謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)

文字の大きさ
26 / 32
遊び人

第26話 死なないと思うから

しおりを挟む
 マグノリアの酒は完全に抜けたようだった。もはや別人のように引き締まった表情で、マグノリアはヌンチャクを振るう。

 本来の武器を取り戻して、マグノリアの動きは目に見えて良くなっていた。キレ、破壊力、速度。すべての能力が大幅に向上していた。

 芸術作品のような美しい動きだった。本気で強くなろうと努力していたことが伝わってくる動きだった。

 戦うにつれて、マグノリアの動きが加速していく。おそらく酒浸りの生活のせいで鈍っていた感覚が呼び戻されているのだろう。メルという強者との戦いで、自分本来の姿を取り戻しているのだろう。

「……っ……」

 不意に、マグノリアのヌンチャクがメルの頬をかすめた。メルの頬がほんの少し赤くなった程度の打撃だったが、はじめてマグノリアの攻撃がメルに届いた瞬間だった。

 マグノリアは攻撃力だけではなく、守備力も上がっていた。メルの蹴りをヌンチャクで払い落とし、攻撃に転じていた。その攻守の切り替えたるや、まさに目にも留まらぬ早業だった。

 さすがのメルも、本気のディビジョンSにはかなわないのか、そうエトワールが思った瞬間だった。

「もっとだ」マグノリアが言う。「もっとあんたは強いはずだ。そんな程度じゃないだろ?」

 その言葉は聞いたことがある。メルがマグノリアに向かって言ったセリフだ。おそらく言い返すタイミングを見計らっていたのだろう。ヌンチャクとともに、自信も取り戻したようだった。

 それを受けて、メルが言う。

「……あなたならいいかも」
「なんだ?」
「……」メルは真顔で言う。「死なないと思うから」

 それからメルは……刀を抜いた。今まで1度も抜いたことがなかった腰の刀を、ついに抜刀した。

 美しい刀だった。見るだけで吸い込まれそうなほど、妖しい魅力を放っている刀だった。

 メルは軽く刀を振る。風を切る音が聞こえた。

「……刀を抜いたのは、久しぶり」
「そうか……本領発揮ってわけか?」
「……そうかも。あなたなら、そう簡単には殺せないだろうから」
「……まぁそうだが……あんた、人を殺したくないのか? その割には、何人も殺してる目をしてるけどな」
「……先生に、あんまり殺すなって言われてるから……それに、死体の処理も面倒だし」
「……そうか……」

 先生に殺すなと言われている+死体の処理が面倒。だから、メルはあまり刀を抜かないらしい。刀を抜いてしまうと、殺してしまう可能性があるから。
 そう簡単には殺せないと判断した相手にのみ、メルは抜刀する。それはメルが相手の実力を非常に高く評価したということである。

「じゃあ……行くぞ?」
「うん」

 また戦いがはじまる。正直エトワールの目には速すぎて追えていない戦いだった。
 今までマグノリアの攻撃が空を切る音が聞こえていたが、今度は金属音が鳴るようになった。マグノリアの攻撃を、メルが刀で受け止めるようになったからだ。

「……」

 マーチもエトワールも、その戦いを固唾を飲んで見守っていた。明らかにレベルの違う戦いなのだ。次元が違う戦いなのだ。速度も威力も正確性も、今のエトワールでは遠く及ばない世界の戦いなのだ。

 気がつけばエトワールには汗が滲んでいた。エトワール自身は戦っていないのに、空気の重さから息が切れていた。

 ディビジョンSクラス同士の激突。その決着は、ついに訪れた。

「ありがとう」戦闘中に、メルが言った。「楽しかった」
「まだ――」

 マグノリアが言い返そうとした瞬間だった。
 地面に、マグノリアのヌンチャクが落下した。正確には、真っ二つになったマグノリアのヌンチャクの片割れが地面に落下した。

「……は?」マグノリアは真っ二つになった自分のヌンチャクを見て、「……なんだ……今……」

 マグノリアのヌンチャクが真っ二つになっている理由は1つ。推測はできるが、信じられるものではない。

「……切ったのか?」マグノリアが驚愕の表情で、「……いつの間に……」

 そう。メルが切ったのだ。それ以外にヌンチャクが切れる理由がない。それは理解できる。
 問題は……

「見えなかった……」マーチがつぶやいた。「いつ切ったの……?」

 そうだ。問題はということなのだ。見ていないというよりは、誰も見られなかったのだ。誰も、目で追えなかったのだ。

 メルの超高速の一太刀。その攻撃を放ったメル本人は、至って冷静なものだった。

「私の勝ち」そのまま、メルは刀を鞘に収めた。「じゃあ、午後の修行があるから」

 そのまま、メルは立ち去ろうとする。しかし、マグノリアがそれを呼び止めた。

「待てよ。いきなり現れて一方的にそっちの話ばっかりしやがって。ちょっとくらい俺の愚痴を聞いていけ」
「……」

 メルは本気で午後の修行を時間通り始めるつもりのようだった。といっても、開始時刻はエトワールには知らされていないので、定刻通りなのか判断はできないけれど。

 なんにせよ、ここでエトワールが言うことは1つだけだ。

「遅れても大丈夫ですよ」
「ほら、弟子もそう言ってるだろ」マグノリアが言う。「勝負はあんたの勝ちでいい。参ったよ、降参だ。強いなあんたは」

 強い……メルは強い。どうやらそれは本当のことのようだった。もはや疑いようがない。ディビジョンSレベルの実力者であることは、確定した。元ディビジョンSのマグノリアを圧倒したのだから、間違いないだろう。

 僕の先生は本当に……本当に何者なのだろう、とエトワールはさらに疑問を深めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

そして俺は〇〇になりました。

ふとん☆まくら〜れん(F.M.)
ファンタジー
そして…俺はこの夢が早く覚めてほしいと願っている。 良く聞く話である。 ふと気を失い、気づくと違う世界に居た…本当に良く聞く話だが、本当にあっては堪らない話だ。 もちろん悪い夢に違いないのだが…一向に覚める気配も無く、ダラダラと流されて行く。 目が醒めたところでつまらない日常、その時まで楽しめば良いのだ。 …その時まで。

処理中です...