悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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lets休暇

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少し頭に残った薔薇の葉っぱや花びらを振り払い、ついでに体にくっついていた追跡魔法(GPS的なやつ)を適当な……フィレンツェ領から出ないが、ある程度翻弄できる……そうだな、魔力蝶にでも着けておこう。魔力が動力源の魔法生物で、魔物とは少し異なる存在だ。同一視する地域もあるけどな。

「よし」

動きは俊敏で、魔力を持つ人間に懐く傾向がある。俺も隠し持ってる分は多いので呼ぼうと思えば呼べる。その中の一匹に追跡魔法をなすりつけておけば、群れで行動するので特定は難しく、魔力量の多い人間が多いこの屋敷に行動範囲は限られるだろう。

そのまま、魔法を使えば居場所がバレてついてくるので壁を上り塀を越えフィレンツェの屋敷から脱出する。
外壁の一部に隠しておいた外出用の外着を身につければ、ある程度の外面は整うだろう。

(念のため、夜の間に服を隠しといてよかったぜ……)

式典用の、豪奢な飾りのついたフィレンツェのローブを取り出した。別にいつもなら実験用のローブで行ってもいいが……闇市は奴隷の売買も行っており、買いに来るのは貴族が多いのだ。闇オークションとも言う。
その中で侮られないよう、俺もフィレンツェの身分を大っぴらにしていかなければならない。

その辺の茂みでほぼダル着である部屋着を脱ぎ、ジャボ、宝石のペンダント、袖口に滑らかなフリルのついたシルクのシャツ、スタイルの出るズボンにブーツを身につける。さらに豪奢なローブを身に纏えば、顔面偏差値にさえ目を瞑れば誰がどう見てもフィレンツェのお貴族様である。

そのまま普通に降りようとして、いや、遠いな。普段は魔法使ってるから気づいてなかったけど。でも探知されたらセリオンが闇市まで着いてきそうだ。可愛い弟をあんな場所に送るわけにはいかないし……

「あれ玉の輿じゃん玉の輿」
「アーノルド様おひさ~」
「あ」
「あ?」「なに~?」

近所の魔法学校から帰ってきたらしい女子生徒二人が通りがかる。仮にも公爵の息子になんて態度だ……と言うのはおいておいて。ちょうどよかった。
聖歌隊の制服みたいな格好の女子生徒たちに手を振れば、顔見知りの少女たちは疑うことなくスッと箒で降りてきた。うーんこの。男は狼だから気をつけるんだぞ!

「え? マジでごめん、なんか奢るから後ろ乗せて欲しい。色々あって魔法使えないんだよな」
「やばピンチじゃんウケる」
「ウケるな」
「なんだお前乗せてもらうのにその態度は」

本当にピンチなんだぞ。
J Kと言うのは概ねどの世界線でも変わらないノリらしい。特にこの二人は、いけ図々しく元気で上下を関係というものをよく理解していないタイプの少女たちである。

ふわっふわな栗色の髪を高い位置でポニーテールにしてる少女がきゃらきゃらと素直に笑い、気が強そうな紺のショートボブの少女がその様子を見守っていた。俺を乗せてくれそうなのは栗色の子──アイリスだけである。

もう一人──リラは、基本的に俺に塩対応である。俺のこと玉の輿って呼ぶしな。

「てかアーノルド様もなんか食おうよ。どこがいい?」
「ゴブリン亭しかない」
「まぁゴブリン亭だな」
「満場一致じゃん」

アイリスの背中に素直に乗せてもらえば、本当にお腹が空いているらしく一気に上昇する。タマがヒュンってしたぜ!! まぁ最近全然使えないので意味ないんだけどね。あっても。

「ゴブリン亭ってさぁ~。むっちゃ良いんだけどなんか大味じゃな~い? アーノルド様ってああ言うの平気なタイプ?」
「え? あんま感じたこと無い。味濃ければうまいと思う」
「最悪」
「公爵の英才教育なんぼのもんじゃいって感じ」
「なんで俺キレられてるんだこれ」

確かに多少大味だが、不満に思うほどでは無い……と思う。わからん。セリオンとか本気の貴族を連れてきたことがないので……。
ゴブリン亭はフィレンツェの魔法学校に通う生徒行きつけの店で、放課後くらいの時間帯に行けばよく遭遇する。

孤児院時代の友人も通っており、そいつ経由で今の年代ともそこそこに、割と、仲がいい。
少なくとも帰省したのが知られたら顔を出すよう急かされる程度の仲だ。

「てか量多いから良くないか? 全てのアラをあの量で打ち消してると思う。大盛りとかすごいぞ」
「想定の二倍くらいあるよね」
「まぁそう聞かれるとまぁ、そうかも……? いや、味の話してるんであって量ではなくね?」
「それはそう」
「てか、アーノルド様量重視なんだ? キュンなんだけど」
「まぁ男子学生ですので……」
「凄いな、庶民派公爵。一文字で矛盾してる」

別にいいだろ公爵が庶民派でも!
というかこの世界にキュンですってあるんだ。まぁ気合い入れれば作れないことはない造語ではある。言語形態の話とかは気にしたら負けだ。生まれた時から理解できる言語なので、今更今話してる言葉が日本語かどうかとか共通点とか探し始めるとゲシュタルト崩壊を起こす気がする。

長々と話していれば街にたどり着いた。二人乗りは条例違反なのだが、バレなければ犯罪ではないということでね。裏口からコソコソ入り込み、話していた定食屋へ。

「ほんと助かった~! 弟に感知されると追いかけてこられるんだ、だから魔法使えなくてな……」
「え!?!? 弟ヤバ」
「籠の鳥じゃん玉の輿」
「そうでもない。アイツはただ心配性なだけで──」

入ろうとした瞬間。
視界の端に、奴隷商人に繋がれた奴隷達が入った。正確に言えば、そのうちの一人が。

「……どした? アーノルド様」
「うわ、奴隷商人……王都からのか。気分良くないな」
「衛兵呼ぶ?」

闇市のことなど知らないアイリスとリラは不快そうに眉を顰め、奴隷に鞭打って歩かせている奴隷商人を見ていた。フィレンツェ領の民を奴隷にして売ることは如何なる場合も禁じられているが、他領ではその限りではない。また、フィレンツェでは奴隷の売買自体は禁じられていない。

……が、フィレンツェの市民は奴隷の売買を嫌っている。わざわざ労働力を買わなくとも魔法があるからだ。
余裕がある人間にしか人道的判断は取れないしな。

少なくとも、この点に関しての道徳教育は、潔癖なまでにフィレンツェ領の民が圧倒的に他領を上回っていると言えるだろう。

(衛兵に通報されれば厳重注意。その場合……商人は引き上げるだろうな)

女子生徒二人に送迎代として何枚か銅貨を渡す。銅貨とはいえ、これだけあればゴブリン亭のものなら自由に選べて食べられるだろう。

「すまん、これからちょっと用事があってな。飯はまたの機会に」
「絶対行くじゃんこの闇社会ジャンキー」
「ま、玉の輿がどーなろうと私らには関係ないか。衛兵に通報は?」
「言い方。念のためしておいてくれ。飯でも食い終わった後に」
「りょーかい」

物分かりのいい──というか若干呆れられながら解放される。俺はその足で闇市へと向かった。

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