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5.有能な司教とは
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「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
危険地域への出入りは、侯爵家への事前の届出をし許可証をもらい、入出は警備隊で全て記録しておかなくてはならない。昨日のうちに、隊長と侯爵家へ行き、アトラ司教の許可証をもらってきた。
入口番と隊長に挨拶をして、許可証と届出書、侯爵家の承認印があるかを確認する。警護と監視のため、警備隊も1人につき2名、必ず同行する。
弟は聖騎士だが、侯爵家の一員なので警備隊扱いで、アトラ司教とオレと弟で森に入る。
森に入ると、白い鳥がアトラ司教の肩に留まった。何やら会話をしていると、大きな黒い鳥が上空を旋回している。
「あー、あれか…」
「アトラ司教様、あの鳥は?」
「番になったみたいです。なかなか心強い味方が出来ましたよ」
「あの黒い鳥、群れで人里を襲って警備隊で怪我人が増えたやつ…」
「そのようですね。密猟者に巣を荒らされ、気が立ってしまったようです。卵を盗られたと。今は危険はありません」
しれっと言うが、その鳥は大人の男も持ち上げられるくらいの力があり、警備隊の屈強な男たちを掴みぶん投げ、皆骨を折る重症だ。
魔術師が応戦したが、素早く被害を与えて嘲笑うかのようにサッと森に戻っていった。
元いた司祭は軽い治癒力があったため、なんとか命を取り留められただけ御の字だった。
苦々しく思うが、魔獣を恨むのはお角違いで、悪いのは密猟者であり防げなかった我々の落ち度なのだ。街に被害が無かっただけ良しとしなくてはならない。
弟とルキーニが話しているのを聞きながら、妙な気配がするなと耳を澄ませる。
バサバサバサバサッ
奥から、小鳥が何羽も飛び出してきた。何かから逃げるように。
バキバキッ
「フーッフーッ」
大きな黒い塊のような魔獣が、ヨタヨタと出てきた。ヨダレを垂らし目が赤黒く光っていて、黒い靄に包まれ明らかに様子がおかしい。
一瞬、こちらに気付いて止まったと思ったら、突進してきた。弟と二人でアトラ司教の前で剣を構える。
「今のうちに逃げてください!」
魔獣を引きつけているうちに逃げるようにと、アトラ司教に弟が叫ぶ。
心得たとばかりに走るアトラ司教に、魔獣は弟とオレの上を飛び越えて向かって行く。
狙いは司教か!
飛び越えた足を咄嗟に掴むが、勢いは止まらずに身体が引きずられる。
この野郎、止まれ!!
と思った瞬間、ふりほどかれて投げ飛ばされ、木にしこたま背を打ち付けられた。
「がぁっ!」
「兄さん!」
「先輩!」
突進した魔獣がルキーニにぶつかる!と思った瞬間、ピカッと光り輝いて…ルキーニは魔獣を身体全体で受け止め…………勢いよく投げた。自分より大きい巨体を。
それはもう、顔の血管が浮き上がり、ビキビキと音が聞こえるような憤怒の形相で、力いっぱい投げつけた。
ドゴオオオオン…!森に大きな音が響き渡り、シーンと静まり返る。
大岩に身体を打ち付けられた魔獣は、動かなくなった。続けてルキーニが浄化をすると、魔獣から黒い靄は消え、猪が現れた。
「先輩!!」
ルキーニは、吹っ飛ばされたオレを心配そうに駆け寄り、光を当てる。背骨が逝ったかと思ったが、急速に痛みが引いていき、治癒をしてくれたのだとわかる。
オレは内心動揺していた。
なんだあれ?魔獣、投げ飛ばしてたよな?
オレたちが、数人掛かりで命からがら魔獣を仕留めるのと違って、ブーン!ブン!ドンッで終わったぞ?
「兄さん、大丈夫?!アトラ司教様!さすがです!!」
弟はキラキラした目でルキーニを見ている。治癒をかけてもらったから、大丈夫だ。しかも治癒も傷を治す程度ではない。全快している。何なら若干あった腰の痛みも治っている。
「ああ…大丈夫、だ…」
「良かった…」
ルキーニはキラキラ瞳を潤ませ、泣きそうな顔でオレを見ている。何でこいつは無駄にこんなにキラキラしてるんだ?
「アトラ司教様は、何か筋力強化魔法とか魔具は使ってるのですか?」
「筋力強化のものは使っていませんよ。光属性との相性で、少し魔獣の力が弱まるのはあります。ただ、ああいう荒っぽい魔獣とは力でやり合わないと分かり合えないですから…ふふ」
「流石です!!アトラ司教様の二の腕すごいですもんね~僕ももっと鍛えないと!」
鍛えたからって、相性があるからって、結構な衝撃だったように見えたぞ?
もう、こいつ一人で何とかなるのでは?
「そうかな?何かと鍛えとくと便利なんで、頑張っちゃいました」
司祭服を着たまま、腕を曲げて力こぶを作る。
魔獣を手懐けるのって、物理なの?
「あの、先輩にはルキーニと呼んでもらいたいんですが…敬語も使わなくていいですし…」
「そうか」
今、その会話必要か?と思ったが、またもあざとい顔をして見つめるルキーニに、レオナルドは考えるのを止め頷いた。
暴走した猪のような魔獣は、浄化されると嘘のように大人しくなり、ルキーニと何やら意思疎通して森の奥へ戻っていった。
「あれが、汚染された泉の水を飲んでしまった魔獣です。足を怪我して泉に行き、本来ならば治っていたはずが、自我を失って彷徨っていたようです。とても苦しんでいました。かわいそうに…」
暴走した魔獣の様子が分かり、ルキーニは対策を立てるからまた2日後に森に入りたいと言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
危険地域への出入りは、侯爵家への事前の届出をし許可証をもらい、入出は警備隊で全て記録しておかなくてはならない。昨日のうちに、隊長と侯爵家へ行き、アトラ司教の許可証をもらってきた。
入口番と隊長に挨拶をして、許可証と届出書、侯爵家の承認印があるかを確認する。警護と監視のため、警備隊も1人につき2名、必ず同行する。
弟は聖騎士だが、侯爵家の一員なので警備隊扱いで、アトラ司教とオレと弟で森に入る。
森に入ると、白い鳥がアトラ司教の肩に留まった。何やら会話をしていると、大きな黒い鳥が上空を旋回している。
「あー、あれか…」
「アトラ司教様、あの鳥は?」
「番になったみたいです。なかなか心強い味方が出来ましたよ」
「あの黒い鳥、群れで人里を襲って警備隊で怪我人が増えたやつ…」
「そのようですね。密猟者に巣を荒らされ、気が立ってしまったようです。卵を盗られたと。今は危険はありません」
しれっと言うが、その鳥は大人の男も持ち上げられるくらいの力があり、警備隊の屈強な男たちを掴みぶん投げ、皆骨を折る重症だ。
魔術師が応戦したが、素早く被害を与えて嘲笑うかのようにサッと森に戻っていった。
元いた司祭は軽い治癒力があったため、なんとか命を取り留められただけ御の字だった。
苦々しく思うが、魔獣を恨むのはお角違いで、悪いのは密猟者であり防げなかった我々の落ち度なのだ。街に被害が無かっただけ良しとしなくてはならない。
弟とルキーニが話しているのを聞きながら、妙な気配がするなと耳を澄ませる。
バサバサバサバサッ
奥から、小鳥が何羽も飛び出してきた。何かから逃げるように。
バキバキッ
「フーッフーッ」
大きな黒い塊のような魔獣が、ヨタヨタと出てきた。ヨダレを垂らし目が赤黒く光っていて、黒い靄に包まれ明らかに様子がおかしい。
一瞬、こちらに気付いて止まったと思ったら、突進してきた。弟と二人でアトラ司教の前で剣を構える。
「今のうちに逃げてください!」
魔獣を引きつけているうちに逃げるようにと、アトラ司教に弟が叫ぶ。
心得たとばかりに走るアトラ司教に、魔獣は弟とオレの上を飛び越えて向かって行く。
狙いは司教か!
飛び越えた足を咄嗟に掴むが、勢いは止まらずに身体が引きずられる。
この野郎、止まれ!!
と思った瞬間、ふりほどかれて投げ飛ばされ、木にしこたま背を打ち付けられた。
「がぁっ!」
「兄さん!」
「先輩!」
突進した魔獣がルキーニにぶつかる!と思った瞬間、ピカッと光り輝いて…ルキーニは魔獣を身体全体で受け止め…………勢いよく投げた。自分より大きい巨体を。
それはもう、顔の血管が浮き上がり、ビキビキと音が聞こえるような憤怒の形相で、力いっぱい投げつけた。
ドゴオオオオン…!森に大きな音が響き渡り、シーンと静まり返る。
大岩に身体を打ち付けられた魔獣は、動かなくなった。続けてルキーニが浄化をすると、魔獣から黒い靄は消え、猪が現れた。
「先輩!!」
ルキーニは、吹っ飛ばされたオレを心配そうに駆け寄り、光を当てる。背骨が逝ったかと思ったが、急速に痛みが引いていき、治癒をしてくれたのだとわかる。
オレは内心動揺していた。
なんだあれ?魔獣、投げ飛ばしてたよな?
オレたちが、数人掛かりで命からがら魔獣を仕留めるのと違って、ブーン!ブン!ドンッで終わったぞ?
「兄さん、大丈夫?!アトラ司教様!さすがです!!」
弟はキラキラした目でルキーニを見ている。治癒をかけてもらったから、大丈夫だ。しかも治癒も傷を治す程度ではない。全快している。何なら若干あった腰の痛みも治っている。
「ああ…大丈夫、だ…」
「良かった…」
ルキーニはキラキラ瞳を潤ませ、泣きそうな顔でオレを見ている。何でこいつは無駄にこんなにキラキラしてるんだ?
「アトラ司教様は、何か筋力強化魔法とか魔具は使ってるのですか?」
「筋力強化のものは使っていませんよ。光属性との相性で、少し魔獣の力が弱まるのはあります。ただ、ああいう荒っぽい魔獣とは力でやり合わないと分かり合えないですから…ふふ」
「流石です!!アトラ司教様の二の腕すごいですもんね~僕ももっと鍛えないと!」
鍛えたからって、相性があるからって、結構な衝撃だったように見えたぞ?
もう、こいつ一人で何とかなるのでは?
「そうかな?何かと鍛えとくと便利なんで、頑張っちゃいました」
司祭服を着たまま、腕を曲げて力こぶを作る。
魔獣を手懐けるのって、物理なの?
「あの、先輩にはルキーニと呼んでもらいたいんですが…敬語も使わなくていいですし…」
「そうか」
今、その会話必要か?と思ったが、またもあざとい顔をして見つめるルキーニに、レオナルドは考えるのを止め頷いた。
暴走した猪のような魔獣は、浄化されると嘘のように大人しくなり、ルキーニと何やら意思疎通して森の奥へ戻っていった。
「あれが、汚染された泉の水を飲んでしまった魔獣です。足を怪我して泉に行き、本来ならば治っていたはずが、自我を失って彷徨っていたようです。とても苦しんでいました。かわいそうに…」
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