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いざゆけ魔法学校
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セリオンが最近拗ねている。
ような気がする。
「ようやく気付いたんだ?」
とはヴィンセントの談だ。なんだそのセリフは、俺よりセリオンのことわかってますよ感を出すんじゃない。だが実際俺はセリオンが拗ねていると気づくのに時間がかかったわけで。悔しいぜ!
夜の帷もすっかり落ちた頃、あいも変わらず豪奢で物のないヴィンセントの部屋、そのベッドで俺はすっかりくつろいでいた。
……おかしいだろって思わないでほしい。だって不眠症解決するんだもん! しんどいんだぞ寝れないの!!
一時期は睡眠薬を買って服用しようとしたのだが、不良患者のサンプリングなんてすでに済ませているヴィンセントに見つかった。そして懇々と健康被害について説教された。
相変わらず熱心な医者だし、強情なやつだ。
「いや、セリオンは基本デフォルトで拗ねているんだが。大抵それには理由があって、やれ靴擦れが痛いだのやれ荷物が重いだのやれ今日は天気が悪いだの、相応の理由があるんだよ」
「相応の理由無いけどね別にそれ。概念的お姫様扱い」
「まあ俺の世界でいちばんプリンセスだから……概念的……」
「学級長のブラコンにも慣れてきちゃったなぁ」
今日は疲れたからと湯船に浸かってきたヴィンセントが、俺の寝転んでいるベッドに腰掛ける。
回復魔法は触れた場所を介して魔力を通すらしく、不眠の解消には添い寝が一番……らしい。なんでこんなに気にかけて来るんだマジでこいついかれてるのか?
「だが最近とみにピリピリしててな……勉強で分からないことがあるのかと思えばそうでもないし、友人関係もまあ良好そうで、怪我してるわけでも腹減ってるわけでもなく……」
「オトートくんが会話下手なのって、大半くらい学級長が原因そーだよねー。俺は異常だと思う」
「下半身に脳があるやつに言われたくないな……」
「は? 学級長はそんな暴言吐かないんだけど」
吐くだろ。
吐いてるだろ。
俺に何かよくわからん夢を抱いてるのはなんなんだこいつ。この季節が春から夏になるくらいまでヴィンセントの部屋に通っているが、いまだにこの幻想は打ち砕かれていない。
多分普段学校で会うたびに幻想を強固にしているのだと思う。
寝転ぼうとした男を押し留め、風魔法を軽く唱えて髪を乾かしてやる。
「え、何? いらないんだけど」
「何だお前その態度は俺が勝手にやってるだけなんだから勝手に受け取ってろ」
「勝手にやってるだけっていう態度じゃないんですが~?」
眉を顰めて抵抗しようとするヴィンセントを足で拘束しておく。うわこいつ腰細ちゃんと食べてんのか!?!? 羽のように軽そう、BLあるあるをさせないでほしい俺に。
まだ少しだけ未成熟で、身長だけ先に来てしまったみたいな体をいたわるように頭を撫でる。頭皮を擦りごわついた髪を指で引っ掛けないようにすく。本当はクシでもあればいいんだが、まあ今から眠るんだし必要ないだろ。
ヴィンセントは寝癖が凄い。今まで適当にしてきたツケなのかなんなのか、毎朝毎朝芸術的な髪になっている。最近はヴィンセントが起きる前に起きて、寝癖に名前をつけて去るのがマイブームだ。
「ユミルに聞いても……ユミルっていうのは俺のペアなんだが、物凄く賢いんだ。彼に聞いても分からないと言われてな。まあそりゃ俺が分からんならユミルも分かるわけないんだが」
なにやら最近飛行術を練習しているユミルに聞いてみたのだが、芳しい答えは得られなかった。どうやら飛行大会で優勝するつもりらしいが、そんなに得意だったかな……。
飛行大会は学校行事だけど一応休日開催なので、不参加によって減る成績はない。そのため俺は来たる文化祭のため──引いては成績のため採集に向かうつもりだ。
「反抗期かなぁ……セリオンは賢いやつだから、俺の利用価値はまだわかってると思うんだが……でもそれを俺が売り込むのもどうかと思、ん?」
いつの間にか、胸にかかる重みが増していて思わず手を止める。
ような気がする。
「ようやく気付いたんだ?」
とはヴィンセントの談だ。なんだそのセリフは、俺よりセリオンのことわかってますよ感を出すんじゃない。だが実際俺はセリオンが拗ねていると気づくのに時間がかかったわけで。悔しいぜ!
夜の帷もすっかり落ちた頃、あいも変わらず豪奢で物のないヴィンセントの部屋、そのベッドで俺はすっかりくつろいでいた。
……おかしいだろって思わないでほしい。だって不眠症解決するんだもん! しんどいんだぞ寝れないの!!
一時期は睡眠薬を買って服用しようとしたのだが、不良患者のサンプリングなんてすでに済ませているヴィンセントに見つかった。そして懇々と健康被害について説教された。
相変わらず熱心な医者だし、強情なやつだ。
「いや、セリオンは基本デフォルトで拗ねているんだが。大抵それには理由があって、やれ靴擦れが痛いだのやれ荷物が重いだのやれ今日は天気が悪いだの、相応の理由があるんだよ」
「相応の理由無いけどね別にそれ。概念的お姫様扱い」
「まあ俺の世界でいちばんプリンセスだから……概念的……」
「学級長のブラコンにも慣れてきちゃったなぁ」
今日は疲れたからと湯船に浸かってきたヴィンセントが、俺の寝転んでいるベッドに腰掛ける。
回復魔法は触れた場所を介して魔力を通すらしく、不眠の解消には添い寝が一番……らしい。なんでこんなに気にかけて来るんだマジでこいついかれてるのか?
「だが最近とみにピリピリしててな……勉強で分からないことがあるのかと思えばそうでもないし、友人関係もまあ良好そうで、怪我してるわけでも腹減ってるわけでもなく……」
「オトートくんが会話下手なのって、大半くらい学級長が原因そーだよねー。俺は異常だと思う」
「下半身に脳があるやつに言われたくないな……」
「は? 学級長はそんな暴言吐かないんだけど」
吐くだろ。
吐いてるだろ。
俺に何かよくわからん夢を抱いてるのはなんなんだこいつ。この季節が春から夏になるくらいまでヴィンセントの部屋に通っているが、いまだにこの幻想は打ち砕かれていない。
多分普段学校で会うたびに幻想を強固にしているのだと思う。
寝転ぼうとした男を押し留め、風魔法を軽く唱えて髪を乾かしてやる。
「え、何? いらないんだけど」
「何だお前その態度は俺が勝手にやってるだけなんだから勝手に受け取ってろ」
「勝手にやってるだけっていう態度じゃないんですが~?」
眉を顰めて抵抗しようとするヴィンセントを足で拘束しておく。うわこいつ腰細ちゃんと食べてんのか!?!? 羽のように軽そう、BLあるあるをさせないでほしい俺に。
まだ少しだけ未成熟で、身長だけ先に来てしまったみたいな体をいたわるように頭を撫でる。頭皮を擦りごわついた髪を指で引っ掛けないようにすく。本当はクシでもあればいいんだが、まあ今から眠るんだし必要ないだろ。
ヴィンセントは寝癖が凄い。今まで適当にしてきたツケなのかなんなのか、毎朝毎朝芸術的な髪になっている。最近はヴィンセントが起きる前に起きて、寝癖に名前をつけて去るのがマイブームだ。
「ユミルに聞いても……ユミルっていうのは俺のペアなんだが、物凄く賢いんだ。彼に聞いても分からないと言われてな。まあそりゃ俺が分からんならユミルも分かるわけないんだが」
なにやら最近飛行術を練習しているユミルに聞いてみたのだが、芳しい答えは得られなかった。どうやら飛行大会で優勝するつもりらしいが、そんなに得意だったかな……。
飛行大会は学校行事だけど一応休日開催なので、不参加によって減る成績はない。そのため俺は来たる文化祭のため──引いては成績のため採集に向かうつもりだ。
「反抗期かなぁ……セリオンは賢いやつだから、俺の利用価値はまだわかってると思うんだが……でもそれを俺が売り込むのもどうかと思、ん?」
いつの間にか、胸にかかる重みが増していて思わず手を止める。
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