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㉞晩餐会(クロード)
しおりを挟むエレオルト王との手合せが終わった後、見学していた各国の王達に俺は拍手で迎えられ、その後、エレオルト王国を案内された後、王達との会談を行った。
俺は皇帝になるまで全く社交界に出ていなかったので、圧倒的に人脈が足りない。
そういった意味でも、エレオルト王の対応は有難かった。恐らく、手合わせを見せる事で王達に受け入れられやすくしてくれたのだろう。
夕刻近くまで会談を行った後、晩餐会までしばらく解散となったので、俺は慌てて部屋へ戻った。
「お帰りなさい。お疲れ様でした。」
部屋に入ると、シドが声をかけてくれる。
「レイラの容態は?」
「相変わらず、高熱は引きません。だけど、昼間何度か目を覚ましたので、水を少し飲みましたよ。」
「そうか。」
シドの報告に少しほっとする。
だけど、高熱のままなのは変わらない。
俺はレイラ嬢の眠るベッドまで行くと、ベッドの脇に腰掛けてレイラ嬢の額に手をやる。
額は相変わらず熱い。今は静かに寝ているけど、かなり辛いはずだ。
「陛下も少し休んでください。朝から気を張りっぱなしだったでしょう?」
レイラ嬢を見つめていると、ライルが飲み物を持ってきてくれる。
「ありがとう。」
俺は受け取ると一気に飲み干した。
「晩餐会まで横になるから時間になったら起こしてくれ。」
ライルに言いながらグラスを渡すと、そのままレイラ嬢の眠るベッドの枕元に倒れ込んだ。
レイラ嬢の息遣いを感じながらしばらく目を閉じた。
しばらくして、ライルの声に目を開ける。
「陛下、そろそろお時間です。」
「分かった。」
俺はレイラ嬢の様子を見て額にキスを落とすと、ベッドから立ち上がって支度を始めた。
「陛下、素敵です。」
ミーナが支度を終えた俺を見て褒めてくれる。
ミーナはレイラ嬢の所で執事をしていた頃からの元同僚だ。俺の事を憧れの目で見ることもしばしばあるが、決して表立って表情を出したりしない。
「お嬢様がご一緒出来ないので、陛下に女性が群がるのが目に見えます!陛下はお嬢様一筋なのは重々承知しておりますが、どうかお気を付け下さいませ。」
ミーナに釘を刺されるまでもないが、とりあえず頷いておく。
「分かってるよ。俺はレイラ嬢以外興味ない。」
「では、行ってらっしゃいませ。」
ミーナは深々と礼をして俺を送り出す。
「行ってくる。レイラの事は頼んだ。」
晩餐会会場はテーブルではなく立食形式になっていた。
お互い垣根なく話ができるようにとのエレオルト王の配慮らしい。
俺は会場の中を一人歩く。
今日はエレオルト王国の貴族令嬢も呼ばれているらしく、やたらと女性が多い。ミーナの予感的中だな。
エレオルト王もなかなかしたたかだな。自国の令嬢を他国の王が見初めると、エレオルト王にとっては優位に立てる。
俺が一人でいるのを令嬢達がチラチラと見ているが無視する。
「ライル、すまんが少し離れて歩いてくれ。」
「は、何故でしょう?」
「目立つからだ。」
普段は俺とレイラ嬢が目立っているのはわかっている。だが、レイラ嬢がいないと、俺の後ろにいるライルが俺を引立てる。
本人は気がついていないようだが、ライルは男前だ。ライルは俺より二歳年上の二十二歳、俺と同じくらいの長身で、金髪碧眼の整った顔立ちをしているので目立つ。俺も自分が目立っている自覚はある。俺の後ろにライルが居ると、相乗効果でとても目立つのだ。
とりあえず声をかけられないよう、今日話をした王達に挨拶をして回ろう。
一通り挨拶をした後、俺が一人になるのを狙っている令嬢から逃れるように中庭に出る。
「ライル、飲み物を頼む。」
俺の言葉に、ライルが飲み物を取りに行く。
それと入れ違いに、一人の女性が現れる。
「ルシリア皇帝陛下、ご一緒してよろしいかしら?」
俺に近づいてきたのは我が帝国の西に位置し、エレオルト王国とも隣接しているシーリカ王国の女王、オリビア女王だ。
彼女は三十代だったと思うが、見た目は若く見える。
さっきから俺と話がしたいのか、様子を伺っているのは知っていたので、あえてライルを外した。
「これはオリビア女王様、お初にお目にかかります。」
「そうね、話をするのは始めてね、でもあなたは目立つからずっと見てたわよ。」
ん?俺を狙っているのか?
「今日のエレオルト国王との手合わせ、見させていただいたわ。素晴らしい剣技をお持ちね。」
そう言って手に持ったふたつのワイングラスに自らワインを注いで、一方を俺に差し出す。
「お褒め頂き光栄ですね。」
俺は差し出されたワインを受け取りながら
オリビア女王にほほ笑みかける。
「ルシリア皇帝陛下はなんというお名前だったかしら?」
ワインを口にしながら俺を見るオリビア女王は明らかに俺に興味を持っている目だ。
「クロードです。」
「まぁ、素敵なお名前ね、クロード皇帝陛下。ここでこうしてお目見え出来たのも何かの縁ね、これからもよろしくお願いしますわ。」
そう言って、手を差し出す。
俺が手を取って握手をすると、オリビア女王はワインを一気に飲み干した。
「まだまだあるので沢山飲んでね。」
そう言いながら、側仕えからワインボトルを受け取ると手酌で飲みだした。
俺はそれを見ながらワインを一口口にする。
「オリビア女王様はワインがお好きなんですね、今度うちの自慢のワインをお送り致しますよ。」
「まあ、ありがとう。楽しみね。」
俺は愛想笑いの笑顔を浮かべてから違和感に気が付く。
身体が痺れる。声が出ない。・・・しまった、油断した!そう思うのと同時に俺は意識を失った。
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