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第一章
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「で? 何か用事があってうちに来たんでしょう?」
職場では同期でも、玲央は御曹司であり職場の上司だ。そんな玲央の顔色を窺って、自分から意見を述べず玲央の言うことに従っていた私だけど、まさか自分から用件を問われると思っていなかったのだろう。玲央は豆鉄砲を食らった鳩のように、間抜けな表情を浮かべている。
「あ、ああ……。俺も今、仕事終わりでさ。その……、真冬と一緒に食事でもできたらなと思って……」
玲央の言葉が、どんどん尻すぼみしていく。
私のことを『いつでも抱ける都合のいい女』扱いされるなんて、まっぴらだ。
私は少し大げさに溜め息を吐き、キッチンへと向かう。
「そう……。あいにくだけど、今日は疲れていてご飯を作る気力がないからごらんのとおり、お弁当を買って帰って食べ終えたところなの。冷蔵庫の中に食材はないし、今日はご飯も炊いてないんだ。それに第一、彼氏ならともかく、同級生かつ上司である私があなたに私がご飯を食べさせてあげる理由はないと思うんだけど?」
私が正論を口にすると、玲央は瞠目している。まさか職場では自分に従順な私が、真っ向から牙を剥くと思っていなかったのだろう。
「そ、それはそうだけど……」
「で、食事以外に何か用事でもある?」
私はできるだけ自分の感情を抑え、冷静に言葉を発している。けれど、その声は思っていたよりも低く、玲央も意表を突かれたのか、いつもの俺様モードは鳴りを潜めている。
「…………」
玲央は黙ったままだ。その表情は、いつもと違う私の態度に戸惑っているように見える。
当たり前だ。仕事上ではあなたに従順な私だけど、プライベートではそれをやめるんだ。
「用事がないなら、帰ってもらっていい? 私、ちょっと疲れてるんだ。今日は早く休みたい」
私はそう言うと、玲央を無視して玄関へと向かった。
さあいつでもお帰りくださいと、玄関の鍵を開け、扉を開ける。
そんな私の姿を、玲央は呆然と見つめている。
「夜だし外から丸見えになるでしょう。それに何より、防犯上のこともあるから、早く帰ってくれる?」
私はそう言って玲央を追い出すと、玄関の鍵とドアガードをしっかりと掛けた。
玲央の足音は聞こえない。おそらくまだ外にいるのだろう。
でもそんなの知ったことではない。私はドアの施錠を終えると、玄関の明かりを消し、部屋へと戻る。テーブルの上に散乱した器をざっと洗い、ゴミ箱へと捨てると、テレビのスイッチを切り、浴室へと向かった。
蛇口から出るお湯をシャワーに切り替え、お湯を最大まで出すと、勢いよくシャワーからお湯が飛び出してくる。私は俯いたまま、シャワーを頭から浴びた。
頭上からお湯が流れ落ちる。顔にもお湯が飛び散り、ずぶ濡れだ。
これはお湯か、涙なのか、その境目がわからない。
私の泣き声は、シャワーの水音にかき消されている。
そうだ、あんなやつのために泣いているなんて、だれにも知られたくない。
今夜、思いっきり泣いて、忘れるんだ。
玲央に抱かれたことも、玲央への思いも――
入浴を済ませ、洗面所でスキンケアを済ませると、タオルとドライヤーを持ってリビングへと戻る。先ほど消したテレビを点け、サブスクのチャンネルに切り替える。再生させる前に髪の毛を乾かし、リラックスモードになったところで番組を再生させる。
楽しみにしていた番組なのに、玲央のせいで全然内容が頭の中に入ってこない。
職場では同期でも、玲央は御曹司であり職場の上司だ。そんな玲央の顔色を窺って、自分から意見を述べず玲央の言うことに従っていた私だけど、まさか自分から用件を問われると思っていなかったのだろう。玲央は豆鉄砲を食らった鳩のように、間抜けな表情を浮かべている。
「あ、ああ……。俺も今、仕事終わりでさ。その……、真冬と一緒に食事でもできたらなと思って……」
玲央の言葉が、どんどん尻すぼみしていく。
私のことを『いつでも抱ける都合のいい女』扱いされるなんて、まっぴらだ。
私は少し大げさに溜め息を吐き、キッチンへと向かう。
「そう……。あいにくだけど、今日は疲れていてご飯を作る気力がないからごらんのとおり、お弁当を買って帰って食べ終えたところなの。冷蔵庫の中に食材はないし、今日はご飯も炊いてないんだ。それに第一、彼氏ならともかく、同級生かつ上司である私があなたに私がご飯を食べさせてあげる理由はないと思うんだけど?」
私が正論を口にすると、玲央は瞠目している。まさか職場では自分に従順な私が、真っ向から牙を剥くと思っていなかったのだろう。
「そ、それはそうだけど……」
「で、食事以外に何か用事でもある?」
私はできるだけ自分の感情を抑え、冷静に言葉を発している。けれど、その声は思っていたよりも低く、玲央も意表を突かれたのか、いつもの俺様モードは鳴りを潜めている。
「…………」
玲央は黙ったままだ。その表情は、いつもと違う私の態度に戸惑っているように見える。
当たり前だ。仕事上ではあなたに従順な私だけど、プライベートではそれをやめるんだ。
「用事がないなら、帰ってもらっていい? 私、ちょっと疲れてるんだ。今日は早く休みたい」
私はそう言うと、玲央を無視して玄関へと向かった。
さあいつでもお帰りくださいと、玄関の鍵を開け、扉を開ける。
そんな私の姿を、玲央は呆然と見つめている。
「夜だし外から丸見えになるでしょう。それに何より、防犯上のこともあるから、早く帰ってくれる?」
私はそう言って玲央を追い出すと、玄関の鍵とドアガードをしっかりと掛けた。
玲央の足音は聞こえない。おそらくまだ外にいるのだろう。
でもそんなの知ったことではない。私はドアの施錠を終えると、玄関の明かりを消し、部屋へと戻る。テーブルの上に散乱した器をざっと洗い、ゴミ箱へと捨てると、テレビのスイッチを切り、浴室へと向かった。
蛇口から出るお湯をシャワーに切り替え、お湯を最大まで出すと、勢いよくシャワーからお湯が飛び出してくる。私は俯いたまま、シャワーを頭から浴びた。
頭上からお湯が流れ落ちる。顔にもお湯が飛び散り、ずぶ濡れだ。
これはお湯か、涙なのか、その境目がわからない。
私の泣き声は、シャワーの水音にかき消されている。
そうだ、あんなやつのために泣いているなんて、だれにも知られたくない。
今夜、思いっきり泣いて、忘れるんだ。
玲央に抱かれたことも、玲央への思いも――
入浴を済ませ、洗面所でスキンケアを済ませると、タオルとドライヤーを持ってリビングへと戻る。先ほど消したテレビを点け、サブスクのチャンネルに切り替える。再生させる前に髪の毛を乾かし、リラックスモードになったところで番組を再生させる。
楽しみにしていた番組なのに、玲央のせいで全然内容が頭の中に入ってこない。
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