異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百三話 ベリアの魔法特訓

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夕方。
ベリアが冒険者ギルドから戻って身支度を整えると、グラテミアの執務室にて転移魔法の基礎を学ぶ。

「アタイはかなり感覚派なんですけど、大丈夫ですかね?」

「あら、転移魔法は感覚派の方が覚えが早いのよ」

グラテミアは微笑むとミニチュアの人形とドア、そして羊皮紙を用意して簡単な説明を始めた。

「転移魔法の考え方はこうよ…この人形が貴方で、魔法で目の前に扉を用意するイメージね。只の扉だと開けても向こう側に変化は無い、だから転移したい場所を想像して、そこにもう一つの扉を用意してあげるの」

羊皮紙の両端に配置されたミニチュアを見ながら、ベリアは考え込む。

「ここからが重要よ。単に2カ所に扉を用意しても、その扉の間には距離があるし関連性が無いでしょ?その扉同士の距離を埋めて関連性を作る、繋げてあげないと転移が出来ないわ。こんな感じね」

羊皮紙を筒の様に曲げてトンネルみたいに扉と繋げたら、今後はその筒を潰してミニチュアの扉同士が近付ける。

「最初に現在地と目的地に魔法の扉を作る。次に魔法の扉同士を結ぶ通路を作る。そして扉同士の距離を縮める。最後はその扉を開いて通る…はい、これで転移魔法の説明はおしまい。後は練習あるのみよ」

「分かったような、そうでもないような」

中庭に移動した2人は、早速練習に入った。
その近くではトレットとカーネリアがイズミの渡した練習用リボルバーを利用しながら転移魔法の特訓をしている。

「魔法の扉のイメージは…そうね、まずは火魔法でも風魔法でも良いけど、敵の攻撃を防ぐ壁を作るような魔力の使い方で扉をイメージしなさい。最初から自分が通れる大きさで考える必要はないわよ、小さくて良いので扉を作り出す事が大切です」

「壁を作る要領で、部屋に入るような扉を…」

練習を始めて凡そ1時間後、ベリアは何とか扉を1つ作れる迄になっていた。
まだ子供が通れる程度のサイズ感ではあるが、初日にしては上出来である。

「ベリアさん、今日はその扉を…あと100回は作っては消してを繰り返しましょう。反復練習で身体に扉を作る手順を覚えさせます」

「100回!?」

「明日はベリアさんが通れる大きさの扉を作る練習、明後日は扉を2つ作る練習よ。出来るまでは休憩無しのつもりで」

「詰め込むねぇ」

「人間族も獣人族も我々と違って寿命が短いですから、時間は有意義に使わなければなりません。目標はヒュミトールを出発する頃までに…ヒュミトールからオブリビアまでを1発で転移出来るレベルにしますか。ベリアさんはSランク冒険者に昇格するのですから、このくらいは出来ないと格好がつきませんし」

「規模感がおかしい!」

「ついでに水属性の魔法も練習しておきましょうか。水魔法はとても便利なのよ?大人数の敵を相手にする時なんて特にね」

「…決定事項なのね」

ベリアはグラテミアの特訓計画に衝撃を受けていたが、もう覆りそうにないので練習を再開する。

「そうだ、グラテミアさんは一回の転移魔法で何処まで行けるんだ?」

「行った事のある場所なら、何処でもよ」

「規格外だったかー」

「普通に転移も出来るけど、楽に転移する方法もあるのよ。アーリアの転移魔法みたいに自分専用の転移魔法札を作るとか、フラウリアのように分身体の元へなら転移できるとかね…それを教えるのは、普通の転移魔法を会得してからよ」

グラテミアの直接指導は、日が沈んでも続いていたのだった。


イズミが食堂にて夕食を取っていると、見るからに疲れた顔をしているベリアがやって来たので声をかける。

「ベリア、練習はどうだ?」

「キツイぜ本当に、すっげえ追い込んでくるんだよ」

そんな事を言うベリアの後ろからグラテミアが姿を見せる。

「ベリアさんの吸収速度は高いですわ。半月もあれば短距離の転移は出来るようになるかもしれません」

「それは凄い」

「練習メニューをもう少し濃くしても良さそうね」

「ひぃ!?」

ベリアが全身の毛を逆立てサッとグラテミアから距離を取ったのだが、距離を取った先にグラテミアが瞬時に転移してベリアの背後を取ってしまった。

「この位は出来ないと、強敵との戦闘では苦労しますよ」

「…マジかよ」

信じられない、と言う様な表情をするベリアだったが、イズミの隣に食器を持って座ったアヤが補足を入れてくれた。

「叔母様はベリアさんを気に入っているみたいですね。リコに慕われているのもありますが、かなり気合の入った訓練メニューです」

「それもありますが、冒険者ギルド設立以来、初めての女性獣人族のSランク冒険者なのよ。これは今後の冒険者達に大きな希望や可能性を与えているの」

アヤの背後に転移魔法でベリアと共に現れたグラテミアが教えてくれた。
ベリアに至っては突然転移魔法で移動した事を脳が理解しきれていないのか、目をパチクリして周囲を見渡している。

「叔母様、そんなに張り切ってベリアさんに転移魔法を体感させなくても」

「転移魔法は便利なのよ。基本さえ出来れば応用技や発展技も使えるようになるし、他の魔法と組合せれば…ね」

そろそろベリアが容量オーバーで頭がパンクしそうに見えたので、グラテミアに一声かけておく事にする。

「グラテミアさん、そろそろベリアの理解力に限界が来てそうなのですが」

「あら、そうかしら?少し詰め込み過ぎたようね」

「今日が初日でしたっけ、お手柔らかにお願いします」

その後食事を終えたイズミは食堂の食器置き場に向かい片付けをすると、別のテーブル席でチーズケーキやお酒を楽しむ屋敷の従者達の姿を見て、ケーキやカクテルが浸透している事を実感しながら部屋へと戻って行った。
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