魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

文字の大きさ
33 / 82

神官

しおりを挟む
 変態の嫌がらせは、リーフの魔道具を壊しただけにとどまらなかった。

 俺がいつものように図書館に入ろうとすると、イーサンに後ろから止められた。

「駄目だ。ラーク。見ろ」

 図書館の入り口に騎士が立っている。

「なんだよ、あれ」

「フェリクス様が図書館で勉強会を開いているらしい。それで、あれだ」

「図書館で、勉強? サロンとやらがあるんだろ」

「あるのだけれど、資料が必要とかで当分の間貸し切るらしい」

「貸し切りってあの広い図書館を?」

「誰かが暴行事件を起こしたからね。警備を強化しているそうだ。許可がないものは立ち入り禁止、だそうだ」

 俺がそんな許可を申請できるはずもなく、仕方なく食堂の隅に場所を移す。

「これはなんだ? あれか? 新手の嫌がらせなのか?」

「かもしれない。僕達があそこを使っていることはみんな知っているから。でも、いきなり何があったのかな」

 俺はこの前リーフの魔道具が壊された話をした。

「関係あるかな」

「あのお方の考えていることはよくわからないけれど、ありそうだな」

 そこへうつむき加減のリーフが合流した。彼は図書館に入る許可をもらえなかったという。

「俺達ならともかく、なんでリーフまで? 下級生をいじめて、何が楽しいんだよ、あいつ」

「しーっ、ラーク、声が大きい」

 すっかり気落ちしているリーフは無口だ。

「リーフ、大丈夫だ。勉強場所なら、何か所か候補がある」
 俺は肩をたたいてリーフを励ました。
「静かで、誰も来ない場所だ。ちょっと掃除が必要だけどすぐにでも使えるぞ」

 俺は肝試しの小道具を作成していた小部屋にリーフを案内した。平民の寮の屋根裏の一部で、ちょっと入るのには苦労するけれど静かで落ち着ける場所だ。

「どうかな。ここなら机もあるし」
 俺は天窓を開けた。
「いい風も入る」

「君はどうやってこの場所を見つけたんだよ」
 ギシギシいう梯子をイーサンも登ってきた。

「いい場所だろ。お前の寮の真上だぞ」
 俺はリーフを励まそうと明るい声を出した。

「ここなら、いつでも使える」

「雨の日は駄目だろ。窓枠から滑って落ちたら死ぬぞ」

 イーサンがせっかくの部屋に文句をつけた。うん、確かに出入りが大変なところが玉に瑕なんだけどね。

「なら、他の場所に案内するけれど。ここが近くていいと思ったんだが」

「ありがとう」
 リーフが小さい声で礼を言った。
「でもいいんです。気を使ってくれなくても。勉強はどこでもできるから」
 まるで言い聞かすように、リーフは言う。
「僕は、あの本に囲まれた感じが好きであそこにいただけなので」

「そ、そうか?」

 俺は周りを見回した。古い机と椅子が重ねてあるだけの部屋だ。確かに本は見当たらないな。

 俺の本をここに持ち込んだらどうかとも思ったけれど、たいした量ではない。本に囲まれる雰囲気を演出するには物足りない量だ。

 他の候補の場所も考えたけれど、本のある場所はなかった。

 これは、図書館に押し入る別の道を探したほうがいいかもしれない。

 しかしこの図書館は意外に侵入が難しい場所なのだ。いろいろな建物が建て増しされているから、出入り口はたくさんあるように思える。でも、主な出入り口は二つ。表と裏しかない。あとは屋根とか窓からの侵入になるけれど、リーフには無理だ。ちょっと窓の外を歩いたくらいで青くなっていたからな。屋根伝いとか絶対無理だろう。

 こういう古い建物には、隠し扉とか、地下通路とか、ありそうなんだけどな。俺は図書館周りを探した。一部神殿の敷地と重なっているから、そこは注意深く探索する。また禁じられた場所に入っているといわれたら大変だ。

 ニャア

 またあの白い猫を見つけた。

「やぁ」

 俺は猫に挨拶をした。今日の猫はご機嫌がいいらしい。俺の足に頭を擦り付けてくる。

「なぁ、おまえ、ここに住んでいるんだろう? 本のたくさんある部屋を知らないかな。誰も来ない静かな部屋だ。友達がね、困っているんだよ」

 暖かい毛をなでながら、悩みを打ち明けた。猫にしか語ることができないというのは、ちょっと悲しい。

 猫がふいと顔を上げた。目が真っ青だった。耳の間を掻いてやると、ぐっと目を細めて喜ぶ。

「おまえ、きれいな目だなぁ」

 こんな目の色をした生徒がいたような気がする。誰だったかな?
 あ、俺は思い出すと同時に記憶を封印したくなった。カリアスだ。あの第二王子の取り巻きの一人だ。嫌な奴のことを思い出してしまった。

 猫が目を開けて、不満そうにこちらを見ていた。

「ああ、ごめん、ごめん。変なことを思い出しちゃったよ。お前のほうがずっときれいだから」

 猫は俺の手を振り払うように背伸びをした。それから、とことこと歩き出す。

「おい、どこに行くんだ?」

 猫はちらりと振り返った。

「待てよ」

 俺は猫の後をついて歩き始めた。前にもこの猫は神殿の中を案内してくれた。ひょっとしたら今回も……

 猫の尻尾が誘うように揺れている。これは、あれだ。図書館の秘密の通路に案内してくれる、なんてことは。

 猫は図書館とは違う方向に向かう。行ったら駄目といわれた塔に向かう道だ。このあたりは緩い坂になっていて、ところどころに果樹が植えられている。

 猫はふいと道を外れた。俺は草むらからひょこひょこのぞいている尻尾の先を追いかけた。
 足元にがれきが転がっていた。気を付けないと転んでしまいそうだ。

 本当について行って大丈夫なんだろうか。
 というよりも、なぜ俺は猫の後を追っているんだろう。そんなことを思い始めたときに尻尾の先が茂みの向こうに消えた。

「お? どこ?」

 よく見るとそこは茂みではなくて、古い壁の跡だった。植物が張り付くように生えているので茂みに見えるのだ。その向こうに狭い隙間があって、その前で猫が俺を待っていた。

 ニャァ

「ここに入るの?」

 猫は悠々とその隙間に入っていく。猫には余裕だが、俺にはちょっと狭い隙間だ。このままはまって出られなくなったらどうしよう。誰も助けに来ることはなさそうだ。ちらりとそんなことが頭をかすめる。

 まさか、この猫は暗殺者……
 そう思ったときに目の前が開けた。

 目の前にあるのは本の山だった。丸い建物の壁にぎっしりと本の詰まった棚が並んでいる。そして、乱雑に配置された机の上にも本、手の届かないところにも本。上のほうにある窓から明かりが差し込んでいて中はとても明るかった。

 俺は本を触ってみた。ざらりとした手触りだった。とても古い本だと思う。見たこともない字体の文字が表紙に踊っている。

 猫が机の上に飛び上がった。

「ここ、お前の図書館なの? すごいな」

 俺は猫をほめた。

「私のではありませんけれどね。静かなので使っていますよ」

 また、あの白い神官だ。彼は本の間に埋もれるようにして座っていた。彼の前にも横にも後ろにも本が山積みだ。

「あー」
 ひょっとしてここにはいったら駄目、とか? 

 俺の表情を呼んだのだろうか。神官は微笑んだ。

「ここは忘れられた書庫ですよ。誰も来ないので、私専用に使っていますけれどね」

「俺の友達で本が好きな子がいるんですよ。今、図書館から締め出されていて、元気がないのでここに遊びに来るとか、駄目ですか」

 こんなことをいっていいのだろうか、と思う間もなく言葉がすらすらと出てくる。そうそう、こういうことをいいたかったんだよね、俺は。

「別に構いませんよ。貴方のお友達は本が好きなようですね」

「そうなんですよ。ものすごく頭がよくて、魔道具を自分でも作っているんですよ」
 俺は友達を自慢した。
「きっとこの本を見たら喜んで、あの、ここにある本は読んでもいいですよね」

「もちろん。勉強の好きな子ならきっと面白いと思いますよ」
 白い神官は微笑んだ。

 俺は神官に礼を言ってから、早速リーフを探した。
 いい場所を見つけた。きっとリーフなら喜ぶだろう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら
BL
久々の新作です。 全16話。 すでに書き終えているので、 毎日17時に更新します。 *** 騎士をしている公爵家の次男は、顔良し、家柄良しで、令嬢たちからは人気だった。 だが、ある事件をきっかけに、彼は【不能】になってしまう。 醜聞にならないように不能であることは隠されていたが、 その事件から彼は恋愛、結婚に見向きもしなくなり、 無表情で女性を冷たくあしらうばかり。 そんな彼は社交界では堅物、女嫌い、と噂されていた。 本人は公爵家を継ぐ必要が無いので、結婚はしない、と決めてはいたが、 次男を心配した公爵家当主が、騎士団長に相談したことがきっかけで、 彼はあっと言う間に婿入りが決まってしまった! は? 騎士団長と結婚!? 無理無理。 いくら俺が【不能】と言っても…… え? 違う? 妖精? 妖精と結婚ですか?! ちょ、可愛すぎて【不能】が治ったんですが。 だめ? 【不能】じゃないと結婚できない? あれよあれよと婚約が決まり、 慌てる堅物騎士と俺の妖精(天使との噂有)の 可愛い恋物語です。 ** 仕事が変わり、環境の変化から全く小説を掛けずにおりました💦 落ち着いてきたので、また少しづつ書き始めて行きたいと思っています。 今回は短編で。 リハビリがてらサクッと書いたものですf^^; 楽しんで頂けたら嬉しいです

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

転生聖賢者は、悪女に迷った婚約者の王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 全五話です。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

公爵令息は悪女に誑かされた王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...