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十二
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義妹にも、躾が必要です
――引きこもりを引きずり出すところから
義妹は、部屋から出てこなかった。
本邸二階、最奥の一室。分厚いカーテンを閉め切り、昼と夜の境界を拒むような暗がりの中で、彼女は息を潜めていた。
ノックは、何度もあった。
神殿の使い。
執事。
侍女。
すべて、無視した。
ベッドの上で膝を抱え、毛布に顔を埋める。
(大丈夫……)
(出なければ……)
(そのうち、忘れられる……)
そう信じたかった。
けれど。
廊下の奥から聞こえた足音に、心臓が跳ねる。
一定のリズム。
迷いのない歩幅。
――来た。
扉の前で、足音が止まる。
義妹は、息を止めた。
「……開けなさい」
低く、穏やかな声。
怒鳴り声でも、脅しでもない。
だからこそ、逃げ場がないと分かる声だった。
「……いや……」
か細い拒絶が、喉から零れ落ちる。
その瞬間。
――がちり。
鍵が、内側から外れた。
「……っ!?」
扉が、ひとりでに、ゆっくりと開く。
外の光が、刃のように差し込み、部屋を切り裂いた。
逆光の中に立つ影。
オリビアだった。
淡い色のドレス。
緩く編まれた金髪。
表情は穏やか。
――なのに。
部屋の空気が、一段、沈む。
「……来ないで……」
義妹が後ずさった、その瞬間。床板が、きしりと鳴った。足首に、冷たい感触。
――根。
床の隙間から伸びた細い根が、義妹の足首に絡みついていた。
「ひっ……!」
振り払おうとするが、根は切れない。
締め付けもしない。ただ、逃げ道だけを、正確に塞ぐ。
「大丈夫」
オリビアの声は、静かだった。
「怪我はさせないわ」
「逃げられないだけ」
もう一方の足。
膝。
腰。
次々と根が伸び、義妹の身体を丁寧に“固定”していく。
「や、やめて……!」
「駄目です」
即答だった。
「引きこもりは、聖女の仕事には、含まれていません」
根が、ゆっくりと引く。義妹の身体が床を滑り、廊下へ引きずり出される。
爪が床を掻き、
髪が乱れ、
喉から嗚咽が漏れる。
使用人たちは、一斉に視線を伏せた。
誰も助けない。
誰も止めない。
それが、この屋敷の答えだった。
応接間。義妹は、床に座らされていた。
扉は閉じ、窓の外では木々がざわめいている。逃げ場はない。オリビアは、浮遊クッションに腰を下ろした。視線の高さが、決定的に違う。
「さて」
穏やかな声。
「引きこもりは、終わりよ」
義妹は、涙に濡れた顔で見上げる。
「……どうして……そこまで……」
「躾よ」
一言。
「あなたは、聖女を名乗った」
一拍。
「なら、逃げる権利は、ありません」
義妹の肩が、がくりと落ちる。
「明日から、神殿に行きなさい、祈りも、儀式も、すべて一人で」
「私は..........一切、手を出しません」
それが、どれほど残酷な宣告か。義妹は、理解してしまった。
「……たすけ……」
「助けません」
即答。
「これは、復讐じゃない,制裁でもない」
オリビアの視線は、冷静だった。
「教育です」
庭の木々が、ざわりと揺れる。
肯定の音。
「さあ.外に出なさい。“聖女様”」
義妹は、その場で泣き崩れた。だが、もう戻れない。逃げ続けた人間を、
現実に引きずり出すための――
静かで、確実な躾が、始まった。
オリビアは、義妹を見下ろしたまま、ふっと息を吐いた。
「……別に、あなたを潰したいわけじゃないのよ」
義妹が、びくりと肩を揺らす。
「顔は悪くない。むしろ可愛いわ。愛嬌もある。着飾れば、それなりに可愛いし加護欲をくすぐりそうよ。」
事実を並べるだけの声。
「今のままでも、嫁ぎ先はあるでしょうね。小規模貴族とか、成り上がりの家とか」
一拍。
「でも、どうせなら」
視線を戻す。
「今より育てた方が、高く売れるでしょう?」
義妹の目が、見開かれる。
「礼儀、社交、発言力、“聖女”という肩書き、全部揃った公爵令嬢なら、縁談の価値は、跳ね上がるわ」
オリビアは、にこりと微笑んだ。
「育てて、育ち切ったら、売り飛ばす。 ウィンウィンの関係でしょう?」
義妹の喉が、ひくりと鳴る。
「あなたは、良い生活を維持できる。公爵家は、利益を得る。素敵じゃない」
本心だった。
「愛とか情とかで判断するから、失敗するのよ。私は、損しない選択をするだけ」
一拍。
「だから、逃げずに、磨きなさい。価値を上げなさい」
義妹は、震えながらも、頷いた。守られているのではない。商品として管理されているのだと、理解して。オリビアは、浮遊クッションに深く身を沈める。
「安心して。結果を出す限り、私は優しいわ」
庭の木々が、さらりと揺れた。合理的だと、認める音。
(育てて、売る)
(悪くない)
――公爵家当主代理として、
完璧な判断だった。
――引きこもりを引きずり出すところから
義妹は、部屋から出てこなかった。
本邸二階、最奥の一室。分厚いカーテンを閉め切り、昼と夜の境界を拒むような暗がりの中で、彼女は息を潜めていた。
ノックは、何度もあった。
神殿の使い。
執事。
侍女。
すべて、無視した。
ベッドの上で膝を抱え、毛布に顔を埋める。
(大丈夫……)
(出なければ……)
(そのうち、忘れられる……)
そう信じたかった。
けれど。
廊下の奥から聞こえた足音に、心臓が跳ねる。
一定のリズム。
迷いのない歩幅。
――来た。
扉の前で、足音が止まる。
義妹は、息を止めた。
「……開けなさい」
低く、穏やかな声。
怒鳴り声でも、脅しでもない。
だからこそ、逃げ場がないと分かる声だった。
「……いや……」
か細い拒絶が、喉から零れ落ちる。
その瞬間。
――がちり。
鍵が、内側から外れた。
「……っ!?」
扉が、ひとりでに、ゆっくりと開く。
外の光が、刃のように差し込み、部屋を切り裂いた。
逆光の中に立つ影。
オリビアだった。
淡い色のドレス。
緩く編まれた金髪。
表情は穏やか。
――なのに。
部屋の空気が、一段、沈む。
「……来ないで……」
義妹が後ずさった、その瞬間。床板が、きしりと鳴った。足首に、冷たい感触。
――根。
床の隙間から伸びた細い根が、義妹の足首に絡みついていた。
「ひっ……!」
振り払おうとするが、根は切れない。
締め付けもしない。ただ、逃げ道だけを、正確に塞ぐ。
「大丈夫」
オリビアの声は、静かだった。
「怪我はさせないわ」
「逃げられないだけ」
もう一方の足。
膝。
腰。
次々と根が伸び、義妹の身体を丁寧に“固定”していく。
「や、やめて……!」
「駄目です」
即答だった。
「引きこもりは、聖女の仕事には、含まれていません」
根が、ゆっくりと引く。義妹の身体が床を滑り、廊下へ引きずり出される。
爪が床を掻き、
髪が乱れ、
喉から嗚咽が漏れる。
使用人たちは、一斉に視線を伏せた。
誰も助けない。
誰も止めない。
それが、この屋敷の答えだった。
応接間。義妹は、床に座らされていた。
扉は閉じ、窓の外では木々がざわめいている。逃げ場はない。オリビアは、浮遊クッションに腰を下ろした。視線の高さが、決定的に違う。
「さて」
穏やかな声。
「引きこもりは、終わりよ」
義妹は、涙に濡れた顔で見上げる。
「……どうして……そこまで……」
「躾よ」
一言。
「あなたは、聖女を名乗った」
一拍。
「なら、逃げる権利は、ありません」
義妹の肩が、がくりと落ちる。
「明日から、神殿に行きなさい、祈りも、儀式も、すべて一人で」
「私は..........一切、手を出しません」
それが、どれほど残酷な宣告か。義妹は、理解してしまった。
「……たすけ……」
「助けません」
即答。
「これは、復讐じゃない,制裁でもない」
オリビアの視線は、冷静だった。
「教育です」
庭の木々が、ざわりと揺れる。
肯定の音。
「さあ.外に出なさい。“聖女様”」
義妹は、その場で泣き崩れた。だが、もう戻れない。逃げ続けた人間を、
現実に引きずり出すための――
静かで、確実な躾が、始まった。
オリビアは、義妹を見下ろしたまま、ふっと息を吐いた。
「……別に、あなたを潰したいわけじゃないのよ」
義妹が、びくりと肩を揺らす。
「顔は悪くない。むしろ可愛いわ。愛嬌もある。着飾れば、それなりに可愛いし加護欲をくすぐりそうよ。」
事実を並べるだけの声。
「今のままでも、嫁ぎ先はあるでしょうね。小規模貴族とか、成り上がりの家とか」
一拍。
「でも、どうせなら」
視線を戻す。
「今より育てた方が、高く売れるでしょう?」
義妹の目が、見開かれる。
「礼儀、社交、発言力、“聖女”という肩書き、全部揃った公爵令嬢なら、縁談の価値は、跳ね上がるわ」
オリビアは、にこりと微笑んだ。
「育てて、育ち切ったら、売り飛ばす。 ウィンウィンの関係でしょう?」
義妹の喉が、ひくりと鳴る。
「あなたは、良い生活を維持できる。公爵家は、利益を得る。素敵じゃない」
本心だった。
「愛とか情とかで判断するから、失敗するのよ。私は、損しない選択をするだけ」
一拍。
「だから、逃げずに、磨きなさい。価値を上げなさい」
義妹は、震えながらも、頷いた。守られているのではない。商品として管理されているのだと、理解して。オリビアは、浮遊クッションに深く身を沈める。
「安心して。結果を出す限り、私は優しいわ」
庭の木々が、さらりと揺れた。合理的だと、認める音。
(育てて、売る)
(悪くない)
――公爵家当主代理として、
完璧な判断だった。
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