14 / 41
十一
しおりを挟む
社交とは、利益を生む行為です
奥庭は、昼下がりの光に満ちていた。私は浮遊クッションに身を沈め、目を閉じている。日光は強すぎず、木々がちょうどよく光を砕き、風は葉擦れの音だけを運んでくる。
――完璧な休憩時間。
そのはずだった。
「オリビア!」
甲高い声が、空気を切り裂く。義母だった。怒りに任せて庭へ踏み込もうとした、その瞬間。
ざわり。
木々が、はっきりと反応した。枝がしなり、葉が逆立ち、地面の根がうねる。まるで「そこから先は通さない」と告げるように。それでも義母は進もうとした。
「生意気な……!」
次の瞬間。
彼女の足元から伸びた枝が、ぐるりと足首に絡みつく。さらに背後から別の枝が伸び、腰を支え、肩を押さえ――
「なっ、なによこれ!?」
義母の身体は、そのまま木に“吊られた”。
地面から少し浮いた状態で。ばたばたと足を動かすが、無駄だ。枝は柔らかいのに、逃げ道を一切与えない。
私は、目を閉じたまま言った。
「罰です」
静かな声。
「反省したら、下ろします」
「騒ぐと、時間が延びます」
「オ、オリビア! あなた――!」
私は、ゆっくりと目を開け、義母を見る。
「まず、考えてください」
一語一語、区切る。
「いつ社交をするのか」
「どこで社交をするのか」
「それを、どう家の利益に変えるのか」
義母は、唇を震わせた。
「社交は、あなたの趣味じゃありません。この家の仕事です」
私は、木々に守られたまま、淡々と告げる。
「それが理解できるまで」
「私の前に現れないでください」
一拍。
「侍女長」
控えていた老練な女性が、一歩前に出る。
「この方に、マナー、言葉遣い、発言管理、利益計算。全部、叩き込みなさい」
侍女長は、深く一礼した。
「承知いたしました」
義母の顔から、完全に血の気が引く。
「安心してください」
私は、少しだけ微笑んだ。
「できるようになれば、社交に出してあげます。――役に立つ限りは」
そのとき。
「……ははっ」
堪えきれないような笑い声。庭の境界線の外。そこに、王太子が立っていた。
陽に照らされた赤茶の髪。
精悍な顔立ち。
王家特有の威圧感――
なのに。
彼は、腹を抱えて笑っていた。
「これは……。これは、素晴らしい!」
目を輝かせ、本気で楽しそうに。
「敵意を持った者は近づけない。理屈ではなく、環境が拒絶する」
彼は、枝に吊られた義母を見て、さらに笑う。
「罰が明確で、解除条件も合理的」
「しかも感情論ゼロ」
背後で、側近たちが青ざめていた。文官は眼鏡を押さえ、震える声で呟く。
「……殿下」
「これは前例が……」
武官は、剣に手をかけかけて、そっと離した。
――抜けない。ここでは。
王太子は、笑いながら私を見る。
「君、本当に面白いな。いや、恐ろしいと言うべきか」
私は、浮遊クッションに身体を預け直し、肩をすくめた。
「日光浴の邪魔をされたので、つい」
木々が、さらさらと葉を鳴らす。
肯定の音。
義母は、枝に吊られたまま、涙目で黙り込んでいた。
「……さて」
私は、目を閉じる。
「掃除は、まだ途中です」
王太子は、心底楽しそうに笑った。
側近たちは、この公爵家に関わる難易度を、改めて理解していた。
――オリビアに敵意を向けた者は、この庭
にすら立てない。
それが、静かに、確実に示された瞬間だった。
奥庭は、昼下がりの光に満ちていた。私は浮遊クッションに身を沈め、目を閉じている。日光は強すぎず、木々がちょうどよく光を砕き、風は葉擦れの音だけを運んでくる。
――完璧な休憩時間。
そのはずだった。
「オリビア!」
甲高い声が、空気を切り裂く。義母だった。怒りに任せて庭へ踏み込もうとした、その瞬間。
ざわり。
木々が、はっきりと反応した。枝がしなり、葉が逆立ち、地面の根がうねる。まるで「そこから先は通さない」と告げるように。それでも義母は進もうとした。
「生意気な……!」
次の瞬間。
彼女の足元から伸びた枝が、ぐるりと足首に絡みつく。さらに背後から別の枝が伸び、腰を支え、肩を押さえ――
「なっ、なによこれ!?」
義母の身体は、そのまま木に“吊られた”。
地面から少し浮いた状態で。ばたばたと足を動かすが、無駄だ。枝は柔らかいのに、逃げ道を一切与えない。
私は、目を閉じたまま言った。
「罰です」
静かな声。
「反省したら、下ろします」
「騒ぐと、時間が延びます」
「オ、オリビア! あなた――!」
私は、ゆっくりと目を開け、義母を見る。
「まず、考えてください」
一語一語、区切る。
「いつ社交をするのか」
「どこで社交をするのか」
「それを、どう家の利益に変えるのか」
義母は、唇を震わせた。
「社交は、あなたの趣味じゃありません。この家の仕事です」
私は、木々に守られたまま、淡々と告げる。
「それが理解できるまで」
「私の前に現れないでください」
一拍。
「侍女長」
控えていた老練な女性が、一歩前に出る。
「この方に、マナー、言葉遣い、発言管理、利益計算。全部、叩き込みなさい」
侍女長は、深く一礼した。
「承知いたしました」
義母の顔から、完全に血の気が引く。
「安心してください」
私は、少しだけ微笑んだ。
「できるようになれば、社交に出してあげます。――役に立つ限りは」
そのとき。
「……ははっ」
堪えきれないような笑い声。庭の境界線の外。そこに、王太子が立っていた。
陽に照らされた赤茶の髪。
精悍な顔立ち。
王家特有の威圧感――
なのに。
彼は、腹を抱えて笑っていた。
「これは……。これは、素晴らしい!」
目を輝かせ、本気で楽しそうに。
「敵意を持った者は近づけない。理屈ではなく、環境が拒絶する」
彼は、枝に吊られた義母を見て、さらに笑う。
「罰が明確で、解除条件も合理的」
「しかも感情論ゼロ」
背後で、側近たちが青ざめていた。文官は眼鏡を押さえ、震える声で呟く。
「……殿下」
「これは前例が……」
武官は、剣に手をかけかけて、そっと離した。
――抜けない。ここでは。
王太子は、笑いながら私を見る。
「君、本当に面白いな。いや、恐ろしいと言うべきか」
私は、浮遊クッションに身体を預け直し、肩をすくめた。
「日光浴の邪魔をされたので、つい」
木々が、さらさらと葉を鳴らす。
肯定の音。
義母は、枝に吊られたまま、涙目で黙り込んでいた。
「……さて」
私は、目を閉じる。
「掃除は、まだ途中です」
王太子は、心底楽しそうに笑った。
側近たちは、この公爵家に関わる難易度を、改めて理解していた。
――オリビアに敵意を向けた者は、この庭
にすら立てない。
それが、静かに、確実に示された瞬間だった。
130
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
好きだった幼馴染みに再会→婚約者を捨ててプロポーズした侯爵令息
星森
恋愛
侯爵家の令息エドモンドは、幼い頃に結婚を誓い合った幼馴染コレットへの執着を捨てられずにいた。
しかし再会した彼女は自分を避け、公爵令息アランと親しくする姿ばかりが目に入る。
嫉妬と焦燥に駆られたエドモンドは、ついに“ある計画”に手を染めてしまう。
偶然を装った救出劇、強引な求愛、婚約破棄──
すべてはコレットを取り戻すためだった。
そして2人は……?
⚠️本作はAIが生成した文章を一部に使っています。
母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない
春風由実
恋愛
「何故お前が生きた?」
それは怪我をして長く眠っていたエルリカが、目覚めた直後に父親である公爵から掛けられた言葉だった。
「お前こそが、女神の元に行くべきだった!」
父親から強い口調で詰られたエルリカ。
普通の令嬢は、ここで泣くか、その後立ち直れなくなるという。
けれどエルリカは違った。
「あなたこそ、何をのうのうと元気にしているのですか?」
そうしてこの日父娘は、それぞれに絶縁を宣言した。
以来、母方の祖父母に引き取られ、侯爵領で過ごしてきたエルリカ。
ところが公爵は、いつまでもエルリカを除籍する手続きを実行しなかった。
おかげで名ばかりの公爵令嬢のまま、エルリカが王都へと戻る日がやって来てしまう──。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
家も婚約者も、もう要りません。今の私には、すべてがありますから
有賀冬馬
恋愛
「嫉妬深い女」と濡れ衣を着せられ、家も婚約者も妹に奪われた侯爵令嬢エレナ。
雨の中、たった一人で放り出された私を拾ってくれたのは、身分を隠した第二王子でした。
彼に求婚され、王宮で輝きを取り戻した私が舞踏会に現れると、そこには没落した元家族の姿が……。
ねぇ、今さら私にすり寄ってきたって遅いのです。だって、私にはもう、すべてがあるのですから。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる