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王宮内暗殺事件編
第93話 生成された毒
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「お父様、そろそろわたくしを学園に戻してくださいまし。この間にもダリア様はわたくしと差をつけているのですよ?」
デミウド公爵家が保有する王都内の別荘でアルマは事実上の自宅軟禁を受けていた。
先日のパーティで事件があったことによってアルマが狙われていたのかもしれないという表向きの理由で身動きが取れない状態であった。
「それしきの穴埋めが出来ないというのか?」
軽蔑と威圧の混じった目に幼い頃のアルマは何度も心を凍らせていたが今では何とも思わなくなっていた。
「いえ、愚かなことを申しました。」
「お前は近頃引き取ってやった恩というものを忘れているように思える。学園ではあの小娘と接触しているはずなのに何故情報を得て来ないのだ?」
「申し訳ございません……」
公爵は歯を鳴らして顔を歪ませると勢いよく拳を振り上げた。
これから来る痛みに耐えるために目を瞑り顔を背けたアルマは走馬灯のように少し昔のことを思い出した。
ダリアとアルマが知り合って間もない頃…
建国祭の舞踏会が行われた夜のこと、アルマが誤って魚料理を口にして倒れてしまいちょっとした騒ぎになった。
すぐに帰るように促す貴族が多くいた中デミウド公爵は控え室で少し休ませるだけで留まらせた。
だが公爵がアルマを休ませるために控え室に連れてきたわけではない、公式の場で騒ぎを起こしたことによる罰を与えるためだった。
「両派閥だけではなく中立派も参加する大事な舞踏会でやらかすとは、引き取ってやった恩を感じていないようだな。ローゼン家の血を濃く受け継いでいるとはいえ所詮没落貴族に成り下がった約立たずよ。」
公爵が手を振りあげた瞬間、控え室の扉がノックされた。
「失礼、デミウド公爵閣下。ミレーヌ妃殿下がアルマ嬢の具合を案じておられるようなので代わりに様子を見に参りました。」
明らかに不満げにデミウド公爵はダリアを見下ろしながら問題ないと一蹴した。
「気遣い無用だ、ダリア嬢。あとで妃殿下にもご挨拶をさせよう。」
「ですがご令嬢が体調を崩されたというのに侍女もお付けにならなかったので連れてきていないのかと思いまして、良かったらウチの侍女をお貸しいたしますよ?」
ダリアの背後にはクロウリー家の侍女とそしてミレーヌ側妃の侍女も中を伺うようにして立っていた。
悔しそうに顔を歪ませながらダリアにアルマのことを頼むとミレーヌ側妃の侍女と共に部屋を後にした。
部屋に残されたアルマにはいつもの余裕の笑みはなく、どこかダリアを警戒しているかのような瞳をしていることに気が付いた。
「嘘は言ってませんよ、実際にミレーヌ妃殿下が嫌がらせで私にお命じになられたのです。さて、様子を見るにアレルギーのあるものを口にしてしまったようですね。しばらく安静にしていなさい、誰も入らないように侍女を置いていきますから。」
「何か目的でもあるのですか?わたくしに恩を売るような真似をして…」
ダリアは少し考えるように間を置くと優しく微笑みながら巻物を出して見せた。
「それは…」
「お礼をして頂くようなことはしていないということです。」
満足気に手の代わりに巻物を振りながら部屋を後にするダリアにどこか寒気を覚えたアルマは後にこの行動の意味を理解することとなった。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭
デミウド公爵家が保有する王都内の別荘でアルマは事実上の自宅軟禁を受けていた。
先日のパーティで事件があったことによってアルマが狙われていたのかもしれないという表向きの理由で身動きが取れない状態であった。
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軽蔑と威圧の混じった目に幼い頃のアルマは何度も心を凍らせていたが今では何とも思わなくなっていた。
「いえ、愚かなことを申しました。」
「お前は近頃引き取ってやった恩というものを忘れているように思える。学園ではあの小娘と接触しているはずなのに何故情報を得て来ないのだ?」
「申し訳ございません……」
公爵は歯を鳴らして顔を歪ませると勢いよく拳を振り上げた。
これから来る痛みに耐えるために目を瞑り顔を背けたアルマは走馬灯のように少し昔のことを思い出した。
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公爵が手を振りあげた瞬間、控え室の扉がノックされた。
「失礼、デミウド公爵閣下。ミレーヌ妃殿下がアルマ嬢の具合を案じておられるようなので代わりに様子を見に参りました。」
明らかに不満げにデミウド公爵はダリアを見下ろしながら問題ないと一蹴した。
「気遣い無用だ、ダリア嬢。あとで妃殿下にもご挨拶をさせよう。」
「ですがご令嬢が体調を崩されたというのに侍女もお付けにならなかったので連れてきていないのかと思いまして、良かったらウチの侍女をお貸しいたしますよ?」
ダリアの背後にはクロウリー家の侍女とそしてミレーヌ側妃の侍女も中を伺うようにして立っていた。
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部屋に残されたアルマにはいつもの余裕の笑みはなく、どこかダリアを警戒しているかのような瞳をしていることに気が付いた。
「嘘は言ってませんよ、実際にミレーヌ妃殿下が嫌がらせで私にお命じになられたのです。さて、様子を見るにアレルギーのあるものを口にしてしまったようですね。しばらく安静にしていなさい、誰も入らないように侍女を置いていきますから。」
「何か目的でもあるのですか?わたくしに恩を売るような真似をして…」
ダリアは少し考えるように間を置くと優しく微笑みながら巻物を出して見せた。
「それは…」
「お礼をして頂くようなことはしていないということです。」
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