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三章 ご寵愛の末に
30.アデルの出産とセシルへの報告
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わたくしが第二子を身籠ったと分かったのは、夏のさなかだった。
セシリアのときのことがあったので、月のものには気を付けていたが、遅れていることに気付いて、医者の診察を受けると、妊娠している可能性が高いということだった。
アレク様との結婚二周年を前にして、わたくしはアレク様に最高の報告ができたのだった。
アレク様は案の定、過保護になった。
「重いものをもってはいけないよ。段差には気を付けて、転ばないようにしてね」
「重いもの……セシリアは?」
「セシリアの抱っこは座っているときだけにして」
「そういうわけにはいかないでしょう」
「危ないから、シルヤに任せて」
セシリアの抱っこも座っているときにしか許されなくなってしまった。
セシリアはわたくしが悪阻で苦しんでいるところや、お腹が少しずつ大きくなっていくところを見て、何かを悟ったようだった。
「ママ、ねんね?」
「わたくしはねんねはしませんよ」
「ママ、ぽんぽん、いちゃい?」
「痛くありません。ここには、セシリアの弟か妹がいるのです」
「あかたん?」
「そうです」
アレク様はセシリアに赤ん坊の出てくる絵本を熱心に読み聞かせていたから、セシリアもお腹の中にいるのが赤ちゃんだということは理解できているようだ。
しばらく考えて、セシリアはわたくしのお腹を撫でて話しかけた。
「あかたん、ねぇねよ」
「そうです。セシリアはお姉様になるのです」
「ねぇね!」
わたくしが二歳のときにソフィアが生まれて嬉しかったように、セシリアも赤ちゃんが生まれることを楽しみにしているのかもしれない。
悪阻もそれほどひどくなく、わたくしは翌年の春の始めに、二人目の赤ちゃんを産んだ。
痛みも苦しさも同じだったが、セシリアのときより時間はかからなかったので、楽だったのかもしれない。
生まれてきたのは銀髪に柘榴の瞳の男の子で、アレク様はその子にアデルという名前を付けた。
「完全に私に似てしまった。レイシーの要素がない」
「アレク様、顔立ちは少しわたくしに似ている気がしますよ」
「そうかな? レイシーのような優しい顔立ちになるだろうか」
真剣に悩んでいるアレク様に、わたくしは笑ってしまう。
「アレク様も優しい顔立ちではないですか」
「いや、わたしはずっと氷のようだとか、冷徹とか言われていた。レイシーのような優しい顔立ちに育ってほしい」
「それはアレク様が笑わなかったからではないですか? わたくしの前ではいつもにこにこしていらっしゃるから、わたくしはアレク様はとても優しいお顔立ちだと思いますよ」
「本当に?」
「はい、本当です」
アレク様が氷のようだとか、冷徹とか言われていたのは、それだけ孤独で表情を見せなかったからに違いない。セシルが亡くなってから、アレク様は表情も凍り付かせてきたのだろう。それが今ではわたくしの前でも、セシリアの前でもよく笑うようになっている。
「セシリアを呼んできてください。アデルと会わせてあげましょう」
「かしこまりました」
侍女に声をかけると、シルヤがセシリアを連れてきてくれる。
二歳前になったセシリアは歩き方もしっかりしてきているが、まだ抱っこが大好きな甘えっ子だった。
アレク様がセシリアにアデルを見せる。
「セシリア、弟のアデルだよ」
「せーたんの、おとと! あーたん! せーたん、ねぇね!」
「そうだよ、セシリアはお姉様になったんだよ」
「かーいーね」
第二子が生まれると第一子は子ども返りをするとか、第二子を拒むとか言われているが、セシリアはそんなことはなさそうだった。アデルの顔を覗き込んで、うっとりとしている。
「いこ、いこ」
「セシリアはいいお姉様だね。でも、パパはセシリアのことも大好きだから、これからも抱っこさせてほしいし、かわいがらせてくれる?」
「あい!」
手を伸ばしてアデルのぽやぽやの髪を撫でていたセシリアに、アレク様が真剣に問いかけると、セシリアも真剣に手を上げて答えた。
アデルもわたくしが縫った、青い蔦模様の刺繍の入った産着を着ていた。
アデルのためにも乳母が雇われた。
男爵家の令嬢で、マイヤという若い女性だった。
子だくさんの貧乏男爵家で、結婚するための資金がないために、皇宮に働きに出たという。
「弟妹の面倒で、子どもの世話は得意です。どうぞよろしくお願いします」
「アデルのことをよろしくお願いします。シルヤと協力してくださいね」
「はい!」
元気のいい女性で、わたくしはマイヤがすぐに気に入った。
わたくしは日中は子ども部屋で子どもたちと過ごし、夜はアレク様と一緒に眠るようになった。
「ママ、あーたん、えーんえーん!」
「すぐに行きますね」
セシリアは遊んでいてもアデルが泣き出すと、すぐに気付いてわたくしのところに教えに来てくれた。わたくしがアデルの世話をしているときも、じっとベビーベッドを見ている。わたくしがお乳をあげて、オムツを替えて、アデルを寝かせると、セシリアも一仕事終えた気分になって、遊びに戻っていった。
セシリアのお気に入りのおもちゃは、セシルがガーネくんのために買った積み木と、わたくしの両親からもらったぬいぐるみの着せ替えだった。着せ替えはまだできないが、ぬいぐるみ自体は気に入っているようで、手を持って引きずるように連れ回っている。
そのうち床にこすれて破れてきそうだが、そのときには修理してあげようと思っていた。
アデルの出産祝いにたくさん届いた贈り物も、ほとんどはアレク様の判断で寄付してしまっていたが、両親が用意してくれたファーストシューズと、皇太后陛下が用意してくれた木馬のおもちゃと、カイエタン宰相閣下が用意してくれた赤ちゃん用のスプーンは大事に使わせてもらうことにした。
両親と皇太后陛下とカイエタン宰相閣下は、アデルにだけでなく、セシリアにも「お姉様になられておめでとうございます」と添えて、贈り物をくれていた。両親からはきれいな装丁の絵本、皇太后陛下からはなんと本物の子馬、カイエタン宰相閣下からは合わせ絵のカードが届いた。
「こえ、せーたんの?」
「そうですよ。お祖父様とお祖母様と、皇太后陛下と、カイエタン宰相閣下が、セシリアに『お姉様になっておめでとうございます』とくれました」
「うれち! せーたん、ねぇね!」
「よかったですね。わたくしがお礼を書きますので、お手伝いしてくれますか?」
「せーたん、おてちゅだい、ちる!」
お礼の手紙には、セシリアの手形を添えて送った。
セシリアは手に絵の具を塗られて、一生懸命色紙に手を押し付けて手形を作ってくれた。
アデルは生まれたばかりだが、銀色の髪に柘榴の目で、夢で見たガーネくんを思わせた。
アデルが六歳くらいになったら、ガーネくんとそっくりになるのではないだろうか。
まだ遠いその日をわたくしは夢見ていた。
アデルが一歳になって、セシリアが三歳になって、アレク様の生誕祭も無事に終わってから、わたくしとアレク様はセシルのいた村に行くことにした。
本当はもっと早く行きたかったのだが、セシリアが生まれてしまったし、その次はアデルを妊娠したので、今になってしまったが、造花の工場の視察にも行きたかったので、アレク様と日程を合わせた。
アデルは歩けるようになっていたがまだ抱っこされることが好きで、逆にセシリアは歩くのが楽しくてたまらない時期で、汽車を乗り継いで二日、馬車で半日の日程を連れていくのにはかなり苦労したが、シルヤとマイヤもついてきてくれたので、なんとかセシルのいた村に辿り着いた。
セシルの両親は食堂を辞めて、造花工場の寮の食堂で働いていた。
セシルの両親にセシリアとアデルを見せると、涙を流して喜んでくれた。
「あの小さな男の子がこんなに大きくなって、子どもを持つだなんて……」
「アデル殿下は本当にあのときの男の子に似ていらっしゃる」
セシリアの名前の由来も、アレク様からセシルの両親に伝えられた。
「セシルの名前からとって、セシリアと名付けさせてもらった」
「ありがとうございます。セシルもきっと喜んでいると思います」
「セシルのお墓にもそう伝えてください」
セシルの両親に促されて、わたくしとアレク様はセシリアとアデルを連れてセシルのお墓に行った。
セシルのお墓は大きな石が立てられているだけなので、セシリアとアデルはそれが何か分からなかったようだ。
「ママ、パパ、これ、なぁに?」
「なぁに?」
聞いてくる二人に、アレク様が答える。
「わたしが小さなころに命を助けてくれたひとが、ここで眠っているんだよ」
「パパをたすけてくれたひと?」
「ぱっぱ?」
そのひとがどんなひとだったか、わたくしは自分のことのように記憶があって知っている。
二人が大きくなったら、セシルのことを話してあげよう。
青い蔦模様の刺繍の入った服を着ているセシリアとアデルを前に、わたくしはそう誓っていた。
セシリアのときのことがあったので、月のものには気を付けていたが、遅れていることに気付いて、医者の診察を受けると、妊娠している可能性が高いということだった。
アレク様との結婚二周年を前にして、わたくしはアレク様に最高の報告ができたのだった。
アレク様は案の定、過保護になった。
「重いものをもってはいけないよ。段差には気を付けて、転ばないようにしてね」
「重いもの……セシリアは?」
「セシリアの抱っこは座っているときだけにして」
「そういうわけにはいかないでしょう」
「危ないから、シルヤに任せて」
セシリアの抱っこも座っているときにしか許されなくなってしまった。
セシリアはわたくしが悪阻で苦しんでいるところや、お腹が少しずつ大きくなっていくところを見て、何かを悟ったようだった。
「ママ、ねんね?」
「わたくしはねんねはしませんよ」
「ママ、ぽんぽん、いちゃい?」
「痛くありません。ここには、セシリアの弟か妹がいるのです」
「あかたん?」
「そうです」
アレク様はセシリアに赤ん坊の出てくる絵本を熱心に読み聞かせていたから、セシリアもお腹の中にいるのが赤ちゃんだということは理解できているようだ。
しばらく考えて、セシリアはわたくしのお腹を撫でて話しかけた。
「あかたん、ねぇねよ」
「そうです。セシリアはお姉様になるのです」
「ねぇね!」
わたくしが二歳のときにソフィアが生まれて嬉しかったように、セシリアも赤ちゃんが生まれることを楽しみにしているのかもしれない。
悪阻もそれほどひどくなく、わたくしは翌年の春の始めに、二人目の赤ちゃんを産んだ。
痛みも苦しさも同じだったが、セシリアのときより時間はかからなかったので、楽だったのかもしれない。
生まれてきたのは銀髪に柘榴の瞳の男の子で、アレク様はその子にアデルという名前を付けた。
「完全に私に似てしまった。レイシーの要素がない」
「アレク様、顔立ちは少しわたくしに似ている気がしますよ」
「そうかな? レイシーのような優しい顔立ちになるだろうか」
真剣に悩んでいるアレク様に、わたくしは笑ってしまう。
「アレク様も優しい顔立ちではないですか」
「いや、わたしはずっと氷のようだとか、冷徹とか言われていた。レイシーのような優しい顔立ちに育ってほしい」
「それはアレク様が笑わなかったからではないですか? わたくしの前ではいつもにこにこしていらっしゃるから、わたくしはアレク様はとても優しいお顔立ちだと思いますよ」
「本当に?」
「はい、本当です」
アレク様が氷のようだとか、冷徹とか言われていたのは、それだけ孤独で表情を見せなかったからに違いない。セシルが亡くなってから、アレク様は表情も凍り付かせてきたのだろう。それが今ではわたくしの前でも、セシリアの前でもよく笑うようになっている。
「セシリアを呼んできてください。アデルと会わせてあげましょう」
「かしこまりました」
侍女に声をかけると、シルヤがセシリアを連れてきてくれる。
二歳前になったセシリアは歩き方もしっかりしてきているが、まだ抱っこが大好きな甘えっ子だった。
アレク様がセシリアにアデルを見せる。
「セシリア、弟のアデルだよ」
「せーたんの、おとと! あーたん! せーたん、ねぇね!」
「そうだよ、セシリアはお姉様になったんだよ」
「かーいーね」
第二子が生まれると第一子は子ども返りをするとか、第二子を拒むとか言われているが、セシリアはそんなことはなさそうだった。アデルの顔を覗き込んで、うっとりとしている。
「いこ、いこ」
「セシリアはいいお姉様だね。でも、パパはセシリアのことも大好きだから、これからも抱っこさせてほしいし、かわいがらせてくれる?」
「あい!」
手を伸ばしてアデルのぽやぽやの髪を撫でていたセシリアに、アレク様が真剣に問いかけると、セシリアも真剣に手を上げて答えた。
アデルもわたくしが縫った、青い蔦模様の刺繍の入った産着を着ていた。
アデルのためにも乳母が雇われた。
男爵家の令嬢で、マイヤという若い女性だった。
子だくさんの貧乏男爵家で、結婚するための資金がないために、皇宮に働きに出たという。
「弟妹の面倒で、子どもの世話は得意です。どうぞよろしくお願いします」
「アデルのことをよろしくお願いします。シルヤと協力してくださいね」
「はい!」
元気のいい女性で、わたくしはマイヤがすぐに気に入った。
わたくしは日中は子ども部屋で子どもたちと過ごし、夜はアレク様と一緒に眠るようになった。
「ママ、あーたん、えーんえーん!」
「すぐに行きますね」
セシリアは遊んでいてもアデルが泣き出すと、すぐに気付いてわたくしのところに教えに来てくれた。わたくしがアデルの世話をしているときも、じっとベビーベッドを見ている。わたくしがお乳をあげて、オムツを替えて、アデルを寝かせると、セシリアも一仕事終えた気分になって、遊びに戻っていった。
セシリアのお気に入りのおもちゃは、セシルがガーネくんのために買った積み木と、わたくしの両親からもらったぬいぐるみの着せ替えだった。着せ替えはまだできないが、ぬいぐるみ自体は気に入っているようで、手を持って引きずるように連れ回っている。
そのうち床にこすれて破れてきそうだが、そのときには修理してあげようと思っていた。
アデルの出産祝いにたくさん届いた贈り物も、ほとんどはアレク様の判断で寄付してしまっていたが、両親が用意してくれたファーストシューズと、皇太后陛下が用意してくれた木馬のおもちゃと、カイエタン宰相閣下が用意してくれた赤ちゃん用のスプーンは大事に使わせてもらうことにした。
両親と皇太后陛下とカイエタン宰相閣下は、アデルにだけでなく、セシリアにも「お姉様になられておめでとうございます」と添えて、贈り物をくれていた。両親からはきれいな装丁の絵本、皇太后陛下からはなんと本物の子馬、カイエタン宰相閣下からは合わせ絵のカードが届いた。
「こえ、せーたんの?」
「そうですよ。お祖父様とお祖母様と、皇太后陛下と、カイエタン宰相閣下が、セシリアに『お姉様になっておめでとうございます』とくれました」
「うれち! せーたん、ねぇね!」
「よかったですね。わたくしがお礼を書きますので、お手伝いしてくれますか?」
「せーたん、おてちゅだい、ちる!」
お礼の手紙には、セシリアの手形を添えて送った。
セシリアは手に絵の具を塗られて、一生懸命色紙に手を押し付けて手形を作ってくれた。
アデルは生まれたばかりだが、銀色の髪に柘榴の目で、夢で見たガーネくんを思わせた。
アデルが六歳くらいになったら、ガーネくんとそっくりになるのではないだろうか。
まだ遠いその日をわたくしは夢見ていた。
アデルが一歳になって、セシリアが三歳になって、アレク様の生誕祭も無事に終わってから、わたくしとアレク様はセシルのいた村に行くことにした。
本当はもっと早く行きたかったのだが、セシリアが生まれてしまったし、その次はアデルを妊娠したので、今になってしまったが、造花の工場の視察にも行きたかったので、アレク様と日程を合わせた。
アデルは歩けるようになっていたがまだ抱っこされることが好きで、逆にセシリアは歩くのが楽しくてたまらない時期で、汽車を乗り継いで二日、馬車で半日の日程を連れていくのにはかなり苦労したが、シルヤとマイヤもついてきてくれたので、なんとかセシルのいた村に辿り着いた。
セシルの両親は食堂を辞めて、造花工場の寮の食堂で働いていた。
セシルの両親にセシリアとアデルを見せると、涙を流して喜んでくれた。
「あの小さな男の子がこんなに大きくなって、子どもを持つだなんて……」
「アデル殿下は本当にあのときの男の子に似ていらっしゃる」
セシリアの名前の由来も、アレク様からセシルの両親に伝えられた。
「セシルの名前からとって、セシリアと名付けさせてもらった」
「ありがとうございます。セシルもきっと喜んでいると思います」
「セシルのお墓にもそう伝えてください」
セシルの両親に促されて、わたくしとアレク様はセシリアとアデルを連れてセシルのお墓に行った。
セシルのお墓は大きな石が立てられているだけなので、セシリアとアデルはそれが何か分からなかったようだ。
「ママ、パパ、これ、なぁに?」
「なぁに?」
聞いてくる二人に、アレク様が答える。
「わたしが小さなころに命を助けてくれたひとが、ここで眠っているんだよ」
「パパをたすけてくれたひと?」
「ぱっぱ?」
そのひとがどんなひとだったか、わたくしは自分のことのように記憶があって知っている。
二人が大きくなったら、セシルのことを話してあげよう。
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