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番外編
7.配合(3)
しおりを挟むライキを初めて買った時、薬屋の店主はライキにはちょっとした興奮作用があると言っていた。精力剤ほど劇的な作用はないけれど、元々ニンニクにだって多少なりと精力増強の効果はある。
野生動物の肉や内臓にも、似たような作用があったのかもしれない。まぁ今まで聞いた事はないし、食べればちょっと元気になるとか、そんな些細な効果なんだろうけれど。
――単純に、たぶん食べ合わせが悪かったのだ。
時間が経てば経つほどに、内側からポッポと燃えるような熱さが湧いてきた。身体を擦り付けるだけでは到底足りずに、溜まる一方の熱を持て余した俺はどこかぼんやりと身体を好きにさせてくれている瑛士君を見上げ、さっきは理性で抑えられた願望を口にする。
「瑛士君、あーんして」
いつもは瑛士君が俺に言う。キスする時、毎度毎度どのタイミングで口を開けるべきか迷うから。瑛士君が言った時が開ける時なのだ。小さな声で囁くように言う、その声が俺は堪らなく好きだ。
俺がお願いしても、瑛士君はふやっと笑って口を開けてくれた。体温が上がっているせいか、普段より赤い唇が俺には花びらに見えた。甘い香りで誘うやつだ。きっと毒があっても吸い寄せられる。
迷わず、あむっと飛びつくと、その勢いに瑛士君の口角が上がる。吸い付いて味わって、まだ足りなくて奥に隠れた舌を探して、唇の隙間に舌を差し込む。待ち構えてたみたいに舌の先を舐められたら、胸がキューンてした。一瞬本当に止まった気さえする。
「やば、フィーに襲われてる」
「やだ?」
「普通に嬉しいだろ。すげードキドキする」
「……ギャップ萌え?」
だといいなって願望に笑って頷かれて、心の中でガッツポーズを決める。実際の身体はそれどころではないので、本能のままちゅうちゅう吸い付きながら甘えるように瑛士君の頭を抱えた。
熱い。腹の下に溜まる熱が一番酷い。後ろの方まで疼いて、勝手に孔がピクピク動く。ひくつく動きが陰囊まで響いてきて快感を拾うから、瑛士君と舌を絡めながらも一人で盛り上がっている。でもこれでは全然足りないのだ。
良くないと思いつつ、一層身体を擦り付けながら大腿でさり気なく欲しい物を探る。鼻息荒く股間を弄られる瑛士君にとっては全くさり気なくなかったかもしれないけれど。
「あ、やった。固い」
嬉しくて思わず心の声がそのまま漏れた。
そうと分かれば、瑛士君の頭から手を外し、迷わず下衣にその手を突っ込んだ。ちゃんと勃ってて熱くて固くて、もっと興奮して欲しくて指を絡める。
「――っや、ちょっと待て」
焦った瑛士君が慌てて腰を引くけど、それまで抱きしめてくれていたので、その手は俺の背中に回っている。首元に吸い付きながら陰茎を扱き始めると、さすがに身体を引き離そうと動かれたけれど、本気ではない優しい力だ。瑛士君はいつも優しい。
「良いけど。良いけど……っ、待って」
「瑛士君……瑛士君好き」
「っあ、フィー、フィーって……っん」
その噛み殺した声がエッチくて滾る。もっと聞きたくてもっと気持ち良くしたくて、声を頼りに強弱つけて夢中で擦った。触れてもないのに自分の陰茎まで、つられて高まっていく。
「――駄目っ、もう無理。ごめん」
先に音を上げたのは俺だった。耐えきれずそこから手を離し、自分のズボンを下着ごと降ろす。挿れられた時の快感を思い出してしまって、どうにも後孔が疼いて堪らないのだ。
切羽詰まっているからか、かつてない程の素早さでライキ油を手にした俺は適当に塗りつけて後孔を探る。自分の指じゃ気持ち良くないのは分かっていたから一気に指を入れたのに、普通に気持ち良くて身体が戦慄いた。
「っあ、なんで……んん、気持ち」
前屈みでぬくぬく指を抜き差しするのは間抜けだが、手早く慣らして挿入してしまいたい思いと裏腹に自慰の手が止められなかった。これ怖い。指でこれなら本当に挿れてしまったらどうなるんだろう。
「……エロ、」
瑛士君がぼそっと呟くのを聞いた。
「フィー。もうこっち来て」
「ん、待って。あと少し……っ」
「煽るだけ煽っといて、放置?」
「――っえ?」
一気に反転した視界に瑛士君の顔が飛び込んできて、少しだけ我に返った。気づけば上から組み伏せられ、両方の手首を押さえつけられている。
手加減はしてくれてそうだが、ギリギリ締め付けられた手首がちょっと痛い。不鮮明な頭で初めに感じた違和感はそれだった。
「ああークソ、頭痛え。我慢しすぎた」
そんな風に何かを振り払うみたいに乱暴に頭を振る瑛士君を俺は今まで見たことがない。煩わしそうに顔を顰めた普段と違う様子に緊張が走る。もしかして怒らせてしまったのだろうか。
「瑛士君、ごめ――んんっ」
謝罪の言葉を唇で封じられた。喉の奥まで埋められて性急に舌が絡んでくる。苦しいけどそれ以上に気持ちが良くて、後孔が続きを求めて切なく疼く。
「バカ、これ以上煽んな。こっちは早くブチ込みたくて血管切れそうなんだよ」
「ひんっ! ひあっ、ごめ、ごめっ、ね」
「怪我させたくねーの。大人しくしてろ――ほんと、頼むから」
気づかずグイグイ押し付けていた腰を咎められ、欲しがる孔に荒っぽく指を加え込まされたが、空いた隙間を埋めて貰えて身体は大歓迎で受け入れている。気持ち良いが溢れ出そうで堪らない。
しかし、これは異常事態だ。
俺ばかりではなく瑛士君もかなりおかしい。時差はあったけれど、今俺が抱える暴力的なまでのムラムラを瑛士君も同様に感じているのではないだろうか。
言葉や仕草に余裕がない。一刻も早く熱を発散させたいと、とにかく解す事に特化した動きなのだ。労わられながらの性交に慣れた身としては、その直情的な姿にある種の感動すら覚える。自分本位になりきれず、絞り出すように「頼むから」なんて言っちゃう所がまた……良い。最高だ、瑛士君。
「力抜いといて。痛かったら蹴って」
多少痛くても平気だ、と伝えたいのに言葉にはならなかった。気持ちとしては発情した瑛士君を余すことなく堪能したいのだが、身体がついていかない。はふはふ言っている場合ではないというのに、潤む窄まりに添えられた瑛士君の陰茎が待ち遠しくてもどかしげに尻を揺らした。
どくどくと脈打つ熱い陰茎に内側を押し広げられ、浸食される感覚が堪らずに歯を食いしばる。馴染むのも待たずに突き上げられて、痛くもないのに涙が滲んだ。
「んあっ、んっ、ひぃあ――」
「っは。くそ、腰止まんね……」
足を大きく広げられ、浮き上がる腰を食い込むほど掴まれて、激しく抽挿される。熱に浮かされたような瑛士君は快楽を追うのに夢中らしい。
遠慮なしにガツガツ打ち込まれ、最早気持ち良いのかも分からないけれど、押し出されるように陰茎から飛沫が散っていく。喘ぎ声か悲鳴かも不明だ。
だが、良い。とても良い。ギラギラした目でこちらを見据えながら汗水垂らして、必死に腰を振る瑛士君はとてもエロくて、やっぱり格好良い。
「フィー、フィー」
切なそうに名前を呼ばれると、もう何されても良い気がする。向かい合って繋がって、ひっくり返されて獣みたいにもっかい繋がって、何度出したか分からない位達したけど、終わりが来ない。
その辺りになるとさすがに恐ろしくなったけれど、もしかすると普段は俺に合わせてものすごく我慢してくれてたのかなーと思ったら、逆に申し訳なくなった。
「――ごめん。嫌いになんないで」
明け方近くに、そんな声が聞こえた気がした。何度も意識を飛ばしていたので、曖昧だけど。
俺が瑛士君を嫌いになるはずないのに。身体はボロボロだけど、今世紀最大の良い物を見せて貰った満足でいっぱいだ。にへっと笑って、眠りに落ちた。
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