謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)

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遊び人

第24話 無鉄砲で無謀な若者

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 マグノリアが地面を蹴って飛び上がる。その動作だけでマグノリアの身体能力が伝わってきた。速度も高さも十分な跳躍だった。

 マグノリアは空中でメルに向かって拳を放つ。直撃すればただではすまないであろうその拳。
 メルはマグノリアの腕をつかんで、そのまま投げ飛ばした。相手の攻撃の勢いを利用した、見事な投げだった。美しい動作であった。まったくムダのない流れるような投げ技。

「……!」マグノリアは着地して、「……なるほど。ただのザコじゃないみたいだな」
「あなたも。悪くない動き」
「偉そうに……」マグノリアは今度はゆっくりとメルに歩いて近づいた。「接近戦は苦手か?」
「得意」
「俺もだ」

 呼応するように、メルもマグノリアに接近していく。そしてお互いが目前になるまでの距離になって、一瞬だけ静止。
 瞬間、弾かれるように2人は動き始める。マグノリアが拳を放ち、それをメルがかわす。

「速い……」マーチがエトワールの横でつぶやいた。「私じゃ避けれないね」

 自分も避けれないだろう、とエトワールは思った。というより、最初の跳躍攻撃すら自分では避けれていないだろう。やはりディビジョンSというのは遠い領域なのだ。

 その後もマグノリアの猛攻は続いた。拳や蹴り、投げも狙う。そのすべてが高速かつ高威力。エトワールが見たこともないような速度の技だった。耳に聞こえてくる風の音が、攻撃のキレを伝えていた。

 しかし、

「っ……!」攻撃を続けているマグノリアの顔が歪む。「お前……!」

 攻撃が当たらない。メルは涼しい顔でマグノリアの攻撃を回避し続けていた。超至近距離にもかかわらず、メルにマグノリアの攻撃は1度も当たっていない。攻撃しているマグノリアのほうが息を切らしている状態だ。

 マグノリアが一瞬だけ攻撃の手を緩めた。メルの強さに驚愕したのか、息を整えようとした瞬間だった。

「……」メルの義足がマグノリアの顔の横スレスレで止まっていた。音も聞こえず、蹴りを放ったことすらエトワールにはわからなかった。「……もっと」
「あ?」
「もっとあなたは強いはず」メルは足をおろして、「そんな程度じゃない」

 マグノリアの強さは疑うまでもない。偶然でディビジョンSに行きつけるわけもないし、この戦いを見ていても明らかだ。
 それでもなお、メルからすればであるらしい。まだメルは刀すら抜いていない。本気にすらなっていないというのに、元ディビジョンSよりも強い。

 自分の師匠は、本当に……

「あの人は……何者なの?」マーチですら笑顔が消えていた。「あの人……なんで無名だったの? 戦争に参加してたんだよね?」
「……だと思いますけど……」
「じゃあ、なんで名前を聞かないの? 英雄として語り継がれててもおかしくないくらいの強さだよ。なのに……」

 なのに彼女は謎に包まれている。素性も知られていない。最近現れた謎の人物としてしか認識されていないのだ。明らかに何かがおかしい。強さも、それに見合わぬ名声も、何かがズレている。

「酔いが醒めるまでは付き合う」メルは行き1つ乱さずに、「午後の修行があるから、あんまり待てない。実力を取り戻すなら、早くしてくれるとありがたい」
「……バカにしやがって……」
「……バカにはしてない。むしろ……」
「うるせぇ」

 メルは天然の煽り上手のようだった。もっとも本人は煽ってるつもりなどなく、純粋に会話がヘタなだけなのだろうけど。

 その後も激しい戦闘は続いた。マグノリアが攻撃を仕掛けてメルがかわす。その構図が崩れることはなかった。マグノリアの攻撃は一撃もメルに当たらないまま、少しずつマグノリアの動きが鈍くなってくる。

「……」マグノリアは悔しそうに唇を噛んでから、皮肉げに言う。「お前もなかなか強いみたいだが……いつか思い知るだろう。上には上があるってな」
「そんなの、知ってる」
「あ?」
「私がグランに勝てないのなんて、わかりきってる」グラン……勇者グラン。「五体満足でも負けた。今の私は当時より弱いから。そんな状態で、勝てるわけがない」

 五体満足で負けた。つまり、メルとグランが戦ったのはメルの腕と足が存在していた時期のようだ。そしてメルの手足は戦争が終わってから失われた。ということは、戦争中にグランとメルは戦っている。やはり仲間同士で手合わせでもしてたのだろう。

「じゃあなんでだ? なんでお前は戦う? 手が届かないとわかっていながら、なぜ……」
「……」メルは一瞬目をつぶる。そして、「……昔は自分で手を伸ばそうとしていた。最強という存在に憧れた。でも、自分の手は届かないとわかった。だから……」
「だから?」
「道場を開いた」それから、メルはマーチとエトワールを見た。それはほんの少しの瞬間で、すぐにマグノリアに向き直った。「私の手は届かないけれど、誰かの手を届かせることはできる。私の弟子が最強になってくれたなら、それでいい」

 ちょうど探してた、とメルは続ける。

「私と同じ夢を持っている人を、探してた。最強を目指してるような、無鉄砲で無謀な若者を探してた」無鉄砲で無謀だったらしい。自覚はしていたけれど。「私が10年間で出した答え。強さとはなにか。私にとっての強さとは。教育こそが、強さ」

 メルにとっての強さ。それは教えること。だからメルは道場を開いていたようだ。自分の強さを証明するために。自分の夢を継いでくれる人物を探すために。

 そして、その夢を継いでくれる人物というのが……どうやら自分だったらしい。無鉄砲で無謀な理想を掲げるようなバカを、メルは求めていたらしい。

「……そりゃ遠い道だぜ」マグノリアの酔いは少しずつ醒めているようだった。「弟子を最強に育て上げるってことだろ? それは……自分が努力すればいいってもんじゃない。人を育てるってのは想像以上に難しい。そう簡単には……」
「わかってる。でも、やるしかない。もう逃げない。これは私が決めた道」それに、とメルは続ける。「見つかったから」
「なにがだ?」
「最強を目指してる若者」間違いなくエトワールのことだった。「なかなか言えない。大抵の人は、自分の限界にフタをする。目指している場所にたどり着けなかったらどうしようって思って、言葉にはできない。でも、その子は違った」
「堂々と最強になりたいって言ったわけか」
「……」メルはうなずく。「私ができる限りの協力をしてあげられたら、嬉しい」
「……そうか……」

 マグノリアの酔いはかなり醒めているようだ。あれだけ動き回れば当然かも知れない。おそらく彼本来の理性的な姿が顔をのぞかせ始めていた。

「あなたは?」
「……? なんだ?」
「あなたにとって、強さって何?」
「俺にも聞くのかよ」
「……答えたくないなら答えなくていい。私なりの……」
「私なりの?」
「……ごめん。適切な言葉がわからない」
「なんだそりゃ……まぁいいけどよ」
  
 相変わらず会話が苦手なメルだった。

 そんな中、不意にマーチが言った。

「あれ……サジェスくんは?」

 言われて、エトワールは周りを見回す。今までは戦いに夢中で気が付かなかったが、たしかにサジェスの姿が見えなくなっていた。まさか警察にでも通報に行ったのかと思っていると、

「お父さん!」

 叫び声が聞こえた。
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