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ステージの練習部屋
「先輩に、見ててほしいんです」
まっすぐな瞳で、そう告げられた。
それは、俺が今まで聞いた彼のどんな言葉よりも、真剣で、切実な響きを持っていた。
家でのポンコツな姿しか知らない俺に、プロとしての自分を見せる。その意味を考えようとして、思考が追いつかない。ただ、彼が俺に対して、何か特別な信頼を寄せてくれているのだということだけは、痛いほどに伝わってきた。
心臓が、期待と戸惑いで大きく脈打つのを感じる。
俺は、この気持ちを悟られないように、なんとか平静を装って頷いた。
「…わかった。俺でよければ」
俺がそう答えると、圭吾は心の底から嬉しそうに、ふわりと笑った。その笑顔に、俺の胸はまた、ぎゅっと締め付けられる。もう、彼の些細な表情一つで、俺の心は簡単に揺さぶられてしまうのだ。
「ありがとうございます!じゃあ、準備してきますね!下のスタジオで、待っててください!」
スタジオ?
圭吾は弾んだ声でそう言うと、ぱたぱたと軽い足取りで自室へと消えていった。
一人リビングに残された俺は、その言葉を反芻する。
(下のスタジオって…どこだよ)
この家に来て一ヶ月以上経つが、そんな部屋があるなんて初耳だった。
しばらくして、ラフなTシャツとスウェットに着替えた圭吾が戻ってきた。その手には、タブレット端末が握られている。
「先輩、こっちです!」
圭吾に手招きされるまま、俺はリビングの隅にある、それまで一度も開けたことのなかった重厚なドアの前へと導かれた。圭吾が壁のパネルを操作すると、電子音とともにロックが解除される。
「ここって…」
「俺の、専用レッスンスタジオなんです。防音は完璧なので、どれだけ音を出しても大丈夫なんですよぉ」
そう言って笑う圭吾に促され、俺は恐る恐るドアの向こうへと足を踏み入れた。
そこに広がっていたのは、俺の想像を遥かに超える空間だった。
壁一面が巨大な鏡張りになっていて、床はダンスに適したリノリウム。天井にはスポットライトが埋め込まれ、隅には本格的な音響機材がずらりと並んでいる。テレビ局のレッスンスタジオと比べても、遜色ないのではないだろうか。
「す……げえ……」
開いた口が塞がらない。
もはや、一個人の家に備わっているレベルの設備ではない。
この家に来てから、何度も格差というものを突きつけられてきたが、これもまた、俺の知らない世界の現実だった。
「じゃあ、始めますね。先輩は、そこのソファに座っててくださーい」
俺が呆然と立ち尽くしていると、圭吾は手慣れた様子でタブレットを音響機材に接続し、軽快な音楽を流し始めた。それは、俺が聴いたことのない、アップテンポなインストゥルメンタル曲だった。
圭吾は、音楽に合わせて、ゆっくりと身体を伸ばし始める。
首を回し、肩を広げ、入念にアキレス腱を伸ばす。
いつも見ている「もさもさ」とした雰囲気や、学校での「キラキラ」としたオーラとは全く違う。まるで、試合前のグラウンドに立つアスリートのように、その全身から無駄な力が抜け、しなやかな緊張感が満ちていくのが分かった。
俺は、言われるがままにスタジオの隅に置かれた革張りのソファに腰を下ろし、固唾を飲んでその様子を見守った。
これから、俺の知らない「橘圭吾」が、始まろうとしていた。
まっすぐな瞳で、そう告げられた。
それは、俺が今まで聞いた彼のどんな言葉よりも、真剣で、切実な響きを持っていた。
家でのポンコツな姿しか知らない俺に、プロとしての自分を見せる。その意味を考えようとして、思考が追いつかない。ただ、彼が俺に対して、何か特別な信頼を寄せてくれているのだということだけは、痛いほどに伝わってきた。
心臓が、期待と戸惑いで大きく脈打つのを感じる。
俺は、この気持ちを悟られないように、なんとか平静を装って頷いた。
「…わかった。俺でよければ」
俺がそう答えると、圭吾は心の底から嬉しそうに、ふわりと笑った。その笑顔に、俺の胸はまた、ぎゅっと締め付けられる。もう、彼の些細な表情一つで、俺の心は簡単に揺さぶられてしまうのだ。
「ありがとうございます!じゃあ、準備してきますね!下のスタジオで、待っててください!」
スタジオ?
圭吾は弾んだ声でそう言うと、ぱたぱたと軽い足取りで自室へと消えていった。
一人リビングに残された俺は、その言葉を反芻する。
(下のスタジオって…どこだよ)
この家に来て一ヶ月以上経つが、そんな部屋があるなんて初耳だった。
しばらくして、ラフなTシャツとスウェットに着替えた圭吾が戻ってきた。その手には、タブレット端末が握られている。
「先輩、こっちです!」
圭吾に手招きされるまま、俺はリビングの隅にある、それまで一度も開けたことのなかった重厚なドアの前へと導かれた。圭吾が壁のパネルを操作すると、電子音とともにロックが解除される。
「ここって…」
「俺の、専用レッスンスタジオなんです。防音は完璧なので、どれだけ音を出しても大丈夫なんですよぉ」
そう言って笑う圭吾に促され、俺は恐る恐るドアの向こうへと足を踏み入れた。
そこに広がっていたのは、俺の想像を遥かに超える空間だった。
壁一面が巨大な鏡張りになっていて、床はダンスに適したリノリウム。天井にはスポットライトが埋め込まれ、隅には本格的な音響機材がずらりと並んでいる。テレビ局のレッスンスタジオと比べても、遜色ないのではないだろうか。
「す……げえ……」
開いた口が塞がらない。
もはや、一個人の家に備わっているレベルの設備ではない。
この家に来てから、何度も格差というものを突きつけられてきたが、これもまた、俺の知らない世界の現実だった。
「じゃあ、始めますね。先輩は、そこのソファに座っててくださーい」
俺が呆然と立ち尽くしていると、圭吾は手慣れた様子でタブレットを音響機材に接続し、軽快な音楽を流し始めた。それは、俺が聴いたことのない、アップテンポなインストゥルメンタル曲だった。
圭吾は、音楽に合わせて、ゆっくりと身体を伸ばし始める。
首を回し、肩を広げ、入念にアキレス腱を伸ばす。
いつも見ている「もさもさ」とした雰囲気や、学校での「キラキラ」としたオーラとは全く違う。まるで、試合前のグラウンドに立つアスリートのように、その全身から無駄な力が抜け、しなやかな緊張感が満ちていくのが分かった。
俺は、言われるがままにスタジオの隅に置かれた革張りのソファに腰を下ろし、固唾を飲んでその様子を見守った。
これから、俺の知らない「橘圭吾」が、始まろうとしていた。
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