ミモザの恋が実る時

天埜鳩愛

文字の大きさ
2 / 14
ミモザの恋が実る時

2

しおりを挟む
 バイト先で俺の一個年上の代は女子が圧倒的に多い。
 女子の先輩たちの噂話がマネージャーにまで届いているとは驚きだ。
 まあ、ここのバイトの人たちってみんな和気あいあいとしてて仲がいいからなあ。年に何回かバーベキューとかボウリングとか集まるイベントがあるし、ここで出会った人同士が結婚しましたってハガキが、バックヤードに何枚も貼ってあるぐらいだ。
 だからか知らんが、マネージャーになる人は伝統的にお節介な人が多いらしい。俺は目をぱちくりさせてから口をむうっとへの字に曲げた。

「……彼女では、ないっす。前にも話したかもですけど、第一第三日曜日は用事があって」
「あー。習い事だっけ?」

 いちいち全員のシフトの要望なんて覚えちゃいられないんだろうけど、そんな風にとぼけられて、俺はむきになってらしくなく少し語気を強めてしまった。
 思ったより突っ込んでこられて面倒だなって思ったけど確認されたから仕方ない。

「いや、そういんじゃなくて、人と会う約束があるんです」

 そしたら先輩は何を勘違いしたのか、目を輝かせてニヤニヤしてきた。

「やっぱ彼女とデートか。お前は見た目も中身も、可愛いのと格好いいのが絶妙に混ざり合っててモテそうだもんな。周りに黙っててやるから、俺にだけどんな娘か教えろ」
「いやいやいや。会うの、彼女じゃなくて友達なんですけどっ」
「へえ?」

 なんてちょっと裏返り気味の声を出されて驚かれたから、こっちもビビる。そんなに驚かれることなんだろうか。なんだか馬鹿にされたような気分だ。

「友達と月に二回もわざわざ日曜日会うなんて、そんなことある? 隠さなくてもいいぞ。友達って、狙ってる娘? ここのバイト先の子とか? 俺にいえねぇとか?」

 先輩いい人なんだけど、こういう時しつこくて辟易してしまう。俺は肩を落として赤いスニーカーのつま先を見た。瑞貴、待たせてごめんなあ、帽子でへたってなった髪の毛なんて気にしないで即、ここを出ればよかったと益々後悔する。

「いや、普通に、男の幼馴染っすけど」
「男友達? 月に二回わざわざ曜日まで決めて会うって、そんなんあまり聞いたことないなあ」
「え……」

 わざわざ同じ内容を繰り返して断言されたから、俺は戸惑ってしまう。そんなに変なことをしている自覚はなかった。おしゃべりな方の俺が珍しく言葉に詰まったからか、マネージャーはさらに押し込んできた。

「でもまあ、幼馴染との約束は恋人のお願いには負けるよなあ。坪井の事、助けてやんねぇと。それにここんとこ、日曜入る人少なくって困ってたから、これからは度々はいって欲しいんだよね」
「そうっすか。……分かりました」
 なんて笑って答えてはみたけど余計にもやっとした。また顔に出てる自覚がある。そのまま小さく頭を下げて挨拶をすると足元に目線をおとしたまま店を後にした。

  これは日曜のシフトを今より増やされて、死守してきた第一第三日曜日の空白にも無理やりねじ込まれてしまうのかもしれない。

 誰にだって事情はあるし、自分だって体調不良になる可能性はあるからそれは仕方ないって思えるけど、シフトの調整はやっぱり一回でも譲るとほら、やっぱりあいつシフト譲れるでしょって狙われる。薄々想像はしていたが、あーあ。これからどうしようかなあと思う。

(瑞貴、忙しくて中々会えないから、今日みたいに一日がっつり遊べる日を楽しみにして、それモチベにして生きてんのに。楽しい気分に水ぶっかけられた感じ。だいたいさあ、恋人との用事が上等で、幼馴染との約束が格下かどうかなんて他人に決めつけられたくないんだけど!)

 先輩には言えなくて飲み込んだ言葉が喉元まで次から次にせり上がってくる。ぎゃあぎゃあ声に出して騒いでしまいたい気分だ。
 俺にとっては、瑞貴は物心ついた時から傍に居た奴で、一緒にいる方がむしろ普通の相手だ。離れている今の方が変なんだ。昔から特別で一番仲がいい、大事な人なんだよ。
 むかむかする。スマホをポケットに突っ込んだら中にいれっぱなしのレシートに手が当たる。それを腹いせにくしゃって潰した。
 中学まではずっと同じ学校に通っていたから毎日一緒にいられたけど、瑞貴が有名男子校、俺が地元の県立高校って進学先が分かれてから、一日がっつり一緒にいられる日の方がむしろ『貴重品』になった。
 日曜日の約束を言い出したのは瑞貴の方からだった。だけど瑞貴が俺の心中を察してくれたんじゃないかなって思ってる。
 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。

黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。 ※このお話だけでも読める内容ですが、 同じくアルファポリスさんで公開しております 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 と合わせて読んでいただけると、 10倍くらい楽しんでいただけると思います。 同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。 魔法と剣で戦う世界のお話。 幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、 魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、 家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。 魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、 「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、 二人で剣の特訓を始めたが、 その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・ これは病気か!? 持病があっても騎士団に入団できるのか!? と不安になるラルフ。 ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!? ツッコミどころの多い攻めと、 謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの 異世界ラブコメBLです。 健全な全年齢です。笑 マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。 よろしくお願いします!

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結済】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜

キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。 そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。 近づきたいのに近づけない。 すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。 秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。 プロローグ+全8話+エピローグ

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

処理中です...