王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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元々、この第二体育用具室が使われなくなったのには理由がある。その時の点検は、一年生だった頃の俺の担当だった。何しろここの掃除班だったので。

「センパイ~? もしかして、センパイもまとめて犯されに来たんですかぁ?」
「それヤバ! ウケんだけど。俺アイツに反応しねーんだよな!」

下卑た笑い声も悪意も、元から向けられる予定のものだと思えば屁でもない。

「おー怖い怖い。下ネタにしか脳の容量を割けなかったのかな? 脳小さいと大変だな」

セクハラ方向に繋がれたのには戸惑ったが、まぁ相手の出鼻を挫いたり冷静じゃなくさせたりするのに有効だからな、カスの下ネタ。

「んだとテメェ!」

軽く煽り返してやれば簡単に火がついたらしい。大柄な生徒が数人、こちらの方へ近付いていく。できれば別の仕掛けもしておきたかったが仕方がない。

「セリフが小物だぞ、っと」

体育用具室の不備そのいち。
玄関口正面の棚が不安定で、ストッパーをておかないとボールが勢いよくぶつかるなどの衝撃で倒れること。

鼓膜を突き破りそうな大音量で棚は倒れる。巻き込まれた人間の叫び声が聞こえないくらいだ、いやはや怖い。まぁ死にはしないだろう、俺も昔これに挟まって数時間救助されなかったことあるし。

「あ、獅童くん大丈夫? ……だよね、さっき移動してくれてたもんねー助かった!」

棚を踏みつけて乗り上がる。呻き声が聞こえた気がするが無視だ無視、まだ気絶してなかったのかよ。

「リョージ! タツオ! くそっ、テメェ!」
「お、意外と仲間意識はあるのかよ。気色悪りぃなぁ!」

体育用具室の不備そのに。
窓際のセンサーの故障。
体育用具室には換気のために窓が取り付けられているがそれがセンサー式となっており、少し手が触れると思い切り内側に仕様になっている。

「っダァ!」

ちなみに何でこうなったのかはわからん。昔の何でも最新化にしようとしていたこの高校の名残らしい。
一人不備のあると報告されてた窓に引きつけ、しゃがみ込んで窓に軽く触れば気持ちのいいくらい引っかかってくれた。思い切りぶち当たり、割れる窓。
ふらついた生徒の足を引っ掛け追加で殴っておく。バット回収されてなくてよかったー!

「トウジ! くそ、卑怯だぞ!」
「リンチしてた輩に言われたくねぇ~!」

すぐに次のやつが追いかけてくるので出来る限り主犯格──お姫様気取りだろうか。虫唾が走る──から引き離し、似たような窓へ誘導してしゃがみ込む。

「ッ、」
「フェイントだバーーーカ!」

ちなみに不備に関しては先程の窓のみである。これは飾り窓。はめ殺し形式なのだ。

綺麗に引っかかって動きを止めた男を大笑いしながらバットをフルスイング。ホームラン! そんな道具じゃないけどね!!

鳩尾にクリーンヒットしたらしく体を折り曲げてうめくところを追撃。喧嘩もレスバも苦手だが、このカス治安の高校で生き抜いてきた三年、という点では別に綺麗なだけではないのだ。
死なんだろう。その程度に加減してある。

「ちょ、ちょっと嘘、みんな!? なんで……ッ! ち、ちがうの田中さま! 違うんです! これは……」
「いやもう良いって。録音してあっから。あ、録画もか?」

長くため息を吐いて、頭を掻く。
一撃で気絶してしまった奴等を放り、また棚の上に乗る。

「田中さ、」
「あのさァ」

獅童くんを見ると、なんだか呆気に取られたみたいな顔をしている。ズボンは脱がされてない……し、貞操は無事みたいだ。

「ちょっと誤解あるみたいだけど、俺ってそこまで優しいわけではないんだわ」

主犯格はまだなにか言いたいみたいだけれど、遮ってしまった。まぁ良いか、俺コミュ障だし。仕方ないよ。

「ルールの話の続きね。ルールを守る人は護られるべきだ。ルールとは人を守るためにある。大切なものを守るために、暗黙の了解は作られる……じゃあ反転してみようか」

作り笑顔は得意だった。武藤様ほどではないけれど、そこそこに年季が入っている。
完璧な笑顔とは、時に他人を威圧するための道具となる。俺はよくそれを知っていた。ずっとそれに怯えていたから。

「ルールを守らない奴はな、護られるべきだと思うか?」
「た、田中さま」
「質問に答えろよ」

怖いよな。分かるよ。人になじられてる時ってなんであんなに怖いんだろ。笑顔の奥に悪意があるから、気持ち悪いのかもしれない。
武器だって構えちゃうよ。排除したくなる。攻撃的な感情を恐怖の対象に抱く、なるほどなかなか自然な行動だ。

ところで、体育用具室の不備そのさんである。
置いてあるバスケットゴールの土台が欠けていて、めちゃくちゃ倒れやすい。

「ちなみに、俺の答えは否だ。覚えとけよ」

まぁこれは不備というか、いらないものだからと押し込められているだけなのだが……

「っぎゃん!」
「いつ倒れるかなと思ってたぜ、ぐらぐらしてたから。気をつけろよ?」

実は今乗ってる棚の隣に寄りかかるように立て掛けてあり、倒れそうな頃を見越して主犯格を誘き寄せただけだ。文字にすると簡単だがやってみると難しい。

「テメェエ!」
「っうお」

お仲間全員やられてとうとうキレたのか、一番大柄な生徒が胸ぐらを掴んでくる。ばき、と軽い音が鳴り、頬が熱い。殴られたのだろう。
あーーーもうやだ痛ェーーーー……
でもここで引くわけにもいかないんだよな。

「あんまイキんなって。猿の血が濃いのはわかったからさ」
「調子乗りやがって!」

もう一発だろうか。拳を振りかぶった男は、大事なことを忘れている。

「獅童くん、暴れて良いよ」
「──わん!」



目の前で大男が吹き飛んだ。遅れて暴風と、重く鋭い音がビリビリと響き渡る。
光に照らされて、銀色の細い髪がはらりと舞った。
傷付いて尚美しい白磁の肌、上等なワインのように紫と赤入り混じった色の瞳がよく映える。

──美しく鮮烈な少年が、そこに立っていた。

獅童くん、変装してたんだ……。
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