婚約破棄された俺をお前が好きだったなんて聞いてない

十山

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4.有能な司教

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「どうも、森の奥に、魔獣たちが身体を清める泉があるようです。その泉にはニンフが住んでいて、魔獣たちの怪我を治したり、逆に命を奪ったりするようなのですが、その泉に毒を撒いた輩が居るようです。あんな奥まで、人間が入ったのは信じられないことですが…」

翌日、打ち合わせに教会に訪れると、アトラ司祭は使い魔の鳥が見てきた事を話してくれた。
来て早々、仕事が早い。

「密猟者の中に、この森に精通している者がいるという事ですね…このところ、彼らの動きが計画性のあるものに思えてならなかったのですが、何か狙いがあるのでしょうか…」
「それが何なのかは今の情報だけではわからないですね。しかし、早急にニンフの泉は浄化しなくてはなりません。魔獣が暴走し、村まで出てくる原因の一つのはずです」
「承知しました。隊長にその旨、報告させていただきます。今は警備隊の者の負傷者が多いため、すぐに部隊を編成できないのですが、何人くらい必要でしょうか?」
「奥まで行くとなると、どうでしょうか…まずは森の入口付近に入り、様子を見たいのですが。明日にでも出向いていいでしょうか」
「わかりました。私と弟で同行させていただきます」

この司教、なかなかすごいな。オレと同じ年か、年下じゃないか?
諸々の段取りを組む手筈を整え、また明日という事になった。

「では」

「あ、あの!レオナルド先輩…!!」
「ん?」

帰ろうとしたら、突然の先輩呼びに驚く。
「僕のこと、覚えてませんか…」
「ん?」
もじもじする大男をまじまじ見るが、全く覚えがない。
「先輩ということは…」
「王立学園で…」
「ああ。そうでしたか。生憎、剣術科以外の生徒は覚えていなくて」
「そ、そうですか…」

しゅんとするアトラ司教に、護衛として控えている弟が助け舟を出す。
「アトラ司教様、兄とは在学中に話した事があるとおっしゃってましたよね。差し支えなければ本名を伝えてみてはどうでしょう?」

アトラは7番目の使徒が引継ぐ名で、本名ではない。

「あの、ルキーニです…僕の名前…」
「……………………は?」
「ルキーニです。先輩の2学年下で、その、平民の…」
「ルキーニ?お前が?」
「はい」

思わず敬語が外れてしまった。育ちすぎだろう。在学中は、背だってオレの胸くらいじゃなかったか?キラキラの美少年だったルキーニ?

「…ローレンス殿下はこの件を了承してるのか?」

聖職者も結婚できるし、むしろこの地位まで登りつめる実力があったからローレンス殿下と結婚できたんだろう。旦那の婚約破棄した相手の領地に来るとか、大丈夫なのか?そりゃ、オレはもう何の未練も無いけれども。

「なぜローレンス殿下の了承がいるんです?」

きょとん、と首を傾げる様はあの頃のルキーニを思い出させた。あざとい。こいつのこういうあざといところを見ると、心がザワつくんだった。仕草一つで、そんな事を思い出してしまった。

「そりゃ、お前の…伴侶だからだろ」
「ローレンス殿下が僕の?」
「そうだろ?」
「「違うよ!」」

弟と、アトラ司祭、両方から同時に違うと言われてしまった。

「兄さん…ローレンス殿下の伴侶様は名前が違うよ」
「平民だから改名したと…お前、ローレンス殿下と恋人だっただろ?ふられたのか?」
「えっ?!恋人だったこと無いですよ!!ローレンス殿下とも、誰とも!!」
「はぁ…?」
「ローレンス殿下の相手はロドニーですよ!」
「ロドニー?誰だ?」
「ええっ。生徒会に僕と一緒によく来ていたもう一人の平民のロドニーですよ」
「そういや居たっけか…?」
正直、顔が思い出せない。ありふれた茶髪の地味な顔の奴だった気がするが…。いつもルキーニとくっついて居たっけ。
「ロドニーは生徒会のメンバーじゃなかったけど、皆さんに良くしてもらってた筈なのに…覚えてないんですか?ええ………」
じゃあオレはずっと勘違いしてたのか?

「やっぱりなぁ…そうだよなぁ。そんなわけないよなぁ…あの時の言葉は…僕の勘違い……」
アトラ司教ことルキーニは、何やらぶつぶつと呟いている。

「兄さんがアトラ司教様と知り合いだったなんてびっくりしたよ!アトラ司教様は王都じゃほんとーに人気があるんだよ!聖騎士と混じって訓練にも参加されるし、質実剛健な上に清廉潔白だしこの見た目だしで!」
「へー。そうなのか。変わりすぎてて気付かなかった。頑張ったんだな」
弟はアトラ司教ことルキーニがどれだけ凄いかを滔々と語る。
2学年違いで、学園で接点は無かったが、ルキーニは有名人で目立つ存在だったらしい。生徒会に入っている時点で目立つし、年下から見れば、そうだろうな。
弟は聖騎士1年目だし、余計に学園の先輩である若い出世頭に目がいくんだろう。
弟が自分を絶賛している間、ルキーニは何かぶつぶつ呟いて、こちらの話は聞いていないようだ。

「やっぱなぁ…わかってたさ…はぁ…あの、今の僕、どうですか…?」
「どうとは…」
「やっぱり、昔の美少年って感じの方が良かったですか?」

自分で美少年とか言うか?
こんな事を気にするということは、大きくなって見た目が変わってしまったから、振られたんだろうか。気の毒に。
両手を組み、目を潤ませてオレを見つめる。
なんというか、あざとい。あざといが、勝手に頬が熱くなる。

「いや、今の方がいい。強そうだしな」
「!!」

お世辞じゃなく、そう思う。昔も否定はしないが、大きな自分には、あの頃のルキーニは何だか触れてはならないか細い生き物だったから、今の方が安心感がある。

ほっとした顔で笑った顔は、そんなに変わってないなと思った。


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