悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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lets休暇

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闇市は貧民街と違い、ある程度の体裁が整っている。また、闇市とは銘打たれているが、その見た目は健全なバザーのようだ。
どこかしこで合法だか非合法だかわからんマジックアイテムや変な草が売ってあり、見栄えのいい値札の方が商品より高い、みたいなものやこんなものがこんな値段で!? みたいなものが取り揃えられている。

「よ! お兄さん! ここからここまで全部買いだぜ!」
「げっっまた来たな坊ちゃん! あんさんが買ったやつ全部本物やからほんま困るわ。商売あがったりやわ」
「なんだ、偽物でも買ってやろうか?」
「いやいや詐欺師は騙すのが生きがいやさかい。騙せんやったら素直に売ったりますわ、ほーれ持ってけ泥棒!」

ひっどい言い草だな。
闇市に行けばまず寄るのがこの狐の獣人が運営する店だ。出店のようになっていて、聞けば店舗の運営許可が全然出ないので仕方なくここで品物を並べているらしい。
どこから持ってきているのか希少な本物のマジックアイテムや素材を精巧な偽物とともに売っていて、俺は気に入っている。

某ゲームの某狐を思い出す相手だ。頑なに本物も含めて持ってくるところとか。

倫理観がそこそこにあるので(偽物を売り捌いている時点で信用できるものではないが)子供の時は全く相手されなかったのだが、買い続けるうちに反応が変化していった。

偽物を手に取った時点で大仰に反応したり、逆に本物は偽物に見せかけてきたりと涙ぐましい努力をしていたはいいものの、俺は本物の魔法使いなため本物が見分けられる。
最近は諦められるようになったぜ。

ただ、今回のメインはこの店ではない。

「あ、爺さんそこの宝石とその箱貰えるか? 金はそうだな、相場の二割り増しはどうかね。よし決まり」
「おっとお嬢ちゃん、いいぬいぐるみだな。ああ逃げなくていい……へぇ、なかなかいい値段じゃないか。色をつけてあげるからお菓子でも買って行きな」
「ばーさん、またとんでもないもん揃えたなぁ。その本棚にある分ならなんでもいいや。適当に五冊ちょうだい」

いやこの店でもあの店でもその店でもないけど!
闇市って楽しいんだよなぁ。時間が溶けていってしまう。ふらふらといろんな店に寄っていけば、俺の腕の中には呪いのぬいぐるみ、曰く付きの宝石、禁書、その他諸々……がどっさりと積まれてしまった。それら全てを持ってきていたトランクに仕込みます。

何かの焼けこげた、少なくともよく知らない植物の焼けた匂いや瑞々しく禍々しい香りの充満する市場を悠々と歩いていると、サーカスの入り口みたいな場所が目に入った。壁際に入り口だけがくっついた異様な光景。そこには柵が置いてあり、封鎖している様子。

無言でそこに近寄り、付近にいた滑稽な格好の道化師に金貨を一枚渡す。

「すまない。ライオンを三頭見せてくれないか? ああ、首はつながっていた方がいい。尻尾はひとつだ」
「へい。足は?」
「たくさん。数えきれないほど」

道化師がひとつお辞儀をして、柵を一つ退ける。適当に笑いかけて中に入れば、壁だと思っていたものがかき消え──まさに、サーカスの中みたいな空間が広がっている。

観客席には、身なりを整え指や腕をいくつも宝石で着飾った中年程度の男女が目立つ。俺のような年齢でここを利用するような人間は相当少ないだろう。真ん中に広がった円状の広場では、鎖に繋がれた合成獣キメラや珍しい髪色の人間、魔物のようなものが並べられていた。

闇市の中でも最も醜悪で、闇が濃く、汚らしい場所。
奴隷オークションだ。

魔物だろうと合成獣だろうとほんの幼い子供だろうと関係ない。欲しい奴隷を選び、愛玩用にでも食用にでも労働力にでも使用する唾棄すべき大人の終着点。奴隷達には契約が結ばれており、血の契約と呼ばれるそれは、基本的に覆せるものではない。
一度結ばれ焼印を入れられたら最後、二度と逆らうことはできないのだ。

「いらっしゃいませアーノルド様。ご無沙汰していたようで……」
「ああ、媚びは売らなくていい。父上がこれを黙認しており、規約違反を見つけられない限り、俺がどうこう言うことはない」
「……なんと寛大なお言葉。感謝いたします」

受付であろう執事服の男が俺をVIP席に通そうとしたので、手を振って適当な場所に座った。
少なくとも、奴隷の売買は非合法ではない。また、見た感じ我がフィレンツェの領民も居ない様子だ。俺がいきりたって怒るような場面でもない。
ま、あまり好んで来たい場所でもないがな。

無言で見守っていると、先ほどまで合成獣の火の輪潜りをしていた司会者が手を挙げる。競りの合図だ。

「二千万!!」「二千五百万!」
「四千万!」「六千!」

巨大な合成獣だ。よく出来ている。
魂の純度も悪くない。
あれは長く生きるだろう。飼い主より遥かにな。あの合成獣にとっては瞬きの間、愚かな人間のごっこ遊びに付き合っていればいいだけだ。

結果は七千万。妥当な値段で競り落とされた合成獣を司会者が裏に下がらせる。今のうちに契約してしまわないのは、最後までこの胸糞悪いショーを見せるためだろう。

その後も、それぞれ珍しい生き物や普通の奴隷を競りにかける時間が挟まった。つまらなく思いながらぼうっと見ていれば、司会者が勿体つけたようにとある男を引きずってくる。

二メートルはあろうかという高身長。筋肉質で、その頭には一対の狼耳。ギラギラと鋭い白金の瞳にはほのかに別の色が混じっているが──判別は付かない。

「お次は──人狼ウェアウルフの純血! 人にも狼にも成れない不完全個体ですが、この通り見目が良く力が強い! 労働力にも愛玩用にも!」

はぁ。
まあ知っていたが、所詮は裏社会の下っ端だ。美しい服と綺麗な宝石で身を飾っていようと、見る目はない。

司会者が手を挙げた。

「じゃ、三億」
「──は?」
「聞こえなかったか? 三億だ」

最初に値段を口にしたのは俺だった。
さて。誰も対抗しないのか? それならさっさと貰いたいんだが。

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