ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第2章 ランベルトスの陰謀

第14話 錬金術士ドミナ

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 古代人エインシャントを師に持つという、錬金術士のドミナ。

 「エインシャント? 何だそりゃ?」
 ――聞き慣れぬ単語に、エルスは首をかしげる。

 「知ってるのだ! 古代の〝そうせい〟に住んでたたみなのだ!」
 「確か、古い世界と一緒に消えちゃったんだよね?」
 「へぇ、そんな奴らが居たのか。二人ともよく知ってるなぁ」

 「エルスが昔、小さい頃に読んでくれた本で覚えたんだよ?」
 「そうだっけ? 本なんてもう、十年以上読んでねェからさ……」

 魔王の襲撃にって以来、苦手な剣術の修行に励んでいたエルス。
 幼少時の彼は現在とは異なり、学問や魔法に対して興味を示していた。

 話がれたついでに、ドミナは広い作業台へと四人をいざなう。
 台の上には、ザグドが用意したお茶のカップが五つ置かれていた。すでに彼は、店へと戻ってしまったようだ。


 「あッ、でもさ――ニセルの義体からだを造ったッてことは……」
 「そうだ。さいせいの今も――古代人エインシャントたちは、ひっそりと残っている」
 「じゃあ、その師匠さんなら?」

 「彼女は、もう居ない。消えた――いや、消されたのさ。文字通りにね」

 そう言って彼女は、手にしていた写真立てをこちらへ向ける。
 写真の中では幼いドミナが不自然に右側に寄り、何かをつかむように右手を伸ばしていた。

 「これって、ドミナさん?」
 「そうさ。それと師匠。に居たはずの――」
 ――低い声色で言い、ドミナは写真の左側をさす。

 「うー? 誰もいないのだ?」
 「本当にッてことか……」

 「ああ、〝記憶〟も〝記録〟も。この世界や、あたしの頭の中から……ね……」

 ドミナは額に手を当てる。
 その表情は悲しみよりも、諦めの方が強い。

 「どうたいも、あたしが発明したことになってたんだ。いつの間にか――!」

 お手上げのジェスチャをしながら、ドミナは早口で続ける。

 「――そして、恐ろしいことに、あたし自身もそんな気がしてんのさ! 原理なんて、ちゃんと理解わかっちゃいないのに。ハハッ、笑っちまうね!」

 「ううー。巨大な悪の陰謀を感じるのだ……」
 「わけがわからねェな……。寒気がしてきたぜ……」

 「ねぇ、ニセル君――。師匠の名前、覚えてるかい?」
 「ああ。この義体からだを見るたびに、思い出すからな」
 「……あたしは、もう思い出せないよ……。聞いても正解かどうかさえ、わからない」

 ドミナは立ち上がり、写真立てを元に戻す。
 エルスは作業場に漂う重苦しい空気をはらうべく、話題を変えることにする――。


 「あッ、そういえばさ! ここにジェイドって奴、来なかったか?」
 「あぁ――来た来た! 来るなり『俺様はニセルのダチだ!』だの、『魔法は使えるようにしろ!』だの、うるさいのなんの」
 「やっぱり、二人とも仲いいんだねぇ」

 「魔法? そういえばニセルが魔法が使えないのって」
 「どうたいは体内の魔力素マナしょうもうする。まっ、腕一本を動かす程度なら、魔法に回す余裕はあるさ」

 ニセルは答え、ドミナの方を見る。彼女は台の上にあった、作りかけの義手を持ち上げてみせた。それはいっけんすると、銅製の小手ガントレットにしか見えない。

 「でもニセル君は、全身のほぼ左半分がだ。こうなると全身の魔力素マナでも足りない。しょうの補給も必要になるね」
 「しょうを――!?」

 「魔物を狩っていればそれなりに補える――が、足りない時は煙草コイツに頼ってるのさ」
 「なるほどなぁ。色々と納得がいったぜ」

 エルスの言葉が終わると同時に――
 入口にザグドが現れ、そこで一礼をする。


 「お話中失礼しますのぜ。イシシッ!……そろそろお時間ですぜ」
 「あぁ、わかった。それじゃ、準備を頼むよ」
 「シシッ! かしこまりました」

 「よいしょっ、と――。すまないけど、もうじき客が来る時間さ。義体の整備メンテナンスを頼まれててね」
 「長居しちゃってすみません、ドミナさん」

 アリサは立ち上がり、丁寧にお辞儀をする。
 いつの間にかミーファは寝てしまったようで、エルスが彼女を抱きかかえた。

 「構わないさ。大して役に立てなかったけどね――。あぁ、そうだ」

 ドミナはツナギの上に白衣をりながら、入口付近の棚を指さす。

 「そこに、ミーファ様のと同じ〝腕輪バングル〟があるからさ。好きなだけ持ってくといいよ」
 「えッ!? それって、あのデカイ斧を出してた〝秘密アイテム〟のことか?」
 「まだ一種類ずつしか入んないけどね。試作中さ」

 「おおッ! じゃあ、一つずつ貰ってこうぜ!」
 「出来れば、全部持ってってくれると助かるよ。ここに置いといても、悪用されちまうからね」

 もう準備が済んだのか――彼女は山積みの腕輪バングルを、エルスの冒険バッグにすべて放り込んでしまった。

 「ミーファ様のこと、よろしく頼んだよ? あたしらドワーフにとって、大事な御人なんだ」
 「ああッ! 俺たちにとっても、大事な仲間だからなッ!」
 「ははっ。またおいで」

 エルスの腰をポンと叩き、ドミナは作業場から工房へ戻る。
 一同も続いて退出し、店舗へのドアを開いた――。

 「お帰りですかな?」
 ――店の中に居たザグドは、大きな瞳をこちらへ向ける。

 「はいっ。ザグドさん、お茶おいしかったです」
 「いえいえ、きょうしゅくでございますぜ。シシシッ!」

 ザグドに礼を言い、エルスたちは霧に包まれている街へ出た――。


 「色々と話は聞けたけどよ。依頼と関係ありそうなのは〝どうたい〟くらいか」
 「うーん。なんだか、師匠さんのお話の方が頭に残っちゃったかも」
 「だなぁ……。何とも言えない、気持ち悪さを感じるぜ……」

 ミーファを抱いたまま、エルスは身震いをする。ファスティアよりも気温が高いランベルトスなのだが、今は寒気すらも感じる。

 「ふっ。その話はまた、おいおいしてやるさ」
 「そっか。ニセルさんにも関係あるもんね」
 「まあな。いったん酒場へ戻ろう。霧も出ている、二人ともはぐれないようにな」

 ニセルの言葉にアリサは頷き、エルスはミーファの頭を強めにでる。

 「ダメだな――。ミーファの奴、完全に寝てやがる……。仕方ねェ、このまま帰るか……」
 「難しい話だったもんね――。エルス、落としちゃだめだよ……?」

 アリサはいつも通りの台詞せりふを言うが、声のトーンはどことなく低い。

 「いや、落とさねェッて……。それじゃ、帰ろうぜ」

 ニセルを先頭に、いっこうは霧の中へと踏み込んでゆく。
 本日の霧はひときわ深く、晴れるには時間が掛かりそうだ――。
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