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㉚贈り物(クロード)
しおりを挟むリサが連れて行かれるのを見届けたあと、俺はレイラ嬢の肩を抱き寄せる。
「わたくし、リサ様を不幸にしてしまったわ。やっぱりわたくしが上手く悪役令嬢を出来なかったからなんだわ。」
涙目になりながら俺に訴えるレイラ嬢。
この子はどうしてここまで他人の為に心を痛めることが出来るのか・・・
彼女はこの世界が自分の知ってるゲームという物語の世界だと思っている。リサはその中のヒロインだったらしい。
「レイラ嬢のせいなんかじゃないよ。」
俺はレイラ嬢の目元を親指で拭う。
「レイラ嬢の知ってるリサの性格はあんなだった?」
俺の質問に、レイラ嬢は首を傾げてしばらく考える。
なにかを思い至ったのか、そうか!と小さく呟いた。
「ここは君の思ってる世界と似てるけど、また違う世界なんだよ。現に、レイラ嬢は全然悪役なんかじゃないじゃないか。」
俺はそう言ってレイラ嬢の手を取って甲にキスをする。
「レイラ嬢は俺の可愛い天使だよ。」
俺の言葉にレイラ嬢は頬を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
「はいはい、二人だけで世界に入らないでください。俺たちにも分かるように説明して貰えないですか?さっきの下女は何ですか?」
シドの言葉にレイラ嬢が我に返る。
チッ、可愛いレイラ嬢をもう少し眺めていたかったのに・・・
「お二人の愛の深さに感動したわ!」
アイリスがまた目をキラキラさせて俺たちを見ている。
「陛下、こんな目立つところに居てはレイラ様が可哀想ですよ。」
ライルも俺の後ろから注意をしてくる。
そう言われて辺りを見ると、遠巻きに女達が俺を見ているのが目に入った。
それは、恋、憧れ、トキメキを宿した瞳だ。そして、嫉妬の目をレイラ嬢に向けている者もいる。
確かに、可哀想だな。
俺はマントでレイラ嬢を隠すように肩を抱くと、その場を離れた。
離宮へ戻ると、リサについてレイラ嬢の言うゲームとやらの話は省いて大まかな説明をした。
「何それ!お姉様可哀想!そんな事があったの?」
俺の話を聞いて一番に怒りを顕にしたのはアイリスだった。
「リサ様さえ居なかったらレイラお姉様はヘンリー王子様と結婚していたんじゃないの?あれ?」
アイリスは勢いよく話してから、困った顔をする。
「でも、ヘンリー王子様と結婚していたらお兄様は失恋して、私もヘンリー王子様には会うことはなかったの?あれ?あの女が邪魔してくれたおかげ?」
アイリスがどう怒っていいのかわからなくなっている。
「俺はレイラ嬢が幸せになってくれるならそれでいいと思っていたけど、婚約破棄になってなかったら、レイラ嬢を奪いに行ってたかもな。」
「さすがお兄様ですわ!」
アイリスが嬉しそうに俺を見る。
また、なんか想像しているんだろう。アイリスってこんな夢見る乙女だったか?
レイラ嬢が変えたのだろうか?
元々俺は婚約破棄されようとするレイラ嬢を見守りはしていたが、それを止める気は無かったから、俺も自分の都合のいいようにさせてもらってた。但し、レイラ嬢が傷付いて泣くような事があったら許すつもりはなかったけど。
「わたくし、ミカが好きだって気がついた時にはヘンリー王子様からの婚約破棄の悲しみも何処かへ消えてしまっていたの。いつも一緒に居てくれたミカの事を当たり前に思ってしまっていたのよ。気がつてけ良かったわ。」
レイラ嬢が照れながらも、うれしそうに俺を見つめてくれる。
それを見て、俺はライルに預かってもらっていた箱を受け取る。
「レイラ嬢、誕生日おめでとう。」
俺は小さなサファイアの付いた青薔薇の髪飾りをレイラ嬢の髪に着けた。
「え?え?誕生日?」
レイラ嬢が驚いて口をぱくぱくさせている。
可愛い。
思わずくくっと笑ってしまう。
「今日はレイラの十七歳の誕生日だろ?」
「あ、・・・そうでしたわ!」
「お姉様、おめでとう!」
「レイラ嬢、おめでとうございます!」
みんながレイラ嬢にお祝いの言葉を口々に言う。
「レイラお姉様、髪飾りとてもお似合いよ!青薔薇はお兄様の瞳の色ね、サファイアも帝国の象徴で、お兄様の瞳の色なのよね。」
アイリスに言われて、自分が何を付けられたのか分かったのか、レイラ嬢の顔が綻ぶ。
「いつも付けていられるように小ぶりの物を作ったんだ。」
「ミカ、ありがとう。とっても嬉しいわ!」
レイラ嬢は本当に嬉しそうに自分の髪に付けられた髪飾りをそっと手で包んで大事そうにする。
「大事にするわね。」
嬉しそうににっこり笑ったレイラ嬢の笑顔はやっぱり天使の笑顔だ。
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