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第2章 ランベルトスの陰謀
第33話 優しき冒険者の目覚め
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ボルモンク三世の罠に嵌められはしたものの、エルスは魔術士ルゥランの助けもあり、檻からの脱出に難なく成功することができた。そして彼らが元の場所へと戻る道中、二人は〝透明なカプセル〟に入っている〝魔導兵〟らの姿を目撃した。
「片づけるッて、この数を二人で倒すのかッ!?」
ルゥランの口から出た言葉に、エルスは驚きを隠せない。少なくとも、この場には魔導兵の入った〝カプセル〟が二十基以上は並んでいるのだ。
「ッていうか。――そのデケェ杖、いつ出したんだ?」
「ああ、さきほど取ってまいりました! 散歩には少々重すぎましてねぇ」
「取ってきたッて……。そういや、あの檻の中にも、いきなり出てきたよな?」
エルスは今さらながら、ルゥランについての疑問を口にする。しかし彼は疑問には答えず、にこやかな笑顔を絶やさぬまま、一歩前へと進み出た。
「ふむふむ。この程度の数なら、ワタシだけでも大丈夫でしょう!」
ルゥランは植物や宝石によって飾りつけられた大杖を構え、あたかもお手本を示すかのように、ゆっくりと呪文を唱えてみせる。
「デストミスト――!」
闇魔法・デストミストが発動し、ルゥランの杖の先端から、紫色の光が迸る。
荒ぶる光は周囲の魔導兵たちへと照射され、続いて生じた紫色の泡がカプセルの内部に満ち、魔導兵の全身を包み込んだ。
やがてカプセルの内部は闇色に染まり、その〝闇〟さえも泡の中へと吸収される。そして泡が虚空へ消えたあとには、透明の容器だけが残されていた。
「今のが〝解呪〟の闇魔法、デストミストです。やはり魔導兵も、〝はじまりの遺跡〟の彼と同じ性質だったようですねぇ」
「はじまりの遺跡だって? じゃあ、団長が言ってた〝魔術士〟ッてのは……」
エルスは周囲を一望しながら、同時に感嘆の溜息を漏らす。
「本当に一瞬で片づけちまった……。とんでもねェ魔法だな……」
「本来は呪われた道具を壊す魔法ですが、こういう使い方もあるということで!」
「呪い? そうか、瘴気で動くッてことは、不死人類なんかと同じッてことか」
通常であれば、命が尽きた人類は〝白い霧〟となって消滅する。
しかし、極端に瘴気の濃度が高い場所では正常に霧へ還ることができず、生ける屍とも云える〝不死人類〟となり果ててしまうのだ。
「いいですねぇ! その冷静さや観察眼は、魔術士にとって重要ですよ!」
ルゥランはエルスを褒めながら、じっと彼の顔を覗き込む。その時ルゥランの右眼に着けられた片眼鏡が、わずかに輝いたように見えた。
*
「とにかく今は、捕まった仲間を早く取り戻さないといけねェしな」
エルスは拳を握りしめ、先へと続く通路を睨む。魔導兵への対抗手段は見つかったものの、敵に囚われたままのクレオールは、依然として危険な状態だ。
「まずは目の前の事をなんとかしねェと! 早くアリサたちと合流だ!」
「では、ワタシは残りの部屋を片づけて回りましょう!」
ルゥランは大杖を壁に立て掛け、左右の肩を交互に叩く。彼の言葉のとおり、この大きな杖には相応の重量があるようだ。
「残り? まだ残ってやがンのか?」
「ええ、似たような設備がおそらく三箇所。いやぁ、かなり本腰を入れて建設したようですねぇ。――研究所!」
そう言いながらルゥランは、周囲を見渡すようなジェスチャをする。どうやら彼の〝眼〟にだけは、何かが視えているのだろう。
「わかった、それじゃ頼むぜ! ああ、そうだ――」
エルスは思い出したように言い、自身の冒険バッグから〝武器収納の腕輪〟を二つ取り出す。そして彼はそれらを重ね、ルゥランの前へと差し出した。
「よかったら使ってくれよ! ルゥランになら渡しても大丈夫だろうしさッ!」
「おや、これは興味深い! ありがたく頂戴しましょうかねぇ」
腕輪を受け取ったルゥランはそれらを一つずつ両腕に嵌め、使い方に迷うこともなく右手に大杖を収納する。
「おお、これは素晴らしい! ありがとうございます、エルスさん!」
「へへッ! まッ、貰いモンなんだけどなッ! それじゃ行ってくるぜ!」
エルスは大きく手を振ると、先に続く長い通路へと全速力で駆けていった。
*
そんなエルスの背中を見送り、ルゥランは右目の片眼鏡を取り外す。それには鼻当てと一本の弦が付いており、鼻と右耳で固定する仕組みとなっている。
「烙印、タイプ・リーランド。――やはり彼がお持ちでしたか!」
いつものように笑いながらも、額から流れる汗が止まらない。ルゥランは目眩を抑えるように顔に手を当て、そのまま左手で汗を拭う。
「しかし、あれほど多くの要素を抱えておいでとは! さて、どこまでミルセリアさんにお伝えしたものか。……またお会いしましょうねぇ? エルスさん!」
そう独りで呟くや――。ルゥランの姿は忽然と、虚空へと消え去った。
*
一方、研究所の出入口近くの大広間。エルスが罠に掛かってしまった後も、残されたアリサとミーファは、魔導兵との激戦を繰り広げていた。
「はあぁ――ッ!」
アリサは気合いと共に、何度も斬撃を繰り返す。すると魔導兵の腕にも少しずつヒビが増え、やがて金属疲労に屈するかのように、鋼鉄の腕が落下した。
「そこッ! せやぁ――ッ!」
がら空きになった魔導兵の胴に、アリサが渾身の突きを放つ。細身の銘剣の鋭利な剣身に貫かれ、魔導兵は行動を停止する。
「ゥルォォ……。シャッ……。ダ……」
機能停止の音声と共に魔導兵はガラガラと床に崩れ、その残骸からは夥しい量の瘴気が噴出しはじめる。アリサらは善戦してはいたものの、すでに大広間の内部には、この〝瘴気〟が大量に満ちていた。
「はぁ……、はぁっ……! せっかく倒しても、これじゃ……」
アリサの周囲では獲物を求めるかのように、未だ大量の〝目玉〟が蠢いている。
しかし瘴気によってアリサの魔力や体力を大きく奪われており、もう魔導兵の攻撃を捌き続けるのも、かなり厳しいといった状態だ。
「ふぅむ。この高濃度の瘴気の中で、ここまでの戦闘能力を発揮するとは。しかしながら、そろそろ限界のようですね」
劣勢に陥りつつあるアリサを見遣り、ボルモンクは冷笑を浮かべる。自身は〝結界〟を展開しているらしく、彼の周囲には薄らとした〝光の膜〟が確認できる。
「まだまだなのだ! アリサ、ドワーフの底力を見せてやるのだー!」
「ドワーフだろうとブリガンドだろうと、我輩のような〝ノーム〟であろうとも――。所詮は〝神の傀儡〟です。哀れな操り人形と何ら変わりありません」
「もう悪の言葉を聞く耳など持たぬのだ! リカレクトぉ――!」
ミーファは唱えていた魔法を解き放ち、アリサの身体を守護の結界で包み込む。続けて彼女は攻勢に出るべく、さらに呪文を唱えた。
「さー! 正義の力を受け取るのだ! レイリゴラぁム――!」
土の精霊魔法・レイリゴラムが発動し、アリサの剣が金色の光を放つ〝魔法剣〟と化した。ミーファからの援護を受け、アリサが再び立ち上がる。
「ありがとっ、ミーファちゃん! やあぁーッ!」
魔力を帯びた剣により、再び攻勢に出たアリサ。
「ふふー! ミーたちの正義は止まらないのだー!」
さきほどの魔法でミーファも魔力素を使い果たしたようだが、彼女の戦闘スタイルを見るに、あまり影響は無いらしい。
「アリサ、ここは任せたのだー! そりゃ、どーん!」
瘴気を分散させるため、アリサから離れた位置の魔導兵らをなぎ倒す。猪突猛進な台詞に対し、ミーファは冷静な判断能力にも長けているようだ。
「負けないッ! 絶対に助けるもんッ!」
黄金の刃を構えながら、アリサは巨大な魔水晶に視線を遣る。十字架に囚われたままのクレオールは、未だ微動だにもしていない――。
クレオールのことはどうでもよかった。
エルスのためについてきた。
エルスが〝彼女を助けたい〟と、そう望んだからついてきた。
それがアリサ自身の望みでもあると、そう思い込んでいた。
「――でもッ!」
アリサは力いっぱいに剣を振る。
金色の刃に斬り裂かれ、哀れな人形が崩れ落ちる。
「助けるッ! エルスもッ! そしてクレオールさんもッ!」
振り下ろされた鋼の拳を、左腕で受け止める。守護の結界を纏ったまま、アリサは魔導兵に体当たりを仕掛けて倒し、剣を〝目玉〟に突き立てる。
「待っててッ! いま助けるからッ!」
決意の叫びと共に――。
アリサは魔水晶の元へと、猛然と駆け出した。
*
「むむっ!? ゼニファー!」
「ルール違反よん? サイフォ――!」
風の精霊魔法・サイフォが発動し、アリサの周囲の〝風〟が動きを止めた。同時に彼女に掛かっていた、守護付与魔法と土の付与魔法剣も消滅する。
精霊たちの相互の力関係上、土は風に対して弱い位置づけとなっている。本来、静寂魔法は相手の呪文詠唱を阻害するために用いる魔法なのだが、ゼニファーはアリサに掛かった付与魔法を打ち消すために、これを使用したようだ。
「困ったお嬢ちゃんねぇ? もう〝彼〟のコトは諦めたほうがイイわよん?」
「……さないッ!」
アリサは背後を振り返り、ゼニファーを睨みつける。
風の戒めによって台詞の前半部分は聞き取ることができなかったものの、アリサの表情から伝わる気迫に、思わずゼニファーはたじろいだ。
「なっ……、何よん……。そんなに怒らなくってもイイじゃない……」
ゼニファーの頬を冷たい汗が流れ、傷痕を描いた化粧が滲む。二人を隔てる鉄格子が無ければ、アリサは今にも彼女へ飛びかかってきただろう。
しかし、彼女が安堵をみせたのも束の間。ゼニファーの後方にあたる〝研究所の出入口方面〟から、さらに彼女を恨む者の、凄まじい怒号が響きわたる。
「ハッ! 見つけたぞゼニファーめ! 俺様が〝借り〟を返しに来たぞ――!」
「片づけるッて、この数を二人で倒すのかッ!?」
ルゥランの口から出た言葉に、エルスは驚きを隠せない。少なくとも、この場には魔導兵の入った〝カプセル〟が二十基以上は並んでいるのだ。
「ッていうか。――そのデケェ杖、いつ出したんだ?」
「ああ、さきほど取ってまいりました! 散歩には少々重すぎましてねぇ」
「取ってきたッて……。そういや、あの檻の中にも、いきなり出てきたよな?」
エルスは今さらながら、ルゥランについての疑問を口にする。しかし彼は疑問には答えず、にこやかな笑顔を絶やさぬまま、一歩前へと進み出た。
「ふむふむ。この程度の数なら、ワタシだけでも大丈夫でしょう!」
ルゥランは植物や宝石によって飾りつけられた大杖を構え、あたかもお手本を示すかのように、ゆっくりと呪文を唱えてみせる。
「デストミスト――!」
闇魔法・デストミストが発動し、ルゥランの杖の先端から、紫色の光が迸る。
荒ぶる光は周囲の魔導兵たちへと照射され、続いて生じた紫色の泡がカプセルの内部に満ち、魔導兵の全身を包み込んだ。
やがてカプセルの内部は闇色に染まり、その〝闇〟さえも泡の中へと吸収される。そして泡が虚空へ消えたあとには、透明の容器だけが残されていた。
「今のが〝解呪〟の闇魔法、デストミストです。やはり魔導兵も、〝はじまりの遺跡〟の彼と同じ性質だったようですねぇ」
「はじまりの遺跡だって? じゃあ、団長が言ってた〝魔術士〟ッてのは……」
エルスは周囲を一望しながら、同時に感嘆の溜息を漏らす。
「本当に一瞬で片づけちまった……。とんでもねェ魔法だな……」
「本来は呪われた道具を壊す魔法ですが、こういう使い方もあるということで!」
「呪い? そうか、瘴気で動くッてことは、不死人類なんかと同じッてことか」
通常であれば、命が尽きた人類は〝白い霧〟となって消滅する。
しかし、極端に瘴気の濃度が高い場所では正常に霧へ還ることができず、生ける屍とも云える〝不死人類〟となり果ててしまうのだ。
「いいですねぇ! その冷静さや観察眼は、魔術士にとって重要ですよ!」
ルゥランはエルスを褒めながら、じっと彼の顔を覗き込む。その時ルゥランの右眼に着けられた片眼鏡が、わずかに輝いたように見えた。
*
「とにかく今は、捕まった仲間を早く取り戻さないといけねェしな」
エルスは拳を握りしめ、先へと続く通路を睨む。魔導兵への対抗手段は見つかったものの、敵に囚われたままのクレオールは、依然として危険な状態だ。
「まずは目の前の事をなんとかしねェと! 早くアリサたちと合流だ!」
「では、ワタシは残りの部屋を片づけて回りましょう!」
ルゥランは大杖を壁に立て掛け、左右の肩を交互に叩く。彼の言葉のとおり、この大きな杖には相応の重量があるようだ。
「残り? まだ残ってやがンのか?」
「ええ、似たような設備がおそらく三箇所。いやぁ、かなり本腰を入れて建設したようですねぇ。――研究所!」
そう言いながらルゥランは、周囲を見渡すようなジェスチャをする。どうやら彼の〝眼〟にだけは、何かが視えているのだろう。
「わかった、それじゃ頼むぜ! ああ、そうだ――」
エルスは思い出したように言い、自身の冒険バッグから〝武器収納の腕輪〟を二つ取り出す。そして彼はそれらを重ね、ルゥランの前へと差し出した。
「よかったら使ってくれよ! ルゥランになら渡しても大丈夫だろうしさッ!」
「おや、これは興味深い! ありがたく頂戴しましょうかねぇ」
腕輪を受け取ったルゥランはそれらを一つずつ両腕に嵌め、使い方に迷うこともなく右手に大杖を収納する。
「おお、これは素晴らしい! ありがとうございます、エルスさん!」
「へへッ! まッ、貰いモンなんだけどなッ! それじゃ行ってくるぜ!」
エルスは大きく手を振ると、先に続く長い通路へと全速力で駆けていった。
*
そんなエルスの背中を見送り、ルゥランは右目の片眼鏡を取り外す。それには鼻当てと一本の弦が付いており、鼻と右耳で固定する仕組みとなっている。
「烙印、タイプ・リーランド。――やはり彼がお持ちでしたか!」
いつものように笑いながらも、額から流れる汗が止まらない。ルゥランは目眩を抑えるように顔に手を当て、そのまま左手で汗を拭う。
「しかし、あれほど多くの要素を抱えておいでとは! さて、どこまでミルセリアさんにお伝えしたものか。……またお会いしましょうねぇ? エルスさん!」
そう独りで呟くや――。ルゥランの姿は忽然と、虚空へと消え去った。
*
一方、研究所の出入口近くの大広間。エルスが罠に掛かってしまった後も、残されたアリサとミーファは、魔導兵との激戦を繰り広げていた。
「はあぁ――ッ!」
アリサは気合いと共に、何度も斬撃を繰り返す。すると魔導兵の腕にも少しずつヒビが増え、やがて金属疲労に屈するかのように、鋼鉄の腕が落下した。
「そこッ! せやぁ――ッ!」
がら空きになった魔導兵の胴に、アリサが渾身の突きを放つ。細身の銘剣の鋭利な剣身に貫かれ、魔導兵は行動を停止する。
「ゥルォォ……。シャッ……。ダ……」
機能停止の音声と共に魔導兵はガラガラと床に崩れ、その残骸からは夥しい量の瘴気が噴出しはじめる。アリサらは善戦してはいたものの、すでに大広間の内部には、この〝瘴気〟が大量に満ちていた。
「はぁ……、はぁっ……! せっかく倒しても、これじゃ……」
アリサの周囲では獲物を求めるかのように、未だ大量の〝目玉〟が蠢いている。
しかし瘴気によってアリサの魔力や体力を大きく奪われており、もう魔導兵の攻撃を捌き続けるのも、かなり厳しいといった状態だ。
「ふぅむ。この高濃度の瘴気の中で、ここまでの戦闘能力を発揮するとは。しかしながら、そろそろ限界のようですね」
劣勢に陥りつつあるアリサを見遣り、ボルモンクは冷笑を浮かべる。自身は〝結界〟を展開しているらしく、彼の周囲には薄らとした〝光の膜〟が確認できる。
「まだまだなのだ! アリサ、ドワーフの底力を見せてやるのだー!」
「ドワーフだろうとブリガンドだろうと、我輩のような〝ノーム〟であろうとも――。所詮は〝神の傀儡〟です。哀れな操り人形と何ら変わりありません」
「もう悪の言葉を聞く耳など持たぬのだ! リカレクトぉ――!」
ミーファは唱えていた魔法を解き放ち、アリサの身体を守護の結界で包み込む。続けて彼女は攻勢に出るべく、さらに呪文を唱えた。
「さー! 正義の力を受け取るのだ! レイリゴラぁム――!」
土の精霊魔法・レイリゴラムが発動し、アリサの剣が金色の光を放つ〝魔法剣〟と化した。ミーファからの援護を受け、アリサが再び立ち上がる。
「ありがとっ、ミーファちゃん! やあぁーッ!」
魔力を帯びた剣により、再び攻勢に出たアリサ。
「ふふー! ミーたちの正義は止まらないのだー!」
さきほどの魔法でミーファも魔力素を使い果たしたようだが、彼女の戦闘スタイルを見るに、あまり影響は無いらしい。
「アリサ、ここは任せたのだー! そりゃ、どーん!」
瘴気を分散させるため、アリサから離れた位置の魔導兵らをなぎ倒す。猪突猛進な台詞に対し、ミーファは冷静な判断能力にも長けているようだ。
「負けないッ! 絶対に助けるもんッ!」
黄金の刃を構えながら、アリサは巨大な魔水晶に視線を遣る。十字架に囚われたままのクレオールは、未だ微動だにもしていない――。
クレオールのことはどうでもよかった。
エルスのためについてきた。
エルスが〝彼女を助けたい〟と、そう望んだからついてきた。
それがアリサ自身の望みでもあると、そう思い込んでいた。
「――でもッ!」
アリサは力いっぱいに剣を振る。
金色の刃に斬り裂かれ、哀れな人形が崩れ落ちる。
「助けるッ! エルスもッ! そしてクレオールさんもッ!」
振り下ろされた鋼の拳を、左腕で受け止める。守護の結界を纏ったまま、アリサは魔導兵に体当たりを仕掛けて倒し、剣を〝目玉〟に突き立てる。
「待っててッ! いま助けるからッ!」
決意の叫びと共に――。
アリサは魔水晶の元へと、猛然と駆け出した。
*
「むむっ!? ゼニファー!」
「ルール違反よん? サイフォ――!」
風の精霊魔法・サイフォが発動し、アリサの周囲の〝風〟が動きを止めた。同時に彼女に掛かっていた、守護付与魔法と土の付与魔法剣も消滅する。
精霊たちの相互の力関係上、土は風に対して弱い位置づけとなっている。本来、静寂魔法は相手の呪文詠唱を阻害するために用いる魔法なのだが、ゼニファーはアリサに掛かった付与魔法を打ち消すために、これを使用したようだ。
「困ったお嬢ちゃんねぇ? もう〝彼〟のコトは諦めたほうがイイわよん?」
「……さないッ!」
アリサは背後を振り返り、ゼニファーを睨みつける。
風の戒めによって台詞の前半部分は聞き取ることができなかったものの、アリサの表情から伝わる気迫に、思わずゼニファーはたじろいだ。
「なっ……、何よん……。そんなに怒らなくってもイイじゃない……」
ゼニファーの頬を冷たい汗が流れ、傷痕を描いた化粧が滲む。二人を隔てる鉄格子が無ければ、アリサは今にも彼女へ飛びかかってきただろう。
しかし、彼女が安堵をみせたのも束の間。ゼニファーの後方にあたる〝研究所の出入口方面〟から、さらに彼女を恨む者の、凄まじい怒号が響きわたる。
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