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第1章 ファスティアの冒険者
第4話 失敗からの成功
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相棒であるアリサの助けもあり、無事に大物を売り捌くことに成功したエルス。
再び一人になった彼が料金箱へ目を向けると、銅貨や銀貨の山に混じって数枚の金貨が輝いているのを確認することができた。
「こンだけ稼げば、アレをぶッ壊した件も許してもらえるかなぁ……」
「なーに? うふっ、何か壊しちゃったのかしらぁ?」
「――へッ!? うわァ――ッ!」
いきなり耳元に囁かれた艶かしい声に、エルスは大げさな動作で跳び退いてみせる。
「ど……、どーしたのよ? そんなに驚かなくても……」
エルスが我に返ると――そこには、依頼人の女店主が立っていた。
「いやぁ――えっと……。あッ、お疲れさまッス!」
「ええ、ありがと。それより……あらっ?」
店主はエルスの脇で存在感を放っている、料金箱の中を覗き込む。そして箱の中で金色の光がまばゆく輝いていることに気づくと、彼女の表情もみるみる輝き始めた。
「まぁ……。まさか、お店やってくれたの?」
「え? そりゃ、依頼を受けたからにはキッチリやる主義っていうか……」
「すごいわぁ……。これ、間違いなく過去最高の売り上げよ?」
店主は興奮気味に、箱の中の感触を手で確かめながら続ける。
「――それにウチで価値がある物なんて、あの精霊石の守護符くらいしか……」
「うぐッ!? ほら、あの変わった杖! アレが、もう奪い合いの大人気でさッ!」
「あ、それって〝降魔の杖〟のことかしら? ここに二本置いてあった……」
店主は商品棚の隅――床に置かれた、棒状の素材類が雑多に立てられた籠の一つを指さす。
「そうそう! そこにあった変な杖ッス!」
「そっかぁ。アレ、ついに売れちゃったのね」
「……えッ? もしかして、売りモンじゃなかったとか……?」
どうにか平静を保ちつつ、エルスは恐る恐る店主に訊ねる。
さきほどから彼の額には、大量の冷や汗が流れ続けている。
「あっ、違うの。実はちょっと〝いわく付き〟の商品でね。仕入先で無理矢理押しつけられて、扱いに困ってたのよ」
「なッ、なるほど……」
「ずーっと並べておいても全然売れないし。モッタイナイけど、今日 処分してもらおうかなって。――それを大金にしてくれて、本当に助かったわぁ」
店主は両手を擦り合わせながら、エルスにウィンクをしてみせる。
そして安心して胸を撫でおろしたエルスは、笑顔で額の汗を拭った。
「そッか、それなら良かった! これ以上やらかしちまったらと思うと――」
「あ、そうだ!――さっき、何か壊しちゃったって言ってなかった?」
「しまッ……!? そ……、それは……。あの……」
やはり失敗は隠せない。
エルスは震える手で、虹色の砂粒が入ったビンを店主の前へと差し出した。
「実は……。その例のヤツを、つい握り潰しちまって……」
「――ええっ!? これが、あのアミュレットなの!?」
「ご、ごめんなさいッ! タダ働きでいいんでッ! 足りない分はナントカ頑張るんでッ、神殿騎士に突き出すのだけはご勘弁を――ッ!」
何度も頭を下げて謝罪の気持ちを示すエルス。
突然のことに驚いたのか、店主は慌てて彼を宥める。
「ちょっと待って。一旦落ち着いて?――ねっ?」
店主の優しげな言葉を受け、エルスは面目なさそうに顔を上げる。
「――えっと。多分それ偽物ね。だから気にしないで、ねっ?」
そう言って彼女はアミュレットのなれの果てが入ったビンを手にし、それを傾けながら念入りに観察しはじめた。
「……やっぱり。こんなことだろうと思ったわ。固めた塗料か何かの塊ね、これ。まあ、飾っておくには綺麗だし、閉店まで並べておきましょっ」
「えーっと……? ニセモノ……?」
「そっ、偽物。本物の精霊石なら、握ったくらいでこうはならないもの。オークやジャイアントが踏んづけたって、ヒビひとつ入らないわ」
「そッ、そうか……。良かったぜ……」
今度こそエルスは安堵し、深く大きな溜息をついた――。
「それにしても、あそこも代替わりしてからはダメねぇ。ランベルトスの商人ギルド。偽物まで掴ませるなんて……」
店主は売り上げの中から一枚の金貨を拾い、妖しい手つきでエルスの手に載せる。
「はいっ。それはともかくお疲れさま。これは報酬ね」
「おおッ! こんなに!? 良いんスか?」
「ええ。居てもらうだけのつもりで、売り上げなんて期待してなかったし。たくさん頑張ってくれて、ありがとね」
優しげな笑みを浮かべ、店主は投げキッスをしてみせる。
エルスは金貨を財布に仕舞い、直立した状態から大きく頭を下げた。
「こちらこそッ! ありがとうございまーッス!」
「エルスくん。あなた、きっと商人に向いてるわ。よかったら明日からも一緒にどう?」
「いやぁ。せっかくだけど、俺にはやることがあるんで! この剣でさッ!」
エルスは爽やかな笑顔を浮かべ、腰から下げた真新しい剣を指さす。
店主は少し残念そうにしながらも、やがて小さく微笑んでみせた。
「そっか。わかったわ、新しい冒険者さん。これからも頑張ってね?」
「はいッ! それじゃ、お疲れさまッス!」
店主に別れの挨拶をし、エルスは元気よくお辞儀をする。
そして彼は店を飛び出し、ファスティアの活気の中へと飛び込んでいった。
再び一人になった彼が料金箱へ目を向けると、銅貨や銀貨の山に混じって数枚の金貨が輝いているのを確認することができた。
「こンだけ稼げば、アレをぶッ壊した件も許してもらえるかなぁ……」
「なーに? うふっ、何か壊しちゃったのかしらぁ?」
「――へッ!? うわァ――ッ!」
いきなり耳元に囁かれた艶かしい声に、エルスは大げさな動作で跳び退いてみせる。
「ど……、どーしたのよ? そんなに驚かなくても……」
エルスが我に返ると――そこには、依頼人の女店主が立っていた。
「いやぁ――えっと……。あッ、お疲れさまッス!」
「ええ、ありがと。それより……あらっ?」
店主はエルスの脇で存在感を放っている、料金箱の中を覗き込む。そして箱の中で金色の光がまばゆく輝いていることに気づくと、彼女の表情もみるみる輝き始めた。
「まぁ……。まさか、お店やってくれたの?」
「え? そりゃ、依頼を受けたからにはキッチリやる主義っていうか……」
「すごいわぁ……。これ、間違いなく過去最高の売り上げよ?」
店主は興奮気味に、箱の中の感触を手で確かめながら続ける。
「――それにウチで価値がある物なんて、あの精霊石の守護符くらいしか……」
「うぐッ!? ほら、あの変わった杖! アレが、もう奪い合いの大人気でさッ!」
「あ、それって〝降魔の杖〟のことかしら? ここに二本置いてあった……」
店主は商品棚の隅――床に置かれた、棒状の素材類が雑多に立てられた籠の一つを指さす。
「そうそう! そこにあった変な杖ッス!」
「そっかぁ。アレ、ついに売れちゃったのね」
「……えッ? もしかして、売りモンじゃなかったとか……?」
どうにか平静を保ちつつ、エルスは恐る恐る店主に訊ねる。
さきほどから彼の額には、大量の冷や汗が流れ続けている。
「あっ、違うの。実はちょっと〝いわく付き〟の商品でね。仕入先で無理矢理押しつけられて、扱いに困ってたのよ」
「なッ、なるほど……」
「ずーっと並べておいても全然売れないし。モッタイナイけど、今日 処分してもらおうかなって。――それを大金にしてくれて、本当に助かったわぁ」
店主は両手を擦り合わせながら、エルスにウィンクをしてみせる。
そして安心して胸を撫でおろしたエルスは、笑顔で額の汗を拭った。
「そッか、それなら良かった! これ以上やらかしちまったらと思うと――」
「あ、そうだ!――さっき、何か壊しちゃったって言ってなかった?」
「しまッ……!? そ……、それは……。あの……」
やはり失敗は隠せない。
エルスは震える手で、虹色の砂粒が入ったビンを店主の前へと差し出した。
「実は……。その例のヤツを、つい握り潰しちまって……」
「――ええっ!? これが、あのアミュレットなの!?」
「ご、ごめんなさいッ! タダ働きでいいんでッ! 足りない分はナントカ頑張るんでッ、神殿騎士に突き出すのだけはご勘弁を――ッ!」
何度も頭を下げて謝罪の気持ちを示すエルス。
突然のことに驚いたのか、店主は慌てて彼を宥める。
「ちょっと待って。一旦落ち着いて?――ねっ?」
店主の優しげな言葉を受け、エルスは面目なさそうに顔を上げる。
「――えっと。多分それ偽物ね。だから気にしないで、ねっ?」
そう言って彼女はアミュレットのなれの果てが入ったビンを手にし、それを傾けながら念入りに観察しはじめた。
「……やっぱり。こんなことだろうと思ったわ。固めた塗料か何かの塊ね、これ。まあ、飾っておくには綺麗だし、閉店まで並べておきましょっ」
「えーっと……? ニセモノ……?」
「そっ、偽物。本物の精霊石なら、握ったくらいでこうはならないもの。オークやジャイアントが踏んづけたって、ヒビひとつ入らないわ」
「そッ、そうか……。良かったぜ……」
今度こそエルスは安堵し、深く大きな溜息をついた――。
「それにしても、あそこも代替わりしてからはダメねぇ。ランベルトスの商人ギルド。偽物まで掴ませるなんて……」
店主は売り上げの中から一枚の金貨を拾い、妖しい手つきでエルスの手に載せる。
「はいっ。それはともかくお疲れさま。これは報酬ね」
「おおッ! こんなに!? 良いんスか?」
「ええ。居てもらうだけのつもりで、売り上げなんて期待してなかったし。たくさん頑張ってくれて、ありがとね」
優しげな笑みを浮かべ、店主は投げキッスをしてみせる。
エルスは金貨を財布に仕舞い、直立した状態から大きく頭を下げた。
「こちらこそッ! ありがとうございまーッス!」
「エルスくん。あなた、きっと商人に向いてるわ。よかったら明日からも一緒にどう?」
「いやぁ。せっかくだけど、俺にはやることがあるんで! この剣でさッ!」
エルスは爽やかな笑顔を浮かべ、腰から下げた真新しい剣を指さす。
店主は少し残念そうにしながらも、やがて小さく微笑んでみせた。
「そっか。わかったわ、新しい冒険者さん。これからも頑張ってね?」
「はいッ! それじゃ、お疲れさまッス!」
店主に別れの挨拶をし、エルスは元気よくお辞儀をする。
そして彼は店を飛び出し、ファスティアの活気の中へと飛び込んでいった。
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