101 / 252
lets休暇
4
しおりを挟む
闇市は貧民街と違い、ある程度の体裁が整っている。また、闇市とは銘打たれているが、その見た目は健全なバザーのようだ。
どこかしこで合法だか非合法だかわからんマジックアイテムや変な草が売ってあり、見栄えのいい値札の方が商品より高い、みたいなものやこんなものがこんな値段で!? みたいなものが取り揃えられている。
「よ! お兄さん! ここからここまで全部買いだぜ!」
「げっっまた来たな坊ちゃん! あんさんが買ったやつ全部本物やからほんま困るわ。商売あがったりやわ」
「なんだ、偽物でも買ってやろうか?」
「いやいや詐欺師は騙すのが生きがいやさかい。騙せんやったら素直に売ったりますわ、ほーれ持ってけ泥棒!」
ひっどい言い草だな。
闇市に行けばまず寄るのがこの狐の獣人が運営する店だ。出店のようになっていて、聞けば店舗の運営許可が全然出ないので仕方なくここで品物を並べているらしい。
どこから持ってきているのか希少な本物のマジックアイテムや素材を精巧な偽物とともに売っていて、俺は気に入っている。
某ゲームの某狐を思い出す相手だ。頑なに本物も含めて持ってくるところとか。
倫理観がそこそこにあるので(偽物を売り捌いている時点で信用できるものではないが)子供の時は全く相手されなかったのだが、買い続けるうちに反応が変化していった。
偽物を手に取った時点で大仰に反応したり、逆に本物は偽物に見せかけてきたりと涙ぐましい努力をしていたはいいものの、俺は本物の魔法使いなため本物が見分けられる。
最近は諦められるようになったぜ。
ただ、今回のメインはこの店ではない。
「あ、爺さんそこの宝石とその箱貰えるか? 金はそうだな、相場の二割り増しはどうかね。よし決まり」
「おっとお嬢ちゃん、いいぬいぐるみだな。ああ逃げなくていい……へぇ、なかなかいい値段じゃないか。色をつけてあげるからお菓子でも買って行きな」
「ばーさん、またとんでもないもん揃えたなぁ。その本棚にある分ならなんでもいいや。適当に五冊ちょうだい」
いやこの店でもあの店でもその店でもないけど!
闇市って楽しいんだよなぁ。時間が溶けていってしまう。ふらふらといろんな店に寄っていけば、俺の腕の中には呪いのぬいぐるみ、曰く付きの宝石、禁書、その他諸々……がどっさりと積まれてしまった。それら全てを持ってきていたトランクに仕込みます。
何かの焼けこげた、少なくともよく知らない植物の焼けた匂いや瑞々しく禍々しい香りの充満する市場を悠々と歩いていると、サーカスの入り口みたいな場所が目に入った。壁際に入り口だけがくっついた異様な光景。そこには柵が置いてあり、封鎖している様子。
無言でそこに近寄り、付近にいた滑稽な格好の道化師に金貨を一枚渡す。
「すまない。ライオンを三頭見せてくれないか? ああ、首はつながっていた方がいい。尻尾はひとつだ」
「へい。足は?」
「たくさん。数えきれないほど」
道化師がひとつお辞儀をして、柵を一つ退ける。適当に笑いかけて中に入れば、壁だと思っていたものがかき消え──まさに、サーカスの中みたいな空間が広がっている。
観客席には、身なりを整え指や腕をいくつも宝石で着飾った中年程度の男女が目立つ。俺のような年齢でここを利用するような人間は相当少ないだろう。真ん中に広がった円状の広場では、鎖に繋がれた合成獣や珍しい髪色の人間、魔物のようなものが並べられていた。
闇市の中でも最も醜悪で、闇が濃く、汚らしい場所。
奴隷オークションだ。
魔物だろうと合成獣だろうとほんの幼い子供だろうと関係ない。欲しい奴隷を選び、愛玩用にでも食用にでも労働力にでも使用する唾棄すべき大人の終着点。奴隷達には契約が結ばれており、血の契約と呼ばれるそれは、基本的に覆せるものではない。
一度結ばれ焼印を入れられたら最後、二度と逆らうことはできないのだ。
「いらっしゃいませアーノルド様。ご無沙汰していたようで……」
「ああ、媚びは売らなくていい。父上がこれを黙認しており、規約違反を見つけられない限り、俺がどうこう言うことはない」
「……なんと寛大なお言葉。感謝いたします」
受付であろう執事服の男が俺をVIP席に通そうとしたので、手を振って適当な場所に座った。
少なくとも、奴隷の売買は非合法ではない。また、見た感じ我がフィレンツェの領民も居ない様子だ。俺がいきりたって怒るような場面でもない。
ま、あまり好んで来たい場所でもないがな。
無言で見守っていると、先ほどまで合成獣の火の輪潜りをしていた司会者が手を挙げる。競りの合図だ。
「二千万!!」「二千五百万!」
「四千万!」「六千!」
巨大な合成獣だ。よく出来ている。
魂の純度も悪くない。
あれは長く生きるだろう。飼い主より遥かにな。あの合成獣にとっては瞬きの間、愚かな人間のごっこ遊びに付き合っていればいいだけだ。
結果は七千万。妥当な値段で競り落とされた合成獣を司会者が裏に下がらせる。今のうちに契約してしまわないのは、最後までこの胸糞悪いショーを見せるためだろう。
その後も、それぞれ珍しい生き物や普通の奴隷を競りにかける時間が挟まった。つまらなく思いながらぼうっと見ていれば、司会者が勿体つけたようにとある男を引きずってくる。
二メートルはあろうかという高身長。筋肉質で、その頭には一対の狼耳。ギラギラと鋭い白金の瞳にはほのかに別の色が混じっているが──判別は付かない。
「お次は──人狼の純血! 人にも狼にも成れない不完全個体ですが、この通り見目が良く力が強い! 労働力にも愛玩用にも!」
はぁ。
まあ知っていたが、所詮は裏社会の下っ端だ。美しい服と綺麗な宝石で身を飾っていようと、見る目はない。
司会者が手を挙げた。
「じゃ、三億」
「──は?」
「聞こえなかったか? 三億だ」
最初に値段を口にしたのは俺だった。
さて。誰も対抗しないのか? それならさっさと貰いたいんだが。
どこかしこで合法だか非合法だかわからんマジックアイテムや変な草が売ってあり、見栄えのいい値札の方が商品より高い、みたいなものやこんなものがこんな値段で!? みたいなものが取り揃えられている。
「よ! お兄さん! ここからここまで全部買いだぜ!」
「げっっまた来たな坊ちゃん! あんさんが買ったやつ全部本物やからほんま困るわ。商売あがったりやわ」
「なんだ、偽物でも買ってやろうか?」
「いやいや詐欺師は騙すのが生きがいやさかい。騙せんやったら素直に売ったりますわ、ほーれ持ってけ泥棒!」
ひっどい言い草だな。
闇市に行けばまず寄るのがこの狐の獣人が運営する店だ。出店のようになっていて、聞けば店舗の運営許可が全然出ないので仕方なくここで品物を並べているらしい。
どこから持ってきているのか希少な本物のマジックアイテムや素材を精巧な偽物とともに売っていて、俺は気に入っている。
某ゲームの某狐を思い出す相手だ。頑なに本物も含めて持ってくるところとか。
倫理観がそこそこにあるので(偽物を売り捌いている時点で信用できるものではないが)子供の時は全く相手されなかったのだが、買い続けるうちに反応が変化していった。
偽物を手に取った時点で大仰に反応したり、逆に本物は偽物に見せかけてきたりと涙ぐましい努力をしていたはいいものの、俺は本物の魔法使いなため本物が見分けられる。
最近は諦められるようになったぜ。
ただ、今回のメインはこの店ではない。
「あ、爺さんそこの宝石とその箱貰えるか? 金はそうだな、相場の二割り増しはどうかね。よし決まり」
「おっとお嬢ちゃん、いいぬいぐるみだな。ああ逃げなくていい……へぇ、なかなかいい値段じゃないか。色をつけてあげるからお菓子でも買って行きな」
「ばーさん、またとんでもないもん揃えたなぁ。その本棚にある分ならなんでもいいや。適当に五冊ちょうだい」
いやこの店でもあの店でもその店でもないけど!
闇市って楽しいんだよなぁ。時間が溶けていってしまう。ふらふらといろんな店に寄っていけば、俺の腕の中には呪いのぬいぐるみ、曰く付きの宝石、禁書、その他諸々……がどっさりと積まれてしまった。それら全てを持ってきていたトランクに仕込みます。
何かの焼けこげた、少なくともよく知らない植物の焼けた匂いや瑞々しく禍々しい香りの充満する市場を悠々と歩いていると、サーカスの入り口みたいな場所が目に入った。壁際に入り口だけがくっついた異様な光景。そこには柵が置いてあり、封鎖している様子。
無言でそこに近寄り、付近にいた滑稽な格好の道化師に金貨を一枚渡す。
「すまない。ライオンを三頭見せてくれないか? ああ、首はつながっていた方がいい。尻尾はひとつだ」
「へい。足は?」
「たくさん。数えきれないほど」
道化師がひとつお辞儀をして、柵を一つ退ける。適当に笑いかけて中に入れば、壁だと思っていたものがかき消え──まさに、サーカスの中みたいな空間が広がっている。
観客席には、身なりを整え指や腕をいくつも宝石で着飾った中年程度の男女が目立つ。俺のような年齢でここを利用するような人間は相当少ないだろう。真ん中に広がった円状の広場では、鎖に繋がれた合成獣や珍しい髪色の人間、魔物のようなものが並べられていた。
闇市の中でも最も醜悪で、闇が濃く、汚らしい場所。
奴隷オークションだ。
魔物だろうと合成獣だろうとほんの幼い子供だろうと関係ない。欲しい奴隷を選び、愛玩用にでも食用にでも労働力にでも使用する唾棄すべき大人の終着点。奴隷達には契約が結ばれており、血の契約と呼ばれるそれは、基本的に覆せるものではない。
一度結ばれ焼印を入れられたら最後、二度と逆らうことはできないのだ。
「いらっしゃいませアーノルド様。ご無沙汰していたようで……」
「ああ、媚びは売らなくていい。父上がこれを黙認しており、規約違反を見つけられない限り、俺がどうこう言うことはない」
「……なんと寛大なお言葉。感謝いたします」
受付であろう執事服の男が俺をVIP席に通そうとしたので、手を振って適当な場所に座った。
少なくとも、奴隷の売買は非合法ではない。また、見た感じ我がフィレンツェの領民も居ない様子だ。俺がいきりたって怒るような場面でもない。
ま、あまり好んで来たい場所でもないがな。
無言で見守っていると、先ほどまで合成獣の火の輪潜りをしていた司会者が手を挙げる。競りの合図だ。
「二千万!!」「二千五百万!」
「四千万!」「六千!」
巨大な合成獣だ。よく出来ている。
魂の純度も悪くない。
あれは長く生きるだろう。飼い主より遥かにな。あの合成獣にとっては瞬きの間、愚かな人間のごっこ遊びに付き合っていればいいだけだ。
結果は七千万。妥当な値段で競り落とされた合成獣を司会者が裏に下がらせる。今のうちに契約してしまわないのは、最後までこの胸糞悪いショーを見せるためだろう。
その後も、それぞれ珍しい生き物や普通の奴隷を競りにかける時間が挟まった。つまらなく思いながらぼうっと見ていれば、司会者が勿体つけたようにとある男を引きずってくる。
二メートルはあろうかという高身長。筋肉質で、その頭には一対の狼耳。ギラギラと鋭い白金の瞳にはほのかに別の色が混じっているが──判別は付かない。
「お次は──人狼の純血! 人にも狼にも成れない不完全個体ですが、この通り見目が良く力が強い! 労働力にも愛玩用にも!」
はぁ。
まあ知っていたが、所詮は裏社会の下っ端だ。美しい服と綺麗な宝石で身を飾っていようと、見る目はない。
司会者が手を挙げた。
「じゃ、三億」
「──は?」
「聞こえなかったか? 三億だ」
最初に値段を口にしたのは俺だった。
さて。誰も対抗しないのか? それならさっさと貰いたいんだが。
393
あなたにおすすめの小説
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼2025年9月17日(水)より投稿再開
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
BLゲームの脇役に転生したはずなのに
れい
BL
腐男子である牧野ひろは、ある日コンビニ帰りの事故で命を落としてしまう。
しかし次に目を覚ますと――そこは、生前夢中になっていた学園BLゲームの世界。
転生した先は、主人公の“最初の友達”として登場する脇役キャラ・アリエス。
恋愛の当事者ではなく安全圏のはず……だったのに、なぜか攻略対象たちの視線は主人公ではなく自分に向かっていて――。
脇役であるはずの彼が、気づけば物語の中心に巻き込まれていく。
これは、予定外の転生から始まる波乱万丈な学園生活の物語。
⸻
脇役くん総受け作品。
地雷の方はご注意ください。
随時更新中。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
転生したが壁になりたい。
むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。
ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。
しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。
今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった!
目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!?
俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!?
「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる