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第2章 ランベルトスの陰謀
第13話 古代人の弟子
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小さな工房の、ある日の一幕。
ひとりの女性と、ひとりの少女。二人は会話を交わしていた。
『ふーむふむ。これって、やっぱしアレだよねぇ』
『ししょー? 何見てるんれすか? 真っ白で何も見えないでしゅ』
『ほら、よく見ると虫みたいだなって! 虫の大群がさ、ぶわぁーっと!』
『ええっ!? やっ、やめてくださいっ! 気持ち悪くなりましゅ』
『あはは、ごめんごめん! ドミナちゃんに解りやすくしようとしたんだけどさ』
『もうっ、虫は嫌いでしゅ……』
『なーるほどねぇ。つまり、これが魔法の原理……。なんとか応用できれば……』
『……ししょー?』
『おおっと、ごめんごめん! さっ、休憩したら続き始めよっか!』
これは、遠い、過去の記憶。
忘れ去られし、彼女の記憶――。
「――うっ……。今のは……?」
錬金術士ドミナは頭を押さえる。
そして我に返り、来客であるエルスたちの顔を見上げた。
「……あぁ、ごめんよ。それで、あたしに何の用だい?」
ドワーフ族の彼女は青みを帯びた黒髪を短いポニーテールに束ね、革製のツナギを身につけている。彼女の様子に気づいたニセルが、まずは気遣いの言葉をかける。
「なに、少し訊きたいことがあってな。それより大丈夫か? 顔色が優れないようだが」
「ははっ、座りっぱなしでね。ただの立ちくらみさ――。おおっと、その前に」
ドミナはミーファの前へ進み出て、彼女に丁寧なお辞儀をする。
「ご機嫌麗しゅうございます、ミーファ様。旅は順調のようですね?」
「おー! もらった秘密アイテムのおかげなのだ! ドミナ、こんな所に住んでたのだ?」
「はい。以前お会いした港町には、取引で滞在しておりました」
「おおッ、すげェ! ミーファって本当に姫様なんだなッ!」
恭しく挨拶をするドミナの姿に、改めてミーファが〝王女〟であることを実感するエルス。そんな彼の言葉に対し、ミーファは嬉しそうに胸を張る。
「……それでさニセル君、この子たちは?」
ドミナは警戒と興味が入り混じった表情で、エルスを見上げる。
問われたニセルは互いの紹介と、工房を訪れた用件を伝える。
どうやら二人は、幼少時からの知り合いであるらしい。
「なーるほどねぇ。商人ギルドの調査がてら、その〝降魔の杖〟の出処を追ってるってわけか」
「まっ、成り行きってやつさ。ここで〝彼女〟に遭遇したのも、何かの縁だろう」
「お嬢か――。まぁ確かに、この街で目に光が宿ってるヤツなんて、あの娘くらいなモンさね」
ドミナは小さな丸窓から外を覗く。
いつの間にか霧が出ていたらしく、ランベルトスの街並みは白に包まれていた。
「虫……っか」
「えっ?」
「いや、何でもないよ――。商人ギルドの脅しがあるのは事実さ。ニセル君の躰のことは聞いてるかい?」
「何だッけ。たしか前に『半分、人間やめてる』とか言われてた気が……」
「そう。魔導義体。それが、連中の欲しがってるモンだね」
「うー? つまり、ニセルをたくさん造るつもりなのだ?」
「魔導義体は使いようによっては、強力な武器になりますからね。しかし、ニセル君は造れません」
「そりゃ、ニセルは人間だしな!――ほら、人形じゃねェんだからさ……」
エルスはミーファの頭を軽く撫でる。
そんな様子を見て、ドミナは「ふっ」と息を漏らした。
「――そうさね。それもあるけど、ニセル君のは〝特別製〟なんだよ」
ドミナは作業机に置かれた写真立てを手に取る。小さな額縁の中には魔道具によって描かれた特殊な絵画・写真が収まっていた。
「ニセル君に処置をしたのは、あたしの師匠。彼女は、古代人だったのさ――」
ひとりの女性と、ひとりの少女。二人は会話を交わしていた。
『ふーむふむ。これって、やっぱしアレだよねぇ』
『ししょー? 何見てるんれすか? 真っ白で何も見えないでしゅ』
『ほら、よく見ると虫みたいだなって! 虫の大群がさ、ぶわぁーっと!』
『ええっ!? やっ、やめてくださいっ! 気持ち悪くなりましゅ』
『あはは、ごめんごめん! ドミナちゃんに解りやすくしようとしたんだけどさ』
『もうっ、虫は嫌いでしゅ……』
『なーるほどねぇ。つまり、これが魔法の原理……。なんとか応用できれば……』
『……ししょー?』
『おおっと、ごめんごめん! さっ、休憩したら続き始めよっか!』
これは、遠い、過去の記憶。
忘れ去られし、彼女の記憶――。
「――うっ……。今のは……?」
錬金術士ドミナは頭を押さえる。
そして我に返り、来客であるエルスたちの顔を見上げた。
「……あぁ、ごめんよ。それで、あたしに何の用だい?」
ドワーフ族の彼女は青みを帯びた黒髪を短いポニーテールに束ね、革製のツナギを身につけている。彼女の様子に気づいたニセルが、まずは気遣いの言葉をかける。
「なに、少し訊きたいことがあってな。それより大丈夫か? 顔色が優れないようだが」
「ははっ、座りっぱなしでね。ただの立ちくらみさ――。おおっと、その前に」
ドミナはミーファの前へ進み出て、彼女に丁寧なお辞儀をする。
「ご機嫌麗しゅうございます、ミーファ様。旅は順調のようですね?」
「おー! もらった秘密アイテムのおかげなのだ! ドミナ、こんな所に住んでたのだ?」
「はい。以前お会いした港町には、取引で滞在しておりました」
「おおッ、すげェ! ミーファって本当に姫様なんだなッ!」
恭しく挨拶をするドミナの姿に、改めてミーファが〝王女〟であることを実感するエルス。そんな彼の言葉に対し、ミーファは嬉しそうに胸を張る。
「……それでさニセル君、この子たちは?」
ドミナは警戒と興味が入り混じった表情で、エルスを見上げる。
問われたニセルは互いの紹介と、工房を訪れた用件を伝える。
どうやら二人は、幼少時からの知り合いであるらしい。
「なーるほどねぇ。商人ギルドの調査がてら、その〝降魔の杖〟の出処を追ってるってわけか」
「まっ、成り行きってやつさ。ここで〝彼女〟に遭遇したのも、何かの縁だろう」
「お嬢か――。まぁ確かに、この街で目に光が宿ってるヤツなんて、あの娘くらいなモンさね」
ドミナは小さな丸窓から外を覗く。
いつの間にか霧が出ていたらしく、ランベルトスの街並みは白に包まれていた。
「虫……っか」
「えっ?」
「いや、何でもないよ――。商人ギルドの脅しがあるのは事実さ。ニセル君の躰のことは聞いてるかい?」
「何だッけ。たしか前に『半分、人間やめてる』とか言われてた気が……」
「そう。魔導義体。それが、連中の欲しがってるモンだね」
「うー? つまり、ニセルをたくさん造るつもりなのだ?」
「魔導義体は使いようによっては、強力な武器になりますからね。しかし、ニセル君は造れません」
「そりゃ、ニセルは人間だしな!――ほら、人形じゃねェんだからさ……」
エルスはミーファの頭を軽く撫でる。
そんな様子を見て、ドミナは「ふっ」と息を漏らした。
「――そうさね。それもあるけど、ニセル君のは〝特別製〟なんだよ」
ドミナは作業机に置かれた写真立てを手に取る。小さな額縁の中には魔道具によって描かれた特殊な絵画・写真が収まっていた。
「ニセル君に処置をしたのは、あたしの師匠。彼女は、古代人だったのさ――」
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