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しおりを挟む「演技?」
「そう演技。まだ診断を待たないといけないけど、多分、ね。」
お茶が運ばれてきて、並べられるのを待ってからもう一度質問をする。
「演技って、どういうこと?」
話を聞いたリリアは、聞いてもよくわからなかった。
「リリアとの婚約がなくなって、オスカーは行き先を無くしただろう?だから焦っているのだと思う。」
「焦るって、自業自得じゃあないの。」
「そうなんだけどね。とにかく、辻褄の合わないことを言って、思考がおかしい振りをしているんだ。本当におかしいなら、ゲイル家としては、放り出せない。どこかに閉じ込めて、上げ膳据え膳をするしかなくなる。そうすれば、オスカーとしては、楽に生きられる。」
「えぇー……何それ……。」
「リリアへの態度も、威圧的に接することで、洗脳しようとしてたんじゃないかな。そうすれば、自分が婿養子でも、少なくともリリアからはチヤホヤされるだろう、とね。オスカーの母屋の部屋を探したら、それ系の本が何冊か出てきたよ。」
「何それ、怖。」
もし、そうなっていたらと思ったら、ゾワッとしたものが背中を走る。
「リリアが無事で本当に良かったよ。私もチラッと読んでみたんだけどね。少々時間と条件が足りなかったみたいなんだ。もしも条件が足りていたら、もう少しリリアが耐えていて時間が足りていたら、と思うと恐ろしいよ。」
「オスカー様って何なの。方向を間違わなければ、ものすごく優秀なんじゃないの?」
「うん。私もそう思う。でも、多分、不安の方が勝ってしまったんだろうなあ。」
「不安?」
「理解したくはないんだけど、気持ちはわかる気がするんだ。」
「わかるの?サイラー様も不安ってこと?」
「いや、今はそこまで不安でもないんだ。リリアと出会えたし、信頼してもらえている仕事もあるしね。でも、それを手に入れるまでは、すごく不安だったんだ。ほら、前にも話しただろう?私に寄ってくる女性はイロモノばかりだって。継ぐものがない自分は、自分の力で道を見つけなきゃならない。そのためにものすごく努力しなくちゃいけないんだ。もちろん後継の兄上だって、後継のプレッシャーがあって、それに相応しい努力をしていると思う。でも、その辛さは私にはわからない。どちらかと言うと、道を探さなくちゃならない不安の方がわかってしまうんだ。」
「ふぅん……。」
「道が決められている兄上は、私達が自由に見えるかもしれない。でも私たちからしたら、探さなくてもいい兄上は羨ましいと思う。」
「わかる気がするわ。他人は努力しているところが見えないから、簡単にやっているように見えるのよね。」
「そう。他人が楽そうに見える。でも本当は、皆がそれぞれ努力していて、それなりにその立場に合った辛さがあるのは当然だとわってくる。それぞれ、自分にできることを一生懸命に取り組んで、自分の道を探すんだ。」
「ええ、そうね。」
「オスカーはそこから逃げた。」
ティーカップに口をつけて、サイラーは続ける。
「多分、オスカーが優秀でもなく落ちこぼれでもない、というのも、狙っだ結果なんだ。アイツは本当は、やればできる部類の優秀なヤツなんだよ。でも、やらなかった。何故か。——私達に関心を持たせるためだ。」
「え?優秀な方が褒めてもらえたりして関心を持たれるんじゃ?」
「でも、それだと、期待と共に、自分で未来を探せるって放置されるだろう?逆もまた然りだ。落ちこぼれだと、何をしてもダメだと、無視される。」
「だから、そこそこ普通だけど、心の弱い人間を演じてきたんだ。外に出しても恥ずかしくない程度に、でも何もしてやらなければ沈んでしまうと思わせる、そういう人物像。」
「それが、リリアに対しては通じなかった。キッカケはおそらく、婚約が確定したら準備をすると言うセリフだよ。」
「えっ……。」
「誤解しないで、リリアが悪くない。それは普通の会話の一部だよ。でも、オスカーはそれに反応した。婚約が確定していないことに恐怖を感じたんだ。それで焦って、手っ取り早い方法を選ぼうとした。」
「それなら、演技を続けてくれた方が、私も騙されたままで幸せだったかもしれないのに。」
「そうだね。そうならなくて良かったけど、でも、私は、リリアには辛かったと思うけど、そこで恐怖を感じる人間性が、弟に残っていたことに安堵するよ。」
「……私、本当に辛かったんだけど。」
「うん。それはわかってる。リリアがいちばんの被害者だ。でも、リリアを騙し続けられるようなら、それもう……本物の化け物だ。」
「それは……そうね。」
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