皆様覚悟してくださいませ。偽聖女の義妹から全て取り戻します。今まで受けた仕打ちは倍にしてお返し致します。

くろねこ

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本邸の大広間は、久しぶりに人で満ちていた。

白い布が張られ、香が焚かれ、中央には義妹が立っている。

純白のドレス。
祈るために組まれた手。
伏せた睫毛。

――聖女。

そう呼ばれているのが、今の義妹だった。

(はいはい、演出は完璧ね)

私は柱の影から、その光景を眺めていた。

照明、立ち位置、視線誘導。
人が“ありがたがる構図”を、きちんと分かっている。

「女神よ、どうかこの者たちに癒しを」

義妹が声を上げると、周囲の者たちは息を潜めた。

けれど。

(空気、重っ)

祈りが終わっても、場の空気は晴れない。
顔色が少し良くなる者はいる。でも、それだけ。持続しない。回復していない。

「さすがは聖女様……」

そう口にする声が、やけに揃っている。

(あー、これ“言わされてるやつ”)

納得じゃなくて、同調。
安心したいだけの反応。

数字にしなくても分かる。これは“効果が出てるフリ”だ。義妹の視線が、私を捉えた。

一瞬。そして、にっこり微笑む。

(来た来た)

「……ああ、いたのね」

甘い声。でも芯は冷たい。

「もう、あなたの出番はないわ」

周囲に聞こえないように、それでも確実に届く距離。

「だって、私が“聖女”ですもの」

(はい、マウンティングいただきました)

義母が満足そうに頷く。父は、相変わらず沈黙。

(この沈黙が一番高くつくのよね)

「あなたは、もう役に立たないの」

義妹は続ける。

「ここにいるだけで迷惑よ」

(……なるほど)

排除宣言。段階は、最終フェーズ。
今までのは準備。これは“追い出し”。

その瞬間――背中に衝撃。

「……っ」

床に倒れ、肺から空気が抜ける。

「……邪魔」

義妹の声。

笑い声。

(雑っ)

私は、内心で評価した。

力任せ。
衝動的。
証拠は残る。

いつもなら、ここで祈って終わり。なかったことにして、空気を守って、自分だけ消耗して。でも。今回は違う。

(はい、記録完了)

私は祈らない。治さない。頬の痛みも、床の冷たさも、全部そのまま受け取る。

(これは“証拠”だから)

ゆっくりと、立ち上がる。俯かない。義妹が、わずかに眉をひそめた。

「……なによ、その目」

(あー、バレた)

私は答えない。代わりに、じっと見返す。
初めて。上下じゃない。被害者でもない。

“対等な視線”。

(さて)

奪われたものは多い。

立場。
名前。
役割。
信頼。

でも――構造は、もう見えた。

(これ、取り戻せるわ)

しかも。向こうは、“聖女役”を演じ続けなきゃいけない。

私は?
自由。

偽りの聖女の祈りが続く中で、本物の加護は、私の内側で静かに息をしている。

(復讐じゃない)

ただの、回収作業。奪われたものを、正しい持ち主に戻すだけ。

(……さぁ)

ここからが、本番ね。私は、一歩前に出た。ざわ、と空気が揺れる。義妹が祈りを捧げている最中だというのに、誰かが息を呑むのが分かった。

(祈りスタイル、すればいいのよね?)

私は、軽く背筋を伸ばす。両手を胸の前で重ねる。形だけなら、誰でも真似できる。

問題は――中身。

(魔法はイメージ)

うん、知ってる。

光って、急にドーン、じゃない。光は、屈折する。屈折して、重なって、人の目には“色”として見える。

(虹)

太陽光が、水滴に当たって分かれる。
角度。
反射。
屈折率。

中学の理科でやったやつ。

(いけるでしょ、これ)

私は目を閉じた。

(次は、結晶)

結晶って、一気にできるものじゃない。

核があって、そこに少しずつ、規則正しく積み重なる。理科室で作った、あの透明な結晶。

(光を、結晶化させるイメージ)

――試すだけ。ものは試し。私は、静かに口を開いた。

「私も……祈らせていただきますね」

周囲がざわめく。義妹が、ぎょっとしたようにこちらを見る。

(あれ、義妹の名前……見た目からしてエリザベスで、まあいいや)

私は気にしない。目の前で、咳き込み、立ち上がれずにいる少女を見る。

「あなたの病が、癒えますように」

言葉は、ただのトリガー。

大事なのは、その奥。

(――よし、今だ)

魔法式、展開。私の周りに魔法式が幾重に重なり現れる。光の粒が、私の周囲に、ふわりと浮かび上がる。

最初は、淡く。次第に数を増し、空気の中で、きらきらと反射し始める。誰かが、息を呑んだ。光は、曲がる。重なり合い、
屈折し、七色に分かれる。

虹のような光が、私を中心に、円を描いた。

床に、天井に、人々の頬に。柔らかな光が、降り注ぐ。まるで、光そのものが、結晶になって空から舞い落ちるように。

そして――

目の前の少女の、顔色が変わった。蒼白だった頬に、血の気が戻る。震えていた手が、止まる。

「……え?」

少女が、自分の足を見る。ゆっくりと、恐る恐る。

――立った。

一歩。

また一歩。

「歩け……る……?」

次の瞬間。

「……き、奇跡だ!」

誰かが叫んだ。

「聖女様じゃない……聖母様だ!」

「光が……違う……!」

ざわめきが、悲鳴に変わる。人々が、私を見る。義妹の顔から、血の気が引いていく。

(あー……)

私は、内心で肩をすくめた。

(やりすぎたかしら)

でも。これは、私の力。祈っても、祈らなくても。本物の加護は、ここにある。私は、静かに目を開けた。

(……なるほど)

理解した。この世界の魔法。

――思ってたより、ずっと素直ね。






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