異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
514 / 624
第二十六章 梅雨の季節

第五百二話 天変地異?

しおりを挟む
普段ならベリアの専用席になっている助手席に、今はエレノアが乗っている。

「ベリアも大変だねぇ、あれじゃ暫くは忙しいんだ」

「Sランクに昇格するってのは、事前準備から色々とやる事が多いらしい」

「その合間にグラテミアから魔法の特訓を受けるなんて、相当タフなんだね」

エレノアが言うには、グラテミアの特訓は最初に基礎を簡単に教えたら、後はずっと実戦トレーニングらしい。
マンツーマンの時は苛烈で、グラテミアが満足するまで追い込むのでボロボロになる者がほとんどだと聞いて、少しだけ怖くなった。

「俺はグラテミアさんなりの優しさだと思っているけど。下手に甘やかすと成長が遅い場合もあるし、厳しく追い込み過ぎると自信を失って卑屈になる事もある、そこは受け手の問題だ。だが自分自身の本当の実力と限界を把握出来ていないと、実戦において足元を救われて終わりだ。まぁ、ここは教える者次第の難しい塩梅ってやつだ」

「へぇ…分かってるんだ」

エレノアは少し嬉しそうな顔をしている。

「その対象が自分だと思うと、逃げ出したくなるかもだけどな」

「ラミア族からは逃げられないぞ?」

「そんな気がしてる」

お昼の時間帯なので何処かで一緒に昼食でもと提案すると、エレノアがお勧めだと言うランチ営業をしているお店までマスタングを走らせる。

近くの馬車置き場に駐車してお店に入った途端、席案内の為に振り向いた店員が驚いた表情でエレノアを見ていた。

「いらっしゃいませ…え、エレノアちゃんが男連れ!?店長~!特等席よ、特等席の準備を!」

「何!?あのエレノアが!!」

店長と呼ばれた男が厨房から慌ててやって来ると、イズミの姿を見た瞬間に目を見開きドタドタを近付いて来た。
イズミの両肩を掴むと、満面の笑みで話し出した。

「アンタがエレノアの男なんだな!まさか俺が現役の間にこうして会えるとは、俺は嬉しいぞ!」

「ホルツ、アタシを何だと思ってるの?」

「お前さんがいつまで経っても男を作らないってグラテミア様がボヤいてた事くらい、俺達だって知ってらぁ!何処で出会ってどうとっ捕まえたのかは敢えて聞かないが、何にせよこんなに目出度い事は久しぶりだ!」

「酷い言い様ね…それと料理なんだけど、最近味覚が変わっててさ、酸っぱいのも欲しいんだけど」

店長自らが特等席だと言う席まで案内をしている途中で、エレノアが何時もとは違うオーダーをするとホルツなる店長が反応する。

「酸っぱいの?飯と飲み物の両方あるが、好みはどっち…味覚が変わって酸っぱいのって、お前さんまさか?」

「うん、そのまさかだよ」

エレノアはイズミの右腕に寄り添うと、ホルツに向けて笑顔を見せた。
するとホルツがスーッと涙を流したのだ。

「今日は天変地異でも起こるのか?」

「起きないよ!」

「そうか、遂にエレノアにも…そんな話しを聞いちまったら、俺達も黙っちゃいれねぇ!休憩中の奴等を叩き起こせ!お祝い料理の準備を特急でだ!!」

料理人魂に火が付いたのか後の接客を店員の1人に任せると、ホルツは厨房へと消えていった。

「エレノアさん、愛されてるな」

「愛され…てるのかなぁ、悪友のノリみたいに感じるけど」

「それでも祝ってくれて、妊娠の話を聞いて涙まで流して喜んでたんだから、心から嬉しいのだと思うけど」

席に座った2人はお店からのスペシャルメニューを振る舞われる事になり、屋敷に戻るとフラウリアから帰りが遅いと注意を受けてしまうのだった。


「いや~、普通男が出来たり妊娠したりしても、贔屓にしてるお店に報告まではしないでしょ?」

「ホルツさんのお店はサービス精神旺盛なんだから、イズミさんを連れて行くまでならまだしも、妊娠してる事まで話したらどうなるか位は考えなさいよ」

「それにしても酷いよね!『今日は天変地異でも起こるのか?』だってさ!流石に失礼だしょ!?」

「今まで男の影すら無かったのがラミア族として問題でしょ?アヤにだってチラホラと話があったのに、エレノアに至っては一切合切、何も無かったじゃない。私が仕込まなかったら今だって男の影は1つも無いと思うわね、断言出来る」

「それは…多分、その通りだけども。だってアタシが少しでも気になる男を軽く観察してるだけで皆逃げるし」

「それは普段の貴方が脳筋で、コミュニケーションは言葉と拳の合わせ技、みたいにしてるからよ。だから一部の工程を省いて関わりを作ったのだけども」

2人のやりとりを聞いていると、エレノアの脳筋元気娘っぷりだけが伝わって来たので、この辺りで話しを切り上げさせておく。

「まぁ色々と過程を省略したとはいえ、エレノアさんが私と関係を持って子供を身籠っている事実は変わりませんし、その辺にしておきましょう」

「おぉイズミ、分かってるぅ!」

「イズミ様ってあまり他人に興味関心の無いお方かと思っておりましたが、身内や関係者になると甘いタイプですか?」

「かもしれません。出来る限りの範囲で、人には優しくありたいものです」

エレノア達と別れ部屋に戻ると、外で誰かが特訓をしている声が聞こえる。
自分も身体を鍛えなければと考えながら、イズミはショルダーホルスターで眠るマグナムのメンテナンスを始めるのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...