ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第2章 ランベルトスの陰謀

第32話 トリックスターの導き

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 強敵〝どうへい〟との戦闘のなか。エルスはボルモンクさんせいの仕掛けた転送装置テレポータわなまり、一人だけ何処いずこかへと転送されてしまっていた。

《ここは……? どこだッ?》

 現在、エルスは暗闇の中にり、何もない空間を漂っている。すると頭の内部にひびくかのように、幼い少年の声が彼に語りかけてきた。

《……助けてあげようか?……》

《なんだ……? ここに誰かンのか……ッ?》

《……ほら、こっちに手を伸ばして?……》

 暗闇に浮かぶ銀色の光――。
 しかし、その正体を見たたん、エルスの全身に力がもる。

《なッ……!? またかッ!》

 エルスの目の前に現れたのは、ボロボロの魔法衣ローブを着た銀髪の少年だった。何度も見た〝悪夢〟の光景に、エルスは思いきりさけぶ――。


「いらねェッて言ってんだろッ!――ッて、あれッ……?」

 自身の大声と共に、ふとエルスが目を覚ます。気づけば彼は、明るい〝独房〟のような場所に入れられており、これまで気を失っていたらしい。

             *

 光沢のある石造りの床は冷たく、三方は金属の板で閉ざされている。壁の一面だけはてつごうとなっており、この場を一言で表すならば〝おり〟と呼ぶのが適当だろう。

「そうか。俺は落とし穴に落ちて……」

 エルスは低い天井を見上げる。しかし一方通行の転送装置テレポータによって放り込まれたためか、そこに穴や通路は無い。鉄格子から外をのぞいてみると、目の前には左右に広がる通路があり、似たような檻がいくつも連なっているのが確認できる。

「とにかく脱出しねェと。……だめだな、かぎあなとかもェや」

 鍵穴さえあれば、ニセルから預かった〝盗賊の鍵〟でかいじょうができるのだが。檻は特殊な方法で閉じられているのか、扉の開閉部分すらも見当たらない。

「まいったな。剣は折れちまッたし、短杖これと魔法でどうにかなるか……?」

「この鉄格子、衝撃を加えるとわなが発動するようですよ? いやぁ興味深い!」

「うわッ! 誰だ!?」

 いきなり耳元でささやかれた声に、エルスは思わず大きくる。いつの間にか彼の隣には、執事の姿をしたエルフ族の紳士が立っていた。


「はっはっは! 驚かせてしまいましたかねぇ?」

「あッ、当たり前だッ!……ッて、あれッ? あんたは確か、ファスティアで会ったエルフの兄さんか? 俺の店にも来てくれたよな?」

「おやおや、若者は記憶力がよろしいようで! はい、ワタシはルゥランという魔術士です。――じつはアナタにお会いしたかったのですよ、エルスさん!」

 ルゥランは軽いしゃくをし、にこやかな笑顔でエルスの顔を覗込む。

「んんッ? 俺のこと知ってンのか?」

「それがあまり知らないのですよ! ですので、ぜひお調べしてみたいなと!」

 その言葉を聞いたたん、エルスの顔色が変わる。

「ンなッ!? もしかしてあんたも、ボルモンク三世の仲間だったのかッ!?」

「はっはっは! まさか!」

 パタパタと手を振りながら、ルゥランは楽しげに笑ってみせる。つかみどころのない人物ではあるが、確かに彼からは〝敵意〟のようなものは感じない。

             *

「とりあえず、あんたは〝敵〟じゃねェッてことでいいんだよな?」

「ええ、もちろん! ワタシがことをすれば、リリィナさんに殺されてしまいますからねぇ」

「ああ……。リリィナと知り合いなのか……。同情するぜ……」

 エルスは幼少の頃から付き合いのあるエルフ族を思い出し、としたようにためいきをついた。なぜか彼女はエルスに対し、度を超した厳しさで接してくるのだ。

「彼女は非常に個性的ユニークですからねぇ! さて、そろそろ出ましょうか!」

 ルゥランは鉄格子の前へ行き、笑顔のままでエルスの方を振り返る。

「出るッていってもなァ。この檻、いったいどうすりゃいいんだ?」

ズィエルディ――」

「んッ……?」

 エルスの問いには答えぬまま、ルゥランは右手のてのひらあおけにかざし、ゆっくりと〝謎の呪文〟を唱える。

「ゼルデバルド!」

 闇魔法・ゼルデバルドが発動し、ルゥランの右手に〝闇色の剣〟が出現する。そして闇の剣を右手でつかみ、で鉄格子を軽くでてみせた。

「ほいっ! ささっと!」

 みみざわりな音と共に、刃に触れた部分からは〝闇〟が広がり、銀色の檻が黒く染まる。そして頑丈な金属で造られていたであろうこうちりとなり、やがてボロボロとくずちてしまった。

「おやおや? 見かけほど丈夫ではなかったようですねぇ」

「いッ……!? いまの魔法は何だ……!?」

「はっはっは! ただの〝やみほう〟ですよ」

 ルゥランは涼しげに笑いながら、闇を掴んでいる手を開いてみせる。すると〝暗黒の剣〟は空間に溶けるかのように、あとかたもなく消滅した。


「どうです? 覚えましたか?」

「へッ? いや、さっきのなら覚えたけどよ……」

「いいですねぇ! やはりアナタは記憶力がよろしい!」

 魔法を扱うには呪文を覚える以外にも、それぞれに決められた契約や儀式を行なう必要がある。たとえば精霊魔法であれば高位の魔術士にほうしゅうを支払うことで、そして光魔法であれば、教会へわずかばかりの寄付によって儀式を受けることができる。

 しかし〝けんぞく〟のみが扱うとされる〝闇魔法は〟存在そのものがあまり知られてはおらず、その儀式の方法はおろか、正確な呪文を知る者さえもまれなのだ。

             *

「では、脱出しましょうか!」

「あ……。ああッ! そうだ、早くアリサたちの所へ戻らねェと……」

 エルスはルゥランのあとに続き、さっぷうけいな檻から通路へ出る。通路の左手側は〝行き止まり〟となっており、壁には悪趣味な道具類がぶら下がっている。

 そして右手側には鉄格子のついた扉があり、そちらが出入り口だと見てとれた。

ほかには誰も捕まってねェみたいだな……」

 エルスは出口へ向かいながら、左右の檻へと視線をる。

「そのようですねぇ。別の場所へ運ばれたか、すでにになってしまったか!」

「クソッ……! ボルモンク三世のヤツ、いったい何を考えてやがンだッ!」

「はっはっは! 彼の行動理由や目的には、ワタシも興味がありますねぇ!」

 そう言ってルゥランは楽しげに笑う。そして二人が辿たどいた終着点、出口となっているであろう鉄格子の扉を、ルゥランがエルスに示してみせた。


「ささっ、どうぞ!」

「へッ? どうぞ、ッて言われても……」

 どうにもルゥランの意図がわからず、エルスは困ったように頭をく。しかしルゥランは黙ったままで、ただただ笑顔をたたえている。

「まさか、さっきのをッてことか……?」

 ここで立ち止まっていても仕方がない。
 エルスは深呼吸をして意を決し、さきほど覚えた呪文を唱えた。

「ゼルデバルド――ッ!」

 闇魔法・ゼルデバルドが発動し、エルスの手に暗黒の剣が出現する!

「げッ!? できちまッた!?」

「はっはっは! お見事です!」

 エルスは暗黒の刃をゆっくりと振り、鉄格子を撫でるように斬りつける。するとさきほどの鉄格子ものと同様に、目の前の障害物はもろくも崩れ去っていった。


「なんて威力だ……。怖くなっちまうぜ……」

 ルゥランのお手本にならい、エルスも静かに手を開く。すると闇の刃はくうへ溶け、跡形もなく消滅する。

「その通り! とっても危ない術ですので、注意してお使いくださいねぇ?」

「そんなモン、簡単に教えねェでくれよッ!?」

「大丈夫ですよ。まず〝術の恐ろしさ〟に気づけたアナタならば、ね!」

 うろたえるようなエルスに対し、ルゥランは優しげな口調で続ける。

「この闇魔法は、これからのアナタには必要となるでしょう。エルスさん!」

「えッ? ああ……、ありがとなッ! ルゥラン!」

 いずれにせよ、研究所ラボでの戦いはいまだ続いている。恐ろしい威力の魔法ではあるが、剣を失ったエルスにとっては心強い〝切り札〟となるだろう。

             *

 二人は扉のあった場所を抜け、細い通路へと入る。すると研究所ラボの入口と同様に、勝手に明かりがともりはじめた。

「ふむふむ。これは〝オルメダの遺跡〟と同じ仕組みのようですねぇ。――どうやら彼は古代人エインシャントの知識をはいしゃくしたようで!」

「オルメダ? アイツの手配書に書かれてた場所とこか。何なんだ?」

 エルスは手配書に書かれていた、ボルモンクの罪状を思い出す。そこには確か〝聖地侵入〟と記されていた記憶があった。

「はるかそうせいの頃に、古代人エインシャントによって創られた唯一の〝街〟ですよ。まだワタシが若かりし時でした。いやぁ懐かしい!」

 天井のりょくとうを見上げながら、ルゥランは楽しそうに手を叩く。均等に埋め込まれた照明同士を繋ぐように、がくてきあんごうかいが刻まれているのがえる。


そうせいッて、二千年以上前だろ? ルゥランって何歳いくつなんだよ」

「さて? 三千歳までは数えていたのですがねぇ」

「三千ッ!? すっげェジイさんじゃねェか……!」

「いやぁ、なかなかに興味が尽きないのもので! 長生きしちゃいましたねぇ!」

 他種族との交流が少ないことや、独自の死生観を持っているという理由もあり、現在いまでもエルフ族の正確な寿命は知られていない。

 二人がそんなやり取りをしながら進み続けていると、やがて通路が途切れた先に、中規模な広間が現れた。

             *

「これはッ!? まさか全部、どうへいなのか……?」

「ほうほう。これは実に興味深い!」

 広間にはランベルトスの地下で見たものと同じ、謎のカプセルが大量に並んでいる。さらに透明なカプセルの内部には、魔導兵が一体ずつ、直立状態で入っている。

「ッてことは……。あの洞窟で見たヤツも、やっぱりボルモンクが……」

 を観察しているルゥランを尻目に、エルスは奥歯に力を込める。

 まだ、これほどの数の魔導兵が残っているということは、アリサたちの所にも〝ぞうえん〟が現れている可能性が限りなく高い。

「コイツらが一気におそってきたら……」

「大変なことになりますねぇ。では、ささっと片づけちゃいましょうか!」

 仲間を案ずるエルスに対し、ルゥランは涼しげな顔で笑ってみせる。いつの間にか彼の手には、巨大な杖がにぎられていた。
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