謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)

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遊び人

第27話 呪うつもりはない

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「3ヶ月前に、あいつが死んじまった」

 マグノリアは地面にあぐらをかいて語り始めた。なんだか吹っ切れたような、そんな表情だった。

「あいつは……ただの荒くれ者だった俺を大切にしてくれたんだ」あいつ、というのはマグノリアの奥さんのことだろう。「俺はただのチンピラだったのにな……町で暴れて、人様に迷惑ばっかりかけていた。そんな時に出会ったのが、あいつ……アルカだった」 

 アルカ、というのがマグノリアの奥さんの名前らしい。マグノリアの奥さんであり、サジェスの母親の名前。

「アルカは……出会った時から体が弱くてな。だが、優しくて器量の良い女だった。そんなこんなで、町のチンピラからよく狙われてたよ。そんなアルカを守りたくて強くなろうと決意した。そんで、気がつきゃディビジョンSなんて呼ばれて、子供まで生まれて……」

 順風満帆だった、とマグノリアは続ける。

「だが……アルカは死んじまった。俺とサジェスを残して、旅立ってしまった。俺の追い求めた強さでは、あいつを救うことはできなかった。それだけを求めて生きてきたってのに……」

 生きる意味を失って、自暴自棄になっていた。だから酒に溺れていた。最愛の人物のことを忘れるために酔っ払っていた。それでも、忘れられなかった。

 酒や時間経過で大切な人を忘れられるなら、どれだけ人生は楽なのだろう。エトワールは酒を飲んだことないのでよくわからないが、忘れたい思い出くらいは大量にある。だけれど忘れられないから、たまに死にたくなってしまう。

 マグノリアはため息をついてから、

「メル。あんたの求める強さは、何を守れる?」

 人を育てる強さは、何を守れるのか。

「わからない」迷いはなかった。「何を守れるのか、何を成し遂げられるのかはわからないけど……やるしかない」

 わからないけどやる、それはかなり辛いことだ。自分がどこへ向かっているのか、どこへ辿り着こうとしているのか、最終的にどうなるのか……それらが想像できない道のりは長く感じるものだ。しかし、メルはその道を歩く決意はできているらしい。

「空気読まずに割って入るよ」今まで静観していたマーチが言う。「人を何かを教えるってさ……いろんな人の未来を守れるんじゃない? たとえばさ……その教え子たちにできた大切な人とか……困っている人を教え子が助けたりとか……今すぐに誰かを守れるものじゃないかもしれないけど、最終的にはいろんな人を守れるんじゃないかな。ま、メル師匠の教えが良ければの話だけれどね」

 遠い未来を守るため。人を教育するというのは、そのため。それがマーチの考えらしい。
 たしかにそうかもしれない。今現在のエトワールでは大切な何かを守ることはできない。できなかった。だけれど……もしもメルの教えで成長できれば、大切な何かを守ることできるかもしれない。

 そんな遠い未来を目指して、人は教育するのだろう。教育を受けるのだろう。教育を軽視した場所に、未来はないのだろう。未来を守るのが、教育というものなのだろう。

 いつか自分も、遠い未来を守ることになるのだろうか。メルの教えが何かを守るか否かは、弟子たちの行動にかかっているのだ。

「そうか……まぁ頑張れや」マグノリアは肩をすくめて、「師匠も弟子も……遠い道のりになるだろうが、できる限りやってみな。若いうちにしかできないことが、この世にはあるからな」

 それから、マグノリアはメルを見て、

「あんた、いくつだ? 女性に年齢を聞くのは無礼だと思うが、できれば答えてほしい」
「……24くらい、だったと思う」

 24歳だったのか。もう少し上だと思っていた。

「そうか。30くらいだと思ってたぜ」それを聞いて、メルは目をそらす。ちょっと落ち込んでいるようだった。「あ、悪い……その、変な意味じゃなくてだな……落ち着いて見えるってことだ。別に老けて見えたわけじゃない」

 あんまりフォローになっていないフォローだった。たしかにメルは落ち着いているので、24には見えない。かといって30歳に見えるかと言われると微妙だけれど……

 メルも6歳老けて見られると、少しいじけるらしい。といっても無表情だから、本当にいじけているのかはわからないけれど。あくまでエトワールの主観だ。

「よほどの修羅場を経験したんだろう。24でその目は、なかなかできねぇよ。それほどの腕と思想がありながら、あんたは戦争で……」途中で、マグノリアはなにかの可能性に気づいたようだった。「あんた、もしかして……」
「……」
「いや……やめとこう。俺が今ここで言うことじゃないな」
「……そう思う。いつか、気づかれるだろうから。その時に」
「……じゃあやっぱり、あんたがそうか……どうりでやけに強いはずだ。それなら、納得できる」

 マグノリアは何に納得したのだろう。エトワールにはわからない。マーチはどうだろう。おそらくエトワールよりはカンが鋭いので、会話についていけているかもしれない。

「あんたが何を思って、今その考えに至ったのかは知らん。追求するつもりもない。だが……いつまでも逃げてはいられないぞ。過去からは、逃げられないからな」
「……わかった……忠告ありがとう。でも、1つだけ言っておく」
「なんだ?」
「私は……私の過去を呪うつもりはない。今、昔に戻れても、同じことをする」
「……そうか……あんたほどの人物が行き着いた答えだ。だから文句は言わん。だが……」

 いや、これ以上は野暮だな、とマグノリアは首を振った。それから、

「なんにせよ、今回は助けてもらった。これからは……逃げずに向き合うことにするよ」

 逃げずに向き合う。それは息子であるサジェスとだろうか。それとも自分自身の過去とだろうか。あるいは……未来だろうか。
 わからない。わからないけれど、たぶんマグノリアとサジェスはもう大丈夫だろう。

「なぁサジェス」穏やかな表情で、マグノリアは言う。「新しいヌンチャクでも買いに行こうと思うだが……一緒に行くか?」

 サジェスは一瞬だけポカンとした表情を浮かべて、嬉しそうに笑った。そして、

「うん。それで僕を殴らないならね」
「ぬ……」痛いところを突かれたマグノリアであった。「……悪かった……許してくれとは言わん。説得力はないかもしれんが……もう二度と、お前に苦労はかけないと誓う」

 その言葉を聞いて、サジェスはマグノリアに抱きついた。おそらく息子が待ちに待ったであろう、親子の和解。

 きっと、この親子は大丈夫だろう。根拠もなく、エトワールはそう思った。
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