異世界無宿

ゆきねる

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第二十五章 オブリビアダンジョン

第四百六十三話 軀喰らい

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その姿は夜の暗闇の様な漆黒で、体毛は探索用ライトの光に照らされ艶があるように見える。
その目は赤く、イズミ達をジッと見つめて瞬き1つせず大人しくしている。
大きさは中型犬サイズに見えるが、その漆黒の姿のせいで実際の大きさが特定しにくい。

音のする方へライトを向けると、狼の影が地面に転がっている死体にまで伸びており、その死体を狼の影が甲冑ごと食らっていたのだ。

「死体を…食べてる」

ベリアはゆっくりと体勢を低くすると、腰に下げたナイフへ手を伸ばす。

「獣人の娘よ、死に急ぐでない」

突然声を掛けられたベリアは身体を震わせて後退すると、ナイフへ伸ばしていた手を胸の前に持ってゆく。

「そうだ、それで良い。女神の加護を授かりし稀有な獣人よ…お主が此処で死に急ぐ必要は何処にも無い」

「何故、アタイの加護が分かる?」

「造作も無い、お主に流れる魔力の色を見ればな」

狼は会話をしつつも、伸ばした影は近くの死体を食らい続けている。
まるで此方の事など気にしていないと言わんばかりである。
そんな狼の赤い目がイズミに向くと、その獰猛な牙を見せた。

「随分な殺め方をしたな」

「…返す言葉も浮かばない」
 
イズミはこの地獄絵図の中で調査をしていて、あの攻撃の恐ろしさを痛感していた。
何故元いた世界でも使用を禁ずるべきだと言われるのか、今回の戦闘にて肌で感じたのだ。

「責めているのでは無い。寧ろこの外道共の丸焼きにするのは、我々からすれば喜ばしい事だ」

低い笑い声と共に狼の口元からオレンジ色の炎が揺らめき、悲鳴に似た叫び声が木霊する。
ベリアの尻尾がブワッと逆立ちゆっくりと狼から離れるように距離を取ると、今度は愉快そうに笑って話を始めた。

「獣人の娘よ、そんな怖がらなくて良いぞ。我とて好んでお主らと敵対するつもりは毛頭ないのだ」

影は無数に現れるとそれぞれの方向へと進み、その先にある死体を食らい始める。
この異様さにイズミも寒気を覚えた。

「それにしても、あの魔法攻撃は素晴らしかったぞ。誇るべき完成度、久しく見ぬ珍しい高等魔法であった」

「あれは私のアーティファクトの能力でして」

「だろうな、その身体と魂では出来ぬ芸当だ…覚えさせてもらったぞ」

狼はその場に座り毛繕いを始めた。
イズミとベリアはまだ緊張を緩める事が出来ない、目の前の存在に対して本能が恐ろしいまでに警戒アラートを鳴らし続けている。
しかし足が思うように動かないのだ。

「して。お主らはこの軀の歪さをどう見ておる?」

「…薬か魔法を使っての、強制変化ではないかと。回収した薬品を調べれば何か分かるでしょう」

「獣人の娘よ、そなたはどう感じた?」

「ごちゃ混ぜ過ぎる悪臭は魔物、いやキメラだと思った」

2人の回答を聞いた狼は牙を見せて満足そうに笑うと、その低い笑い声でイズミ達をより不安にさせる。
口から漏れ出る炎が消え、一頻り笑い終えた狼は眠るように丸くなった。

「調査とやらが済んだのであれば、早々に立ち去るが良い。我はこの外道共の軀を喰らわねばならんのでな」

「…分かりました、撤収します」

イズミはそれだけ言うと、ベリアと共にそそくさとマスタングの元へ移動を始めた。

「男よ、ある神から言伝がある」

唐突に狼がイズミの背中へ向けて、こう告げた。

「もう20年は死んでくれるな、仕事が増えて敵わん。だそうだ」

「努力はしましょう、出来るだけ」

「それで良い」

狼から伸びる無数の影が本格的に死体を食べ始めたのか、おぞましい音と無数の叫び声が2人に聞こえてきた。
イズミ達は振り向く事なくマスタングまで戻って来ると、オブリビアへと走り出した。


「イズミ…アレは絶対に敵にしちゃ駄目な相手だ」

「だな。俺みたいな人間でも分かったぞ、アレはヤバい」

ベリアの全身の毛はまだ逆立ったままであり、イズミも背筋が寒いままである。

「マスター、何か目撃したのですか?」

「あぁ、真っ黒な狼みたいな存在と遭遇したんだ」

「…魔法反応、メガネからの映像、音声情報、全て確認しましたが認識出来ませんでした。マスターとベリア様にだけ認識が出来るようにして姿を見せた、かなりの上位存在の可能性があります」

「マスタングでも認識出来ないって、どうなってるんだ?なぁベリア…」

イズミがベリアへと顔を向けると、そこには全身を震わせているベリアがいた。
あの狼から離れた安心感より、限界を超えた恐怖心が勝り身体の震えが止まらなくなっていたのだ。

イズミはマスタングを停車させると、温かい毛布を実体化させてベリアを包むと、力強く抱き締める。

「ベリア!大丈夫だ、奴は襲って来ない。安心して良いんだ」

「イ、イズミ…アタイは…」

「何も言わなくて良い、深呼吸をするんだ」

イズミはベリアの身体の震えが治まるまで、力強く抱きしめ続けた。
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