悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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いざゆけ魔法学校

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気が付けば、胸元に体を預け(させられ)ていたヴィンセントの瞼がいつの間にか閉じていた。

引っ掛けないように髪を撫で、出していた温風を引っ込めてもなおその目は閉じたまま、体もぐったりと力が抜けている。

「……寝た?」

その衝撃はまあまあ強かった。
ヴィンセントといえば、ルースと出会うまでは孤独な人気者だった。誰にも油断できず、愛さず、他人の前で眠るなんて絶対にしないような。

だからヴィンセントには、ルースの前で眠る専用スチルがあって。そんなの絶対、アーノルドには見せるはずがなくて。

(……関係が変化してる?)

まずいかもしれない。
確かに俺は死にたくないのでゲームの流れは変えたいが、ルースの物語が始まるまではできる限り沿って欲しい。できればルート確定まで。
ここでアーノルドとヴィンセントの関係が変化して、本編に影響が…………

出るか……?

(恋は止められないだろルースめちゃくちゃ美少年だし守りたくなるし正ヒロイン? 正ヒーロー? だし)

所詮俺は引き立ての悪役で、俺とヴィンセントが友達になったところでたいして強い影響があるとは思えない。
てかむしろ横から口出ししやすくなってるのでは? 今までの公明正大な学級長だとフラグ管理しにくいから、そもそもどうにかしようとは思ってたんだよな。

まあ……なら、いっか……。
取り巻きは悔しすぎるから絶対やりたくないけど、怒りがあまり長続きしないタイプなのでそこまでもう嫌いじゃないんだよなぁ。ヴィンセント。
何よりやっぱり性癖を詰めているので好きだ普通にビジュが。性格も好き。俺への態度がめちゃくちゃ嫌いなだけで。

「ちょっと触るぞ、ヴィンセント」

言い終えてから敬称つけてないなと気がついたがまあいいだろ寝てるし。
まだ華奢な体を抱き上げて、急激に伸びた骨に追いついていないそれをベッドに優しく寝かせる。
コテンと傾げられた首に柔らかそうな金糸がかかっていて、それが案外ごわついているのに笑いながら払ってやる。
ちょっと寝苦しいだろうか? 前を開けてやっても起きない。相当疲れているとみた。

「ま、学期始まったばっかって疲れるしな。お前は意外と人に囲まれるのが好きじゃない……」

でも人と関わるのは好きなのだ。ただ、何人も同時に相手するのは向いてない。多分自分でも気がついていないのだろうが、他者を疎かにすることに対してストレスを抱えるたちだからな。

いまこいつが自分に課した状況は真逆だ。それも新入生が増え交流(意味深含む)していくごとにストレスは知らずのうちにかかっていく。

だからといってわざわざ教えてやらないのだが。そういうのは自分で向き合え!

「自分のこともよく分かってないくせに、他人を世話しようとするんだから。ままならないやつ……青春を感じるぜ」
「んん……」
「はいはい」

この事は、シナリオライターしか知らない。お前をかつて作った人物。ぐずるように伸ばす手が今は亡き母に向けられたものであることも、その手を握られて本当は安心することも。

だから硬い手でよければ握ってやるし、眠れもしないくせにしばらくその腕の中に収まってやることにする。せいぜい抱き枕にしてくれこの俺を。

(お前も数奇な運命になっちゃったなぁ)

そうしたのは原作者なんだけど。
性癖だけを詰めると良くないな。よくない。絶対幸せにしてやるからちゃんと希望をそこそこに持って生きていってくれよ。
別に強くある必要はない。
がんじがらめで、自分で幸せになんてなれないやつだって確かにいるのだし。

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