謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)

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道場破り

第28話 性質的には火事場泥棒に近いでしょうか

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 マグノリアの家から出て、メルはエトワールたちに言った。

「ごめん、ちょっと遅れた」
「いいってことよ」相変わらずお喋りなマーチである。「師匠の強さについての話も聞けたし。そもそも私は修行する気がないし」

 だったらメルの謝罪について答えるのはエトワールである必要があるけれど。まぁエトワール自身も午後の修行が遅れることに対して異論はない。それよりも、良いものを見せてもらった。

 ディビジョンS同士の戦い。それは次元が違うとしか今のエトワールには形容できない戦いだった。技術的なことはほぼ理解できない。参考にするなんて夢のまた夢だけれど、あのレベルの戦いが見れたことが嬉しかった。

 それほどの戦いなのだ。ディビジョンS同士の戦いは、そう簡単に見られるものじゃない。町に来て数日でそれを見ることができたエトワールは本当にラッキーだ。

 それに、自分の師匠が本当に実力者だということも知れた。強いとは思っていたけれど、まさかあそこまでだとは思っていなかった。

 道場への帰り道の最中、マーチがエトワールに聞いた。

「そういえばさぁ……修行ってどんなことをしてるの?」
「えーっと……なんと言いますか……言葉では説明しづらくて……」
「なるほど……じゃあ私も午後の修行を見学していこうかなぁ……ヒマだし」

 ヒマなら参加すればいいのに。エトワールもせっかくできた同期と一緒に修行をしてみたい。いつまでも1人で修業をするのは味気ない。

 そんなこんなで、マーチも連れて道場に戻ってきた。道場と言っても、相変わらず焼け野原だけど。

 本来なら誰も寄り付かない道場。その場所に、誰かがいた。

 凛々しい顔つきの少女だった。服装もキチッとしていて神経質そうな性格を伺わせた。背は普通くらいで、ポニーテール。なんとも美形で、クールそうな少女だった。イメージとしては、修行僧という感じ。年齢としてはマーチと同じくらい……つまり18くらいだろうか。

「おや?」それに気づいたマーチが、「あれも門下生?」

 答えるのはエトワール。メルはあんまり喋らないので、必然的にマーチとエトワールの会話が多くなる。

「違うと思いますけど……」

 エトワールの前に門下生がいたという話は聞かない。おそらくエトワールが初弟子のはずだ。それに他に門下生がいるなら、メルもエトワールに伝えているだろう。だから、彼女は門下生ではない。

「ふぅん……メル師匠の知り合い?」
「……違う……」
「じゃあ誰だろうねぇ……」マーチが無造作にその少女に歩み寄って、「やぁやぁお姉さん。入門希望者?」
「……」少女はマーチを鋭い目で見て、「違います」

 そう答えた。見かけよりもかわいらしい声だった。抑揚は少ないけれど。

「じゃあ何? 迷子? 火事場泥棒?」
「……性質的には火事場泥棒に近いでしょうか」よくわからないことを言ってから、「メル・キュールという人物はどなたでしょう?」
「面白そうだから私ってことにしとく」相変わらず適当な会話をするマーチだった。「メル・キュールに何か用?」
「私の目的を端的に伝えるならば、道場破り、というのが正しいでしょう」
「道場破り?」その物騒な単語を聞いたマーチが、メルを指して、「じゃあ私はメル・キュールじゃないね。あっちが本物のメル・キュール師匠」

 面倒くさそうな話だから、メルに話を投げたマーチだった。面白そうなら、このままマーチはメルを名乗ったままだったのだろう。本当によくわからない人だ。

 少女はマーチを睨みつけて、言い放った。

「私はあなたのような軽薄な人間が嫌いです」
「おや、そうかい」マーチは挑発的に笑って、「そりゃ悪いね。私もあんたみたいな堅物は嫌いだよ。ま、今回は嘘ついた私が悪いけどね」

 その通りだった。完全にマーチが悪い会話だった。
 さらに少女は言う。

「あなたに嫌われようと、私はなんとも思いません」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」マーチは軽く肩をすくめる。「パッと見たときから相性悪そうだと思ってたけど……最悪みたいだね」
「相手を見かけで判断しないことです……相性が最悪だということは認めますが」
「そこだけは気が合うんだね」

 ケラケラ笑うマーチに、少女は不機嫌そうな表情を作る。どうやら本当に相性が悪い2人であるらしい。人間関係はどうしても相性の善し悪しがあるので、ある程度噛み合わない相手がいるのは当然のことだ。

「メルさん」少女はメルに向かって、「私はジュンと申します」

 そのまま、少女――ジュンは深々と頭を下げた。なんとも礼儀正しい人物であるらしい。こんなところでもマーチとは正反対の性格をしていそうだった。だから相性が悪いのだろう。

 ジュンはさらに続ける。

「メルさんの実力、噂には聞いております。ぜひ、私と手合わせをしていただけないでしょうか?」
「……手合わせ……私と?」
「はい。不躾な申し出であることは承知しております。ですが、どうしても私はあなたと戦いたいのです」
「……今から午後の修行をしないといけないから……」
「左様でしたか」古風な人だった。「では、午後の修行が終了したあとであれば、手合わせしていただけますか?」
「……いいけど……」
「ありがとうございます」ジュンはきっちり頭を下げて、「では、終了まで待たせていただきます」

 言って、ジュンは少し距離をおいて立ち止まった。そしてメルの方を向いて、微動だにしなくなった。
 ……え? ここで待つの? 修行が終わった頃を見計らって、また来るとかじゃないの。終わるまでずっとここにいるの? 修行を見てるの?

「思い出した」不意にマーチが言った。「キミ、ちまたで噂の道場破りさんじゃないか。最近、この辺で大暴れしてるみたいだね」
「そちらこそ、遊び人と噂のマーチさんですね。良い噂は聞きませんが」
「道場破りが良い噂だと思ってる?」
「思っておりませんよ。私の噂が悪評であることは承知の上です」
「はーん……だったらなんで道場破りなんてやってるの?」
「逆に聞きましょう。なぜマーチさんは遊び人として生きているのですか?」
「ああ……なるほど。こりゃ野暮な質問だったみたいだね。ごめん」
「そうですね、大いに反省してください」逆にこの2人、相性が良いんじゃないか。「私が道場破りをしている理由は簡単です。楽しいから。ただそれだけです」

 楽しいから道場破り……楽しいから遊び人。たしかにそんなものなのかもしれない。人生の目標や生き方なんて、楽しいから以外にないのかもしれない。エトワールだって、最強を目指すのは楽しくもあるのだ。楽しくないことは、なんだかんだ長続きしないものだ。

 その楽しさを手に入れるためには、地味なこともこなさなければならない。修行だってその1つだろう。

「じゃあ……始める」

 メルの宣言によって、午後の修行が開始された。
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