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第一章
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しばらく番組を流していたけれど、結局私は再生を止めるとテレビの電源を落とした。
私は立ち上がると、洗面所へと逆戻りする。
タオルを洗濯機の中へ放り込み、ドライヤーを定位置に戻し、歯磨きをした。
きっと今日は、何をやっても無駄だろう。
私は、今日したかったことを諦めた。
テーブルの上でタオルに包んだままのスマホをそのままに、私は部屋の電気を消すと寝室へと向かった。
翌朝、私の寝起きは最悪だった。
玲央の訪問のせいで、前日なかなか寝付けなかったからだ。おかげで頭が重い。
ベッドから起き上がると、洗面所で顔を洗う。
全然すっきりしないし、タオルで顔の水分をふき取った私の顔は、目の下に隈が出ており最悪だ。
よっぽど今日は会社を休もうかと思ったけれど、今日は学生時代からの友人清水瑠璃と会う約束をしているので、そうもいかない。
洗面所で支度を済ませると、キッチンで朝食の準備をした。
昨日買い物に行く余裕がなかったので、オートミールのリゾットを作る。いつもならお弁当の準備も一緒にするところだけど、今日はそんな元気がない。通勤途中でコンビニにでも立ち寄ろう。
オートミールの朝食をとった後、私は昨日、テーブルの上へ置きっぱなしにしておいたスマホに手を伸ばした。
スマホのロック画面には、玲央からの着信とメッセージ受信の通知が表示されている。
既読を付けるのも面倒くさくなり、私は玲央からのメッセージ欄をスルーして、他の受信を確認する。ほとんどが企業からの広告ばかりなので、それを一つずつ削除していく。
今日はお弁当作りをさぼっているので、少しばかり時間に余裕がある。
ネットニュースの記事に目を通していると、あっという間に時間が過ぎていき、出勤時間が近付いてくる。私は歯磨きを済ませ、最終的な身支度を整えると戸締りを確認し、家を出た。
私が勤務している『一ノ瀬コーポレーション』はITを基盤とする新興企業で、玲央の父が経営している。業績も右肩上がりで、先日株式を分割したばかりだ。
学生時代、玲央に声を掛けられてこの会社でバイトを始め、入社して三年目の私は経理の仕事をしている。
私は学生時代に簿記や電卓、経理に活かせそうな資格を取得していたので、今の仕事をする上であまり苦労はない。上司や同僚も、他社で経験を積んできたベテランばかりなので、わからないことがあってもすぐに教えてもらえるので、本当に恵まれている。
福利厚生もしっかりとしており、一ノ瀬ビル内に設置されている自動販売機の飲み物は無料で飲み放題、デスクワークが続く従業員の健康維持のためのジムや仮眠室なども併設されている。
玲央の父が経営するだけあり、玲央も同じ会社に勤務している。今は役職のない一般従業員として従事しているけれど、そのうち役員に昇格し、彼の父の後を継ぐことは周知の事実だ。
そんな彼と私が高校時代の同級生であることは、だれも知らない。
職場でも、できるだけ接点を持たないよう心掛けている。そのことを玲央も気付いているはずなのに、何かと用事を作って経理に顔を出してくる。そして自分の部署に戻る際、いつも意味深な視線を投げかけてくるのだ。
昔から、彼は爽やかなイメージをみんなに振り撒いているけれど、その本性が生粋の女たらしだと知っているのは、おそらくこの会社の中で私だけだろう。
……いや、ちょっとこれは私の偏見が入っている。女たらしと言うよりも、私の友人キラーだ。私が仲良くなる女友達に、必ずと言っていいくらい言い寄っては数日うちに付き合い始め、いつの間にか別れている。それの繰り返しだ。
私が彼に対して冷たく当たるのは、彼が女たらしだからだと思っているだろう。けれど、実は違う。いつも『私だけが選ばれない』からだ。
私は立ち上がると、洗面所へと逆戻りする。
タオルを洗濯機の中へ放り込み、ドライヤーを定位置に戻し、歯磨きをした。
きっと今日は、何をやっても無駄だろう。
私は、今日したかったことを諦めた。
テーブルの上でタオルに包んだままのスマホをそのままに、私は部屋の電気を消すと寝室へと向かった。
翌朝、私の寝起きは最悪だった。
玲央の訪問のせいで、前日なかなか寝付けなかったからだ。おかげで頭が重い。
ベッドから起き上がると、洗面所で顔を洗う。
全然すっきりしないし、タオルで顔の水分をふき取った私の顔は、目の下に隈が出ており最悪だ。
よっぽど今日は会社を休もうかと思ったけれど、今日は学生時代からの友人清水瑠璃と会う約束をしているので、そうもいかない。
洗面所で支度を済ませると、キッチンで朝食の準備をした。
昨日買い物に行く余裕がなかったので、オートミールのリゾットを作る。いつもならお弁当の準備も一緒にするところだけど、今日はそんな元気がない。通勤途中でコンビニにでも立ち寄ろう。
オートミールの朝食をとった後、私は昨日、テーブルの上へ置きっぱなしにしておいたスマホに手を伸ばした。
スマホのロック画面には、玲央からの着信とメッセージ受信の通知が表示されている。
既読を付けるのも面倒くさくなり、私は玲央からのメッセージ欄をスルーして、他の受信を確認する。ほとんどが企業からの広告ばかりなので、それを一つずつ削除していく。
今日はお弁当作りをさぼっているので、少しばかり時間に余裕がある。
ネットニュースの記事に目を通していると、あっという間に時間が過ぎていき、出勤時間が近付いてくる。私は歯磨きを済ませ、最終的な身支度を整えると戸締りを確認し、家を出た。
私が勤務している『一ノ瀬コーポレーション』はITを基盤とする新興企業で、玲央の父が経営している。業績も右肩上がりで、先日株式を分割したばかりだ。
学生時代、玲央に声を掛けられてこの会社でバイトを始め、入社して三年目の私は経理の仕事をしている。
私は学生時代に簿記や電卓、経理に活かせそうな資格を取得していたので、今の仕事をする上であまり苦労はない。上司や同僚も、他社で経験を積んできたベテランばかりなので、わからないことがあってもすぐに教えてもらえるので、本当に恵まれている。
福利厚生もしっかりとしており、一ノ瀬ビル内に設置されている自動販売機の飲み物は無料で飲み放題、デスクワークが続く従業員の健康維持のためのジムや仮眠室なども併設されている。
玲央の父が経営するだけあり、玲央も同じ会社に勤務している。今は役職のない一般従業員として従事しているけれど、そのうち役員に昇格し、彼の父の後を継ぐことは周知の事実だ。
そんな彼と私が高校時代の同級生であることは、だれも知らない。
職場でも、できるだけ接点を持たないよう心掛けている。そのことを玲央も気付いているはずなのに、何かと用事を作って経理に顔を出してくる。そして自分の部署に戻る際、いつも意味深な視線を投げかけてくるのだ。
昔から、彼は爽やかなイメージをみんなに振り撒いているけれど、その本性が生粋の女たらしだと知っているのは、おそらくこの会社の中で私だけだろう。
……いや、ちょっとこれは私の偏見が入っている。女たらしと言うよりも、私の友人キラーだ。私が仲良くなる女友達に、必ずと言っていいくらい言い寄っては数日うちに付き合い始め、いつの間にか別れている。それの繰り返しだ。
私が彼に対して冷たく当たるのは、彼が女たらしだからだと思っているだろう。けれど、実は違う。いつも『私だけが選ばれない』からだ。
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