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遊び人
第26話 死なないと思うから
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マグノリアの酒は完全に抜けたようだった。もはや別人のように引き締まった表情で、マグノリアはヌンチャクを振るう。
本来の武器を取り戻して、マグノリアの動きは目に見えて良くなっていた。キレ、破壊力、速度。すべての能力が大幅に向上していた。
芸術作品のような美しい動きだった。本気で強くなろうと努力していたことが伝わってくる動きだった。
戦うにつれて、マグノリアの動きが加速していく。おそらく酒浸りの生活のせいで鈍っていた感覚が呼び戻されているのだろう。メルという強者との戦いで、自分本来の姿を取り戻しているのだろう。
「……っ……」
不意に、マグノリアのヌンチャクがメルの頬をかすめた。メルの頬がほんの少し赤くなった程度の打撃だったが、はじめてマグノリアの攻撃がメルに届いた瞬間だった。
マグノリアは攻撃力だけではなく、守備力も上がっていた。メルの蹴りをヌンチャクで払い落とし、攻撃に転じていた。その攻守の切り替えたるや、まさに目にも留まらぬ早業だった。
さすがのメルも、本気のディビジョンSにはかなわないのか、そうエトワールが思った瞬間だった。
「もっとだ」マグノリアが言う。「もっとあんたは強いはずだ。そんな程度じゃないだろ?」
その言葉は聞いたことがある。メルがマグノリアに向かって言ったセリフだ。おそらく言い返すタイミングを見計らっていたのだろう。ヌンチャクとともに、自信も取り戻したようだった。
それを受けて、メルが言う。
「……あなたならいいかも」
「なんだ?」
「……」メルは真顔で言う。「死なないと思うから」
それからメルは……刀を抜いた。今まで1度も抜いたことがなかった腰の刀を、ついに抜刀した。
美しい刀だった。見るだけで吸い込まれそうなほど、妖しい魅力を放っている刀だった。
メルは軽く刀を振る。風を切る音が聞こえた。
「……刀を抜いたのは、久しぶり」
「そうか……本領発揮ってわけか?」
「……そうかも。あなたなら、そう簡単には殺せないだろうから」
「……まぁそうだが……あんた、人を殺したくないのか? その割には、何人も殺してる目をしてるけどな」
「……先生に、あんまり殺すなって言われてるから……それに、死体の処理も面倒だし」
「……そうか……」
先生に殺すなと言われている+死体の処理が面倒。だから、メルはあまり刀を抜かないらしい。刀を抜いてしまうと、殺してしまう可能性があるから。
そう簡単には殺せないと判断した相手にのみ、メルは抜刀する。それはメルが相手の実力を非常に高く評価したということである。
「じゃあ……行くぞ?」
「うん」
また戦いがはじまる。正直エトワールの目には速すぎて追えていない戦いだった。
今までマグノリアの攻撃が空を切る音が聞こえていたが、今度は金属音が鳴るようになった。マグノリアの攻撃を、メルが刀で受け止めるようになったからだ。
「……」
マーチもエトワールも、その戦いを固唾を飲んで見守っていた。明らかにレベルの違う戦いなのだ。次元が違う戦いなのだ。速度も威力も正確性も、今のエトワールでは遠く及ばない世界の戦いなのだ。
気がつけばエトワールには汗が滲んでいた。エトワール自身は戦っていないのに、空気の重さから息が切れていた。
ディビジョンSクラス同士の激突。その決着は、ついに訪れた。
「ありがとう」戦闘中に、メルが言った。「楽しかった」
「まだ――」
マグノリアが言い返そうとした瞬間だった。
地面に、マグノリアのヌンチャクが落下した。正確には、真っ二つになったマグノリアのヌンチャクの片割れが地面に落下した。
「……は?」マグノリアは真っ二つになった自分のヌンチャクを見て、「……なんだ……今……」
マグノリアのヌンチャクが真っ二つになっている理由は1つ。推測はできるが、信じられるものではない。
「……切ったのか?」マグノリアが驚愕の表情で、「……いつの間に……」
そう。メルが切ったのだ。それ以外にヌンチャクが切れる理由がない。それは理解できる。
問題は……
「見えなかった……」マーチがつぶやいた。「いつ切ったの……?」
そうだ。問題はヌンチャクが切られる瞬間を誰一人見ていないということなのだ。見ていないというよりは、誰も見られなかったのだ。誰も、目で追えなかったのだ。
メルの超高速の一太刀。その攻撃を放ったメル本人は、至って冷静なものだった。
「私の勝ち」そのまま、メルは刀を鞘に収めた。「じゃあ、午後の修行があるから」
そのまま、メルは立ち去ろうとする。しかし、マグノリアがそれを呼び止めた。
「待てよ。いきなり現れて一方的にそっちの話ばっかりしやがって。ちょっとくらい俺の愚痴を聞いていけ」
「……」
メルは本気で午後の修行を時間通り始めるつもりのようだった。といっても、開始時刻はエトワールには知らされていないので、定刻通りなのか判断はできないけれど。
なんにせよ、ここでエトワールが言うことは1つだけだ。
「遅れても大丈夫ですよ」
「ほら、弟子もそう言ってるだろ」マグノリアが言う。「勝負はあんたの勝ちでいい。参ったよ、降参だ。強いなあんたは」
強い……メルは強い。どうやらそれは本当のことのようだった。もはや疑いようがない。ディビジョンSレベルの実力者であることは、確定した。元ディビジョンSのマグノリアを圧倒したのだから、間違いないだろう。
僕の先生は本当に……本当に何者なのだろう、とエトワールはさらに疑問を深めるのだった。
本来の武器を取り戻して、マグノリアの動きは目に見えて良くなっていた。キレ、破壊力、速度。すべての能力が大幅に向上していた。
芸術作品のような美しい動きだった。本気で強くなろうと努力していたことが伝わってくる動きだった。
戦うにつれて、マグノリアの動きが加速していく。おそらく酒浸りの生活のせいで鈍っていた感覚が呼び戻されているのだろう。メルという強者との戦いで、自分本来の姿を取り戻しているのだろう。
「……っ……」
不意に、マグノリアのヌンチャクがメルの頬をかすめた。メルの頬がほんの少し赤くなった程度の打撃だったが、はじめてマグノリアの攻撃がメルに届いた瞬間だった。
マグノリアは攻撃力だけではなく、守備力も上がっていた。メルの蹴りをヌンチャクで払い落とし、攻撃に転じていた。その攻守の切り替えたるや、まさに目にも留まらぬ早業だった。
さすがのメルも、本気のディビジョンSにはかなわないのか、そうエトワールが思った瞬間だった。
「もっとだ」マグノリアが言う。「もっとあんたは強いはずだ。そんな程度じゃないだろ?」
その言葉は聞いたことがある。メルがマグノリアに向かって言ったセリフだ。おそらく言い返すタイミングを見計らっていたのだろう。ヌンチャクとともに、自信も取り戻したようだった。
それを受けて、メルが言う。
「……あなたならいいかも」
「なんだ?」
「……」メルは真顔で言う。「死なないと思うから」
それからメルは……刀を抜いた。今まで1度も抜いたことがなかった腰の刀を、ついに抜刀した。
美しい刀だった。見るだけで吸い込まれそうなほど、妖しい魅力を放っている刀だった。
メルは軽く刀を振る。風を切る音が聞こえた。
「……刀を抜いたのは、久しぶり」
「そうか……本領発揮ってわけか?」
「……そうかも。あなたなら、そう簡単には殺せないだろうから」
「……まぁそうだが……あんた、人を殺したくないのか? その割には、何人も殺してる目をしてるけどな」
「……先生に、あんまり殺すなって言われてるから……それに、死体の処理も面倒だし」
「……そうか……」
先生に殺すなと言われている+死体の処理が面倒。だから、メルはあまり刀を抜かないらしい。刀を抜いてしまうと、殺してしまう可能性があるから。
そう簡単には殺せないと判断した相手にのみ、メルは抜刀する。それはメルが相手の実力を非常に高く評価したということである。
「じゃあ……行くぞ?」
「うん」
また戦いがはじまる。正直エトワールの目には速すぎて追えていない戦いだった。
今までマグノリアの攻撃が空を切る音が聞こえていたが、今度は金属音が鳴るようになった。マグノリアの攻撃を、メルが刀で受け止めるようになったからだ。
「……」
マーチもエトワールも、その戦いを固唾を飲んで見守っていた。明らかにレベルの違う戦いなのだ。次元が違う戦いなのだ。速度も威力も正確性も、今のエトワールでは遠く及ばない世界の戦いなのだ。
気がつけばエトワールには汗が滲んでいた。エトワール自身は戦っていないのに、空気の重さから息が切れていた。
ディビジョンSクラス同士の激突。その決着は、ついに訪れた。
「ありがとう」戦闘中に、メルが言った。「楽しかった」
「まだ――」
マグノリアが言い返そうとした瞬間だった。
地面に、マグノリアのヌンチャクが落下した。正確には、真っ二つになったマグノリアのヌンチャクの片割れが地面に落下した。
「……は?」マグノリアは真っ二つになった自分のヌンチャクを見て、「……なんだ……今……」
マグノリアのヌンチャクが真っ二つになっている理由は1つ。推測はできるが、信じられるものではない。
「……切ったのか?」マグノリアが驚愕の表情で、「……いつの間に……」
そう。メルが切ったのだ。それ以外にヌンチャクが切れる理由がない。それは理解できる。
問題は……
「見えなかった……」マーチがつぶやいた。「いつ切ったの……?」
そうだ。問題はヌンチャクが切られる瞬間を誰一人見ていないということなのだ。見ていないというよりは、誰も見られなかったのだ。誰も、目で追えなかったのだ。
メルの超高速の一太刀。その攻撃を放ったメル本人は、至って冷静なものだった。
「私の勝ち」そのまま、メルは刀を鞘に収めた。「じゃあ、午後の修行があるから」
そのまま、メルは立ち去ろうとする。しかし、マグノリアがそれを呼び止めた。
「待てよ。いきなり現れて一方的にそっちの話ばっかりしやがって。ちょっとくらい俺の愚痴を聞いていけ」
「……」
メルは本気で午後の修行を時間通り始めるつもりのようだった。といっても、開始時刻はエトワールには知らされていないので、定刻通りなのか判断はできないけれど。
なんにせよ、ここでエトワールが言うことは1つだけだ。
「遅れても大丈夫ですよ」
「ほら、弟子もそう言ってるだろ」マグノリアが言う。「勝負はあんたの勝ちでいい。参ったよ、降参だ。強いなあんたは」
強い……メルは強い。どうやらそれは本当のことのようだった。もはや疑いようがない。ディビジョンSレベルの実力者であることは、確定した。元ディビジョンSのマグノリアを圧倒したのだから、間違いないだろう。
僕の先生は本当に……本当に何者なのだろう、とエトワールはさらに疑問を深めるのだった。
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