アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)

文字の大きさ
17 / 19

橘圭吾のダンスの練習

しおりを挟む


「…せん、ぱい…?」
「ああ、ただいま」
「…おかえり、なさい…」

圭吾は、夢現つのまま、ふわり、と笑った。
その笑顔は、ひどく幼くて、頼りなくて。俺は、たまらなくなって、彼の頭を優しく撫でた。

「寂しかったか?」

思わず、口からそんな言葉がこぼれていた。
圭吾は、こくり、と小さく頷くと、俺のジャージの裾を、ぎゅっと弱々しく握りしめた。

(ああ、もう)

こいつを、一人にしたくない。
俺が、そばにいてやらないと。
そう、強く思った。
それは、もう、家政婦としての義務感なんかではなかった。
ただ純粋に、目の前で寂しそうにしているこの男を、俺が守ってやりたい。温めてやりたい。
そんな、どうしようもない愛情が、胸の奥から溢れてきて、止まらなかった。

俺の中に芽生えたこの感情を、圭吾はまだ知らない。
俺自身も、まだ、この気持ちにどう向き合えばいいのか分からない。

だけど、俺たちの日常は、それでも続いていく。
手のかかる王子様の世話を焼き、彼の無防備さに振り回され、時折見せる寂しさに胸を痛める。そんな毎日。
それは、もしかしたら、今まで俺が経験したどんな日常よりも、幸せなものなのかもしれない。

そんなことを考えていた、数日後の夜だった。
夕食後、いつものように二人でリビングでくつろいでいると、圭吾がおずおずと、切り出してきた。

「あのぉ、桜井先輩…」
「ん?」
「今度、新曲のダンスの練習があるんですけど…」

圭吾は、どこか言いづらそうに、視線を彷徨わせている。

「よかったら…その、練習、見ててもらえませんか…?」

それは、俺にとって、全く予想もしていない申し出だった。
家でのポンコツな姿しか知らない俺に、プロとしての自分を見せる。
それは、彼が、俺に対して、また一つ、新しい心の扉を開こうとしている証拠なのかもしれない。

俺は、高鳴る心臓を抑えながら、まっすぐに彼の瞳を見つめ返した。

「…俺で、いいのか?」

俺の問いに、圭吾は、はにかむように、でも、はっきりと頷いた。

「先輩に、見ててほしいんです」

その瞬間、俺たちの日常が、また少し、特別なものに変わる予感がした。
まだ見ぬ彼の姿への期待と、踏み込んではいけない領域に足を踏み入れてしまうかもしれないという、ほんの少しの恐れ。
その二つの感情がないまぜになったまま、俺は、ただ、こくりと頷くことしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人気アイドルが義理の兄になりまして

三栖やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

隣のエリートが可愛すぎる件について。

伏梛
BL
割と顔が良いと自覚のある学生・翔太は、高校の近いアパートに一人暮らしをしている。ある日、アパートの前で眠り込む社会人を家にあげてしまうが、その日から限界エリートの彼と親交を持つようになる。 「じゃあ僕は行くから、翔太くん、また。」 「みんなの期待がおもくて、こたえなきゃってがんばると疲れるし、でもがんばんなきゃって……もーやだよ……!」 酔っている時はつらつらと愚痴をこぼすくせ、翌日にはけろりとしていてそっけない。そんなギャップに翔太はどんどんと惹かれていって……?

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

魔王様の執着から逃れたいっ!

クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」 魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね 俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい 魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。 他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。 あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。 ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな? はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。 魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。 次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?  それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか? 三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。 誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ 『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ 第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️ 第二章 自由を求めてお世話になりますっ 第三章 魔王様に見つかりますっ 第四章 ハッピーエンドを目指しますっ 週一更新! 日曜日に更新しますっ!

数百年ぶりに目覚めた魔術師は年下ワンコ騎士の愛から逃れられない

桃瀬さら
BL
誰かに呼ばれた気がしたーー  数百年ぶりに目覚めた魔法使いイシス。 目の前にいたのは、涙で顔を濡らす美しすぎる年下騎士シリウス。 彼は何年も前からイシスを探していたらしい。 魔法が廃れた時代、居場所を失ったイシスにシリウスは一緒に暮らそうと持ちかけるが……。 迷惑をかけたくないイシスと離したくないシリウスの攻防戦。 年上魔術師×年下騎士

処理中です...