陛下の溺愛するお嫁様

さらさ

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㉛熱毒虫(クロード)

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「レイラ嬢、出発の準備は出来た?」

レイラ嬢がイルザンド王国から戻って五日後、慌ただしく今度はエレオルト王国に向けて出発しなければならない。
今度は移動は七日、滞在期間は五日間だ。
その後、また七日掛けて戻ってくる予定になっている。王太子の結婚式は滞在四日目で、それまで俺は各国の王との対談や、エレオルト王国の視察をすることになっている。

「ええ、終わってるわ。わざわざ迎えに来てくれてありがとう。」

「旅続きで疲れているだろうに、すまない。」

今回レイラ嬢は俺の婚約者として同行する事になっている。

「ミカと一緒にお出かけ出来るのは嬉しいわ。」

レイラ嬢が紫の瞳をキラキラさせて微笑む。白銀の髪には青薔薇が付けられている。
レイラ嬢の白銀の髪に青薔薇が映えて、レイラ嬢をさらに美しく見せてくれている。

「レイラ嬢、愛してるよ。」

俺は思わずレイラ嬢を抱き寄せる。

「わ、わたくしもよ。」

レイラ嬢が照れながらも答えてくれる。それがどんなに嬉しいか、レイラ嬢には分かるだろうか?

「はいはい、早く行かないと送れますよ。」

シドが空気を壊すように現実へと引き戻す。

「分かってる。行こう。」

そうして、俺達は帝都を出発した。
今回の旅はちゃんと時間を作れたので、行きも帰りもレイラ嬢と一緒だ。
同行者は護衛が6人と、ライルとシドとミーナだ。
皇帝の移動にしては護衛が少ないと言われるが、これでも付けた方だ。
正直、俺とシドが居れば事足りる。ライルもシドには叶わないが、その辺の騎士よりは遥かに強い。俺が鍛えたからな。
なので、コンパクトな方が身動きが取りやすくていい。

レイラ嬢とゆっくり旅が出来るのは本当に嬉しい。

「ねえ、ミカ、今回行くエレオルト王国には各国の王族の方も集まるのよね?」

「そうだよ。」

「イルザンド国王様も来るのかしら?滞在中その話を聞かなかったわね。」

「来るよ。今回は王と王妃様だけだからヘンリー王子やグレイシス侯爵は来ないけどね。」

レイラ嬢は顔見知りがいてくれた方が安心なんだろうな。
残念ながら、ヘンリー王子もジェフリー公爵も来ない。

「そうなのね。」

レイラ嬢は少し寂しそうにする。
 
「レイラ嬢には外交なんて窮屈な事に付き合ってもらわないといけない。すまない。」

「何を言っているの?皇帝陛下の妻になるんですもの。それ位は覚悟しているわ。」

そのレイラ嬢の表情に、強くなったと思う。守ってばかりいてはダメだと思いつつも、つい護ってしまうレイラ嬢も、少しずつ成長している。

「ありがとう。」

俺はレイラ嬢の額にキスを落とした。



それから旅は続き、七日目の朝。

「今日の夕方にはエレオルト王国の城に入れるだろう。あと少しだ。」

俺は馬車に乗り込むと、レイラ嬢に話しかける。

「そうね。」

ん?レイラ嬢、なんか元気がない。

「どうした?」

俺の心配にレイラ嬢は笑顔で答える。

「ちょっと疲れちゃったのかしら。」

「疲れが出たか?しばらく眠っていていいよ。」

そう言って俺はレイラ嬢の頭を俺の肩に引き寄せた。

レイラ嬢は素直に従って、しばらくして眠りに落ちた。
馬車の中は俺とレイラ嬢とミーナしかいない。
シドとライルは馬で付いてきているので、レイラ嬢も安心して眠ることが出来たんだろう。

しばらく外の景色を眺めながら、城に近づくに連れて街並みが立派になっていくのを眺めていた。
ふと、肩に乗るレイラ嬢の頭が熱いことに気付いた。

「レイラ嬢?」

俺はそっと額に手を置いて驚いた。

「熱い!!ミーナ、馬車を止めるように言ってくれ!」

俺はミーナにすぐに指示を出して眠るレイラ嬢を見る。

顔を真っ赤にして息遣いも荒くなっている。
すごい熱だ。

「どうしました?」

馬車が止まると、すぐにシドが顔を出す。

「シド、レイラが熱を出してるんだ、観てくれ!」

肩に乗せていたレイラ嬢の頭を俺の膝の上に乗せて横にならせながら言うと、慌ててシドが馬車の中に入ってくる。

「ミーナ、水と布を用意して!」

シドが素早く指示を出す。
シドが脈を取ったり、瞳孔を見たりしている間にも、熱が上がっているのか、息遣いがさらに酷くなる。

「レイラに何があったんだ?」

俺の質問に、しばらく無言のシド。
何かを探しているようで、レイラ嬢の腕を観察している。

「陛下、レイラ嬢の足を見ても構いませんか?」

シドの言葉に、何言ってるんだ、ダメに決まっているだろう!と言いたいところだが、医師のシドが言っているのだ。何かあるのだろう。

「ああ、分かった。」

俺はレイラ嬢のドレスの裾をめくって膝辺りまでシドに見えるようにする。

「あった!」

しばらくレイラ嬢の脚をしげしげと眺めていたシドがなにかを見つけたように叫ぶ。

「何があったんだ?」

シドは薬を染み込ませた布で脚を覆うとナイフで何かをレイラ嬢の脚から取った。

「熱毒虫です。」

「熱毒虫?」

聞いた事がない。

「この辺りの森に稀にいる虫です。滅多に居ないそうですが、昨日の野営のときですかね、急に高熱が出る症状はこの虫の特徴なのでまさかとは思いましたが・・・」

そう言ってシドは虫を潰す。

「どうなるんだ?」

「虫が食いついたまま気が付かないと、食いついてから一日後くらいに突如高熱が出ます。その後高熱が続いて、何もしなければ四日で死にます。」

シドの言葉に驚愕する。焦るが、俺が焦ってもしょうがない。落ち着け。

「何とかならないのか?」

「今熱毒虫は取りました。この国にはこの虫が稀に現れるのは知っていたので、念の為解毒薬は持ってきています。」

シドはカバンの中から小瓶を取り出す。

「この薬を飲ませてやってください。」

シドは俺にその薬を渡す。
確かに、今のレイラ嬢はな何かを飲む元気もないくらいにうなされている。

俺は薬を受け取ると、口に含んでレイラ嬢に口移しで飲ませる。

レイラ嬢は上を向いた状態で顎を上げられて、口に流し込まれた薬を喉を鳴らして飲み込んだ。

「後は?どうすればいい?」

「後は安静にする以外ないです。虫を取って解毒薬も飲んだので、二~三日で高熱は引きます。その後一週間は微熱が続くと思うので安静が必要ですが・・・この虫、弱っている人に寄生するタイプなので、元気な人には寄ってこないんですけどね、レイラ嬢、疲れが溜まってたんでしょうね。」

シドの言葉に、やはり無理をさせたか・・・と後悔した。

「とりあえず、城まで行ってちゃんとしたベッドに休ませてもらいましょう。」

シドの言葉に、一行は再び城を目指して動き出した。

ミーナが用意してくれた濡れ布を額に掛けてやると少し楽になるのか、息遣いがマシになる。けれど、すぐに布が熱くなるのでまた水に濡らして掛けてやる。
馬車の中なので足を伸ばして寝かせてやれないのが可哀想だ。
レイラ嬢は俺の膝の上で息を荒く、苦しそうにしている。
可哀想に、変わってやれるなら俺が変わってやりたい。

とにかく、早くエレオルト城に着いてくれ・・・



    
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