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過去の記憶の告白
冬の午後の陽光は、驚くほど優しく、そして穏やかだった。
王都の片隅にある、忘れられたような小さな公園。蔦の絡まる古い煉瓦壁が外界の喧騒を遮断し、そこだけがまるで時が止まったかのような静寂に包まれている。カサ、と乾いた落ち葉が風に舞う音だけが、二人の間に流れる濃密な沈黙を時折破っていた。
ミミは、隣に座る彼の横顔を、まだ震えの収まらない瞳でそっと盗み見た。
フードを目深にかぶっているため、その表情は窺い知れない。ただ、そこにいるだけで、周囲の空気を支配する絶対的な存在感。
それなのに、不思議と威圧感はなかった。
むしろ、彼の隣は、世界のどの場所よりも安全で、温かい聖域のように感じられた。
彼はずっと、何も言わずにいてくれた。
その無言の優しさが、かえってミミの心を、ゆっくりと、しかし確実に解きほぐしていった。
きっと、「そろそろお店に帰ります」といえば、何も言わずに送ってくれるのだろうと思った。
(この人になら…)
この人になら、話せるかもしれない。
誰にも言えなかった、心の奥底に沈殿した、泥のように重く、暗い、私のすべてを。
そう思うと、ミミの唇が、自然と震え始めた。
「…あの…」
やっとのことで絞り出した声は、自分でも驚くほどか細く、消え入りそうだった。
レオンハルトは、返事をしなかった。
ただ、その大きな体の向きを、ほんの少しだけミミの方へと傾けた。
「私…昔…番が、いたんです」
一度言葉にしてしまうと、堰を切ったように、次から次へと、言葉が溢れ出した。それは、告白というより、心の傷口から膿を絞り出すような、痛々しい作業だった。
過去の記憶を語るたびに、胸がナイフで抉られるように痛んだ。
「でも…ある日、彼が、『真の番』だっていう、別の女性を連れて帰ってきたんです。私との番は、間違いだったんだって…。魂が、誤認していただけなんだ、って…」
声が、嗚咽に変わっていく。ミミは、両手で顔を覆った。指の間から、こらえきれない涙が、ぽたぽたと、落ち葉の上に染みを作っていく。
ターニャに拾われてから、心の奥底に固く蓋をしていた、絶望の記憶。その蓋が、完全に外れてしまった。
誰にも言えなかった孤独。誰にも分かってもらえないと思っていた絶望。そのすべてが、涙と共に、彼の前で、洗いざらい、吐き出されていく。
ミミが、しゃくりあげながら、自分の惨めな半生を語り終えた時、公園は、再び、深い静寂に包まれた。ミミは、顔を覆ったまま、次に彼から発せられるであろう言葉を、恐れていた。
彼はゆっくりと口を開く。
「辛かったな」
たった、それだけ。
けれど、その声は、どんな慰めの言葉よりも、深く、温かく、ミミの心に染み渡った。地を這うような低い声。だが、その響きには、彼女が経験してきた苦しみのすべてを、完全に理解し、その痛みを分かち合おうとする、真摯な響きが満ちていた。
彼が、自分の痛みを、本当に理解してくれている。
ただ、それだけで、ミミは救われた気がした。
「…あの…聞いてくださって、ありがとうございます…。私の…こんな、暗い話を…」
ミミが、おずおずと顔を上げると、レオンハルトは、フードの奥から、真っ直ぐに、彼女の涙に濡れた瞳を見つめ返していた。
その目に、胸が射抜かれるような思いだった。
心臓が急速に血液を押し込み、体内をめぐるのを感じる。
「お前に、話さなければならないことがある。驚かせてしまうかもしれんが、聞いてくれるか」
彼の真剣な、有無を言わせぬ眼差しに、ミミは、こくりと、小さく頷くことしかできなかった。心臓が、どくん、と、期待と不安に、大きく跳ねる。
王都の片隅にある、忘れられたような小さな公園。蔦の絡まる古い煉瓦壁が外界の喧騒を遮断し、そこだけがまるで時が止まったかのような静寂に包まれている。カサ、と乾いた落ち葉が風に舞う音だけが、二人の間に流れる濃密な沈黙を時折破っていた。
ミミは、隣に座る彼の横顔を、まだ震えの収まらない瞳でそっと盗み見た。
フードを目深にかぶっているため、その表情は窺い知れない。ただ、そこにいるだけで、周囲の空気を支配する絶対的な存在感。
それなのに、不思議と威圧感はなかった。
むしろ、彼の隣は、世界のどの場所よりも安全で、温かい聖域のように感じられた。
彼はずっと、何も言わずにいてくれた。
その無言の優しさが、かえってミミの心を、ゆっくりと、しかし確実に解きほぐしていった。
きっと、「そろそろお店に帰ります」といえば、何も言わずに送ってくれるのだろうと思った。
(この人になら…)
この人になら、話せるかもしれない。
誰にも言えなかった、心の奥底に沈殿した、泥のように重く、暗い、私のすべてを。
そう思うと、ミミの唇が、自然と震え始めた。
「…あの…」
やっとのことで絞り出した声は、自分でも驚くほどか細く、消え入りそうだった。
レオンハルトは、返事をしなかった。
ただ、その大きな体の向きを、ほんの少しだけミミの方へと傾けた。
「私…昔…番が、いたんです」
一度言葉にしてしまうと、堰を切ったように、次から次へと、言葉が溢れ出した。それは、告白というより、心の傷口から膿を絞り出すような、痛々しい作業だった。
過去の記憶を語るたびに、胸がナイフで抉られるように痛んだ。
「でも…ある日、彼が、『真の番』だっていう、別の女性を連れて帰ってきたんです。私との番は、間違いだったんだって…。魂が、誤認していただけなんだ、って…」
声が、嗚咽に変わっていく。ミミは、両手で顔を覆った。指の間から、こらえきれない涙が、ぽたぽたと、落ち葉の上に染みを作っていく。
ターニャに拾われてから、心の奥底に固く蓋をしていた、絶望の記憶。その蓋が、完全に外れてしまった。
誰にも言えなかった孤独。誰にも分かってもらえないと思っていた絶望。そのすべてが、涙と共に、彼の前で、洗いざらい、吐き出されていく。
ミミが、しゃくりあげながら、自分の惨めな半生を語り終えた時、公園は、再び、深い静寂に包まれた。ミミは、顔を覆ったまま、次に彼から発せられるであろう言葉を、恐れていた。
彼はゆっくりと口を開く。
「辛かったな」
たった、それだけ。
けれど、その声は、どんな慰めの言葉よりも、深く、温かく、ミミの心に染み渡った。地を這うような低い声。だが、その響きには、彼女が経験してきた苦しみのすべてを、完全に理解し、その痛みを分かち合おうとする、真摯な響きが満ちていた。
彼が、自分の痛みを、本当に理解してくれている。
ただ、それだけで、ミミは救われた気がした。
「…あの…聞いてくださって、ありがとうございます…。私の…こんな、暗い話を…」
ミミが、おずおずと顔を上げると、レオンハルトは、フードの奥から、真っ直ぐに、彼女の涙に濡れた瞳を見つめ返していた。
その目に、胸が射抜かれるような思いだった。
心臓が急速に血液を押し込み、体内をめぐるのを感じる。
「お前に、話さなければならないことがある。驚かせてしまうかもしれんが、聞いてくれるか」
彼の真剣な、有無を言わせぬ眼差しに、ミミは、こくりと、小さく頷くことしかできなかった。心臓が、どくん、と、期待と不安に、大きく跳ねる。
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