皆様覚悟してくださいませ。偽聖女の義妹から全て取り戻します。今まで受けた仕打ちは倍にしてお返し致します。

くろねこ

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十一

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社交とは、利益を生む行為です

 

奥庭は、昼下がりの光に満ちていた。私は浮遊クッションに身を沈め、目を閉じている。日光は強すぎず、木々がちょうどよく光を砕き、風は葉擦れの音だけを運んでくる。

――完璧な休憩時間。

そのはずだった。

「オリビア!」

甲高い声が、空気を切り裂く。義母だった。怒りに任せて庭へ踏み込もうとした、その瞬間。

ざわり。

木々が、はっきりと反応した。枝がしなり、葉が逆立ち、地面の根がうねる。まるで「そこから先は通さない」と告げるように。それでも義母は進もうとした。

「生意気な……!」

次の瞬間。

彼女の足元から伸びた枝が、ぐるりと足首に絡みつく。さらに背後から別の枝が伸び、腰を支え、肩を押さえ――

「なっ、なによこれ!?」

義母の身体は、そのまま木に“吊られた”。
地面から少し浮いた状態で。ばたばたと足を動かすが、無駄だ。枝は柔らかいのに、逃げ道を一切与えない。

私は、目を閉じたまま言った。

「罰です」

静かな声。

「反省したら、下ろします」
「騒ぐと、時間が延びます」

「オ、オリビア! あなた――!」

私は、ゆっくりと目を開け、義母を見る。

「まず、考えてください」

 一語一語、区切る。

「いつ社交をするのか」
「どこで社交をするのか」
「それを、どう家の利益に変えるのか」

義母は、唇を震わせた。

「社交は、あなたの趣味じゃありません。この家の仕事です」

私は、木々に守られたまま、淡々と告げる。

「それが理解できるまで」
「私の前に現れないでください」

 一拍。

「侍女長」

控えていた老練な女性が、一歩前に出る。

「この方に、マナー、言葉遣い、発言管理、利益計算。全部、叩き込みなさい」

侍女長は、深く一礼した。

「承知いたしました」

義母の顔から、完全に血の気が引く。

「安心してください」

私は、少しだけ微笑んだ。

「できるようになれば、社交に出してあげます。――役に立つ限りは」

そのとき。

「……ははっ」

堪えきれないような笑い声。庭の境界線の外。そこに、王太子が立っていた。

陽に照らされた赤茶の髪。
精悍な顔立ち。
王家特有の威圧感――

なのに。

彼は、腹を抱えて笑っていた。

「これは……。これは、素晴らしい!」

目を輝かせ、本気で楽しそうに。

「敵意を持った者は近づけない。理屈ではなく、環境が拒絶する」

彼は、枝に吊られた義母を見て、さらに笑う。

「罰が明確で、解除条件も合理的」
「しかも感情論ゼロ」

背後で、側近たちが青ざめていた。文官は眼鏡を押さえ、震える声で呟く。

「……殿下」
「これは前例が……」

武官は、剣に手をかけかけて、そっと離した。

――抜けない。ここでは。

王太子は、笑いながら私を見る。

「君、本当に面白いな。いや、恐ろしいと言うべきか」

私は、浮遊クッションに身体を預け直し、肩をすくめた。

「日光浴の邪魔をされたので、つい」

木々が、さらさらと葉を鳴らす。

肯定の音。

義母は、枝に吊られたまま、涙目で黙り込んでいた。

「……さて」

私は、目を閉じる。

「掃除は、まだ途中です」

王太子は、心底楽しそうに笑った。

側近たちは、この公爵家に関わる難易度を、改めて理解していた。

――オリビアに敵意を向けた者は、この庭   
  にすら立てない。



それが、静かに、確実に示された瞬間だった。




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