伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
337 / 500
第七章 3年目前半

第337話 最終年の学園が始まりました

しおりを挟む
 サーロイン王国の中で不穏な動きがあったとは露知らず、私たちは最後となる学園3年目を迎える。
 王国の法でいろいろと調べてはいるものの、ベジタリウス王国の諜報部隊の情報は何も得られなかった。なので、本来は学園3年生で学園に通わなければならないテールは、いまだもって家でお留守番となっていた。身の安全が保障されない以上は仕方のない話だし、テールもそれはしっかりと受け入れていた。
「こうやって生きていられるだけでも十分です。ファッティ伯爵様が紹介して下さった先生がしっかり教えて下さいますし、今のところ不自由は感じておりませんからね」
 テールも心配させまいと気丈に振る舞っていた。
 本当に元庶民だというのに健気ないい子である。だからか、私はモモよりは少ないもののしょっちゅうテールの頭を撫でている気がする。それに対してテールも嬉しそうな顔をするので、かえってやめられないというものよ。同い年なのにまるで妹のようだわ。
 さて、テールに見送られつつ、不満そうに頬を膨らませるモモ、それを笑うエスカの三人で学園へとやって来る。
 この学園に通うのももう最後の年かと思うと感慨深くなってしまうものだわね。
 あっだめ、泣きそうになっちゃう。
 私はぐっと気持ちを抑えて、3年目の最初の登校を無事に済ませた。

 学園の教室に顔を見せると、いつものメンバーが出迎えてくれる。
 公爵令嬢ラム・マートンと男爵令嬢サキ・テトリバーの二人よ。
「おはようございます、アンマリア様、モモ様」
「おはようございますですわ、アンマリア様、モモ様」
「おはようございます、ラム様、サキ様」
「お、おはようございます、ラム様、サキ様」
 いつものように挨拶を交わすと同時に笑顔も交わす。みんなで居ると、なんとも平和な気持ちになるものだわ。
「そういえば、アンマリア様」
「なんでしょうか、ラム様」
 突然ラムが話し掛けてきた。
「婚約者の件は一体どうなっていらっしゃるのかしら。わたくしの家は公爵家ですから、王家の話はそれなりに入ってくるのですが、婚約者に関してはまったく音沙汰がないのですよ」
 どうやら、フィレン王子とリブロ王子の婚約者の件らしい。
 そういえば、私もそうだけど、顔を見る限りはサキのところにもまだ話はいっていないようだった。今年で学園を卒業してしまう以上、いい加減に決めなければならないとは思うのだけど、ずいぶんと時間がかかっているわね。
 まったく、できる事なら年末までには正式決定してほしいわね。
「実は、私の家にもまだ何も連絡が来ていないんですよ。お父様は大臣で城勤めですから、もしかしたら何かご存じかも知れませんね」
「ふむ……」
 私の返答に、ラムはちょっと顎を引いて考え込んだ。
「あ、私の方も何も連絡ありません。貧乏男爵家だから、やっぱり体裁が悪いんでしょうか……」
 サキの方も知らないらしい。でも、サキの方は聖女という肩書があるので家柄は関係ないと思うんだけどね。
「それはないと思われます。サキ様は希少な聖女という立場なのですから、それをみすみす王家が見逃すわけはありませんわ」
 ラムはそうきっぱりと言い切っていた。これには私も同意するので、うんうんと頷いていた。
「では、ここまで何も言わないというのはどういった理由があるのでしょうか」
 こうなってくると、さすがにモモすらも疑問に感じるようになってしまう。いや、これは本当に早くどうにかした方がいいと思うわよ。私もまったく落ち着きやしないし……ね。
「どうなのでしょうかしらね。公爵家たるわたくしの家どころか、当事者たちにすら連絡がいっていないんですからね。……期待ができるとすれば、殿下方の誕生日の席ですわね。それ以上遅くなると、その後の予定にも支障が出かねませんもの」
 モモの質問にこう答えるラムである。さすが頭の切れる公爵令嬢だわ。
「というわけです。現状はしばらく静観ですわね」
「その方がよさそうですね」
 ラムの意見に賛成する私。それを受けて、モモとサキも同様の姿勢を取る事にしたのだった。

 無事に乙女ゲームの最終年が始まったというのに、問題が解決するどころかどんどんと増えていく現状に、正直言って私は頭が痛くて仕方がない。
 元々はフィレン王子の婚約者を目指してダイエットをするというところから入ったはずなのに、どうしてこうなったというのだろうか。
 紆余曲折を経てダイエットの必要がなくなったとはいえ、まったく心が落ち着かないんだもの。
 挙句、魔王とかいうのが出てくるし、ダイエット恋愛シミュレーションじゃなかったのかと大きな声で愚痴をこぼしたい気分だった。
(はあ……。一体どうなっていくのよ、この世界……)
 もはや、自分の知るゲームの世界から完全に乖離していた。
 とはいえ、幸せなエンディングを迎えるという変化しない目的がある以上、脅威はできる限り取り払っておきたいものだわね。
 というわけで、真っ先に限界を迎えるだろうベジタリウス王城の結界を張り直す事に、私はミズーナ王女と接触することにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...