23 / 32
遊び人
第23話 楽しみ
しおりを挟む
正面玄関の鍵はサジェスが開けてくれた。マグノリア家に侵入するメンバーはメル、マーチ、エトワール、サジェスの4人だった。サジェスに関しては家に入っただけだから、侵入とはいえないかもしれないが。
広い家だった。掃除さえ行き届いていれば、さぞ高級感のある家だっただろう。今はそこかしこにホコリが積もり、花も枯れていた。マグノリアが暴れたのか、ところどころ家具や美術品も壊れている。おばけでも出てきそうな雰囲気だった。
扉を開けて家に入るなり、マグノリアの怒鳴り声が聞こえてきた。
「おいサジェス……! 酒買ってこいって……」そこまで叫んで、マグノリアは見知らぬ人物たちがいることに気がついたようだった。「あ……? お前ら……」
マグノリアというディビジョンSの男は、どこにでもいそうな男だった。無精髭を生やしていて、たくましい体つきの男だった。
「こんにちは」平然と、メルが言う。「あなたと戦いに来た」
「は?」突然の宣言に、マグノリアは目を丸くする。「俺と……?」
そりゃ混乱するだろう。今のメルの説明はちょっと過程を飛ばしすぎだ。
会話が成立しないのを見て、マーチがフォローする。
「やぁマグノリアさん。あなたが子供に暴力振るってるのを知ったから、懲らしめに来たんだ」
メルの目的は違うけれど。本当にマグノリアと戦いに来ただけなのだけれど。まぁマーチの説明のほうが都合が良いので黙っておくことにする。
「家庭の問題だ」酔っ払って赤い顔のマグノリアが階段を降りてくる。「お前ら警察か?」
「警察?」どうにもおしゃべりなマーチだった。「そりゃ違うよ。私たちは……メル師匠とその弟子」
言ってから、マーチはエトワールに聞く。
「あれ……キミも弟子だったっけ? というか、名前は?」
そういえば名乗ってなかったようなきがする。
「エトワール、です。メル先生の弟子です」
「そっか。じゃあ兄弟弟子だね。よろしく」
「は、はい……」
兄弟弟子が明るそうな人で良かった……って今はそんな事を言っている場合じゃない。
「メル……メル・キュールか」マグノリアもその名前には覚えがあるらしい。「たしか、この辺の道場を買ってた奴だな……」
「そうそう」このメンバーだとマーチばっかり喋る。「燃えちゃったんだって。悲しいねぇ……弟子として嘆かわしいよ……」
マーチはかなり適当な性格の人物であるようだった。そして芝居がかった喋り方をするようであった。全然嘆いているようには見えない。
マグノリアはマーチとエトワールを見て、
「お前ら……道場で何をするつもりだ?」
「私? そうだねぇ……暇つぶし……じゃなくて、やっぱり修行じゃない? ほら、強くなるためにさ。ね、エトワールくん」
「え……? あ、はい」
強くなるためにメルの弟子になったのはその通りだ。マーチのように暇つぶしできたわけじゃない。そしてマーチは嘘をつくことに抵抗がない人間のようだった。
「強く?」マグノリアは鼻で笑う。「強くなるために努力するなんてやめとけよ。時間のムダだ」
「ムダ? そうかな」
「ああ」マグノリアは言う。とても皮肉たっぷりの口調だった。「強さなんてのは結局才能だ。どれだけ努力したところで、凡人は強くなれん。俺のようにな」
「? マグノリアさんはディビジョンSまで行ったんでしょ? じゃあ、強いほうじゃないの?」
「そうかもしれないな……だが、あいつらには絶対に届かないんだ」
「あいつらって?」
「ディビジョンS上位……いや、俺は中位にすら届いていない。下位でも下のほうだ」
「それでもディビジョンSはすごいと思うけどなぁ……」
「お前には分かんねぇよ。中途半端に夢を追ったやつの末路なんてな」唇を噛んで、マグノリアは言う。「半端な強さじゃ何も守れない。ディビジョンSのモンスターには及ばない。努力なんて、するだけムダだった」
ディビジョンSのモンスター。グランを始めとする、人外たちの集まり。ディビジョンSにたどり着けてしまったがゆえに、モンスターたちとの差も感じてしまったのだろう。最初からその境地に到達できなければ、見えもしなかった差が浮き彫りになってしまったのだろう。
「守れなかったって……奥さんのこと?」
「……お前には関係ないだろ」マグノリアは否定するが、明らかに図星だった。「どれだけ強くなっても、結局は無意味だ。誰も守れない。そんな強さは、いらない」
マグノリアは指の骨を鳴らして、
「俺の邪魔をするなら……力ずくで出ていってもらう」
「……」答えるのはメル。「……全力で来て。手加減の必要は、ない」
「自信家だな。その自信、いつか折られるぜ」
「……すでに何回か折られてる」
「は?」
「なんでもない」
メルが話すと、たまに会話にならないことがある。ボソボソと小さい声で話すから、相手に届いていないのかもしれない。会話はマーチにやってもらったほうが圧倒的にスムーズだろう。
「行くぞ」
「……」メルは軽く構えて、「楽しみ」
そうつぶやいた。どうやらメルは戦うことが好きらしい。それも強者と戦うことは、とても好きであるようだ。
なんにせよ、元とはいえディビジョンSとの戦い。そしておそらくメルも相応の実力者。
「エトワールくん」メルと少し距離を取りながら、マーチが言う。「強くなりたいなら、目を離さないほうが良い」
「はい」
「……うん。こんな戦い、そう簡単には見られないよ」
分かっている。ディビジョンSクラスの実力者が少ないのだから、当然そのレベルの人達が戦うことも少ない。それを直に見れるというのだから、貴重な機会としか言えない。
メル・キュールVSマグノリア。この戦いで、メルの強さの底がわかる。
広い家だった。掃除さえ行き届いていれば、さぞ高級感のある家だっただろう。今はそこかしこにホコリが積もり、花も枯れていた。マグノリアが暴れたのか、ところどころ家具や美術品も壊れている。おばけでも出てきそうな雰囲気だった。
扉を開けて家に入るなり、マグノリアの怒鳴り声が聞こえてきた。
「おいサジェス……! 酒買ってこいって……」そこまで叫んで、マグノリアは見知らぬ人物たちがいることに気がついたようだった。「あ……? お前ら……」
マグノリアというディビジョンSの男は、どこにでもいそうな男だった。無精髭を生やしていて、たくましい体つきの男だった。
「こんにちは」平然と、メルが言う。「あなたと戦いに来た」
「は?」突然の宣言に、マグノリアは目を丸くする。「俺と……?」
そりゃ混乱するだろう。今のメルの説明はちょっと過程を飛ばしすぎだ。
会話が成立しないのを見て、マーチがフォローする。
「やぁマグノリアさん。あなたが子供に暴力振るってるのを知ったから、懲らしめに来たんだ」
メルの目的は違うけれど。本当にマグノリアと戦いに来ただけなのだけれど。まぁマーチの説明のほうが都合が良いので黙っておくことにする。
「家庭の問題だ」酔っ払って赤い顔のマグノリアが階段を降りてくる。「お前ら警察か?」
「警察?」どうにもおしゃべりなマーチだった。「そりゃ違うよ。私たちは……メル師匠とその弟子」
言ってから、マーチはエトワールに聞く。
「あれ……キミも弟子だったっけ? というか、名前は?」
そういえば名乗ってなかったようなきがする。
「エトワール、です。メル先生の弟子です」
「そっか。じゃあ兄弟弟子だね。よろしく」
「は、はい……」
兄弟弟子が明るそうな人で良かった……って今はそんな事を言っている場合じゃない。
「メル……メル・キュールか」マグノリアもその名前には覚えがあるらしい。「たしか、この辺の道場を買ってた奴だな……」
「そうそう」このメンバーだとマーチばっかり喋る。「燃えちゃったんだって。悲しいねぇ……弟子として嘆かわしいよ……」
マーチはかなり適当な性格の人物であるようだった。そして芝居がかった喋り方をするようであった。全然嘆いているようには見えない。
マグノリアはマーチとエトワールを見て、
「お前ら……道場で何をするつもりだ?」
「私? そうだねぇ……暇つぶし……じゃなくて、やっぱり修行じゃない? ほら、強くなるためにさ。ね、エトワールくん」
「え……? あ、はい」
強くなるためにメルの弟子になったのはその通りだ。マーチのように暇つぶしできたわけじゃない。そしてマーチは嘘をつくことに抵抗がない人間のようだった。
「強く?」マグノリアは鼻で笑う。「強くなるために努力するなんてやめとけよ。時間のムダだ」
「ムダ? そうかな」
「ああ」マグノリアは言う。とても皮肉たっぷりの口調だった。「強さなんてのは結局才能だ。どれだけ努力したところで、凡人は強くなれん。俺のようにな」
「? マグノリアさんはディビジョンSまで行ったんでしょ? じゃあ、強いほうじゃないの?」
「そうかもしれないな……だが、あいつらには絶対に届かないんだ」
「あいつらって?」
「ディビジョンS上位……いや、俺は中位にすら届いていない。下位でも下のほうだ」
「それでもディビジョンSはすごいと思うけどなぁ……」
「お前には分かんねぇよ。中途半端に夢を追ったやつの末路なんてな」唇を噛んで、マグノリアは言う。「半端な強さじゃ何も守れない。ディビジョンSのモンスターには及ばない。努力なんて、するだけムダだった」
ディビジョンSのモンスター。グランを始めとする、人外たちの集まり。ディビジョンSにたどり着けてしまったがゆえに、モンスターたちとの差も感じてしまったのだろう。最初からその境地に到達できなければ、見えもしなかった差が浮き彫りになってしまったのだろう。
「守れなかったって……奥さんのこと?」
「……お前には関係ないだろ」マグノリアは否定するが、明らかに図星だった。「どれだけ強くなっても、結局は無意味だ。誰も守れない。そんな強さは、いらない」
マグノリアは指の骨を鳴らして、
「俺の邪魔をするなら……力ずくで出ていってもらう」
「……」答えるのはメル。「……全力で来て。手加減の必要は、ない」
「自信家だな。その自信、いつか折られるぜ」
「……すでに何回か折られてる」
「は?」
「なんでもない」
メルが話すと、たまに会話にならないことがある。ボソボソと小さい声で話すから、相手に届いていないのかもしれない。会話はマーチにやってもらったほうが圧倒的にスムーズだろう。
「行くぞ」
「……」メルは軽く構えて、「楽しみ」
そうつぶやいた。どうやらメルは戦うことが好きらしい。それも強者と戦うことは、とても好きであるようだ。
なんにせよ、元とはいえディビジョンSとの戦い。そしておそらくメルも相応の実力者。
「エトワールくん」メルと少し距離を取りながら、マーチが言う。「強くなりたいなら、目を離さないほうが良い」
「はい」
「……うん。こんな戦い、そう簡単には見られないよ」
分かっている。ディビジョンSクラスの実力者が少ないのだから、当然そのレベルの人達が戦うことも少ない。それを直に見れるというのだから、貴重な機会としか言えない。
メル・キュールVSマグノリア。この戦いで、メルの強さの底がわかる。
0
あなたにおすすめの小説
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
そして俺は〇〇になりました。
ふとん☆まくら〜れん(F.M.)
ファンタジー
そして…俺はこの夢が早く覚めてほしいと願っている。
良く聞く話である。
ふと気を失い、気づくと違う世界に居た…本当に良く聞く話だが、本当にあっては堪らない話だ。
もちろん悪い夢に違いないのだが…一向に覚める気配も無く、ダラダラと流されて行く。
目が醒めたところでつまらない日常、その時まで楽しめば良いのだ。
…その時まで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる