、そうなの? まぁ結果が同じなら目的はどうでもいいけどね」
結果としてサジェスが助かれば、人助けが目的だろうが戦闘が目的だろうが変わらない。
「なんにせよ、乗り込む?」マーチは家を指さして、「今も暴れてるみたいだし」
そう言っている間にも、家の中からは大きな物音が聞こえてきていた。おそらくマグノリアが暴れているのだろう。サジェスが買ってきた酒を飲んで、さらに泥酔しているのかもしれない。
「メル師匠の強さも、気になってたんだ」マーチは言う。「突然現れた謎の人物。どうにも腕が立つらしいけど……どれくらい強いの? 町の噂じゃ、ディビジョンAくらいだ妥当だって声が大きいけれど……」
「……」
「まぁ、今回の戦いを見てればわかるか。マグノリアさんに勝てるなら、ディビジョンSレベルなのは間違いないからね」
あ、そうだ、とマーチは何かを思い出したように、
「さっきメル師匠は、強さとは何かを私に聞いたよね。だったら……メル師匠にとって強さって何? 師匠の思う強さを、教えてほしいな」
メルの思う強さ。メルの追い求める強さ。それはエトワールにとっても興味があることだった。これほどの強さを持つ人物が行き着いた、強さという問題への答え。
「それは……」
メルが口を開きかけた瞬間、ガラスが割れる音がした。
上を見ると、マグノリアの家の窓ガラスが砕け散っていた。それだけではない。真に驚くべきことは少年の体が空中に投げ出されているということ。
家の中で虐待を受けた息子サジェスが、2階の窓から投げ出されたらしい。2階から落ちれば大怪我は免れない。ヘタをすれば命を失う可能性だってあるだろう。
頭上から少年1人とガラス片が降ってくる。
「マーチさん」メルがつぶやくように言う。こんな一刻を争う瞬間でも、彼女は冷静そのものだった。「ガラス、お願い」
「了解」
簡潔な会話を済ませて、2人は動き始める。
まずメルがサジェスをキャッチした。片腕と足をうまく使って、できる限りサジェスに衝撃が伝わらないようにキャッチしていた。包み込むような、優しい動作だった。
間髪入れず、ガラス片が降ってくる。その瞬間エトワールの視界はなにかに遮られた。太陽光を遮ったそれは、布だった。マーチが羽織っていた服で4人を覆い、ガラス片を防いだのだった。いくつかガラス片が布を突き破って顔を出したが、それは人に当たることはなかった。
エトワールはといえば……大した動きもできないでいた。サジェスを助けようと近寄ったことまでは覚えているが、その後はただ圧倒されていた。メルとマーチの瞬時の判断力に気圧されていた。
ガラス片が地面に当たって砕け散る音が聞こえた。そしてすべてのガラス片を防いだと確信したマーチが、覆っていた布を取り払う。太陽の光が再び差し込んできて、エトワールは目を細めた。
「ありゃ……」マーチがガラス片の刺さった自分の服を見て、「こりゃもう着れないなぁ……ま、別にいいけど」
「ごめん」メルが謝罪する。「ありがとう。助かった」
「どういたしまして」それから、マーチがエトワールとサジェスに聞いた。「ケガはない?」
「僕は……大丈夫です」
エトワールが答える。自分がまだ心配される側の人間であることを自覚して、思わず唇を噛んでしまった。もっと強くならなければ、守られる側から脱出することはできない。誰かを守ることなどできない。
「あ……その……」メルにキャッチされたサジェスが血の気の引いた表情で、「大丈夫……です……」
どう見ても大丈夫ではない。たしかに落下の衝撃はなかったかもしれないが、ガラスが刺さったのか数か所から血が出ている。それに……顔にアザがあった。どうやら本格的に虐待の暴力が表面的になり始めているようだった。
そんなサジェスに向かって、空から声が降ってきた。
「おいサジェス!」怒鳴り声を発したのは、おそらくマグノリア。窓から声が聞こえているだけだから、姿は確認できない。「そのまま酒買ってこい!」
マグノリアはここにメルたちがいることに気づいていないのだろう。仮にサジェスだけがいると思っていたとしても、突き落とした我が子に言う言葉ではないが。
メルはサジェスを地面に立たせて、
「行ってくる」
「私も行くよ」マーチが同意して、エトワールに聞く。「キミは?」
「え……あ、その……」迷ったけれど、「行きます……」
そんなこんなで、メルたちはマグノリアの屋敷に正面から侵入した。待ち受けているのはおそらくマグノリアとの、ディビジョンSとの戦いだろう。
メルの強さ……それがある程度明らかになる。さすがにディビジョンSにはかなわないのか、それとも……
門下生が増えたのは喜ばしいことだが、今の目的は門下生探しではない。サジェスを助けることなのだ。
「さて……どうすんだい、メル師匠」マグノリアの家の裏手で、マーチが言う。「私を追っかけてきたんじゃないなら、サジェスくんを助けに来たんでしょ?」
「……違う……ディビジョンSの強さが気になっただけ。仮に少年が助かったとしても、それは偶然」
「あ、そうなの? まぁ結果が同じなら目的はどうでもいいけどね」
結果としてサジェスが助かれば、人助けが目的だろうが戦闘が目的だろうが変わらない。
「なんにせよ、乗り込む?」マーチは家を指さして、「今も暴れてるみたいだし」
そう言っている間にも、家の中からは大きな物音が聞こえてきていた。おそらくマグノリアが暴れているのだろう。サジェスが買ってきた酒を飲んで、さらに泥酔しているのかもしれない。
「メル師匠の強さも、気になってたんだ」マーチは言う。「突然現れた謎の人物。どうにも腕が立つらしいけど……どれくらい強いの? 町の噂じゃ、ディビジョンAくらいだ妥当だって声が大きいけれど……」
「……」
「まぁ、今回の戦いを見てればわかるか。マグノリアさんに勝てるなら、ディビジョンSレベルなのは間違いないからね」
あ、そうだ、とマーチは何かを思い出したように、
「さっきメル師匠は、強さとは何かを私に聞いたよね。だったら……メル師匠にとって強さって何? 師匠の思う強さを、教えてほしいな」
メルの思う強さ。メルの追い求める強さ。それはエトワールにとっても興味があることだった。これほどの強さを持つ人物が行き着いた、強さという問題への答え。
「それは……」
メルが口を開きかけた瞬間、ガラスが割れる音がした。
上を見ると、マグノリアの家の窓ガラスが砕け散っていた。それだけではない。真に驚くべきことは少年の体が空中に投げ出されているということ。
家の中で虐待を受けた息子サジェスが、2階の窓から投げ出されたらしい。2階から落ちれば大怪我は免れない。ヘタをすれば命を失う可能性だってあるだろう。
頭上から少年1人とガラス片が降ってくる。
「マーチさん」メルがつぶやくように言う。こんな一刻を争う瞬間でも、彼女は冷静そのものだった。「ガラス、お願い」
「了解」
簡潔な会話を済ませて、2人は動き始める。
まずメルがサジェスをキャッチした。片腕と足をうまく使って、できる限りサジェスに衝撃が伝わらないようにキャッチしていた。包み込むような、優しい動作だった。
間髪入れず、ガラス片が降ってくる。その瞬間エトワールの視界はなにかに遮られた。太陽光を遮ったそれは、布だった。マーチが羽織っていた服で4人を覆い、ガラス片を防いだのだった。いくつかガラス片が布を突き破って顔を出したが、それは人に当たることはなかった。
エトワールはといえば……大した動きもできないでいた。サジェスを助けようと近寄ったことまでは覚えているが、その後はただ圧倒されていた。メルとマーチの瞬時の判断力に気圧されていた。
ガラス片が地面に当たって砕け散る音が聞こえた。そしてすべてのガラス片を防いだと確信したマーチが、覆っていた布を取り払う。太陽の光が再び差し込んできて、エトワールは目を細めた。
「ありゃ……」マーチがガラス片の刺さった自分の服を見て、「こりゃもう着れないなぁ……ま、別にいいけど」
「ごめん」メルが謝罪する。「ありがとう。助かった」
「どういたしまして」それから、マーチがエトワールとサジェスに聞いた。「ケガはない?」
「僕は……大丈夫です」
エトワールが答える。自分がまだ心配される側の人間であることを自覚して、思わず唇を噛んでしまった。もっと強くならなければ、守られる側から脱出することはできない。誰かを守ることなどできない。
「あ……その……」メルにキャッチされたサジェスが血の気の引いた表情で、「大丈夫……です……」
どう見ても大丈夫ではない。たしかに落下の衝撃はなかったかもしれないが、ガラスが刺さったのか数か所から血が出ている。それに……顔にアザがあった。どうやら本格的に虐待の暴力が表面的になり始めているようだった。
そんなサジェスに向かって、空から声が降ってきた。
「おいサジェス!」怒鳴り声を発したのは、おそらくマグノリア。窓から声が聞こえているだけだから、姿は確認できない。「そのまま酒買ってこい!」
マグノリアはここにメルたちがいることに気づいていないのだろう。仮にサジェスだけがいると思っていたとしても、突き落とした我が子に言う言葉ではないが。
メルはサジェスを地面に立たせて、
「行ってくる」
「私も行くよ」マーチが同意して、エトワールに聞く。「キミは?」
「え……あ、その……」迷ったけれど、「行きます……」
そんなこんなで、メルたちはマグノリアの屋敷に正面から侵入した。待ち受けているのはおそらくマグノリアとの、ディビジョンSとの戦いだろう。
メルの強さ……それがある程度明らかになる。さすがにディビジョンSにはかなわないのか、それとも……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
そして俺は〇〇になりました。
ふとん☆まくら〜れん(F.M.)
ファンタジー
そして…俺はこの夢が早く覚めてほしいと願っている。
良く聞く話である。
ふと気を失い、気づくと違う世界に居た…本当に良く聞く話だが、本当にあっては堪らない話だ。
もちろん悪い夢に違いないのだが…一向に覚める気配も無く、ダラダラと流されて行く。
目が醒めたところでつまらない日常、その時まで楽しめば良いのだ。
…その時まで。
消されかけた侍女、禁術を得て舞い戻る〜禁図書館戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
「あなたが思ったことを、考えたことを、口にしていい場所ではありません」
王宮では、新人侍女は逆らえない。
理由を聞けば「そういう者から、順番に消えていく」と叱られる。
辺境から来た十五歳の新人侍女ララは、
王妃付きという名目で、
命令に従うだけの日々を送っていた。
嫌だと言わないのが当たり前。
疑問を口にすれば、無視される。
――けれど、その夜。
ララは、初めて命令を拒んだ。
差し伸べられた一つの手。
連れられ逃げ込んだ先は、禁図書館。
王宮で「関わるな」と言われ続けてきた場所であり、
王太子の命令すら通らない、例外だった。
拾われた先で、少女は知る。
知識と力は、命令より強いということを。
消されかけた侍女が、
禁術を得て、王宮に舞い戻る。
これは、
誰を救い、
誰を裁くかを選ぶことになった少女の物語。
※本作には、権力による搾取や強要を想起させる描写が含まれます。直接的な性描写はありません。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる