王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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元々、獅童くんに恋をしているのでは疑惑はあった。有耶無耶になっていたのは認めるが。

確か、獅童くんが言った覚えのない個人情報を把握しており怖くて何もかも忘れたのだ。
それに関しても、俺の記憶にないだけでついこぼしたのだろうと結論が出ている。

「改めて考えるべきだと思うんだよ、俺は」
「それで坊ちゃんのいない隙を見計らって会議? 直接思いを聞けばいいだろ」
「そうだって言われたらどうしたらいいのかわからん……!」

やらかした小テストの補習、ついでに部活動見学ということで獅童くんは学校に残っており、今日は俺と水瀬二人きりの委員会である。

この高校も部活が多く、委員会の合間では回りきれない。そういうわけでより多く回れるよう、今日は一日休んでもらうことにした。

「つったってなぁ。俺は心底興味ないし、ムトウサマ」

だろうな。武藤様の恋バナをするような相手としては力不足である。同じAクラスだからか個人情報には詳しいが、何やら仲が悪いみたいだし。俺には教えてくんなかったのに!

「水瀬も水瀬だろ! 仲悪いなら言ってくれたら良かったんに……」
「あの箱入りは嫌いだけど、宗介がキャーキャー言ってんのは割と面白く見てっから」

殿下の武藤様を箱入り息子扱いなんて、といきり立ちたくなるファン心を抑える。
水瀬はいつでも飄々と斜に構えているので(ちょぅと悪口である)少なくとも本心以外は口にしない。

武藤様のよく見えるベンチから、武藤様の凱旋を双眼鏡で覗く俺の隣。宣言通り水瀬は興味なさげに爪なんかいじって座っていた。

「だって二年間、俺と武藤様って接点なかったんだぜ? そりゃ一緒に住むようになったけど……そんくらいでわざわざ一緒に飯食うか?」
「ま、食わんわな」
「そう! そんで、俺が警戒対象なのはまぁ、今に始まったことじゃないらしいじゃん? それでも長い間、昼食中見向きもされなかった」

俺と水瀬が二人でいた頃と違う状況といえば後輩の出現となる。
生徒会執行部の方々は各々好きな席があるようで、全員が揃ってない時は基本的にいまもテラスへ行っている。
ので、彼らは会長である武藤様についてきてこんな大所帯となっていると考えられるだろう。
執行部で確か六人だ。いつメンにしては多い。

「つまり武藤様の興味の対象が後輩の中にいるわけだ。一番話してるのが獅童くんだから」
「坊ちゃんのことが好き、と……小学生みてーな推論ではあるが、王道学園とかわけわからんこと言ってた時よかは筋道立ってるんじゃねーの?」

それに関しては反論できない。
武藤様が獅童くんに恋しているのではないか疑念は定期的に湧いてきており、とくに何もやることがない深夜などは異常だった。

昨日なんか深夜に水瀬へ王道学園のシナリオがどうとかメッセージを送っており、迷惑をかけるなどした。起きた時送った記憶無さすぎて笑ったが、まぁ俺のやりそうなことである。

「そういや、お前ってムトウサマにどうあってほしいの?」
「?」
「聞いたことなかったよな」

水瀬が武藤様を嫌っていたからか、そういえば聞かれたことがなかった。
実は、俺はガチ恋勢ではない。
武藤様に対して憧れたり照れたり抱かれたがったりと忙しいが、ユニコーンほど人生を束縛しようという気はないし。

完全に憧れというには執着が重い気がするが、武藤様に俺だけを見てほしいと思うことはないので……

「武藤様には憧れてるし、お近づきになりたいし、でもなんか恋ってほどでもねーかな」

双眼鏡の奥では今日も作り物じみた笑顔の武藤様が周囲に手を振っている。
あの作り物みたいな顔が最初は見ていられなかったような気がする。それから目が離せなくなって、今はこれだ。

「武藤様が飾らず笑える相手なら、俺じゃなくたっていいとは思ってる」
「重」

うるさすぎ。知っとるし。
武藤様ユニコーン──親衛隊過激派は、武藤様が直接管理していない分凶暴で、武藤様に近づく人間全てを排除したがるものも一部いる。中にはまるきり話が通じない人も。

「……まぁ、お前が親衛隊過激派じゃなくて良かったわ」

水瀬からそう言われて目を瞬かせる。
水瀬は大事な友達だ。でも、俺が過激派だったら多分、武藤様嫌いのこいつは遊んでくれなかったと思う。

「俺も──」
「田中さま!! 田中さま!!」

聞き覚えのある声に思わず体をこわばらせる。
旧校舎へつながる中庭、その渡り廊下へと慌てて顔を出したのは島田くんだった。
また獅童くんが何かやらかしたのだろうか?

「どしたの、また獅童くんが──」
「大変です!!」

島田くんはざっと顔を青ざめさせていた。
それにふざけられない雰囲気を察して、俺は姿勢を正す。
結論から言うとそれは正しかった。しかし一つ誤算があったのは、いつものように獅童くんが何かをやらかした案件ではなかったこと。

「獅童が、獅童が呼び出しを受けて──武藤親衛隊に!!」

つんざくようなSOS。
異常事態の気配がもうすぐそこまでやってきていた。
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