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ミモザの恋が実る時
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正直言うと。俺は高校も瑞貴と一緒の学校に通ってみたかった。
だけどどだい無理だった。県立高校なら頑張って勉強して合わせようって限界までもがけたけど、瑞貴の進学先は親父さんもおじいさんも出た都内の歴史ある超進学校だ。
いくら授業料が無償になったって、俺んちにはそこに余裕で通えるほどの財力もなければ、俺に奨学生に手が届くほどの学力もなかった。
だから泣く泣く別の高校に進学したんだ。
『瑞貴とは学校離れたらもう、あんまり会えなくなるなあ。頭いい学校で秀才ばっかに囲まれたら、俺なんかともう口聞いてくれなくなるかも』
なんていじけたことを言った覚えもある。今思い返すとかなり恥ずかしい。思春期だから許してくれ。
そしたら瑞貴に『俺さ、周りとすぐに打ち解けるタイプじゃないだろ? 八広みたいに大事な人、高校にいって見つかるとは思えない。だからさ、八広の第一第三日曜日、俺にくれない?』って言われた。
あの時はびっくりしたけど、『まあ、第一第三日曜日は今までも一緒に受験勉強してきたわけだし、高校行ってからバイトとかして忙しくなるかもだけど、月に二日だろ。絶対開ける』
なんてさ。俺は内心飛び上がるほど嬉しかったのに、顏に出るの必死に抑えてクールに応えたんだ。
『ありがとう。俺、八広と離れて生きて行けるかどうか分かんないけどやってみる』
『なんだそれ』
その時の事、今でもよく思い出せるんだ。
瑞貴のくっきり綺麗な二重の瞳が俺を覗き込んできて、大きな掌で二の腕をぎゅうって掴んできた。
なんか、それがすごく必死な仕草に感じて、それで俺まで今生の別れみたいな、すごく切ない気持ちになった。
『それは、俺も一緒だし。……そうだなあ。瑞貴いなかったらいろいろ困るか。忘れ物した時、教科書とかジャージ借りにいけなくなるし』
『……教科書はまあ百歩譲って借りてもいいけど、ジャージは他の男からは絶対に借りないで』
『んん?』
なんでジャージは借りちゃいけないんだろうか。意味が分からず、ぽかんとしてたら眉間にちょっと力を入れて瑞貴が詰め寄ってきた。
『俺が、やだから。約束して、いいね? 絶対だよ』
『わ、分かった。しっかりします。忘れ物ばっかしてたら、だらしなく思われるもんな。心配すんなって。俺も高校からはお前いなくても、がんばるから』
『……俺といるときは今まで通り、しっかりしなくてもいいよ。だけど高校では隙を見せて、そういう人懐っこい可愛い顔で誰構わず笑い掛けないで。いいね?』
『瑞貴って、たまにおかしなこというよなあ? 俺が笑ったぐらいで何も変わらんて』
『変わる! 変わる人、絶対現れるから。いいかい? 何か変わったこととか新しい友達が出来たりしたら、日曜日を待たなくていいから即、俺に教えて』
『分かったって。瑞貴も仲いい奴出来たら教えろよな。進学校の友達、どんな奴らか知りたいし』
そんな会話をしたっけなって俺はちょっとだけ一年前を懐かしんで、いつの間にか口の端が上がってた。
瑞貴の事を考えれば大体自然と笑顔になれるんだ。
だからさ、俺たちには坪井さんのぽっと出の彼女よりずっとずっと深くてぶっとい絆があるって思ってる。だけどこれって人に理解してもらうのが難しいみたいだ。
無意識にため息をつきながら、気持ち早足で瑞貴が待つ駅の隣に立つ商業ビルに向かう。春間近の二月の第三日曜日。街はどこもかしこもミモザの花の黄色が輝く、華やいだディスプレイに飾られている。来月頭にミモザの花をモチーフにしたお祭りがあるからだ。
光の粒みたいに明るい黄色でふわふわのミモザの花から、陽気な春の雰囲気が伝わってくる。
バイトに向かう前に目にした時はひたすら楽しい気分になったのに、恋人同士らしき男女を模したマネキンがミモザの花束を手に寄り添う姿を見たらなんだかちょっぴりもやもやムカッと来た。
(くそっ恋人同士がなんだっていうんだ。……でも恋人同士ならいつだって一緒にいることになんの理由も求められないで済むんだ。だって惹かれあうのが当然なんだから。でもそれって俺と瑞貴の関係と何が違うんだろう。恋人と会う約束だったら……。突然頼まれたシフトチェンジも、絶対嫌だって断れるってことだよな)
だってさ、その人に嫌われたら生きていけないから、ぜってぇシフト入れんの無理ですって。そんな風に言ってみたい。
言ったらだめなのかな。
実際、俺、瑞貴に嫌われたら生きてけないもん。幼馴染とか友達っていうだけじゃ、なんか物足りない。
例えば今日、映画が終わって夕飯食べたら解散で、地元の駅についたらバイバイだ。
だけどもっとさ、ずっと夜まで一緒にいられたらいいのになあって思うこともあるんだ。周りの友達に彼女ができて、ずっと四六時中一緒にいられる関係が、なんか羨ましいなあって思ったことがあって、だからって彼女をすぐ作ろうとか好きな人が欲しいとかまでは思ったことがなくて。
だってさ、多分瑞貴以上に心惹かれる相手ができるか、自分でも分からないから。
今までこんな風にじっくり考えたことなかったのに、坪井さんのせいだ。
なんだろ、このもどかしい感じ。
もうすぐクラス替え、春が近づいてザワザワ、ソワソワ。人間も生き物だから簡単に季節の風に煽られるんだ。
だけどどだい無理だった。県立高校なら頑張って勉強して合わせようって限界までもがけたけど、瑞貴の進学先は親父さんもおじいさんも出た都内の歴史ある超進学校だ。
いくら授業料が無償になったって、俺んちにはそこに余裕で通えるほどの財力もなければ、俺に奨学生に手が届くほどの学力もなかった。
だから泣く泣く別の高校に進学したんだ。
『瑞貴とは学校離れたらもう、あんまり会えなくなるなあ。頭いい学校で秀才ばっかに囲まれたら、俺なんかともう口聞いてくれなくなるかも』
なんていじけたことを言った覚えもある。今思い返すとかなり恥ずかしい。思春期だから許してくれ。
そしたら瑞貴に『俺さ、周りとすぐに打ち解けるタイプじゃないだろ? 八広みたいに大事な人、高校にいって見つかるとは思えない。だからさ、八広の第一第三日曜日、俺にくれない?』って言われた。
あの時はびっくりしたけど、『まあ、第一第三日曜日は今までも一緒に受験勉強してきたわけだし、高校行ってからバイトとかして忙しくなるかもだけど、月に二日だろ。絶対開ける』
なんてさ。俺は内心飛び上がるほど嬉しかったのに、顏に出るの必死に抑えてクールに応えたんだ。
『ありがとう。俺、八広と離れて生きて行けるかどうか分かんないけどやってみる』
『なんだそれ』
その時の事、今でもよく思い出せるんだ。
瑞貴のくっきり綺麗な二重の瞳が俺を覗き込んできて、大きな掌で二の腕をぎゅうって掴んできた。
なんか、それがすごく必死な仕草に感じて、それで俺まで今生の別れみたいな、すごく切ない気持ちになった。
『それは、俺も一緒だし。……そうだなあ。瑞貴いなかったらいろいろ困るか。忘れ物した時、教科書とかジャージ借りにいけなくなるし』
『……教科書はまあ百歩譲って借りてもいいけど、ジャージは他の男からは絶対に借りないで』
『んん?』
なんでジャージは借りちゃいけないんだろうか。意味が分からず、ぽかんとしてたら眉間にちょっと力を入れて瑞貴が詰め寄ってきた。
『俺が、やだから。約束して、いいね? 絶対だよ』
『わ、分かった。しっかりします。忘れ物ばっかしてたら、だらしなく思われるもんな。心配すんなって。俺も高校からはお前いなくても、がんばるから』
『……俺といるときは今まで通り、しっかりしなくてもいいよ。だけど高校では隙を見せて、そういう人懐っこい可愛い顔で誰構わず笑い掛けないで。いいね?』
『瑞貴って、たまにおかしなこというよなあ? 俺が笑ったぐらいで何も変わらんて』
『変わる! 変わる人、絶対現れるから。いいかい? 何か変わったこととか新しい友達が出来たりしたら、日曜日を待たなくていいから即、俺に教えて』
『分かったって。瑞貴も仲いい奴出来たら教えろよな。進学校の友達、どんな奴らか知りたいし』
そんな会話をしたっけなって俺はちょっとだけ一年前を懐かしんで、いつの間にか口の端が上がってた。
瑞貴の事を考えれば大体自然と笑顔になれるんだ。
だからさ、俺たちには坪井さんのぽっと出の彼女よりずっとずっと深くてぶっとい絆があるって思ってる。だけどこれって人に理解してもらうのが難しいみたいだ。
無意識にため息をつきながら、気持ち早足で瑞貴が待つ駅の隣に立つ商業ビルに向かう。春間近の二月の第三日曜日。街はどこもかしこもミモザの花の黄色が輝く、華やいだディスプレイに飾られている。来月頭にミモザの花をモチーフにしたお祭りがあるからだ。
光の粒みたいに明るい黄色でふわふわのミモザの花から、陽気な春の雰囲気が伝わってくる。
バイトに向かう前に目にした時はひたすら楽しい気分になったのに、恋人同士らしき男女を模したマネキンがミモザの花束を手に寄り添う姿を見たらなんだかちょっぴりもやもやムカッと来た。
(くそっ恋人同士がなんだっていうんだ。……でも恋人同士ならいつだって一緒にいることになんの理由も求められないで済むんだ。だって惹かれあうのが当然なんだから。でもそれって俺と瑞貴の関係と何が違うんだろう。恋人と会う約束だったら……。突然頼まれたシフトチェンジも、絶対嫌だって断れるってことだよな)
だってさ、その人に嫌われたら生きていけないから、ぜってぇシフト入れんの無理ですって。そんな風に言ってみたい。
言ったらだめなのかな。
実際、俺、瑞貴に嫌われたら生きてけないもん。幼馴染とか友達っていうだけじゃ、なんか物足りない。
例えば今日、映画が終わって夕飯食べたら解散で、地元の駅についたらバイバイだ。
だけどもっとさ、ずっと夜まで一緒にいられたらいいのになあって思うこともあるんだ。周りの友達に彼女ができて、ずっと四六時中一緒にいられる関係が、なんか羨ましいなあって思ったことがあって、だからって彼女をすぐ作ろうとか好きな人が欲しいとかまでは思ったことがなくて。
だってさ、多分瑞貴以上に心惹かれる相手ができるか、自分でも分からないから。
今までこんな風にじっくり考えたことなかったのに、坪井さんのせいだ。
なんだろ、このもどかしい感じ。
もうすぐクラス替え、春が近づいてザワザワ、ソワソワ。人間も生き物だから簡単に季節の風に煽られるんだ。
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