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遊び人
第21話 メル師匠
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マグノリアの家は情報通り大きな家だった。庭のど真ん中に噴水があって、ディビジョンSというのはやはり儲けているのだと認識する。
ディビジョンSの称号があれば、それだけでメリットが大きいのだ。仕事も舞い込むし、相手から信用を得ることができる。結果として大きな仕事を請け負うことも容易になる。
たしかに豪華な家だが、少しばかり寂れているように見えた。噴水の水は流れていないし、掃除もされていない。庭の草木も手入れをされているようには見えない。どうやら家主が酒浸りになっているというのは信憑性が高そうだ。
さて、家にたどり着いて早速乗り込むのかと思っていたら、
「……」
メルは無言のまま、家の裏側に向かって歩き始めた。まさか裏から侵入するつもりなのかとハラハラしていると、壁に隠れてなにやら家の裏手を覗き込んだ。
エトワールもそれにならって覗き込むと、
「あ……」
なんだか見覚えのある人物が、マグノリア家の裏手で家を見上げていた。
「……何やってんだ私は……」そうつぶやいていたのは、マーチだった。「帰ろう帰ろう。虐待なんてされてても私には関係ないし……そもそもディビジョンSとか勝てるわけないし……そうそう。帰っちまえばいいのさ。私には関係ない」
どうやら、マーチも子供――サジェスの安否が気になっていたようである。私には関係ないと言いつつ、心に残っているのがミエミエだった。優しいのかそうじゃないのか、いよいよよくわからない人だった。
迷っているであろうマーチ。その時、マグノリアの家の中から物音がした。何かを殴って壁に激突したような音。例えば子供が殴られて壁に叩きつけられたような音だった。
「はぁ……」マーチはため息をついて、「なんで虐待なんてするかねぇ……私にはわかんない。でも……まぁ父親だって悩んでるわけで……でも見過ごせないし……むぅ……」
マーチはしばらくフラフラとさまよっていた。このまま時間が過ぎ去るのかと思ったら、メルが隠れるのをやめてマーチの前に姿を表した。それに気づいたマーチが、
「おや……早かったね師匠。もうやっつけたの、あの人たち」
「いや……帰ってくれた」
「帰ってくれた? はーん……師匠にビビったのかねぇ……」マーチは飄々とした雰囲気に戻っていた。「あなた、メル・キュールさんでしょ? 最近、この町の道場を買った人」
「……そう、だね」
「道場、燃えちゃったんだって? 災難だったね。別に私には関係ないけど」
そりゃそうだ。メルの道場が燃えようが、マーチには関係がない。言ってしまえば他人なのだから、その他人がどれだけ悲しんでいようが無関係な話なのだ。本当に関係ないのだけれど、本人の前で言ってしまえる度胸に感服する。
「それで……どうしたの? 私を説教しに来たの?」
「……」メルは首を横に振る。「生き残るために、誰かを盾にするのは正しい判断。でも……盾にする相手はちゃんと選んで」
「選んだよ。メル師匠なら大丈夫かなーって思ってさ」
「……まだあなたの師匠ではない。弟子になるなら、歓迎するけど」
「あら……道場が燃えたんじゃなかったの? もう門下生募集してるの?」
「……一応……」
「へぇ……そりゃ面白そうだ。私も門下生になっていい?」あっさりとマーチは言った。全然重要な判断を下した雰囲気ではなかった。あまりにもあっさりと言うので、聞き逃しかけていた。「あなたといれば、面白いことに巻き込まれることができそうだ。修行とかはしないけど、籍だけ置かせてもらうってのはあり?」
修行はしないけど門下生……それは門下生と言えるのだろうか。そんな弟子をとっても良いのだろうか、と悩むエトワールをよそに、
「いいよ。修行を強制するつもりはない。私の邪魔しないのなら、何をしていても構わない」
「邪魔なんてしないさ。そもそも道場に顔なんて出さないと思うし、心配すんなって」
「……修行の邪魔だけじゃなくて、門下生を名乗るなら、道場の評判を下げることはしないように」
「げ……それは気をつけないとね……まぁ善処するよ。飽きたら道場やめればいいし」
そんなこんなで、なぜか門下生が1人増えた。エトワールの思っていた勧誘とはまったく違う雰囲気だった。もっと粛々とした手続きを踏むものだと思っていたのに……
「最後に1つ聞く。キミにとって、強さって何?」
その問いはエトワールもされたものだった。強さとはなにか。まだエトワールには結論が出せていないものだった。だから、マーチの意見が聞けるのは貴重な機会かもしれない。
「強さねぇ……楽しむこと、かな」
「……?」
「人生は楽しんだもの勝ち。戦いも勉強も人間関係も……すべてを楽しめたのなら、その人生は最強だよ。誰から文句をつけられても関係ない。その人が楽しんでいるのなら良し。それが私にとっての最強。私にとっての強さ」
強さとは楽しむこと……それがマーチの答えであるらしい。なんだかマーチの人生哲学に触れたようで、ちょっとだけ気分が高揚したエトワールだった。
「わかった……じゃあ、基本的に道場で修行してるから。何かあったら道場に来て」
「はーい。じゃあよろしくね、メル師匠」
門下生が増えた……ということは、兄弟弟子みたいなものだ。友達がいないエトワールとしては、マーチとも仲良くなれたらいいなー、という感じである。まぁ友達探しに来たわけではないので、仲良くなれなくても悲しいだけなのだが。
……あれ……マグノリアの家に門下生探しに来てたんだっけ? 違うよね。
ディビジョンSの称号があれば、それだけでメリットが大きいのだ。仕事も舞い込むし、相手から信用を得ることができる。結果として大きな仕事を請け負うことも容易になる。
たしかに豪華な家だが、少しばかり寂れているように見えた。噴水の水は流れていないし、掃除もされていない。庭の草木も手入れをされているようには見えない。どうやら家主が酒浸りになっているというのは信憑性が高そうだ。
さて、家にたどり着いて早速乗り込むのかと思っていたら、
「……」
メルは無言のまま、家の裏側に向かって歩き始めた。まさか裏から侵入するつもりなのかとハラハラしていると、壁に隠れてなにやら家の裏手を覗き込んだ。
エトワールもそれにならって覗き込むと、
「あ……」
なんだか見覚えのある人物が、マグノリア家の裏手で家を見上げていた。
「……何やってんだ私は……」そうつぶやいていたのは、マーチだった。「帰ろう帰ろう。虐待なんてされてても私には関係ないし……そもそもディビジョンSとか勝てるわけないし……そうそう。帰っちまえばいいのさ。私には関係ない」
どうやら、マーチも子供――サジェスの安否が気になっていたようである。私には関係ないと言いつつ、心に残っているのがミエミエだった。優しいのかそうじゃないのか、いよいよよくわからない人だった。
迷っているであろうマーチ。その時、マグノリアの家の中から物音がした。何かを殴って壁に激突したような音。例えば子供が殴られて壁に叩きつけられたような音だった。
「はぁ……」マーチはため息をついて、「なんで虐待なんてするかねぇ……私にはわかんない。でも……まぁ父親だって悩んでるわけで……でも見過ごせないし……むぅ……」
マーチはしばらくフラフラとさまよっていた。このまま時間が過ぎ去るのかと思ったら、メルが隠れるのをやめてマーチの前に姿を表した。それに気づいたマーチが、
「おや……早かったね師匠。もうやっつけたの、あの人たち」
「いや……帰ってくれた」
「帰ってくれた? はーん……師匠にビビったのかねぇ……」マーチは飄々とした雰囲気に戻っていた。「あなた、メル・キュールさんでしょ? 最近、この町の道場を買った人」
「……そう、だね」
「道場、燃えちゃったんだって? 災難だったね。別に私には関係ないけど」
そりゃそうだ。メルの道場が燃えようが、マーチには関係がない。言ってしまえば他人なのだから、その他人がどれだけ悲しんでいようが無関係な話なのだ。本当に関係ないのだけれど、本人の前で言ってしまえる度胸に感服する。
「それで……どうしたの? 私を説教しに来たの?」
「……」メルは首を横に振る。「生き残るために、誰かを盾にするのは正しい判断。でも……盾にする相手はちゃんと選んで」
「選んだよ。メル師匠なら大丈夫かなーって思ってさ」
「……まだあなたの師匠ではない。弟子になるなら、歓迎するけど」
「あら……道場が燃えたんじゃなかったの? もう門下生募集してるの?」
「……一応……」
「へぇ……そりゃ面白そうだ。私も門下生になっていい?」あっさりとマーチは言った。全然重要な判断を下した雰囲気ではなかった。あまりにもあっさりと言うので、聞き逃しかけていた。「あなたといれば、面白いことに巻き込まれることができそうだ。修行とかはしないけど、籍だけ置かせてもらうってのはあり?」
修行はしないけど門下生……それは門下生と言えるのだろうか。そんな弟子をとっても良いのだろうか、と悩むエトワールをよそに、
「いいよ。修行を強制するつもりはない。私の邪魔しないのなら、何をしていても構わない」
「邪魔なんてしないさ。そもそも道場に顔なんて出さないと思うし、心配すんなって」
「……修行の邪魔だけじゃなくて、門下生を名乗るなら、道場の評判を下げることはしないように」
「げ……それは気をつけないとね……まぁ善処するよ。飽きたら道場やめればいいし」
そんなこんなで、なぜか門下生が1人増えた。エトワールの思っていた勧誘とはまったく違う雰囲気だった。もっと粛々とした手続きを踏むものだと思っていたのに……
「最後に1つ聞く。キミにとって、強さって何?」
その問いはエトワールもされたものだった。強さとはなにか。まだエトワールには結論が出せていないものだった。だから、マーチの意見が聞けるのは貴重な機会かもしれない。
「強さねぇ……楽しむこと、かな」
「……?」
「人生は楽しんだもの勝ち。戦いも勉強も人間関係も……すべてを楽しめたのなら、その人生は最強だよ。誰から文句をつけられても関係ない。その人が楽しんでいるのなら良し。それが私にとっての最強。私にとっての強さ」
強さとは楽しむこと……それがマーチの答えであるらしい。なんだかマーチの人生哲学に触れたようで、ちょっとだけ気分が高揚したエトワールだった。
「わかった……じゃあ、基本的に道場で修行してるから。何かあったら道場に来て」
「はーい。じゃあよろしくね、メル師匠」
門下生が増えた……ということは、兄弟弟子みたいなものだ。友達がいないエトワールとしては、マーチとも仲良くなれたらいいなー、という感じである。まぁ友達探しに来たわけではないので、仲良くなれなくても悲しいだけなのだが。
……あれ……マグノリアの家に門下生探しに来てたんだっけ? 違うよね。
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