獅子王の運命の番は、捨てられた猫獣人の私でした

天音ねる(旧:えんとっぷ)

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王の運命の番 10/9微細な修正

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彼は、ゆっくりと、言葉を選びながら、語り始めた。

「俺が、初めてあの食堂を訪れた夜。その帰り道に、偶然、耳にしたのだ」
「何を…ですか?」
「若き騎士団長、ガロウ・シュヴァルツが、ヴォルフガング伯爵家の令嬢と、新たに婚約を結んだ、という噂をな。彼は、『番を間違えた』と、長年連れ添った番を離縁したと」

ガロウの名前が出た途端、ミミの肩が、びくりと震えた。

「『番の間違い』による離縁…それ自体は、法で認められている。この時代、真の『運命の番』に出会える確率は伝説に等しく、多くの者は、ただ相性の良い相手を番として生涯を共にするからな。もし、本当に運命の番を見つけてしまったのなら、互いの魂が共鳴し、身体能力や魔力といった能力を飛躍的に高めあえるという。そうなれば、国や一族の利益のために、以前の番との離縁も、やむを得ないとされる風潮は確かにある」

レオンハルトの声は、静かだったが、その言葉には、確かな知識と、物事の本質を見抜く知性が宿っていた。

「だが、俺には、その騎士団長の件が、どうにも不自然に思えたのだ」
「不自然…ですか?」
「ああ。新たな番を得てから、シュヴァルツ騎士団長に、そのような能力の向上が見られたという報告は一切ない。むしろ、騎士団内での彼の評判は落ち、精彩を欠いていると聞く。そして何より、彼の離縁は、極めて一方的なものだったという、根強い噂があった」
彼の声には、静かだが、燃えるような怒りの色が、微かに滲んでいた。

「聖なる伝説を己の私欲の言い訳に使い、長年尽くしてくれたパートナーをゴミのように捨てる。国の治安を預かる騎士団の長として、あるまじき行為だ。私は、王宮の者として、その真偽を確かめるべく、内密に調査をさせていた」
「王宮の……?」
ミミが、驚いて首をかしげると、彼は、構わずに続けた。

「そうだ。そして、その調査の過程で、捨てられたという、番の名を知った」
レオンハルトは、そこで、一度、言葉を切った。
そして、ミミの震える手を、その大きな、包帯の巻かれていない方の手で、そっと、包み込むように握った。ごつごつとして、傷跡の多い、武骨な手。けれど、信じられないくらい、温かい手。

「…それが、そなただったのだ、ミミ」

衝撃の、事実だった。
ミミの頭の中が、真っ白になる。
彼が、自分の過去を、知っていた。

「……あなたは、一体…?」
ミミの、震える問いに、彼は、静かに、しかし、はっきりと答えた。

「俺の名は、レオンハルト」

彼は、ゆっくりと立ち上がると、ミミの目の前で、初めて、その深くかぶっていたフードを、取り払った。
現れたのは、陽光を溶かして、そのまま固めたかのような、眩いばかりの、金色の髪。
そして、何よりも、ミミの心を射抜いたのは、その瞳だった。
純金のように輝き、あらゆる者を見通し、その上に立つことを運命づけられた、王者の証。
鋭く、力強く、そして、どこまでも慈愛に満ちた、黄金の瞳。

「――レオンハルト・アストリア。この国の、王だ」

その声は、獅子の咆哮のように、公園の澄んだ空気を震わせた。
ミミは、言葉を失っていた。
ただ、呆然と、目の前に立つ、神々しいまでの男の姿を、見上げることしかできない。
レオンさん。
いつも、店の隅で、静かにスープを飲んでいた、あの不器用で、優しい人が。
この国の、頂点に立つ、王様…?
思考が、完全に、停止する。目の前の現実に、理解が追いつかない。

そんなミミの混乱を知ってか知らずか、レオンハルトは、彼女の前に、ゆっくりと、片膝をついた。それは、騎士が、己の主に忠誠を誓う時の、最上級の敬意を示す姿勢だった。王である彼が、ただの平民である、自分の前で。

「すまなかった。王という立場を明かせば、そなたを怯えさせ、あの食堂での穏やかな時間を、奪ってしまうかもしれん、と…。そう、危惧していた」
彼は、ミミの、まだ微かに震えている手を、両手で、優しく包み込んだ。
心の底から、それこそ魂からの安堵とよろこびを感じる。

レオンハルトの黄金の瞳が、真っ直ぐに、ミミの魂を射抜く。

「触れてしまったとき、よくわかった。ミミは俺の運命の番なのだと。これからは俺が、お前のすべてを守る。」

どんな甘い愛の言葉よりも、力強く、ミミの心を揺さぶる、魂の誓いだった。
彼を裏切った夫も、彼を見捨てた家族も、彼女を傷つけた、この世界の、あらゆる理不尽から、守り抜く、と。
その黄金の瞳は、確かに、そう語っていた。

ミミの瞳から、再び、一筋の涙が、静かに、頬を伝い落ちた。
しかし、それはもう、悲しみの涙ではなかった。
絶望の淵で、凍てついていた心が、彼の、太陽のような温もりの中で、完全に溶かされていく、喜びと、安堵の涙だった。
ミミは、ただ、こくりと頷くことしかできなかった。
差し伸べられた、王の手を、今度は、自分の意思で、そっと、握り返しながら。
二人の間に、言葉はもう、必要なかった。
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みんなの感想(25件)

thira
2025.10.03 thira

彼を裏切った夫も~彼を傷つけたの箇所ですが、彼ではなく彼女では?

2025.10.09 天音ねる(旧:えんとっぷ)

ありがとうございます!修正いたしました。

解除
彦゚
2025.10.02 彦゚

王の運命の番の話の最後の方で、「彼を傷つけた〜」とありますが、「彼女」では?

2025.10.09 天音ねる(旧:えんとっぷ)

ありがとうございます!修正いたしました。

解除
ちょた
2025.10.01 ちょた

やっとか。
王様、遠慮はいらん。サクサク頑張れ👍

解除

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