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第140話 不気味なひずみ
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精霊界というのは、その言葉の通り、精霊たちが住んでいる世界となります。
私たち人間の住む世界とは位相がずれておりまして、同じ場所にあるのですが、見ることはできないのです。
「なぜでしょうか。初めて来た場所なのに、懐かしい感じがします」
精霊界に足を踏み入れたマリナさんは、そんなことを呟いています。
私はこのイベントを何度もクリアしましたので、マリナさんがこのように話す理由は分かっています。ですが、知らないアンドリュー殿下たちは、どういうことなのかと首を捻っています。分かるわけがありませんよね。
「レイチェル、君はここで何が起こっているのか知っているのか?」
「今はそれを話している時ではありません。先を急ぎましょう」
『主、あっちから邪悪な波動を感じるよ』
私が向かう先から何かを感じると、ノームが訴えかけています。
それもそうでしょう。この先が、このイベントの中心地なのですから。
私が進んでいく後ろを、アンドリュー殿下たちが困惑しながらついてきます。
しばらく進んでいくと、精霊ではない私たちもはっきり感じ取れるくらいのどす黒い魔力を感じ取れるようになってきます。
一年近くイベントが遅れてしまったこともありまして、明らかにその魔力が強まっているように感じられます。
(これはいけませんね。もう限界といったところでしょうか)
あまりの魔力の強さに私の頬を冷や汗が伝っていきます。
目の前から感じ取れるのは明らかに強い魔力です。私たちにどうにかできるのか、ここまで来ておきながら、なんだか怖くなってきました。
「な、なんだお前たちは! ……マリナ?! なぜおまえがここにいるんだ」
「お、お父さん?!」
一人の男性が、大声で叫んでいます。マリナさんとのやり取りから、このひげの男性がマリナさんのお父様だと分かりました。
よく見ますと、周りにも何人か人がいるようですね。
「お父さん、一体何をやっているの。お母さんやお姉ちゃんがすごく心配してるよ!」
マリナさんが叫んでいます。
「お前はこの状況を見て、よくそんなことが言えるな。これをこのまま放っておけば、精霊界だけじゃなくて、人間界も大変なことになるんだ。ここは危険だから、お前たちは戻りなさい!」
マリナさんのお父様は、マリナさんに大声で呼び掛けています。
「そうは参りません。私たちはこの状況を解決するためにやって来たのです。このままひずみを大きくして、大変な状況にするわけにはいきませんからね」
「き、君は?」
「マリナさんたちの雇い主です。名前はレチェと申します。あなた方に加勢させて頂きます」
私がそう答えますと、マリナさんのお父様は一層険しい顔をしています。
「これは私たち精霊の役目だ。人間たちに負担をかけるわけにはいかない」
「こちらもそうはいきませんわ。いつまでもあなたを死んだことにして、カリナさんたちを苦しめるわけにはいきませんもの」
あちらがそう言えば、こちらだって言わせて頂きます。
しかし、目の前のひずみの大きさを見る限り、相当強力な魔物が出現しそうですね。
このひずみ、去年の夏休みの段階で遭遇しますと、今の半分くらいの大きさで、出現するのは植物の魔物なんですよね。
ただ、その植物の魔物も結構面倒でして、ツルによる絡めとりやら種飛ばしとかで、結構面倒な戦闘を強いられるんですよ。弱点である火属性があれば楽ですけれど、絡めとりでしばらく動けなくなるのが本当に面倒でした。
パスする理由をその戦闘の面倒くささですね。絡めとりで動けなくなったところで、動けるキャラを種飛ばしで潰してきますから。そのいやらしい攻撃に嫌気がさして、人によってはパスするんです。
ですが、そうすると別のイベントが起きてそこでまた詰まる可能性があるんですが。誰ですか、こんなシナリオ考えた人は。
私が呆れているその時です。
「うおっ!」
「このままでは抑えきれない」
「精霊の騎士として、この程度のひずみに負けてなるものですか」
マリナさんのお父様たち、精霊の騎士たちの様子がおかしいです。必死に押さえ込んでいたはずのひずみが、大きく脈打ち始めているようです。
いけませんね。このままではひずみが大爆発を起こして、私たちに危害を及んでしまいます。しかも、ひずみが弾ければ強い魔物が出現すると思いますから、満身創痍の状態で戦闘に突入しかねません。
一体どうしたらいいのでしょうか。
「分かったぜ。あのひずみをどうにかすればいいんだな」
そう言って動き出したのは、なんと主人公であるワイルズです。
「へへっ、なんとなく分かってきたぜ、俺の持つ力がどういう時のためにあるのかっていうのがな!」
持っている剣を構えて、ワイルズがひずみに向かっていこうとします。
「ちょっと待って下さい。下手に衝撃を与えてしまっては、ひずみが爆発してしまいます。そんなことをしたら……」
「ごちゃごちゃうるせえっていうんだよ。だったら、あんたたちが魔法で防げばいい。今の俺は、普段と違って力に満ちあふれてるんだ!」
私が止めるのも聞かず、ワイルズがひずみに飛び込んでいきます。
ああ、もうどうとでもなって下さい。
私はアンドリュー殿下とアマリス様に呼び掛けて、衝撃波に備えて防御魔法を展開するだけです。
さあ、主人公くん。あなたの力を見せて下さいませ。
私は、ただ強く祈るだけでした。
私たち人間の住む世界とは位相がずれておりまして、同じ場所にあるのですが、見ることはできないのです。
「なぜでしょうか。初めて来た場所なのに、懐かしい感じがします」
精霊界に足を踏み入れたマリナさんは、そんなことを呟いています。
私はこのイベントを何度もクリアしましたので、マリナさんがこのように話す理由は分かっています。ですが、知らないアンドリュー殿下たちは、どういうことなのかと首を捻っています。分かるわけがありませんよね。
「レイチェル、君はここで何が起こっているのか知っているのか?」
「今はそれを話している時ではありません。先を急ぎましょう」
『主、あっちから邪悪な波動を感じるよ』
私が向かう先から何かを感じると、ノームが訴えかけています。
それもそうでしょう。この先が、このイベントの中心地なのですから。
私が進んでいく後ろを、アンドリュー殿下たちが困惑しながらついてきます。
しばらく進んでいくと、精霊ではない私たちもはっきり感じ取れるくらいのどす黒い魔力を感じ取れるようになってきます。
一年近くイベントが遅れてしまったこともありまして、明らかにその魔力が強まっているように感じられます。
(これはいけませんね。もう限界といったところでしょうか)
あまりの魔力の強さに私の頬を冷や汗が伝っていきます。
目の前から感じ取れるのは明らかに強い魔力です。私たちにどうにかできるのか、ここまで来ておきながら、なんだか怖くなってきました。
「な、なんだお前たちは! ……マリナ?! なぜおまえがここにいるんだ」
「お、お父さん?!」
一人の男性が、大声で叫んでいます。マリナさんとのやり取りから、このひげの男性がマリナさんのお父様だと分かりました。
よく見ますと、周りにも何人か人がいるようですね。
「お父さん、一体何をやっているの。お母さんやお姉ちゃんがすごく心配してるよ!」
マリナさんが叫んでいます。
「お前はこの状況を見て、よくそんなことが言えるな。これをこのまま放っておけば、精霊界だけじゃなくて、人間界も大変なことになるんだ。ここは危険だから、お前たちは戻りなさい!」
マリナさんのお父様は、マリナさんに大声で呼び掛けています。
「そうは参りません。私たちはこの状況を解決するためにやって来たのです。このままひずみを大きくして、大変な状況にするわけにはいきませんからね」
「き、君は?」
「マリナさんたちの雇い主です。名前はレチェと申します。あなた方に加勢させて頂きます」
私がそう答えますと、マリナさんのお父様は一層険しい顔をしています。
「これは私たち精霊の役目だ。人間たちに負担をかけるわけにはいかない」
「こちらもそうはいきませんわ。いつまでもあなたを死んだことにして、カリナさんたちを苦しめるわけにはいきませんもの」
あちらがそう言えば、こちらだって言わせて頂きます。
しかし、目の前のひずみの大きさを見る限り、相当強力な魔物が出現しそうですね。
このひずみ、去年の夏休みの段階で遭遇しますと、今の半分くらいの大きさで、出現するのは植物の魔物なんですよね。
ただ、その植物の魔物も結構面倒でして、ツルによる絡めとりやら種飛ばしとかで、結構面倒な戦闘を強いられるんですよ。弱点である火属性があれば楽ですけれど、絡めとりでしばらく動けなくなるのが本当に面倒でした。
パスする理由をその戦闘の面倒くささですね。絡めとりで動けなくなったところで、動けるキャラを種飛ばしで潰してきますから。そのいやらしい攻撃に嫌気がさして、人によってはパスするんです。
ですが、そうすると別のイベントが起きてそこでまた詰まる可能性があるんですが。誰ですか、こんなシナリオ考えた人は。
私が呆れているその時です。
「うおっ!」
「このままでは抑えきれない」
「精霊の騎士として、この程度のひずみに負けてなるものですか」
マリナさんのお父様たち、精霊の騎士たちの様子がおかしいです。必死に押さえ込んでいたはずのひずみが、大きく脈打ち始めているようです。
いけませんね。このままではひずみが大爆発を起こして、私たちに危害を及んでしまいます。しかも、ひずみが弾ければ強い魔物が出現すると思いますから、満身創痍の状態で戦闘に突入しかねません。
一体どうしたらいいのでしょうか。
「分かったぜ。あのひずみをどうにかすればいいんだな」
そう言って動き出したのは、なんと主人公であるワイルズです。
「へへっ、なんとなく分かってきたぜ、俺の持つ力がどういう時のためにあるのかっていうのがな!」
持っている剣を構えて、ワイルズがひずみに向かっていこうとします。
「ちょっと待って下さい。下手に衝撃を与えてしまっては、ひずみが爆発してしまいます。そんなことをしたら……」
「ごちゃごちゃうるせえっていうんだよ。だったら、あんたたちが魔法で防げばいい。今の俺は、普段と違って力に満ちあふれてるんだ!」
私が止めるのも聞かず、ワイルズがひずみに飛び込んでいきます。
ああ、もうどうとでもなって下さい。
私はアンドリュー殿下とアマリス様に呼び掛けて、衝撃波に備えて防御魔法を展開するだけです。
さあ、主人公くん。あなたの力を見せて下さいませ。
私は、ただ強く祈るだけでした。
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