王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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武藤様親衛隊。生徒会長である武藤様を一年生の頃より慕ってきていた、最もガチ恋勢の多い厄介な集団だ。

今年で結成三年目となり、代替わりも三度行われている。現在の親衛隊隊長は穏やかで規律を重んじている二年生なのだが、その分抜け駆けしたい人たちがストレスを溜めている感じ。

呼び出された理由は見当がついてる。せめて穏やかな親衛隊長派が来てくれてたらいいんだけど

「すみません、止めはしたんですが……来なければ花壇を燃やすと」
「じゃあ過激派か……」

島田くんの案内で旧校舎から降り、第二体育用具室まで走る。
ここは現在空き倉庫となっていて、本校舎や職員室から相当離れている。旧校舎の方が近いくらいには。

「う、不良とかの溜まり場じゃん……普段こんなとこ近寄らないくせに」

嫌な予感がする。第二体育用具室は周囲が木で覆われており、視界が悪い。なので人から隠れたい不良や悪事をする人間がこぞって集まるのだ。

「水瀬、念の為に応援呼んできて。ちょっぱや。近くにいる人なら誰でもいい、武器も」
「おっけ」
「島田くんは教師に果たし状のこと伝えて。まずいことになった」

踵を返した水瀬を見送りながら、隣で走る島田くんに声をかける。山の上にある旧校舎付近なので周囲がわりと鬱蒼としている。

遠くの方にはもう第二体育用具室の黄ばんだ壁が見えてきていた。案内はもういらない。

「わ、分かりました! 田中さま、ご無事で」

一礼し職員室の方に方向転換した島田くんの背を一瞬目で追って、体育用具室に近づく。
用具室の中からは五人程度、男の声が聞こえてきており、なかには見知った声もある。

「……から、俺には関係ない! あんな奴と恋人!? あり得んわボケ!」
(獅童くん!)

どうやら誘われるがまま、用具室の中に入ってしまったらしい。空き倉庫とは言うが廃棄するような壊れた諸々の道具が積まれており、視界は悪い。

獅童くんの姿が確認できない。
用具室の中に入り、何か道具やらの置かれた棚を隠れ蓑に息を殺して近付いた……拍子に、グニッと何かを踏んづける。
思わず下を確認し、大声を出しそうになって押さえ込む。喉が閉まって声が出なかったともいう。

「──市ヶ谷くん、東郷くん!」
「ぅ……うう……」
「その声……」

用具室の入り口付近。隠れるように二人の男子生徒が倒れていた。

「二人とも大丈夫か。酷いな……まさか、あいつらに正面から挑んだのか」
「ぐ、あいつ、ら……よってたかって」
「そういう奴らなんだよ、バカだな……!」

市ヶ谷くんはうめくばかりで、何か話せる状況じゃない。東郷くんも相当傷は負っているが、不良やってるだけあるタフネスである。
二人をどうにか外に出してやりたいが、難しい。小声で話している今だから気付かれないのであって、できれば物音を立てたくない。

仕方がない。二人には静かにしているよう伝えて、奥の様子を伺う。

「わっかんないじゃん! 少なくとも、武藤さまはあんたなんかに構っていい人じゃない! そんなことも分かんないわけ!?!?」
「知らんわ! ピィピィ喚きおってこのブスが、ぁぐっ!」
「!」

バキ、と重い音と共に獅童くんが地面に叩きつけられる。その拍子にがしゃん、と眼鏡が落とされた。数人に囲まれているからか顔はよく見えない。

主犯格は……真ん中にいる小柄な男子生徒だろう。手にはどこから手に入れたのか鉄パイプ。大柄な生徒が……五人? 思ってたより多いな。
よってたかって獅童くんを囲み、その中の一番背の高い男が無理やりまた立ち上がらせている。

リンチだ。なんて酷い。

「……あ? おいコイツ、意外と可愛い顔してるぜ」
「うわ、ホントだ。もうあのヤリチンには見せてやったのかよ?」
「お気に入りだもんなぁ」

誰かが獅童くんの顎を掴み、顔を無理やり上げさせる。嫌な流れになってきた。できれば応援を待ちたかったけれど、仕方がない。
俺はしゃがみ込み、棚に噛ませられたストッパーを外していく。

「テメ……ぜったい、許さん……」
「おおー怖い怖い、狂犬さまは違いまちゅね~!」
「ギャハハ! にしては無抵抗で殴られてたよなぁ!」
「所詮おっきいやつには勝てないのかな~? イキった後輩を躾けてやんのも先輩の役目、ってね!」

お前ら三年かよ。最低だな。顔覚えたぞ。
しかし実際、獅童くんの態度には違和感を覚える。無抵抗で殴られてた、というあたりが特に。確かに図体が大きく脳みその小さい人間は見た目ばかり圧はあるけれど。

「……は……」
「あん?」
「センパイは……ちがう……」

獅童くんからすればみんな同じ、のはず──

「あんひとは、甘ちゃんで……綺麗事しか言わんで……ちょっとキモくて……」
「……あぁ? 何の話だコイツ」
「とうとう錯乱しちまったんじゃねぇの? かあいそうになぁ!」

ふらふらの獅童くんの口から、殴られた拍子に何処か切れたのか赤い液体が滴っているのが見えた。俯いて、無理やり両足で立っているような、小柄な姿らしい弱々しい姿。

「でも、人が傷付くのは、嫌いや。
だから俺は、お前らを殴らん」

少しだけ、静寂が満ちて。
爆発するように下卑た笑い声が鳴った。

「ギャハハハハ! え!? まさか!? まだ勝てるとか思ってるんですかー!?」
「やっさし~! 俺らは殴るけど~!」
「何カッコつけてんだザコ! え、やっちゃっていいですかコイツ?」
「いいよいいよ。まさかここまで馬鹿だとはね、武藤さまも何考えて相手してんだか」
「っぐ!」

獅童くんが押し倒された。何かの生地が破れる音がする。制服だ、と理解する前に肌色が見えて、その衝撃でコロンと黒いものが落ちた。
獅童くんの細い肩に、はらりと銀が掛かる。

「うわっコイツ、女みてぇ」
「ヤバ……コイツなら抱けるわ、俺」
「おい、抜け駆けすんなよ」

本当は、本当なら、応援が来るまで待つべきだろう。水瀬の足は早い。もうじき人も来るだろうし、それまで保たせるための仕掛けは整っている。
ただなんか、だめだ。

「いや本当に、君たちバッカだよねぇ~!」
「ッ誰!?」
「誰ってヤだな、さっきその子が呼んでたじゃん?」

頭に血が昇ってる。

「“センパイ”だよ──正真正銘のな」

扉の横のスイッチを押すと、生意気にも自動で扉は閉まる。これで仕掛けは完了だ。
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