異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百話 増えてる…

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突然の質問に驚いたベリアだったが、隠しておくような関係性でも無いので、躊躇いがちに答えた。

「火と、風の2個だけど」

「…本当ですね?」

「本当だぞ!なんだったら冒険者ギルドの登録記録を見てもらったって良いぞ」

フラウリアは少し考え込むと、今までに見たことも無いような表情でグラテミアの側へ向かい、小声で何かやりとりを始めた。

(叔母様、ちょっと自分の鑑定スキルに不安があるので、叔母様の鑑定でも確かめて頂いたいのですが)

(何をそんなに深刻そうに)

(…増えてます)

今度はグラテミアの表情が固まる。
目だけ動かしベリアを見ると、その眼力でベリアは全身の毛が逆立ち身動きが出来なくなっていた。

(フラウリア、貴方の鑑定スキルは間違ってはいないわね)

(でも、こんな事例は過去に無かったかと)

(そうね。今までは)

グラテミアは椅子から立ち上がると、静かにベリアに告げた。

「ベリアさん、ハッキリ言うわね」

「はい!」

「魔法適性、1つ増えてるわよ。水属性が」

部屋内が静まり返ると、意味を理解したベリアの素っ頓狂な叫び声が響き渡った。


「ベリア、アレを食ったのか?」

「食べてない」

「何か思い当たる節は?」

「全く無い」

落ち着いたベリアに確認として色々聞いてみたものの、ベリア自身には全く身に覚えが無いという。

「お二方、アレとは何ですか?」

フラウリアの質問に対して、2人は顔を見合わせてから素直に答えた。

「まだ内密にお願いしたいのですが…」

「オブリビアのダンジョンで巨大な魔物を討伐したら、こんなものをドロップしたんです」

ベリアがアイテムボックスから青白く光る薬草を取り出すと、フラウリアの目の色が変わった。

「それは…幻とまで言われる薬草、ギベリスではありませんか!?」

フラウリアの声色がワントーン上がり、興奮気味にベリアに近付く。

「食べたんですね?ギベリスを食べたんですね!?」

「食べてない!一欠すら口に入れてない!」

グラテミアが暴走気味のフラウリアを落ち着かせると、ベリアが取り出していたギベリスを手に取り鑑定を行う。

「確かにギベリスね。これは食さないと効果を発揮しないはず、適性が増えたのは別の要因があると考えるべきね…ところで」

フラウリアは探究心を抑えられないのかギベリスに手を伸ばしているが、それを上手くグラテミアが制御している。
イズミ達をニッコリとした笑顔で見つめるグラテミアは、早速行動を開始した。

「ギベリスは全部で何本出て来たのです?」

「3本です」

「これの存在を把握しているのは?」

「自分達と、鑑定を頼んだアーリアだけです。アーリアには口外しないようにと口止め…頼んであります。冒険者ギルドにはまだ報告していません」

「素晴らしい」

回答内容に満足したのか、グラテミアは自分の椅子に深々と座りデスクに置いたギベリスを観察する。

「120年程前に発見されたギベリスは、オークションにて金貨7000枚で落札されました。その時は1本のみでしたが…それが現在3本ある、この意味が分かりますね?」

「欲しがる金持ちが居るし、様々な動きがありますね」

「どんな手段を使ってでも、手中に収めたいと考える者は居るでしょう」

「そんなリスクは背負いたくないですね。ベリアはどう思う?」

「Sランクに昇格して、そんな伝説の薬草まで持っててだと…正直怖いな。誰も信用出来なくなりそう」

2人の会話を頷きながら、グラテミアは話しを続ける。

「リスク回避に最適なのは、冒険者ギルドに鑑定させ、正規の手順でオークションに出す事ね。膨大な財を手にする事になるけど、少なくとも手元からは離れて狙われにくくなる。手にした財は金融ギルドに預けるとか、公式の場を使って王族や上流貴族に寄付とか袖の下とか言って押し付けるのも有りね」

「獣人族だからと騙そうとする連中も多いのか?」

「冒険者で計算に強い者は、そこまで多くありません。それも規模が大きくなれば尚更です。お金に余裕が出来ると賭け事で借金を作る冒険者の多さは、自制心の弱さと計算の弱さが原因とされていますが、それなりに居るのですよ」

借金漬けの生活を想像したのか、ベリアはその身体を震わせた。
借金まみれのSランク冒険者は、正直笑えない状態だろう。

「そこまで教えて頂いた所で1つ確認を…ギベリス、欲しいですか?」

イズミはそんな膨大な金額に成る薬草を所有しておくリスクと、オークションに出して財を成した後のリスクとを比較しながら、率直な意見をグラテミアに求めた。

「私なら2本をオークションに出して、1本は暫く極秘に保管するか研究に回すわね。決して私個人の手元には置かないわ」

グラテミアの回答を聞いたフラウリアは、元気に右手を上げて研究をしたいとアピールをしている。

「だとさ。ベリアはどうする?俺はドロップした魔物を討伐したのはベリアだから、決定権はベリアにあると思っている」

「ぐぬぬぬ…」

面白いくらい苦悩しているベリアを横目に、イズミは蓄音機を収納する。

「よし!決めたぞ」

ベリアは顔を上げると、グラテミア達の方へ向けた。

「グラテミアさん達には沢山お世話になってるし、これからもお世話になる予感しか無いから、ギベリスを1本お譲りします。残る2本は冒険者ギルドの鑑定に回して、オークションに出す方向で考えます」

それを聞いたフラウリアは飛ぶように喜び、ベリアに抱きついて感謝の言葉を口にしていた。

話しを終えると、大切そうにアイテムボックスにギベリスを収納したフラウリアが部屋を後にする。
それを見送ったベリアは、どっと疲れが出たのか椅子に座り込んだ。

「何か上手く丸め込まれたような気がする」

イズミがボソリと呟くと、グラテミアがにこやかに答えた。

「イズミ様は今後の為にも、交渉術を学んだ方が良いかもしれませんね」

「…面倒な交渉事は苦手なんですよ。気軽に旅をしていたい」

「それは暫くの間、難しいと思いますけど」

「ですよねぇ」

イズミとベリアの2人が同時にため息をつくと、グラテミアは静かに笑うのであった。
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